輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
何はともあれ本小説の無限列車編はこれにて決着です。続きをどうぞ。
俺は黒死牟に疑問を投げかけた。お前は鬼になって寿命を延ばしてまで、なぜ縁壱さんを追いかけ続けるのか、と・・・
俺の言葉を聞き、黒死牟は目に見えて怒りの感情を剝き出しにしていた。
「貴様・・・! どういう意味だ・・・!!!」
その殺気に、後ろをついてきた炭治郎と善逸、伊之助、禰豆子は震えあがる。だが俺は不思議と冷静だった。
「そのままの意味だよ。ずっと疑問だったんだ。なぜ全てを捨ててまで、お前が力を求めたのかが・・・
純粋に縁壱さんを超えたかったのか?
だったら、お前は人間のまま弟の縁壱さんを超えるべきだった。例え、強さの方向性が違ったとしても・・・」
「黙れ・・・貴様に何がわかる・・・! あの男はこの世の理の外側に居る、ただ一人だけ神の寵愛を一身に受けた男なのだ・・・!!
もはや人とは呼べぬ・・・あのお方以上の強さを持った本当の化け物だ・・・それに追いつくために人の道から外れるのは至極当然の道理・・・!!!」
「人の道理を外れてもか? お前は妻子を裏切り、弟を裏切り、さらには主君まで裏切った。そこまでして強さを求めることに何の意味があった?」
「うるさい・・・侍として強さを求めるのは当然のこと・・・何も非難される言われは・・・」
「別に非難しているわけじゃない。目的のために手段を選ばない気持ちは俺にもわかる。ただ・・・お前は本当は何がしたかったのか・・・それがどうにも引っかかる。
何のために強くなろうとしたんだ? 俺はお前の月の呼吸を再現して実感した。お前は純粋でひたむきで真っすぐで、それでいて具体的な指針を持ってこの呼吸を生み出したのだと・・・」
「何・・・?」
黒死牟は意外にも俺の話に興味があるようだった。本当はただ日が昇るまでの時間稼ぎなのだが、せっかくだと思い、今まで俺が黒死牟に思ってきたことをこの場で全部言うことにした。
「月の呼吸は・・・日の呼吸とは対照的だ。
剣の威力や速度を追求して、一撃で確実に鬼の急所を破壊することに特化した日の呼吸に対し、月の呼吸は剣の技量、精度、圧倒的な手数の多さに注力しているように思える。
お前は弟の縁壱さんとは別の道に可能性を見出して、月の呼吸を磨いたんじゃないのか?
縁壱さんのような個に対する絶対的な強さではなく、多に対する圧倒的な対応力こそが月の呼吸の剣士が本来目指すべき道だと俺は思う。」
「だからそれを極めるために・・・私は鬼となり・・・現にお前たち複数の柱を同時に相手取ってもなお負けぬ強さを手に入れた・・・それのどこが間違いだというのだ・・・!?」
「いや、だから縁壱さんを裏切り鬼になって無惨についたことがだよ。侍を名乗るなら、主君はころころ変えたらダメだろ。それに俺は、お前は人間のままであったとしても無惨を倒せたんじゃないかと思う。弟の縁壱さんと力を合わせていたのならな。」
「な・・・なんだと・・・」
黒死牟はうろたえている。意外にも動揺する奴だ。このまま俺のペースで押し切ってしまおう。
「無惨と会敵した時、縁壱さんの傍にお前が居れば、始めから無惨なんて倒せてたはずなんだよ。お前は俺と違い、痣があった。なら膂力は充分にあったはずだ。
赫刀だって使えたはずなんだ。透き通る世界だって、恥を忍んで弟の縁壱さんにコツを教えてもらって身に着ければよかったんだ。
そうすれば後は簡単だ。まず無惨と会敵したら、縁壱さんが無惨の急所を可能な限り破壊して弱体化させる。そして、逃亡を企てた無惨は肉塊を千八百に分けて飛び散るわけだ。
そしたら後のとどめはお前の役目だ。痣、赫刀、透き通る世界で磨きに磨いた月の呼吸の最大回数の斬撃で、無惨の肉片を一欠片残らず切り刻む。
赫刀でなら無惨は再生できないからな。そのまま朽ちて終わりだ。辛うじて生きてたとしても、朝日が昇れば肉片は一つも残らず燃やされて終わりだ。
つまりお前ら兄弟がそれぞれの長所で短所を補っていれば、今頃鬼なんかいない世の中になってたはずなんだ。違うか?」
「・・・・・・」
黒死牟は黙り込み、刀身を地面に着ける。俺の言葉を反芻しているかのようだった。
「はあ・・・最初の質問に戻るが、結局お前は何がしたかったんだ? 弟への劣等感を払拭したかったのか?
