輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
なるべく読んでて読後感のいいものが書きたいなと思っています。
僕は今、蝶屋敷の道場で正座をさせられている。いや、正座だけなら何も問題なかった。
「カナエさん・・・もう許してください・・・僕が悪かったです。」
「あら~。アオイを泣かせた罪がこれくらいで帳消しになるかしら~。」
「ごめんなさい! もう足がうっ血してると思うので!!」
僕の膝の上には現在50㎏弱の土のう袋が乗せられている。
うん。江戸時代の石抱きか何かかな? 僕へのお仕置にこれをチョイスするカナエさんのセンスは独創的と言わざるを得ない。お説教の間はずっとこの状態だ。
僕は、昨日雁哉のおかげで痣の件については立ち直れたと思う。
なので、朝一で蝶屋敷に向かい、アオイちゃんに謝りにいった。
アオイちゃんは最初複雑そうな表情を浮かべたが、それでもすぐに許してくれた。優しすぎて罪悪感がやばい。
一方で、そばにいたカナエさんはそうもいかなかった。
貼り付けた笑顔で僕を道場に連れ出し、お説教が始まった。
カナエさんが現役だったなら、きっと稽古という名のめったうちの刑だっただろうが、あいにく今は全集中の呼吸は使えない。
結果、代わりの刑として、石抱きが採用されたのだ。いやだからどういうチョイス!?
「カナエ様・・・もう許してあげてはどうですか・・・? 稲葉さんも反省しているようですし・・・」
後ろで心配そうに声をかけるアオイちゃん。しかしカナエさんは笑顔を崩さない。
「アオイ。女の子の涙はそんなに軽いものじゃないのよ? 稲葉君はそれがどうにもわかってない節があるのよね~。」
「もう充分わかりましたから・・・カナエさんのいうことはなんでも聞くのでどうか許してください・・・」
「・・・なんでも?」
いや、だからなんでこの人はいつもそこで食いつくのかな?
この人が怒ってるの、絶対不死川さんと会う口実を僕がふいにしたのが理由でしょ・・・
ほら急に考える素振り始めた。絶対僕をだしにしてまた不死川さんに会いに行くこと考えてるよ・・・
「仕方ないわね~、稲葉君がそこまで言うならこれくらいで勘弁してあげようかしらぁ。」
「はい・・・ありがとうございます。」
流石にカナエさんの手のひら返しにつっこむ勇気はなかった。
なにはともあれ僕は土のう袋の重しから解放され、足を延ばし、床に手をついたままため息をついた。
「稲葉君。罰としてここの道場全部掃除すること。今日は一日ここで反省しなさい。
アオイは稲葉君のこと見張るのよ。二人きりにしてあげるから、もう一度しっかり話し合いなさい。」
「・・・ありがとうございます。カナエ様。」
そう言い残し、カナエさんは道場を出ていった。
しばらくの間、僕とアオイちゃんの間で気まずい沈黙が続いた。
「あの・・・!」
そろそろ掃除を開始しようとするや否や、アオイちゃんが僕に声をかける。
「これから先も・・・お話・・・しに来てくれますか?」
アオイちゃんは不安そうに僕の回答を待っている。僕はそんな彼女に苦笑交じりに答える。
「うん・・・むしろ・・・また会いにきていいのかい?」
「はい・・・! 突き放される方が嫌です・・・『気にかけるな』なんてもう言わないで下さいね?」
「うん。本当にごめんね。また何度でも会いに来るよ。アオイちゃんは僕にとっての妹みたいなものだからね。」
「妹・・・ですか。じゃあ一つお願いしてもいいですか?」
「うん? なんだい?」
心なしかアオイちゃんがもじもじしている。
「時々・・・カナト兄さんって呼んでもいいですか? それから・・・頭とか撫でてもらいたいんです・・・!」
「うん。いいよ。・・・こうかな?」
僕は間髪入れず、アオイちゃんの頭を優しく撫でる。
僕の急な行動に驚いたのか、ビクッと一瞬肩が跳ねる。
「すみません。まさかいきなり撫でていただけると思わなかったので・・・」
「あ、そっか。ごめんね。」
「いえ・・・」
髪型を乱さないよう、かなり優しめに撫でる。それだけの行為なのに、アオイちゃんは嬉しそうにしている。
「ありがとうございます。満足しました。」
「ふふ。下の子に甘えられると嬉しいものだね。雁哉の気持ちが少しわかった気がするよ。」
「稲葉さんもお兄さん・・・月柱様に甘えることがあるのですか?」
「う~ん。養子に引き取ってもらったばかりの頃、よく甘えてた気がする。最近は、愚痴を聞いてもらったり、慰めてもらうことの方が多いかな?」
「・・・そうなのですね。」
僕が痣のことで雁哉に度々相談していたことを、うっすらと気づいたようだった。
だから、アオイちゃんはそれ以上は聞いてこなかった。
「それじゃあそろそろ掃除始めるよ。もう少しで正午だから、アオイちゃんはお昼ご飯の用意かな?」
「はい。しかし、それだと見張りがいなくなってしまいますね。」
「う~ん。じゃあ、アオイちゃんが代わりの人を連れてきてよ。」
「わかりました。それじゃあ見つかり次第、お昼の支度に行ってきますね。」
そうして、道場には僕一人になった。しばらくの間、僕は道場の掃除をせっせと頑張った。
やがて、道場に誰かが姿を現した。
「あら? もうほとんど終わらせたのですか? 流石に手際がいいですね。稲葉君。」
「まさか、しのぶさんが来てくれるなんて思わなかったよ。もしかして休憩中だったのかな?」
「はい。もうそろそろお昼時でしたからね。」
「なんかごめんね。せっかくのお休みの時間なのに。」
「いえいえ。これくらい大したことありませんよ。私も稲葉君とおしゃべりしたかったので。」
「僕と?」
しのぶさんが上機嫌に僕へ近づいてくる。僕は何のことかわからず振り向く。
「・・・今の稲葉君は自然と笑えていますね。良かったです。」
「ああ、そっか。心配かけてごめんね。もう立ち直れたから心配しなくていいよ。これもすべて、雁哉としのぶさんのおかげだよ。」
「私も? 何か特別なことを言いましたでしょうか?」
しのぶさんはキョトンとしている。僕は少し照れくさく笑った。
「うん。昨日雁哉が励ましてくれた時、言ってたんだ。僕が上弦の弐と戦ってた時の言葉を、しのぶさんが覚えていたって。」
「? どんな言葉でしょう?」
「確か・・・『僕たちは生きていく中で幸せになる・・・そのために、生まれてきたはずだ』だったかな?
