輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「しのぶさん。今日の雁哉の容体はどんな感じかな?」
「っ!・・・稲葉君・・・申し訳ありませんが・・・あれからずっと変わらずでして・・・」
「・・・そう・・・」
僕は現在、蝶屋敷の個室のベッドで寝息を立てて眠っている雁哉の傍に座っていた。心配して様子を見に来たしのぶさんに、僕はこれまで毎日している質問をした。回答もいつも通りだった。
「・・・力及ばず申し訳ありません・・・」
「しのぶさんが謝ることなんてないよ。生きてるだけ感謝しないとね・・・」
「・・・」
なるべく僕はしのぶさんに申し訳なさを感じてほしくなくて、穏やかにそう答えた。作り笑いも浮かべたが、多分すぐに見透かされてしまうだろう。
やはりと言うべきか、案の定と言うべきか、しのぶさんはそんな僕の様子を見て悲しそうな表情を浮かべている。
僕はいたたまれず、自身の隣の椅子にしのぶさんを座らせて、優しく肩を抱いた。
「・・・ごめんなさい・・・本当は稲葉君が一番お辛いはずなのに・・・」
「・・・」
僕は何も答えなかった。作り笑いもやめて、今は無表情だ。僕はあの日の、上弦の壱、黒死牟が討伐された件の報告事項を思い起こしていた。
無限列車で鬼の被害が出ている件に対応するため、煉獄さん、雁哉、炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助で任務に向かったところ、下弦の壱らしき鬼の仕業だったらしい。
人間に夢を見せて、その間に捕食する中々厄介な鬼だったらしいけど、なんやかんやで炭治郎が頸を刎ねて倒したらしい。
列車の被害も最小限に抑えられ、奇跡的に死者もいなかったようだ。ここまでなら非常に喜ばしかった。
しかし、その後上弦の壱、黒死牟と戦闘になり、煉獄さんは左腕を切断され、腹部を大きく切られもう少しで死ぬくらいの重症を受けた。
雁哉は体の欠損こそなかったものの、煉獄さん以上に全身を切り刻まれ、何とか呼吸で切断されないよう全身をくっつけていたものの、出血多量で失血性ショックに近い状態となり現在意識不明の重体だ。
炭治郎たちは全身切り付けられたような外傷があったものの、命に別状はなかった。
その程度ですんだのも、悲鳴嶼さんと不死川さんがギリギリのところで助けに入ったからだ。そんな二人も黒死牟との戦闘で大けがを負い、絶対安静で現在入院中だ。
時透君のお兄ちゃんの方は両足を切断されて、こちらも出血多量でもう少しで死ぬところだったらしい。現在は治療を受け、同様に入院中だ。
初め速報の連絡があった時は、鬼殺隊全体で相当な大盛り上がりだったらしい。100年ぶりに、それも上弦の壱を討伐し、あの冷静な輝哉さんですら、床から跳ね起きて歓喜していたとのことだ。
僕も初めは喜んだ。けど、その後の詳細な報告を受けて衝撃を受けた。みんな重症だったのはもちろんだけど、それ以上に雁哉が目を覚まさなくなったからだ。
失血性ショックであらゆる臓器に酸素が行き渡らなくなったんだろう。もしかしたら、脳にも重大な障害が残ってしまったのかもしれない。
今は辛うじて息をしているけど、これもいつまで続くかわからない。蝶屋敷で大量の輸血をしなければ、間違いなく雁哉はあの日死んでいただろう。
僕は隣で座ってるしのぶさんの頭を無表情で撫でる。しのぶさんはそんな僕の様子を見て、ますます悲痛な顔をする。
「しのぶさん・・・笑ってとまでは言うつもりないけど・・・せめてもう少し平気な顔をしてほしいな・・・僕まで悲しくなるよ・・・」
「・・・はい・・・申し訳ありません・・・」
「・・・」
こんな辛気臭いやり取りを、彼是半月以上繰り返している。いつまでこんな日が続くんだろうか。
僕がそんなことを思っていると、部屋の外から予想外の人が現れた。
「っ!!! お館様!!??」
「二人とも。座ったままでいい。私が突然押し掛けてきたようなものだからね。」
僕もしのぶさんも慌てて席を立って跪こうとするが、輝哉さんは手でそれを制する。やがて、輝哉さんは部屋の隅に置いてある椅子を運んで、雁哉の傍で座った。
「雁哉には・・・感謝してもしきれないよ。彼は私に宣言した通り、本当に上弦の壱、黒死牟を討伐し、産屋敷家の過去の雪辱を果たしてくれた。」
「かつて産屋敷家の当主を暗殺し裏切った月柱が黒死牟だったからですか?」
僕の言葉にしのぶさんは目を見開く。柱の何人かは黒死牟が元柱であることを知らない。まあうすうす気が付いている人はいたけど。
しのぶさんは気が付いてなかった側の人だったらしい。月の呼吸を使う話が出た時点で勘づきそうな気もするけど・・・
「雁哉は私に誓いを立てていた。産屋敷家の人間として奴だけは必ず引導を渡すと・・・」
「・・・」
「雁哉は私以上に執心していた。そのためにいくつかの禁忌をも犯そうとしていたくらいに・・・」
「禁忌・・・?」
僕はその言葉が引っかかりつい聞き返す。輝哉さんはしのぶさんに目配せする。
「しのぶ・・・悪いが席を外してもらえるかな? これは彼ら兄弟にしか共有できないことなんだ・・・」
「っ!! ・・・はっ!お館様・・・」
そういってしのぶさんは退出する。しばく静寂が辺りを支配するが、輝哉さんは口を開いて僕にその話をした。
僕はその話を聞いて驚愕した。
「雁哉は・・・なんでそうまでして・・・!」