無惨を兄弟で倒していれば、弟の縁壱さんはお前を心から尊敬したはずだぞ。まあ最初から尊敬してたっていう縁壱さんの記録が極秘で残ってたけど・・・
はじめからお前は弟に劣ってなんていなかったんだよ。ただ、強さの方向性が違っただけの話だ。人のままでも充分に兄弟で並び立てる存在になってたはずなんだ。
あと話変わるけど同じ極秘書類・・・ていうより縁壱さんの日記帳に書いてあったことなんだがな・・・
『俺も兄上のようになりたい。兄上がこの国で一番強い侍になるのなら、俺は二番目に強い侍になりたい。』っていう記述が残っているんだ。
何がそんなに気に食わなかったんだよ。お前は本当はどうなりたかったんだ? 教えてくれよ。俺に。」
「・・・私は・・・」
黒死牟は放心状態に近かった。よし、もう少し追い詰めれば頸が切れそうだ。もう少しだけ追い込もう。
「・・・私はただ・・・縁壱・・・あいつのようになりたかったのだ・・・すべてを焼き尽くす程強烈で鮮烈な・・・太陽の如き者に・・・
私だけではない・・・縁壱の周囲にいる人間は皆・・・唯一無二の太陽のように・・・焦がれて手を伸ばし・・・もがき苦しむ以外道はなかった・・・
確かにお前の言う通りだ・・・家を捨て妻子を捨て人間であることを捨て・・・数百年の時を経て・・・それでも私は辿りつけなかった・・・縁壱が行き着いた場所に・・・
私はなりたいものになれなかったのだ・・・なぜ私は何も残せない・・・なぜ私と縁壱はこれほどに違う・・・
私は一体何の為に生まれてきたのだ・・・」
俺は刀を振り上げる直前だったが、一旦やめた。こいつが最後になって、俺の弟が痣の件で塞ぎこんでた時に漏らした言葉と同じことを言いだしたからだ。
「はあ・・・お前が生涯を懸けて目指していたものはわかった・・・ただ、今言ったことにいくつか訂正させてもらうとだな・・・」
俺は頭を掻く。思っていたこと全部言うと決めたからな。
「お前は縁壱とは違う人間だ。全く同じ人間にはなれない。お前が太陽のような弟を羨んだように、弟は月のような兄に憧れて剣士になった。
それは紛れもない事実だろう。お前がなりたいと願った弟に、頼れる兄貴だと思ってもらえただけで充分じゃないのか?
それにな・・・月っていうのは、本来眩しすぎる太陽の輝きを美しい光に変えて闇夜のみんなを照らすことができる、また別の輝きを放つものなんじゃないのか?