おかしな話だよね。自分で言ってた言葉を思い出して立ち直るなんてさ。
でも、雁哉が教えてくれるまで、忘れてたんだ。しのぶさんが覚えてなかったら、今頃僕は一人で毎日泣いてたと思う。」
「そうだったんですね・・・稲葉君を元気にするのに一役買えたようで良かったです。」
「うん。雁哉は僕の頼れるお兄さんだけど、しのぶさんはまるで頼れるお姉さんみたいだね。」
「へ?」
ついうっかり僕が思ってたことを口に出したことで、しのぶさんは変な声をもらしていた。
「あ、ごめん。うっかり本音が。やっぱりしのぶさんの前だと、つい安心して思ってることを言ってしまうみたいだね。
なんかごめんね。僕の方が一個上なのに、一体何を言っているのやら・・・」
僕が独り言のように言う傍ら、しのぶさんはなんだかそわそわしていた。
「どうしたの? しのぶさん? ああ、やっぱり不快だったよね。僕に姉みたいに思われるなんてさ。」
「あ、いえ!! 少し驚いただけですよ!! 稲葉君の姉なんて感慨深いですね、あはは・・・」
そう慌ててたしのぶさんだったが、僕に背を向けてしまった。
なんか途中で、「頼れるお姉さん・・・悪くないですね・・・」ってにやにやしてた気がするけど気のせいかな?
やがて、しのぶさんは僕の方へと振り返り、何だか嬉しそうに両手の指を重ねるしぐさをしていた。
「稲葉君はやっぱり、年上の女性の方が話しやすいですか?」
「え?」
「ほら、下の子にはどうしても取り繕ってしまうって言ってたじゃないですか。」
「う~ん。そうだね。年上の人の方が、男女問わず話しやすいかなぁ。
あ! でもしのぶさんは一個下だけど話しやすいよ! むしろカナエさんの方が苦手かも・・・」
「え? 姉さんがですか? どうしてですか? あんなに親しみやすいのに・・・」
「いや・・・それはやっぱり・・・継子時代の・・・稽古中の恐怖がさ・・・身に染みているからね・・・」
「ああ~・・・それで・・・」
「うん・・・僕にとってしのぶさんは頼れるお姉さんだけど、カナエさんは怖くて逆らえないお母さんって感じだから・・・」
「あの・・・稲葉君・・・それ、姉さんの前で決して言わない方がいいですよ。絶対怒られるやつです。」
「う! 想像したらおぞけが・・・! この話はもう終わりにしよう!!」
そうして、僕は残りの掃除を片付けるため作業に戻った。
その様子をなぜかとても嬉しそうにしのぶさんは眺めていた。
僕のことを可愛げがある弟のように思っているんだろうか。
雁哉にそう思われる分にはいいけど、しのぶさんにそう思われるのは、なんだか想像以上にむず痒い気がする。
やがて、昼食の準備ができたのか、僕らを呼ぶ声がする。
アオイちゃんが是非一緒に食べていってほしいと言うので、お言葉に甘えて昼食を頂いた。
僕が美味しい、美味しいと言いながら食べているのを見て、蝶屋敷のみんなは何だか嬉しそうに笑っていた。
僕も何だか、こんな家族に囲まれて生きていければ、寿命が短くても幸せになれるんじゃないかと、心の底から思った。
続く
おや、カナト君の様子が・・・?
という感じで痣騒動は終わりました。人生の価値って長さだけじゃないですよね。短くたって幸せに生きている人はいますからね。
・・・あれ、おかしいな、そんなこと言ってたらなんだか目から急に汗が・・・
うん・・・強く生きようと今日も思う筆者です・・・少しでも人生楽しめるよう頑張ります。