「この子が言うには・・・カナト、弟の君に少しでも長く平和の時代で穏やかに幸せに生きてほしいからってそう話していたよ。兄としてそれは当然のことであると・・・」
「し・・・しかし・・・それではあまりにも本末転倒では・・・!?」
「そうだね。私も強く反対した。だから彼は実行には移さなかった。まあ現時点では移せなかったと言った方が正しいんだろうね。
カナトにはとても不快に聞こえると思うけど、私は雁哉が目を覚まさなくなって良かったと思っている。
せめて・・・無惨を葬り去るまでは・・・このまま安らかな寝息を立てていて欲しい・・・そうすれば雁哉にそんな無茶をさせなくていいからね・・・」
「・・・どうしてそれを僕に教えたんですか?」
「そうだね。私が知ってほしかったんだ。君はこの子に本当に愛されている。それこそ命を顧みないほどに・・・
その結果が、今回彼が目を覚まさなくなるほどの無理につながったのかもしれないけれど・・・
ただ、だからこそ、君には命を粗末にしてほしくない・・・幸せに生き抜いてほしい・・・それが雁哉の願いなんだ。
私は雁哉の高祖父として、この子の気持ちだけは君に理解してほしいと願わずにはいられない・・・わかるかい、カナト。」
「・・・」
僕は輝哉さんの話を聞いて黙り込んでしまう。雁哉の気持ちを嬉しいと思う反面、なんでそこまでしようとするのかと腹が立った。
そんなに危険なことをしてくれなくたって・・・僕は雁哉に見守ってもらえるだけでいいのに・・・
「さて・・・それでは私はもう行かせてもらうね。くれぐれもカナトも無茶だけはしないように・・・」
「・・・それは今後の任務のことを言っているんですか?」
「そう受け取ってもらってもかまわないよ?」
「・・・言っておきますが、この任務をしのぶさん達にやらせるつもりはありません。そうなるくらいなら、僕は全力で上弦だろうが何だろうが倒します・・・」
「・・・そうか・・・では仕方ない。天元に一言伝えておくよ。くれぐれも君を死なせないでほしいとね。」
「鬼殺隊当主の人が、そんな風に僕たちだけを贔屓していいんですか?」
「・・・まあ良くはないだろうけど・・・君たちは私の可愛い
「・・・他の柱にはバレないようにしてください・・・きっと幻滅されますよ・・・」
「ふふ。大丈夫。もしバレても、きっとあの子たちはわかってくれるよ。」
そう言って笑いながら、輝哉さんは部屋を出ていった。僕が一人で考え事をしていると、やがてしのぶさんが戻ってきた。
「あの・・・もう大丈夫でしょうか・・・」
「うん。ごめんね。席外させちゃって。」
「いえ・・・話の内容は聞かないでおきますね。」
「・・・まあ、しのぶさんには一部伝えてもいいかもしれないけどね。」
「え!? そうなのですか!? 一体お館様とどんな話を・・・!」
「まあ・・・今後の任務について少しね・・・」
「・・・遊郭の潜入任務についてですか・・・」
「うん。本当は行きたくないし、女装なんてまっぴらごめんだけど、しのぶさんやカナヲちゃんにやらせるわけにはいかないからね。仕方ないよ。」
「ふふふ、稲葉君の女装姿、とっても似合ってましたよ? お化粧したら、善逸君や伊之助君気づかなかったみたいですし。あれ本当に面白かったですね!」
「・・・面白がってるのしのぶさんとカナエさんだけだよ・・・僕は全然面白くない・・・」
「あははっ! ごめんなさい! 謝りますから! でも本当に美人さんでしたよ? 花魁って言われても可笑しくないくらいには・・・あははっ!!」
「はあ・・・あんなまがい物で花魁なんてなれるわけないでしょ・・・それに、僕は化粧すればしのぶさんの方がその辺の花魁よりもぶっちぎりで綺麗だと思ってるから・・・」
「ふえっ!? なんですか急に!?///」
「いや・・・思ってること言っただけなんだけど・・・あれ? しのぶさん??」
僕がため息をついていると、しのぶさんは真っ赤になって顔を背けている。
「もう・・・急に口説くんですから・・・心臓に悪いです・・・カナト君・・・///」
「あ・・・下の名前・・・! もう一回呼んでよしのぶさん!!」
「ああっもう!! 仕返しのつもりで名前呼びしたのに喜ばないでください!!! いつも私ばかり辱めを受けさせられて不公平です!!」
「いいから名前呼びお願い。それとできれば今後はずっと名前で呼んでほしいんだけど・・・」
「・・・っ!! 恥ずかしいから嫌です!! さようなら!!!」
「えっ!? ちょっとしのぶさん!! しのぶさん!!??」
そうしてしのぶさんは部屋を出て屋敷のどこかに飛んで行ってしまった。やはり蟲柱・・・
僕がそんなくだらないことを考えていると、部屋の窓をたたく音がする。外には宇随さんが立っていた。
「お前らいつも派手に痴話げんかしてるな。」
「・・・何か用ですか? 僕もそろそろ生産拠点に行こうと思ってたんですけど・・・」
「いや、それはしばらく無理だな。部下に伝えておけ。近日お前は長期任務に行くと。」
「・・・てことはもうなんですね・・・」
僕は宇随さんの言葉を聞いて悟った。再びため息を漏らす。
宇随さんはそんな僕の様子を見て笑っている。
「須磨が先日花魁になった。お前を禿として遊郭に潜入させる。情報もかなり上がってるからな。こっからはド派手に行くぜ・・・!」
そうして僕の不本意な遊郭潜入任務が幕を明けた。
続く
遊郭編は十話前後になる予定です。原作とは展開が違うので、ご納得できる方は引き続きよろしくお願いいたします。