輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
反応が遅れた。気が付けば上弦の参は炭治郎に肉薄し、その頭部を破壊するところだった。
しかし、カナトが奴の腕を切り払うことで、炭治郎は命拾いした。俺一人だったら今ので殺されていただろう。
痣の発現による影響か、カナトはもう俺より膂力も反応速度も上だ。
それをカナトも無意識に悟ったのか、俺と炭治郎を庇うように上弦の鬼へと近づいていく。・・・兄として不甲斐なかった・・・
やがて、カナトと上弦の鬼が会話を始める。俺は今のうちだと思い、後ろの炭治郎に指示する。
「カナトを前衛に、俺が隙を見て奴の頸を刎ねに行くが、うまくいく保証はない。もしもの時はお前だけでも逃げろ。」
「そんな・・・!!! 建物の中には禰豆子も、珠世さんも愈史郎さんもいるんですよ!? 俺一人が逃げるわけには・・・」
「そうか・・・なら診療所を庇うように待機しろ。俺とカナトで奴を是が非でも食い止める。だが恐らく奴は、無惨がお前を口封じするために遣わしたと考えられる。いざって時はお前が一番に狙われるはずだから、そのつもりで守りに徹しろ・・・!」
「は、はい!!!」
後輩の炭治郎に、絶対守ってやると言えない自分に苛立つ。
やがて、カナトが、しのぶに嫌われるから鬼になりたくないと啖呵を切ったところで、猗窩座と名乗った鬼は戦闘態勢に入る。
いや、鬼になるのを断る理由それでいいのか!?
「カナト! いい加減そろそろまじめに頼むぞ!? 俺が隙を見て奴の頸を刎ねるから、壁役は任せる!!!」
「オーケー! ちなみに僕はずっとまじめなつもりだよ!?」
図太いというか、肝が据わっているというか・・・とんでもない弟だ・・・
それからはカナトが、暴風雨のごとき拳打を見事さばいていく。
俺はその後ろで、いつでも乱入できるよう構えるが、猗窩座は隙を見せない。
奴の拳は鋼でできているのではと錯覚するような金属音が周囲に鳴り響く。カナトは俺を庇おうとしているのか、防戦一方だった。
「猗窩座だっけ? 聞きたいことがあるんだけど?」
カナトが問いを投げかける。
そこから上弦との妙な会話が続いた。童磨を互いに嫌うシンパシーによるものなのか、猗窩座は親切過ぎるぐらいに答えてくれる。
その中で、気になる内容があった。竹刀を携帯していただけの一般人? 鬼殺隊士でもない人間が上弦の弐を足止めした? にわかには信じがたい。
同じ剣道部の白峰先輩だったらやってのけそうだが・・・・・・いや、待て・・・! それってまさか・・・!?
ー破壊殺・乱式ー
俺の思考はすぐに途切れた。体が勝手に動く。カナトへと接近する猗窩座よりも先に、俺は剣を抜刀する。
ー月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮ー
俺はカナトから、赫刀を使うからと時間稼ぎを頼まれる。俺はカナトの前へと立ちはだかる。
猗窩座は俺の剣を見て、元月柱が上弦の壱であることを嬉々として語る。
俺は激昂した。武の道を極めるためだけに、恩義のある人を裏切ったその所業が許せなかったからだ。
しかし、俺の怒りも空しく、俺の月の呼吸は全て猗窩座に完封される。
俺が積み上げてきたものが全て打ち砕かれたかのようだった。だが・・・
「雁哉。待たせてごめんね。もう少しの辛抱だよ。力を貸してくれるかい?」
カナトが俺を支えてくれる・・・こんな守られてばかりの兄貴なのに、それでも頼りにしてくれることが嬉しかった・・・
ただそれだけで俺は全身に力がみなぎった気がした。
カナトは矛の切っ先を真っすぐ猗窩座に向けて突進する。
ー草の呼吸 漆ノ型 千草生い茂る
凄まじい回数の突きが一息に放たれる。
猗窩座はその技を見てあざ笑うが、さばき切れなかった数度の突きを受けると表情を一転させ、後方へと下がる。
「ぐっ!! 焼けつくように痛む!! 馬鹿な!? 傷が再生しない!!?? 」
「やっぱり赫刀なら突き技でも鬼に効くみたいだね。今度しのぶさんに教えてあげなきゃ。」
猗窩座は余裕をなくしたのか、今までとは段違いの殺気を込めて、カナトに手刀を繰り出す。
ー草の呼吸 陸ノ型
「がはっ!!??」
カナトは手刀を、矛とは正反対の柄の先で受け、その勢いと衝撃を殺さず矛を翻し、猗窩座の胸に打ち付け串刺しにする。
