輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話   作:科学大好き人間

56 / 100
弟のカナト君視点です。妓夫太郎と堕姫との戦いは今回で決着です。サブタイトル見ただけでこの後何が起きるか予測が着くかもしれませんが最後までお付き合いください。


55話 望まぬ邂逅

ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー

 

 

 

 

 

 

 

僕は十三本からさらに倍に増えた無数の帯に圧倒されているしのぶさんとカナヲちゃんの間に割って入り、波状攻撃で帯を切断する。

 

 

「痛っ!!??」

 

 

僕の赫刀で焼き切られた痛みなのか、遠くで妹鬼が顔を歪めている。

 

 

「っ!!?? 稲葉君!!??」

 

「しのぶさん!! 速攻でこっちの方を無力化する!! 協力してほしい!!!」

 

「ええ!! 援護します!!」

 

「カナヲちゃん!! 僕が奴の攻撃を全て受けるから、帯がなくなったら一息で接近して頸を刎ねて!!」

 

「っ!!」

 

「カナヲ・・・あなたならできるわ・・・! 私が絶対に隙を作るから!!」

 

「・・・はい! 師範!!」

 

 

僕は迫りくる無数の帯を全て迎撃しながらにじり寄る。二人には僕の背後に下がってもらった。

 

 

「糞野郎!! 痛いわね!! いい加減飽きてきたところなのよ!! 三人まとめてあの世に送ってやるわ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー血鬼術 八重帯斬りー

 

 

 

 

 

 

 

逃げ場のない交差の一撃。分裂体を全て吸収したためか、僕が一人で戦っていた時よりも速く、毒の血が染み込んだ帯の数も多い。

 

しのぶさんとカナヲちゃんの二人掛かりでも手こずるわけだ。だが、敵の攻撃を捌き後ろの人を守り通すために僕は草の呼吸の新しい型を作った。この程度の攻撃、痣と赫刀で迎撃できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 捌ノ型 万緑叢中(ばんりょくそうちゅう)に咲く緋華(ひばな)

 

 

 

 

 

 

 

赫刀の残像が闇の中で無数に散るように見えるほどの速度で、矛を縦横無尽に乱れ振るう。

 

二十六本の帯は瞬く間に赫刀でずたずたになり、周囲に散り、灰となっていく。

 

 

「痛い!!!」

 

 

赫刀で斬り刻まれた際のあまりの激痛にその場で体を硬直させる妹鬼。その刹那、僕の後ろから影が飛び出し一瞬で肉薄する。

 

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角ー

 

 

 

 

 

 

 

瞬時六連発の突きが打ち込まれ、高速でその場を駆け抜けるしのぶさんは間髪入れず振り返る。

 

 

「カナヲ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ー花の呼吸 陸ノ型 渦桃ー

 

 

 

 

 

 

 

しのぶさんから一拍遅れて飛び出たカナヲちゃんが上空に跳ね体を捻る。そうして放たれた剣閃は相当な鋭さで、しなる妹鬼の頸を難なく切断した。

 

 

「わああああ!! 何とかしてお兄ちゃん!! 何とかしてぇえええ!!!」

 

 

泣きわめく頸をしのぶさんがキャッチするとすかさず注射器をその鬼にぶっ刺した。

 

 

「がっ!!??」

 

「うるさいです・・・おとなしくしてください。」

 

 

しのぶさんが調合した藤の花の毒だろう。上弦を殺すほどの効き目は期待できないが、頭だけならしばらく動きを止めるくらいはできるはずだ。

 

 

「ありがとう、しのぶさん。おかげで倒せたよ・・・」

 

 

僕が一瞬気を緩め、しのぶさんに近づいた瞬間、しのぶさんは僕の背後を見て目を見開く。

 

 

「稲葉君!! 後ろ!!!」

 

「っ!!??」

 

 

僕は反射的に身を翻し、矛で身を守ったが、少し遅かったらしい。すぐそばに妓夫太郎が迫り、鎌を振り下ろした直後だった。

 

僕から鮮血が飛び散る。左肩から胸にかけて切り裂かれたようだ。僕は後ろへと下がり、しのぶさんとカナヲちゃんを庇える位置でこらえるが、瞬間めまいと全身の悪寒に襲われた。

 

 

「俺の妹を返せよなぁあああ!!!」

 

