輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
前回と今回はつながってます。よろしければ一緒にどうぞ!
※だいぶ話が増えたのでサブタイトルの名前を追加しました。
「鬼殺の剣士になりたい? カナヲちゃんが?」
時は、半月程遡る。現在、僕とカナヲちゃんは道場で座っている。
カナヲちゃんが無言で僕の袖を引っ張って連れて行くものだから何事かと思ったけど、予想の斜め上をいくカミングアウトだった。
僕が尋ねると、カナヲちゃんはコクッといつものように無表情で頷く。
僕はどうしたものかと腕を組み考える。
「う~ん。カナエさんとしのぶさんは反対すると思うよ? そもそもどうして剣士になりたいの?
せっかく蝶屋敷でみんなと穏やかな生活が送れるのに、どうしてわざわざ危険な道を選ぼうとするの?」
つい咎めるような言い方になってしまう。正直、鬼と関わらないで生きていけるならそれに越したことはない。
僕も本当はそうだ。鬼と前線で戦うくらいなら、安全なところで生産活動をしていたい。研究に没頭していたい。
まあ、こんなこと、他の柱のみんなの前では口が裂けても言えないけど・・・
やがて、カナヲちゃんが静かに口を開く。
「なにもできないから・・・」
「え?」
想定外の答えがカナヲちゃんから返ってくる。僕はじっと言葉の続きを待つ。
「私・・・アオイみたいにご飯作ったり、洗濯したり、隊士の治療もできないから・・・
なほたちですらできることも、私できないから・・・」
「なるほどね・・・」
つまりこの子は、何もできずに蝶屋敷の中で生活を続けることに、居たたまれなさを感じているみたいだ。
それでせめて鬼殺隊の役に立とうと思い、剣士になろうとしているのか。けど・・・
「何度も言うけど、カナエさんとしのぶさんは反対すると思うよ?
二人にとって、カナヲちゃんは実の妹のように思っているんだ。家族のように思ってるってことだよ?
そんな君が、鬼と命を懸けて戦う道を選ぶなんて言ったら、みんな心配すると思う。」
僕はなるべく優しく、諭すように伝える。しかし、カナヲちゃんは首を横に振るばかりだ。
「カナエ姉さんは鬼と戦って命を落とすところだった。それをカナト兄さんが庇ってくれて、しのぶ姉さんが治療して、それで助かった。
私・・・治療とか、難しいことはできる自信ないけど・・・戦うことならできると思う・・・!
カナト兄さんみたいに、しのぶ姉さんが鬼に殺されそうになったら、今度は私が役に立ちたいの・・・!!」
ん? この子、こんな風に意思表示できる子だったっけ? いつもは袖を引くか、頷くか、首を横に振るぐらいしかしないのに。
未だに蝶屋敷の面々以外とは口も利かないし、関わる時ですら、コインの裏表で判断するような子なのに。
しかもしれっとカナト兄さん呼び・・・もしかして僕って思ってたよりなつかれてる?
もしかしたら、カナエさんたちには反対されるのを見越して、先に僕に相談しに来たのかもしれない。
だとしたらなかなかに聡い子だ。しかし・・・
「カナヲちゃんの気持ちはわかったよ。みんなの役に立ちたいって気持ち、素晴らしいと思う。けど、剣士になるなら最低でも全集中の呼吸を身に着けることが前提条件だよ。実戦で使える水準まで訓練しようと思ったら、それこそ大変な努力が求められ・・・」
「大丈夫。私、もう使えるから。」
「え?」
僕があっけに取られていると、カナヲちゃんは立ち上がり、壁めがけて疾走する。
すると、壁を走りながら天井まで駆け上がり、そこから天井を蹴って再び僕の目の前に着地した。
「これくらい簡単。」
「まじか・・・」
見様見真似で身に着けたってこと? 天才かな?
確固たる根拠を提示したうえで僕に目で訴えてくる。この子なかなかに聡い・・・
「・・・よし、じゃあ今後こっそり剣を教えるよ。花の呼吸使ってたみたいだから、型も教える。」
「ほんと!?」
「ただし、剣士になる前に必ずカナエさんたちに許可をもらうこと。これ約束できる?」
「・・・どうしても?」
「どうしても。じゃなきゃ教えない。」
「・・・わかった。」
カナヲちゃんの気持ちは僕にもわかる。
正直、今だって鬼と戦うのは大嫌いだけど、雁哉が前線にいる以上そうも言ってられない。僕は雁哉の役に立ちたくて、今も鬼殺隊にいるのだから。
なら、可能な限り、似た気持ちを持つこの子の力になろう。
きっと、カナヲちゃんは、それを察して、一番最初に僕に相談しに来たのだろうから。
「半月後ぐらいでいいかな? それまでにうんと上達して、カナエさんたちを驚かせてあげよう。」
「うん。わかった。」
そうして、今に至る。客間にいる面々は度肝を抜かれたようなリアクションだ。
やがて、一番最初に口を開いたのがアオイちゃんだった。
「カナヲが稲葉さんのこと、カナト兄さん呼びしてる!!!!」
「え? そこ?」
僕は思わず突っ込む。ほかのみんなもずっこけている。ギャグマンガかな?
「アオイ・・・もっと他に言うことがあるでしょう?」
「はっ! 申し訳ありません!! あまりにも驚いたもので・・・」
カナエさんの雰囲気が剣吞なものに変わっていく。いつものような笑顔はそこにはない。
「稲葉君。どういうことかしら? 説明して。」
「はい。カナヲには途轍もないほどの剣士の才能があります。半月ほど前から花の呼吸を教えていました。」
「そういうことを聞いてるんじゃないわ。どうしてカナヲのことを説得しなかったのかしら?」
「カナエ姉さん・・・ごめんなさい・・・カナト兄さんは、はじめ反対したの・・・私が無理にお願いして・・・」
「カナヲは黙っていなさい?」
「っ!」
カナヲちゃんに向ける表情は笑顔だが、有無を言わさぬ圧があった。
「仮にもカナヲにお兄さん呼ばわりされるぐらいなら、是が非でもカナヲに言い聞かせるべきじゃないかしら?」
「カナヲの意思は本物です。」
「それを考え直させるのが、あなたの役目じゃないの?」
「カナヲは本気でみんなの役に立ちたいと思っています。僕にも兄がいるのでわかります。」
「いい加減にしなさい!!!!」
凄まじい怒号。あたりが静まり返る。しかし、僕は動揺をおくびにも出さない。カナヲと約束したからだ。
カナエさんの怒りは凄まじいものだった。
「冗談じゃないわ! カナヲは幼少の頃、実の親に暴力を振るわれ、まともに笑うこともできないほど心に傷を負ったのよ!?
だから、私たちはこの子を引き取った! これから先、もう辛い思いをさせないために・・・!
それなのにあなたは!! カナヲを死ぬかもしれない鬼殺の道に引きずり込もうっていうの!?」
「僕はカナヲが自分で決断したことを尊重したい。この子がコイントスしないで決断することなんて、他にありましたか?」
「っ!! それは・・・!」
僕の反論にカナエさんはたじろぐ。僕はカナヲの頭をそっと撫でた。
「カナヲは一度心が壊れかけ、自分の気持ちをどうでもいいとまで言うほどの子でした。しかし、そんな子が今、自分の意思で敢えて危険な道に進もうとしている。それは全て、蝶屋敷のみんなを、自分自身の手で鬼の脅威から守ろうとしているからです。今後、しのぶさんが任務先で上弦の鬼と戦うことがあるかもしれない。そんなしのぶさんの行く末を憂いて、カナヲは強くなろうと決断したんです。しのぶさんの実の姉であるあなたに、カナヲのその気持ちを否定することができるんですか?」
「っ!!!!」
カナエさんは目を見開いて固まってしまった。
流石にこのまま話を終わらせてしまえば、あまりにも可哀そうだ。
僕はみんなを安心させるための材料として、この半月の成果を伝えた。
「カナエさんの心配する気持ちは至極当然です。しかし、カナヲはすでに常中修行用の小さい瓢箪を呼吸で割ることができます。加えて、花の呼吸の型に限定すれば、もう僕より熟練度は上です。間違いなく、カナヲは次の花柱になる逸材ですよ。信じてあげてください。」
「あの瓢箪を割った? カナヲが!?」
「噓でしょ!? 私があれを割ったの、つい一年半前よ!? カナヲは本当に・・・!」
カナエさんもしのぶさんもその事実に驚く。決着かと思い、僕は最後のダメ押しをする。
「それができたのは、ひとえに姉の役に立ちたいひたむきな想い故です。どうかカナヲの気持ちを汲んであげてください。」
僕は頭を深く下げた。つられてカナヲも僕の真似をする。
僕らが顔を上げると、悲痛そうな顔ながらも、観念したような二人の様子がうかがえた。
「もう・・・わかったわ。その代わり、カナヲが最終選別を受けに行くのは常中を身に着けてからよ。それだけは譲歩できないわ。」
「稲葉君! 今後は私にもカナヲの稽古を見させてください!! 柱二人で教えれば、きっとカナヲはどんな任務でも生きて帰ってこれるはずです!!
カナヲの意思が変えられないのなら、私はできる限りのことをしてあげたいんです!!」
「そうだね。しのぶさんはもう三人も継子を育てた実績があるから、一緒に教えてくれると心強いよ。ありがとう。」
二人なりに思うことはあったはずだが、最後は納得してくれたようだ。
いやしかし・・・この二人を同時に相手取るのは、今後勘弁して頂きたいよ、カナヲちゃん・・・
それから、しばらくして、客間からは穏やかな声が漏れ始めたそうな。
続く
しのぶさんは既に継子三人を育成して、雁哉君の組織した支援部隊の特別作戦班に配属させています。毒殺部隊みたいな感じのイメージです。雁哉君が2話で毒に興味を持った話をここで繋げています。詳細を今後書くかは決めていません。感想で書いてほしいって意見があれば書くかもしれません。本編に書くか番外編を作るかはそれら意見を踏まえて決めさせていただきます。