「雁哉!!! 今だよ!!!」
「わかっている!!!」
俺は猗窩座の頸を背後から狙う。赫刀が刺さった鬼は筋肉がこわばりまともに動けなくなる。雑魚鬼で実証済みだ。
カナトが作ってくれた千載一遇の好機をものにしようと俺は刀を一閃する。
しかし、猗窩座は上体を傾け、俺の剣をかわした。
「そんな・・・!!!」
猗窩座はこわばってるはずの筋肉を無理やり動かし、カナトの矛を引き抜く。
矛を手放して上空へと跳躍し逃げる猗窩座。
ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー
「ぐうっ!!!」
俺たちの遥か頭上で、苦痛に歪める顔が見える。
跳躍する瞬間、カナトが猗窩座の片足首を赫刀で切り落としたようだ。
そのまま宙を舞い、離れた位置へ着地する猗窩座だったが、俺たちは猛追し、追撃を加える。
「ぐおおおおおお!!!!」
カナトが次々と猗窩座の体を切りつけ削いでいく。俺はその度に死角から剣を放ち、頸を狙う。
しかし、猗窩座は頸への攻撃は絶対と言っていいほど、確実に反応し躱す。
戦って気が付いたが、猗窩座は背後からの攻撃だろうが、フェイントを入れた攻撃だろうが、的確にかわし、対処できるようだ。
まるで、俺たちの攻撃が来る瞬間、それを感知しているかのように。
恐らくこれが猗窩座の血鬼術なのだろう。この力で、愈史郎の目くらましの術にも惑わされることなく俺たちを発見することができたのかもしれない。
挟み込みながら猛攻を続けるうちに、片足でしか地面を踏ん張れないせいで俺たちの攻撃を受け止めきれず、ついに猗窩座は地面に膝をついた。
しかし、その瞬間、猗窩座の足元に氷の結晶のような紋様が展開される。
「再生阻害の日輪刀には少し驚かされたがそれだけだ! 二人そろってあの世に行け!!!」
ー術式展開 破壊殺・終式 青銀乱残光ー
刹那、花火を彷彿とさせるような100発以上の乱れ打ちが放たれる。
まずい・・・死ぬ・・・
カナトは彼岸朱眼と痣の身体能力で何とかさばけるかもしれない。だが俺は無理だ。
走馬灯だろうか。時間がゆっくり流れているように感じる・・・
いや、待て!!! 違う!!! 動きがゆっくりに見えている!!?? これならさばけるか!!??
やがて、周囲に衝撃と、砕かれた地面により、土煙があがる。
俺は仰向けに倒れていた・・・だが不思議だ・・・あちこちに裂傷はあるが、あれほどの拳打を受けて、致命傷が一つもなかった。
猗窩座は俺が死んだと思ったのか、背を向けている。
猗窩座はカナトの赫刀で切り落とされた部分を自ら殴り潰し、新たな傷口を作ってそこから足先を再生させる。
猗窩座が見据えるその先に、両膝をついて、肩で息をしているカナトの姿が見えた。
「大したものだ。生きているとは流石だな。致命傷は全てかわしたか。雁哉のように死ぬことはない。お前も鬼になれ。カナト。」
顔を上げるカナトだったが、不意に目線の先にいた俺と目が合った。
その動揺に気づいたのか、猗窩座はすぐさま俺の方に振り返る。猗窩座はまるで信じられないとばかりに俺を見てくる。
「馬鹿な・・・闘気がない・・・!? 微塵も感じられない!?」
俺は狼狽する猗窩座の前で立ち上がる。呼吸を意識する。
なんだろう・・・今だけはすごく・・・感覚が研ぎ澄まされているような気がする・・・
俺は剣の切っ先を猗窩座に向けたがそこで気づく。日輪刀は半ばで折れてしまっていた。
「・・・貴様・・・それは俺が追い求めていた境地・・・黒死牟ならいざ知らず、貴様までもが・・・!!」
なんだ? 俺の今の状態は、黒死牟もなれるのか? じゃあこの状態を維持しても、奴とはイーブンってわけか・・・
俺は少しがっかりした。今の俺は一種のゾーン状態なのだろう。プロスポーツ選手や格闘技選手が時々なるやつだ。
しかし、それらと少し違うのは、猗窩座やカナトの体が透き通って見えるということだ。
「・・・死ね!!! くたばり損いが!!!!!」
ー破壊殺・乱式ー
凄まじい衝撃波が俺を襲う。俺は剣でそれらを払う。ほとんど力を入れていないのにさばけた気がする。
「くっ!!!」
ー破壊殺・鬼芯八重芯ー
左右交互に放たれる凄まじい拳打だ。少し前の俺なら受けられず、粉々にされていた。同様にさばき、体をゆらゆらと傾けてかわす。