「っ!!」

 

 

僕はしびれかけた腕を必死に動かし、妓夫太郎の対の鎌の連撃を捌く。呼吸が乱れる。視野が狭まる。毒が全身に駆け巡っているのを感じる。

 

 

「・・・っ!! 今まで何人も食い殺しておいて!!! 妹を返してほしければその人たちの命を返せ!!!」

 

「それはできねぇ相談だなぁあ!! 全員俺達兄妹の腹の中に入って久しいからなぁああ!!」

 

「だったら・・・!! 今更妹だけ守ろうとするな!!! それほどまでに妹を大事に思えるなら!! どうして市井の人達にその気持ちをほんの少しでも向けてやれなかったんだ!!!」

 

「うるせえ!! 俺に説教なんてするなよなぁあああ!!!」

 

 

二十合ほど打ち合ったのち、ついに僕は膝をつき、その場で吐血する。その様子を見て妓夫太郎はせせ笑う。

 

 

「みっともねぇなああ、みっともねぇなああ。大口叩いた割には大したことねぇじゃねえかあ。あの派手な飾りつけた柱も浮かばれねぇなぁあ ひひひっ!!」

 

「・・・なん・・・だと・・・!?」

 

 

僕の傍にしのぶさんが駆け寄る。一瞬背中がチクっとした。カナヲちゃんも僕の背後で日輪刀を構えるが、戦力差は圧倒的だ。

 

 

「お前ら本当にみっともねぇなああ。俺が本気になった途端あっさり総崩れだぜぇ。

 お前が離れた後、しばらく柱の奴と切り結んだら途中からやけに動きが良くなったけどなぁあ、俺の血鎌の攻撃全部集中させたら流石に受けきれなかったみてぇえだなあ。全身切り刻んで毒でお陀仏だぁ。

 動揺した猪は背後に回って心臓を一突き。黄色い頭は助けに入ってきたが、蹴っ飛ばして血鎌で瓦礫の下敷きにしてやったなぁあ。

 耳飾りのガキも弱かったなぁあ、威勢がいいだけで。最後は鬼になってる妹を庇って背中を見せるもんだから、背後から切り付けたら毒で動かなくなったなぁあ。」

 

 

妓夫太郎は余裕の表れなのか、にやついてるだけで一向に攻撃してこない。僕は震える体に力を込めて、何とか倒れないよう堪える。

 

 

「みっともねぇなああ、みっともねぇなああ。特にお前は格別だ。お前が一番強いみたいだったが、ろくに仕事もできねぇで、完全に浮いてたなぁあ。

 お前が離れたせいであいつらは犬死だ。そしてお前ももう毒で死ぬ。何もできずに無様になぁあ。ひひっ、今どんな気持ちだぁあ?

 この後横にいるお前の女も殺すぜぇ。みじめったらしく腹搔っ捌いて残酷になぁあ。 ひひひっ!!」

 

 

僕はその事実を思い浮かべ、こめかみが軋むようだった。でもこいつの言う通りだ。上体の力が抜け、そのまま突っ伏した。

 

 

「ひひひっ!!! ついに心が折れたか!! みっともねぇなああ!!!」

 

 

隣でしのぶさんが僕の背中に手を当てて、指で何かをなぞっている。

 

 

「みっともねぇが俺は嫌いじゃねぇぜえ。俺は惨めな奴が好きだからなあ。」

 

 

すると、妓夫太郎は僕の髪を掴んで顔を無理やり上げさせる。そこには満足げに歪んだ笑顔の鬼がいた。

 

 

「お前も鬼になったらどうだ? 横で震えている女のためにも! そうだそうだそれがいい!! 鬼になったら毒で死ぬこともねえからなぁあ。二人仲良く鬼にしてやろうかぁあ?」

 

「・・・僕らを鬼にして・・・お前らに何の利がある・・・」

 

「そりゃあ柱を鬼にすりゃあ、ゆくゆくは新しい上弦が増えるからなあ。数ヶ月前に上弦を率いる黒死牟さんが死んで、あのお方も戦力を欲しているからなあ。

 そうじゃなきゃ、お前ら三人ともぶち殺すぞ? 柱を人間のまま生かしておく必要なんてねぇからなああ。」

 

 

妓夫太郎は僕の髪から手を放す。僕の回答を待っているようだ。僕は隣のしのