輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「稲葉君、今日から私の継子になりなさい。」
「あ、はい。・・・はい?」
現在僕は蝶屋敷という鬼殺隊の医療施設に立ち寄っており、その敷地内の道場にいる。
目の前にいるのは、鬼殺隊最高戦力の柱のうちの一人、花柱の胡蝶カナエさんだ。
以前柱合会議が終わった後、水の呼吸から派生した花の呼吸を見せてもらうためこの屋敷に立ち寄ったのが最後で、
それから半月ほど会うこともなかった人だ。
特に面識もないし、会うのもこれでようやく2度目である。
なのにどうして今この場で継子という名の弟子の勧誘を受けているのか・・・
「お館様から許可はもらったわ。部屋は北側の空き部屋を準備してあるから好きに使ってね。それから・・・」
「すみません。一旦質問させてください。」
話がどんどん進んでいくため一度待ったをかけた。
「今日は以前見せてもらった花の呼吸の型の確認をしてもらいに訪れただけなのですが・・・」
「うん。さっき見た限り問題なかったわ。たった半月ですごい再現度だもの。だからあなたは私の継子として引き取ります。」
「いや・・・そうではなくて・・・」
「?」
カナエさんは首を傾げている。これは一度丁寧に説明をしなければ・・・
「僕は今、自分に合った呼吸を探すためにいろんな人に呼吸の型を見せてもらってる最中です。花の呼吸を見せてもらったのは、あくまでその一環です。あなたに弟子入りする決断は現時点では下せません。」
「何よ。私じゃ不服だっていうの? そんなこと言われるなんて悲しいわ。」
「いや・・・そうではなくて・・・」
「?」
なんだ? 僕の説明の仕方が悪いのか? 全然こちらの意図が伝わっていない気がする。
「不服とかそういう話ではなくて、花の呼吸も少し合わない気がするんです。だから、自分に合う呼吸の型がはっきりしてから弟子入りする方がいいかなと思っていまして・・・」
「・・・ふ~ん?」
カナエさんは目を細めて僕を見る。
え・・・? 僕の説明になにかおかしな点があったのだろうか・・・
「花の呼吸が合わないねぇ・・・一度見取り稽古しただけで、独学でそれも半月で習得したのにそんな風に思ってるなんて・・・私が見た限りあなたの型は、私を除いた鬼殺隊の中で一番きれいに花の呼吸を使いこなしているように見えたのだけれど・・・稲葉君にとって何がそんなに不満なのかしら?」
心なしか、カナエさんは不機嫌そうだ。
僕は腕を組んで最大限今の手ごたえを言語化しようと努力した。
「う~ん。なんというか・・・花の呼吸って、ばねと柔軟さを利用した攻撃寄りの型が多い気がするんですよね。水の呼吸よりは体に馴染むんですけど、僕としては守りに寄った型がもっと欲しいと思ってます。当然、鬼を切るために型は攻めに特化させるべきなんでしょうけど、僕は後ろにいる人たちの命を脅威から救うような、そんな戦い方を身に着けたいんです。」
僕のなけなしの補足説明に、カナエさんの雰囲気が和らいだ気がした。
「そうなのね。その考えはとても素敵よ。でも、稲葉君の持ち味は、柔軟さや流麗さな気がするの。他の呼吸よりも水や花の方がそれを生かせると思うわ。守りに特化した型が欲しいなら、自分で作っちゃえばいいのよ。花の呼吸の新しい型を生み出すもよし、花から派生するもよし、稲葉君ならきっとできるわ。だから私にその手伝いをさせてほしいの。ダメかしら?」
「・・・・・・・・」
確かに言ってることは理にかなってる気がする。
どのみち、水系統以外の呼吸は僕の強みを生かせないものが多いから、時間を割くのも建設的ではないかもしれない。
ただ、想像以上に引き留められる気がする。なぜだろう。
わいた疑問を僕は口にした。