ー破壊殺・砕式 万葉閃柳ー
俺は拳を振り切られるよりも先に、後ろへと下がる。俺のいたところに小隕石でも衝突したのかと錯覚するような凄まじい衝撃がぶつけられ、轟音が鳴り響く。
俺はその揺れで、たたらを踏む。地割れに巻き込まれそうになるので、宙へと退避する。
ー破壊殺・脚式 飛遊星千輪ー
地面から突風が巻き上げられるほどの蹴り上げが繰り出せれる。
柄で攻撃をいなし、自身を打ち上げさせて、威力を殺した。かなり後方に吹き飛ばされたが、何もなかったかのように着地する。
「おっ・・・おのれ・・・貴様・・・!!!」
猗窩座は血管が切れるんじゃないかってくらい青筋を浮かべている。
確かに、はらわたが煮えくり返る思いだろう。自分の脅威にすらならなかった男が突如倒しきれない男に変貌したのだから。
対して俺は無表情だ。それが意図しない煽りになっているのかもしれない。
どれくらいそうした攻防が続いたのかわからないが、やがて、猗窩座の攻撃の手が止まった。
猗窩座の視線の先を確認すると、遠くの空が白け始めている。夜明けが近い。
しかし、俺はこの時失念していた。なぜ猗窩座が俺たちを追って、この場所に来たのかを。
猗窩座は瞬く間に、離れた診療所へと急接近する。
まずい!!! 炭治郎の存在を忘れてた!!! 俺も全力で追いかけるが、初動が遅れ、間に合いそうもない・・・!!!
「あの御方の命令だ!!! お前だけでも殺す!!!」
だめだ・・・間に合わない・・・!!! 俺は炭治郎を守れず、むざむざ殺されるところをただ見ていることしかできないのか!!??
ついに猗窩座は炭治郎に肉薄し、拳を繰り出す。
ーヒノカミ神楽 炎舞ー
日輪の如き剣閃が猗窩座の目前で振るわれる。猗窩座も想定外の反撃に半歩引いて下がった。突進の勢いを無理やり殺したためわずかな時間だが硬直する。
「ナイス! 炭治郎!!!」
カナトの声とともに赫刀が振るわれる。側面から近づいたカナトに反応した猗窩座は回避のため、横跳びして距離を取る。
俺は、炭治郎とカナトの足止めのおかげで追いつき、羽織の下に予備で隠していた宇随さんの毒付きクナイを、すれ違いざまに猗窩座の片目にぶっさす。
「ぐあああ!!??」
追撃を加えるため、俺は日輪刀を振り上げたが、猗窩座は上空へと飛んで離れていく。火事場の馬鹿力で毒があまり効いてないのかと俺は唖然とする。
「逃げるな! 卑怯者!! 逃げるなああああ!!!」
そんな猗窩座に怒号を浴びせる炭治郎。再び猗窩座の顔に青筋が浮かぶ。
「貴様の顔覚えたぞ小僧!!! 次会った時その脳髄をぶちまけてやる!!!」
そう言って、猗窩座は遥か彼方へと逃げていった。小僧って言ってたから、恨みを買ったのって炭治郎なんじゃね? 最後の最後で煽ったりするから・・・
やがて、徐々に夜が明ける。周囲はクレーターだらけで散々な状況だったが、猗窩座の目に刺したクナイが落ちていた。毒がついてるから抜いて捨てたのだろうか。
俺は珠世さんに猗窩座の血が付着したクナイを渡そうと思い、大急ぎで手持ちの布でくるみ回収した。
その後、診療所近くのカナトと炭治郎と合流した。
「はあ・・・終わった・・・もう動けないや・・・」
「助かったカナト。お前がいなければ俺も炭治郎も死んでいただろう。恩に着る。」
「よしてよ、兄弟なんだから。むしろ終盤に雁哉が時間稼いでくれなかったら僕の方こそ助からなかったよ・・・ありがとね・・・」
「雁哉さん!!カナトさん!!ありがとうございました!!! 命懸けで俺たちのことを守ってくれて・・・!!!」
「柱が後輩の盾になるのは当然だ。そうだろう。カナト?」
「毎回こんな目に遭うなら僕はもう柱やめたいけどね・・・」
「そうか・・・今回はお前にばかり負担をかけた・・・すまない・・・」
「いや・・・雁哉が謝るようなことじゃないんだけどね・・・はあ・・・疲れた・・・」
俺は座り込んでるカナトを背負い、診療所の中に移動した。
中には珠世と愈史郎が待っていた。
「すみません。まさか上弦の参に追跡されるとは思わなかったもので・・・とりあえず追い払いましたのでご安心を・・・」
俺がお辞儀をすると、珠世さんは慌てて駆け寄ってくる。
「とんでもございません。命を賭して守ってくださったこと、本当に感謝申し上げます・・・!
