輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。ついにこの話を投稿する日が来てしまいました。原作の感動したエピソードをオマージュにして入れています。上手く書けたか自信はありませんが後悔はしておりません。それでも構わないという方はどうぞ。





25話 思いのたけ

「さて、しのぶが稲葉君の心を射止めるための作戦会議を初開催してから、もう3ヶ月は立つわけですが~」

 

「ちょっとちょっと!!! 姉さんその作戦会議名毎回言うのやめて!!!!!」

 

 

毎度おなじみ、蝶屋敷の午後の休憩時間。ここは客間である。現在カナヲが稲葉君がこちらに来ないよう時間稼ぎをしているわけだけど・・・

 

いくら何でも姉さん私のことからかい過ぎじゃない!?

 

 

「しのぶ様、毎回毎回大きな声出すのやめてくれませんか? 度々招集される私たちの身にもなってください。」

 

「アオイ!? そんな・・・そんなどうしようもなさそうな目で私を見るのやめて!!」

 

「しのぶ~。もういい加減恥ずかしがってばかりもいられないんじゃないかしら~。この3ヶ月、何も進展がないのはどういうこと~?」

 

「ううっ! 姉さんまで!!??」

 

 

姉さんに続き、なほ、すみ、きよたちも疲れたような表情で私を見る。居たたまれない・・・

 

 

「だってだって!! 私が稲葉君とお話しようとすると、みんなが稲葉君の後ろから監視の目を向けてくるから!!」

 

「はあ・・・しのぶ様が最初の一ヶ月何もそれらしいこと進めなかったからじゃないですか。しのぶ様ってほんと意気地なしですね・・・だから私たちがわざわざ監視なんてすることになったんですよ・・・」

 

「うぐう!! もう・・・もうそれ以上は・・・勘弁して・・・」

 

 

私が反論しても、アオイに完膚なきまでに言い返される。私は胸を抑えて小鹿のように震えるしかない。

 

 

「しのぶ様・・・私たち、この集まりもう飽きてきましたよ・・・早く稲葉様とくっついてください・・・」

 

「はうっ!!!」

 

 

静観していたなほたちから、とどめの一撃とも言うべき本音が吐露された。私はもう耐えられないとばかりにその場でうずくまる。

 

 

「しのぶ~。ふざけてないでさっさと顔をあげなさ~い。時間もったいないわよ~。」

 

「ダメ・・・姉さん・・・私もう立ち上がれないわ・・・」

 

「関係ありません。立ちなさい。蟲柱、胡蝶しのぶ。」

 

「もう!! 毎回毎回私がうずくまるたびに、柱を引き合いに出さないで!! もう嫌!!」

 

 

もう恥も外聞もなく駄々をこねる。なんでこんなにみんなから背中を押されなきゃならないの?

 

私が半泣きになっていると、姉さんの雰囲気がまじめなものに変わる。

 

 

「しのぶ。稲葉君の時間はもう少ないのよ? 彼のことが好きならなるべく早く想いを伝えるべきじゃないの?」

 

 

私は肩を震わせて顔を上げる。自分の眉が八の字に歪んでるのがわかる。

 

 

「彼は毎日、精一杯生きようとしてるわ。悔いが残らないように。本来、私たち鬼殺隊の隊士はそうあるべきだと思うの。

 いつ死ぬかわからない。明日生きてるかもわからない。

 それなのに、恥ずかしがって、好きな人と過ごせるはずだった時間がどんどん過ぎ去ってしまうなんてもったいないじゃない。

 ある日突然、好きな人が死んで、過ごせるはずだった未来を失ってしまったら悲しいじゃない。

 私はしのぶにこそ、普通の女の子の幸せを手に入れてほしいのよ。」

 

 

さっきまでの明るい雰囲気は何処へ行ってしまったのか、みんなの表情に影が差す。

 

姉さんは悲しそうに私を見つめる。姉さんの言ってることはわかる。だけど・・・

 

 

「・・・私のことなんて、稲葉君は何とも思っていませんよ。精々姉替わりみたいなものです。私みたいに素直になれない女が稲葉君の隣に居たって、幸せになんてできるわけないわ!」

 

「それは稲葉君の気持ちしだいでしょ? だから早々に聞かなきゃいけないんじゃないの?」

 

「私は・・・私は・・・! 姉さんみたいに、アオイみたいに、自分の気持ちを素直に伝えられる人間じゃないの!!」

 

 

そう言って、私はみんなの前から部屋の外へ飛び出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・何をしているんだろう・・・私。」

 

 

ひとまず落ち着きたくて、蝶屋敷の庭に面した縁側で一人ため息をつく。

 

本当は、みんなが私の恋路を応援してくれるのは嬉しい。

 

でも、初めてのことだから、彼の前にいるのが気恥ずかしくてついとっさに距離を取ってしまう。

 

自覚する前はそんなことなかったのに、姉さんが私の背中を押すようになってか、あるいはアオイが稲葉君に告白したあの日から、ずっとこの調子だ。

 

