輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「カナヲ、ここにいたのね。伊之助がまた勝負したがってたわよ?」
「・・・師範・・・」
私は蝶屋敷の離れの仏間に来ていた。伊之助君と善逸君の常中の稽古を見ていたのだが、気が付けばカナヲが姿を消していた。
私は心配になり、屋敷を探し回った。すると、カナヲは誰にも見つからないように仏間に隠れるようにして座っていた。
「どうしたの? 何か悩み事かしら?」
「・・・」
ある程度、予想はついていた。炭治郎君が煉獄さんの継子としてこの屋敷を発ってもう二週間になる。
彼が柱合会議に呼び出され、蝶屋敷に治療に来てからの間、カナヲはずっと炭治郎のそばに居た。まるで片時も離れたくないかのように。
そんな彼と離れ離れになってしまったことがやはり寂しいのだろう。私はそっとカナヲの頭を撫でた。
「せめて、禰豆子ちゃんだけでも蝶屋敷に残ってもらえればよかったわね。そうすれば、炭治郎君も頻繁に帰ってきてくれたはずだから・・・」
「っ!」
私の言葉にカナヲの肩が跳ねる。やはり彼の名前が出ると大きく反応する。それだけこの子にとって、彼の存在が大きかったのだろう。
「でも彼はどうしても禰豆子ちゃんと離れ離れになりたくなかったみたいね。たった一人の妹だから・・・」
「・・・私も・・・」
カナヲがふいに口を開く。
「・・・私も! 炭治郎と離れ離れになりたくなかった!! でも・・・炭治郎は・・・禰豆子ちゃんを人に戻すために一生懸命だから・・・引き留められなかった・・・!
炭治郎はもっと強くなりたいって言ってた・・・だから・・・」
「そうね。私も引き留められなかったわ。ごめんなさいね。」
涙目になり声を震わせるカナヲを私はそっと抱きしめる。
今ならわかる気がする。姉さんがあの時、私の背中を押してくれたことが・・・立ち上がらせてくれたことが・・・
私が稲葉君を追いかけられず、悲しみに打ちひしがれていたあの日、きっと姉さんはこんな風に私のことを思ってくれていたに違いない。でも・・・
「ごめんなさいね・・・私もどうしてあげればいいかわからなくて・・・姉さんみたいにあなたを元気づけてあげられなくてごめんなさい・・・」
「・・・ううん。師範は悪くない。けど、そうだね・・・どうすればいいんだろう・・・」
私たちがそう途方に暮れていると、仏間の外で人影が見えた。その影はどんどんこちらに近づいてくる。
「どうしたの? しのぶさん。カナヲちゃん。何か悲しいことがあったの?」
そうして姿を現したのは稲葉君だった。彼はいつも私の傍に寄ってきてくれる。私は本当に恵まれていると思う。
でも、カナヲはそうじゃない。この子が傍にいてほしい彼は、今他のことに集中しきっている。仕方ないことだけれども、酷な話だと思う。
「稲葉君。実は・・・」
私は、彼に相談した。カナヲが今とても辛そうにしている理由を。それを和らげてあげるにはどうすればいいかを。
すると、彼は手を顎に当て、暫くの間思案しているようだった。
「よし。僕の家に炭治郎を呼ぶよ。鎹烏を使えばすぐに連絡できると思う。」
「え!? できるの!? カナト兄さん・・・!」
彼は優しく微笑み、カナヲの頭を撫でる。
「うん。雁哉が言うには、もう少ししたら、煉獄さんと合同で任務に行くらしいんだ。善逸と伊之助も連れていきたいって言ってた。
最終調整の稽古を口実に、僕の屋敷に炭治郎を呼ぶよ。カナヲちゃんと二人っきりの時間を作ってあげられるかはわからないけどね。それでもいいかな?」
「ありがとう! カナト兄さん!」
「ありがとうございます。稲葉君。炭治郎君は今鍛錬にかなり意識を割いているので、どうやって呼びつけようか悩んでいたのですが、その提案なら彼もすぐ承諾してくれそうですね。」
「そうだね。きっと来てくれると思う。それじゃあカナヲちゃん。さっそくだけど、準備をお願いできるかな?