お前の弟は兄貴の良さを知っていた。だから全力で輝かせようとした。月の良さを。兄貴の良さを。
そうして生み出された月の呼吸は、結果的に俺に受け継がれた。何も残せなかったわけじゃないだろ。お前と縁壱さんは別人でも、お互いに成し遂げたことがあったはずなんだから。
何の為に生まれてきたかだって・・・? そんなの決まってるだろ・・・お前が憧れた弟が胸を張って誇れるような兄貴として生きるためだ・・・ 違うのかよ・・・!?」
「・・・」
良し。もういいな。後は頸を斬って終わりだ。さっきまでの鬼気はもう感じられない。これで俺の腕力でも斬り落とせるだろう。
正攻法では勝てないと判断し、夜明けまでの時間稼ぎの作戦に切り替えたが、思ってた以上に黒死牟には有効だったらしい。
話術による精神攻撃も立派な戦術だと認識しているが、実践した結果、想定以上の成果をもたらしたようだ。やはり俺には間違いなく産屋敷の血が流れている。人心掌握術をまさか鬼に試す日が来るとはな・・・
それに俺は目的の為に手段を選ばない人間であることを既にこいつには伝えてある。恨まれる筋合いはない。
俺が日輪刀を構えるが、黒死牟はピクリとも動かない。しかし、奴は辛うじて言葉を紡いだ。
「・・・そうだな・・・鬼となり生き永らえたところで・・・縁壱に誇ってもらえるはずもない・・・
・・・最期に・・・お前に介錯をされるのが・・・もっとも道理に適っている・・・ただその前に・・・一つだけ約束をしてくれないか・・・」
「・・・なんだ?」
「・・・私の月の呼吸を・・・後世まで残してくれないか・・・それだけが・・・縁壱に唯一誇れるものだ・・・」
「ああ、いいぞ。あと100年後くらいだったら問題ない。それ以降は俺も死んでるから保証はできないがな・・・それでいいか?」
「・・・ああ・・・」
そうして俺は、上弦の壱、黒死牟の頸を斬り落とした。その様子を周囲の柱が驚愕の目で見ていたが、緊張の糸が途切れた俺はそれを気にすることもなくその場にぶっ倒れて気絶した。
続く
はい、死亡キャラは兄上でした。筆者は兄上のことを人気キャラだと思ってます。解釈不一致は当然あると思いますが、これが筆者の中で書きたかったものです。お労しい兄上も捨てがたいのですが、筆者は「兄上に救いがあってもいいじゃないか」と原作を読んで思いました。猗窩座や妓夫太郎、童磨は救われてるのに(童磨のあれは救いか?)、兄上だけ救われないのはとても悲しいなと思ったんです(半天狗と玉壺は悪党すぎるから除外で)。
兄上の胸中の殆どは縁壱さんへの嫉妬と劣等感だったと思うのですが、それでも弟に誇れる自分になりたいという気持ちがあったんじゃないかなと筆者は考えます。じゃなきゃ子供の頃に自作の笛なんて渡さないでしょうし、鬼になっても肌身離さず持ち歩かないと思うんですよね。
だから筆者は雁哉君をオリキャラで生み出しました。兄上とは産屋敷の祖先を殺されている因縁があり、加えて知らずに月の呼吸を身に着けて畏敬の念を抱いた後失望して恨みもした・・・でもそんな彼が兄上を肯定する。縁壱さんの想いを代弁する。
兄上は自分がかつて裏切ったお館様の末裔であり自身の月の呼吸を継承している雁哉君から自身の潜在的な願望(=弟に誇れる自分になりたい)を聞き、それを自覚する。加えてそれが人間のままでも充分果たせたはずだと雁哉君から肯定される。
以上が兄上にとっての救いになるんじゃないかと思い、この話を書こうと思いました。
そしてかつての自身の行いのけじめを産屋敷の子孫である雁哉君につけてもらうという展開で決着させた次第です。どのみち兄上の心を折らないと頸斬っても決着なんてつかないので最後は対話でいいかなと思いこんな感じでまとめました。
正直もっと書きたいことはありましたが、これ以上は下手すると止まらなくなると思うので自制することにします。
さて、筆者の願望を叶えてくれた雁哉君にはしばらく退場してもらいます(おい)。
しばらくタイトル詐欺が続きます(まったくだ)。
彼の役目は終盤まで必要ないかなと(こら)。
次回の49話を挟んだらすぐに遊郭編に入ります。オリジナル要素も多分に含まれますが、それでも良ければ今後ともよろしくお願いします。