彼の話をされると、感情を制御できなくて。そんな私は、柱になっても未熟者のままなのでしょう。

 

 

「ん? しのぶさん? どうして一人縁側に座っているの?」

 

 

心ここにあらずだったのか、稲葉君とカナヲが近づいてくるのを気づけなかった。

 

ふりむけば、二人ともぽかんとしている。

 

 

「ああ・・・気にしないでください。一人で考え事をしていただけですから・・・」

 

 

私は力なくそう答える。その様子を疑問に思ったのか、稲葉君が私の隣に腰を下ろす。

 

途端に鼓動が速くなるのを自覚した。

 

 

「何か悩み事があるなら言ってほしいな。カナエさんにも言いづらいことなのかな?」

 

 

私がただ一人気持ちの整理ができず悩んでいるだけなのに、この人は私の心配をしてくれる。

 

それを嬉しいと思ってしまう時点で、私はもう彼に夢中なのだろう。

 

でもそれを素直に言えない。気恥ずかしさが邪魔をして言葉にできない。

 

いつか私も恋をするのかと、子供の頃は思っていたけれど、いざその時が来たらこんなに自分に素直になるのが難しいなんて思わなかった。

 

しかし、稲葉君はずっと黙っている私のことをそばで見守ってくれる。

 

そんな彼の視線に耐えられなくて、つい自分でも思いもよらないことを言ってしまった。

 

 

「すみません・・・とても恥ずかしい悩みなのですが・・・私・・・恋をしてしまいまして・・・」

 

「恋?」

 

 

つい言葉にしてしまったことは、普段の自分なら言い出さないようなとんでもないことだった。

 

わっ私は何を言っているの!? でも口に出してしまった以上うまくごまかすしかない!!

 

考えるの! 考えるのよ!! 私は蟲柱 胡蝶しのぶ!!!

 

 

「恋って、しのぶさんが!?」

 

 

もうこれしかない! 私はとっさにとんでもない嘘を言ってしまった。

 

 

「はっはい! 時々、蝶屋敷に来る方なのですが、その人のことが忘れられなくて!! ずっと考えてしまうんです!!」

 

 

そう、私は架空の人物をでっち上げ、その人に気があるような物言いをしてしまった。

 

これはきっと、あとあと面倒になる嘘だが、正直今はこの場を乗り切ることの方が優先だ。

 

ちらっと稲葉君とカナヲの様子を伺う。

 

稲葉君はあっけに取られている。当然と言えば当然だろう。

 

そしてカナヲは首を傾げている。この子には私の想い人が隣の兄替わりだと知っているのだから、さぞ混乱しているだろう。

 

カナヲの周辺にはてなの文字が見えるようだ。

 

 

「しのぶさんが恋、かあ・・・」

 

 

え・・・なに・・・その力が抜けるような反応・・・何だかがっかりしてる・・・?

 

これって、期待してもいいの!? 今から訂正して自分の気持ちを伝えるべき!?

 

もし、もしも稲葉君が私に少しでもそういう感情があるなら・・・!

 

 

「そうなんだ・・・気づかなかったよ・・・でも素晴らしいことだね!

 僕でよければその人とうまくいくよう協力するよ!

 なんて言ったって、しのぶさんは僕の大事なお姉さんみたいな人だからね!」

 

 

ズキッっと胸が痛む。私はもしかしてとんでもない間違いをやらかしたのでは・・・

 

その場から離れようとする稲葉君に思わず手を伸ばすが、彼は背中を向けている。

 

ちょうど私が手をひっこめると、彼は顔だけ振り向いて、私に笑顔で言い放つ。

 

 

「ちょっと家に戻って何か役立ちそうなものがないか探してくるよ。実は最近、庭の花から抽出した香水とか開発したばかりなんだ。ほかにも髪をきれいに見せるための毛髪用洗剤や、爪に塗るマニキュアの薬剤とか作れると思うから、後日持ってくるね!」

 

 

そう言って、彼は行ってしまった。その場には固まって動けない私と、そんな様子の私を見つめるカナヲが残された。

 

 

「師範。どうして正直に言わないの? カナト兄さん勘違いしてるよ。追わなくていいの?」

 

 

私は、その場から立ち上がれなかった。息ができない。体に力が入らない。

 

私は自分の気持ちに嘘をついて、彼に取り返しがつかない勘違いをさせてしまった。

 

きっと彼はもう、私のことを女の子として好きになってくれることはない。

 

その未来が容易に想像できて、私の目には自然と涙が溢れ、とめどもなく零れ落ちた。

 

 

「しっかりしなさい。泣くことは許しません。」

 

 

その声にすかさず振り向く。姉さんの声だった。廊下の死角から、姉さんが現れて私のそばに立つ。

 

他にもアオイ、なほ、すみ、きよの4人も私のそばに駆け寄ってくる。

 

 

「姉さん・・・」

 

「立ちなさい。」

 

 

立てない。稲葉君が去ってしまってから体に力が入らなくて、息もできないの。

 