まずは治療をさせてください。特に、カナトさんはかなり危険な状態です・・・!」
「わかりました。どうかよろしくお願いします。」
俺はカナトを奥の部屋のベッドに寝かせると、懐に入れていたクナイを取り出す。
「それと、上弦の参の血が付いたクナイです。先に渡しておきます。薬の研究に役立ててください。」
「上弦の血ですか・・・!? わかりました。愈史郎、代わりに受け取ってください。」
「はっ! 珠世様。」
すると愈史郎がクナイを回収する。俺は診療室から退出する。
「お前・・・柱だったんだな・・・」
すぐ後ろに愈史郎がついてきた。嘘をついたことを根に持っているのかと思い、俺は弁明する。
「すまない。警戒させたくなかった。ようやく見つけた貴重な鬼の協力者だと思ってな。」
「珠世様を利用するつもりだったのか?」
「不快にさせたなら謝る。だが、鬼舞辻無惨を殺すためにどうしても力を貸してほしかったんだ。すまない。」
「別に怒っているわけじゃない。むしろ、お前たちが柱じゃなければ、今日珠世様は殺されていただろう。礼を言う。」
「・・・そうか。」
「むしろ柱の癖に、鬼である俺たちを守ってよかったのか? 鬼狩りなら鬼への憎しみも強いはずだが・・・」
「・・・俺とカナトは家族を殺されて鬼殺隊に入ったわけじゃないからな・・・それに禰豆子を生かそうと言い出したのは俺だから今更の話だ。」
「そうか・・・」
愈史郎は一言つぶやくと、それからは沈黙が続いた。
やがて、一時間ほど経った頃合いで、珠世さんが診療室から出てきた。
「全身の裂傷が酷く、骨折や内臓の損傷も一部あります。命に別状はありませんが、暫くは戦闘はできないかと・・・」
「わかりました。また夜になれば、無惨がこの診療所に上弦の鬼を派遣するでしょう。すぐさま撤退します。・・・お二人はどうするのですか?」
「このような時のために、一時的に避難できる隠れ家があります。ひとまずそちらに退避します。」
「わかりました。できれば今後も連絡を取り合いたいのですが・・・」
「そうでしたら、茶々丸を遣わせます。見た目はただの三毛猫ですが、愈史郎の血鬼術で姿を隠しながらあなたの傍につかせますので、必要な時にお呼びください。」
「ありがとうございます。最後に一つ、俺からの頼み事を聞いていただけないでしょうか?」
「頼み事ですか? 一体どんな・・・」
珠世さんが怪訝そうに聞き返す。俺はそばで静観していた竈門兄妹を見つめる。
「今後、もし鬼を人に戻す薬ができたらの話になるのですが・・・」
そうして俺は、猗窩座との戦闘を経験して悟ったことについて話し、珠世さんにしか実現できないことを頼み込んだ。
それはある意味で、禁じ手ともいえる頼みごとだった。
続く
雁哉君には痣を出してほしくないので透き通る世界に入ってもらいました(カナト君に謝れ)。
最後の禁じ手については本文の中では軽めにぼかし続ける予定です。勘のいい人は一発で気づきそうですが、できれば感想欄で触れることがないようにお願いしたいです。引っ張るほどの内容でもないですが、そういう演出だと思って多めに見ていただけると幸いです。