ついでに蝶屋敷から常中修了用の大きい瓢箪を運んでいきたいから持ってきてもらえる?」
「うん! わかった!」
そうしてカナヲはその場を去っていった。私は稲葉君に目線を向ける。
「わかりやすい人払いまでして、一体私に何の話をするつもりですか?」
「あはは・・・流石しのぶさん。やっぱり気づくよね。」
稲葉君は困ったように笑っている。私は嫌な予感がした。とてもいつものような笑顔ではいられない。
しばらくして、彼が想定外の発言をする。
「今度、宇随さんの奥さんたちと一緒に吉原の遊郭に潜入しないといけなくなったんだ。しばらくしたら、しのぶさんとは数ヶ月くらい会えなくなるかもしれない。」
私は唖然とした。・・・と同時に思いっきり頭を殴られたような衝撃を受けた気がした。
「遊・・・郭・・・? 潜入・・・!?」
「うん。上弦の鬼がいるかもしれないみたいでね。本当はしのぶさんを連れていきたかったみたいなんだけど、僕が反対したんだ。そしたら僕が代わりに行くことになった。」
彼は何を言っているんだ。訳がわからない。感情の制御がうまくできない。
「遊郭とは、遊女がいるあの遊郭ですよね・・・?」
「うん。そうだよ。女の人が男の人の相手をするところだね。」
「稲葉君がそこに行くと・・・」
「うん。しのぶさんには悪いと思ってる。でも、しのぶさんに遊女の振りをさせて潜入させるよりはマシだと思って・・・」
「私だって嫌ですよ!! なんでそんな任務引き受けたんですか!!??」
私はつい大声で怒鳴りつけてしまう。はっとして稲葉君を見る。彼は本当に申し訳なさそうに表情を歪めていた。
「ごめん・・・何度も言うようだけど、僕がしのぶさんにこの任務を引き受けてもらいたくなかったからなんだ。
この任務は潜入中はほぼ丸腰だ。そんな状態で鬼と会敵したら、日輪刀を届けてもらうまでは、鬼用の毒に精通している隊士じゃないと生き残ることすら難しいと思う。
そうなると、しのぶさんが第一候補で、続いて僕が第二候補になる。他の柱は人物的にも毒の扱いの知識的にもこの任務には向いていないんだ。
だったら僕が行くべきだ。僕なら最悪腕力で時間稼ぎぐらいはできるし、潜入先に化学兵器を持っていけばそうそう死ぬ危険性は・・・」
「いや・・・だから・・・~~~!! もう!!! そういうことを言っているんじゃないんです!!!」
私は再び感情の制御ができずに大きな声で反応してしまう。
「命の危険性がどうとか言ってるんじゃないんです!・・・私は・・・あなたが私以外の女の人と交わるなんて、思い浮かべるだけで耐えられません!! 無理です!! 吐きそう!!!」
「・・・? しのぶさん?」
「私は・・・任務とはいえ、あなたにそんなことしてほしくありません!!!!!」
私が癇癪を起した子供のように泣きわめくと、彼はバツが悪そうにしながら口を開く。
「・・・・・・そんなことしないよ? 僕が遊女の振りして潜入するわけだから・・・」
「・・・はい?」
彼はそんな意味不明なことを言う。私は頭の中が真っ白になった。
「稲葉君が・・・遊女の振り・・・?」
「・・・うん・・・不本意だけど・・・」
「・・・稲葉君は男の子ですよね?」
「・・・うん・・・間違いないよ・・・」
「男の子なのに・・・遊女の振りを・・・?」
「・・・はい。そうです。本当に嫌だけど。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人して沈黙が続く。つまり、彼は客として遊郭に行くのではないと。あくまで遊女の振りをして潜入する予定ってこと・・・?
「・・・稲葉君・・・女装するんですか・・・?」
「うん・・・するというか・・・強制的にさせられる・・・」
「・・・稲葉君が女装・・・」
私が彼のその時の様子を想像し、思わず吹き出すと、彼はとんでもなく不快そうな表情で私を見る。
「あははっ・・・ごめんなさい・・・でも稲葉君、顔が女の子っぽいから意外と美人さんになるんじゃないでしょうか? あははっ!!!」
「いくらしのぶさんでもそんなこと言うなら僕怒るよ・・・もう口利かないから。」
「あははっ!! ごめんなさい!! 謝ります!! 謝りますから!! あははははっ!!!」
「はあ・・・」
私は腹を抱えて笑う。さっきまでの私の必死の嘆願はなんだったんだろうか。いつもなら恥ずかしくて真っ赤になるところを、一周回って可笑しすぎて笑ってしまう。
彼は自分が笑われたと思っているのだろう。明らかに不愉快そうだ。私の笑いが収まってくると彼はため息をついていた。
「じゃあそういうことで。しばらくしたら会えなくなるからそういうつもりで。」
「あ、待ってください! 潜入するときの偽名教えてください! 私会いに行きますから!」
「遊郭は女人禁制のはずだけど・・・」
「まあ、いいじゃないですか。薬売りに扮して会いにいきますから。その方が情報のやり取りもできて有効だと思いますよ?」
「・・・確かに。」
彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしているが納得していた。宇随さんに提案したら私の案が採用されるかも。
それからカナヲが瓢箪の準備を完了させるまでの間、私は不機嫌な彼の様子を眺めて笑っていた。
続く
しのぶさんの脳が破壊されなくて良かったです(おい)。
一応カナト君の容姿については7話でカナエさんに「女の子みたいな顔」って言わせてるんでこういう展開もありかなと。まあ本音はしのぶさんのヤキモキしてる所を書きたいだけなんですけどね(こら)。
さて、次回からはみんな大好き無限列車編なのですが、原作とかけ離れた完全オリジナル展開になるんで先に謝っておきます。どうか怒らないでください。驚かれる方が絶対出ると思うので先に断っておきます。猗窩座は出ません。腹いせに筆者のメンタルを破壊殺しないで頂きけると有難いです。実は本小説のタイトルを決めた段階ですでに書こうと思っていた内容なので譲れないんです。どうか寛大な心で読んでいただけると助かります。それではまた次回。