 

「関係ありません。立ちなさい。蟲柱、胡蝶しのぶ。」

 

 

私は思わず息を飲んだ。体に少しだけ力が戻る。

 

 

「言うと決めたなら言いなさい。伝えると決めたなら伝えなさい。

 どんなに難しくても想いをつなぐ。

 私とも、蝶屋敷のみんなとも約束したんでしょう。」

 

 

・・・みんな・・・

 

 

「しのぶならちゃんとやれる。頑張って。」

 

 

姉さんは私の肩に手を置く。姉さんの目じりにも僅かに涙が見て取れた。

 

途端に、私の体に力が灯る。息を吸う。両の足で立ち上がることができる。

 

私は、声を発さず、その場を去った。まだ、そんなに時間は立っていない。すぐに追いつけるはず。

 

私は稲葉君の家に続く道を走る。平坦な道だが、やがて突き当りに小川が見える。

 

その突き当りをちょうど右へ曲がり歩いていく彼の背中が見えた。

 

 

「稲葉君!!!!!」

 

 

私は大声で、彼を呼び止めた。びくっと肩を跳ねさせ、振り返る彼の姿。

 

私は息切れをしていた。鬼と戦う任務中でさえ、柱になってからはここまで呼吸を乱したことはない。

 

 

「しのぶさん・・・どうしたの? そんなに慌てて。」

 

 

稲葉君は心底訳が分からないといった顔つきだった。

 

私は呼吸を整え、顔を上げる。うん。今なら大丈夫。言える。伝えられる。

 

 

「稲葉君・・・聞いてください・・・!」

 

「・・・」

 

 

小川のせせらぎだけが聞こえる。そよ風が吹いていたがおさまり、私は万感の思いで言葉を紡ぐ。

 

 

「私は、ずっと、稲葉君のことが好きでした!

 あなたと初めて任務に行った時、開発した毒で鬼を倒して、あなたが私のことを認めてくれた時からずっと!

 最初はそれが恋心なのか自覚することができませんでした・・・!

 でも何度も言葉を重ねるうちに・・・目を合わせるうちに・・・あなたのことを忘れられなくなったんです!

 上弦の弐と戦った時は、あなたが死んでしまうんじゃないかって凄く怖かった!

 でもあなたは姉さんと私の命を優先して、たった一人で私たちを守ってくれて、その上で生き残って戻ってきてくれた!

 私はあの日・・・あなたが目を覚ました時、はっきりと自分の気持ちを自覚しました!

 私は稲葉君が好きです! ちょっと変わってて、モノづくりの話ばかりしてて、それでも私たちの喜ぶ顔を見て笑顔になるあなたが好きです!

 私のことを頼もしいお姉さんって言ってくれて、私のことを必要としてくれるあなたが好きです!!

 さっき、縁側で私が言ったことは全部嘘です! ただ気恥ずかしくて誤魔化してしまっただけなんです!

 私、稲葉君のそばに居たい! 痣が出て、長く生きられなくても、ずっとそばに居たい!! 離れたくないんです!!!

 私を・・・私を稲葉君の恋人にしてくれませんか・・・?」

 

 

私は目をぎゅっとつぶる。一息に己のすべての想いを伝えきった。そう思う。

 

姉さんが励ましてくれなければ・・・背中を押してくれなければ・・・ずっと言えずにいただろう・・・

 

やがて私はおそるおそる目を開けた。そこには微笑みを返してくれる稲葉君がいた。

 

 

「しのぶさん。僕もしのぶさんのことが好きだよ。とても嬉しい。こんな嬉しいことがあっていいのかな?」

 

「っ! ・・・もちろんです・・・! 私も・・・私もすごく嬉しいです!!!」

 

 

思わず、私は泣いてしまう。けどこれは悲しい涙じゃない。

 

ああ、人って本当にうれしい時って涙が出るんだ・・・

 

さっきの胸を悲痛に締め上げた時、耐えられなくてこぼれたものとは違う。

 

天国のお父さん、お母さん見ててくれていますか?

 

私は今、本当に大好きな人と気持ちを通わせることができました。

 

姉さん・・・私・・・今・・・本当に幸せだよ・・・!!

 

それからしばらくの間、小川のせせらぎが聞こえる傍ら、私は稲葉君と抱きしめ合った。

 

彼は大樹のように、身を委ねても揺るがない安心感があり、お日様の下で青々と生い茂る草葉のような優しい腕で、私をいつまでも包み込んでくれた。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




以上の話をもちまして、カナト君としのぶさんの交際を認めていただけたらなと思います。原作で壮絶な結末を迎えた彼女には是非とも幸せになってほしいと考え、この話を書かせていただきました。今後、本小説では彼女の幸せそうな描写を書いていくつもりです。先にフラグを立てていたのはアオイちゃんの方でしたが、彼女には伊之助君がいるので致し方なしだと思っています。何番煎じかわからない展開ではありますが、読後感のいい話を書いていきたいと考えているので、何卒よろしくお願いいたします。
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