「カナエさん。不躾な質問で恐縮なのですが、なぜ、僕にそこまでこだわるのでしょうか? 僕よりも腕が立つ隊士の人は大勢いるでしょうし、すでにカナエさんには実妹のしのぶさんが継子にいると聞いています。僕を継子にするメリット・・・あなたにとっての利点はなんでしょうか?」
その問いにカナエさんは目を丸くする。やがて目元を緩め穏やかな口調で答えてくれた。
「うふふ。実は私、あなたのことは、しのぶやアオイから色々と聞いてるの。それとお館様からもね。」
「お館様からも?」
「ええ」
一息つくとカナエさんは目線を横に移して語り始めた。
「半月前の柱合会議の後、お館様からあなたの人となりを聞かせてもらったの。
あなたは、人の痛みに寄り添える心優しい人って言ってたわ。
お館様が体調を崩され床に臥せた時も、あなたは奥方様やご子息ご息女のみんなに真摯に寄り添い励ましてくれていた。
任務先で傷ついた市井の人や同じ隊士の人がいれば、穏やかに笑顔を向けて治療に専念してくれていた。
最終選別の時なんて、兄弟二人で大勢の子たちの命を救い、傷を癒してあげていたって。
アオイなんて、その時のこと今でも嬉しそうに話すのよ。稲葉君に助けてもらった御恩はいつか必ずお返しするって、繰り返し私に言うんだから。」
笑顔でそう語るカナエさんを見て、僕は表情を曇らせた。
「・・・最終選別のあれは、僕が言い出したことじゃない・・・雁哉が言い出したからで・・・僕は最初助けようとしなかった薄情者です・・・アオイちゃんが感謝すべきは僕ではなく雁哉の方だと思います。」
「でも、最終的にあなたはみんなを助ける決断をしてくれた。最初はお館様の考えに従おうとしてたにも関わらずにね。誰にでもできることじゃないわ。当時私なんて、妹一人救うだけで精一杯だったから・・・」
すると、カナエさんは一度言葉を切って、僕の目を見た。
「そういえばしのぶも、あなたにかけてもらった言葉が忘れられないって言ってたわ。」
「え・・・? しのぶさんが?」
僕はしのぶさんに強く当たられることの方が多いので、カナエさんの言葉に耳を疑った。
「あら、覚えていないのかしら。しのぶが鬼を殺す毒を開発して、初めて任務で使った時のことよ。ちょうどあなたも一緒に合同で任務についてて、その時にこう言われたそうよ。
『すごい! 日輪刀で頸を切る以外の方法で鬼を倒してしまうなんて!
きっと過去に呼吸法を教えてくれた人以来の偉業だよ!!
今後しのぶさんが作った毒のおかげで、鬼から命を救われる人が大勢増えるね!
しのぶさんは本当にすごい人だね!
傷ついた人のけがを治すこともできて、呼吸も使えて、毒で鬼まで倒してしまえるんだから!』って。」
「・・・・・・・・」
まさかその時の文言すべて言われるとは思わなかった・・・めっちゃくちゃ恥ずかしい・・・
というより、そこまで言ったかな。
確かに感激して若干テンション上がってつらつらとしゃべったような気はするけど・・・
「だからね。私はあの子たちやお館様がそんな風に信頼するあなたの力になりたいと思ったの。現状、私があなたにしてあげられることって、あなたを鍛えてあげることくらいかな~って。だから、私の継子になってほしいな。ダメかしら?」
改めて、カナエさんからそう提案される。純粋な善意100%っぽいからなんだか断りづらくなってしまったため、
僕は渋々了承した。
「・・・わかりました。そいうことでしたら。ただ、弟子になる以上はカナエさんのお役に立ちたいです。任務でも、蝶屋敷の雑務でもなんでもいいので申しつけください。僕にできることならなんでもします。」
僕がそう言うと、カナエさんは怪しい笑みを浮かべる。
「ふ~ん。なんでもかぁ。言質とったからね。あとで言い逃れできないわよ~」
「え・・・いや・・・やっぱり今のなしで・・・」
嫌な予感がしたので、即座に訂正するが、時すでに遅かったらしい。
カナエさんはご機嫌な様子で道場を後にした。
途中、『なんでもかぁ~。どうしようかなぁ~。』と呟いてるのを聞いて、僕は心底自分の発言に後悔した。
続く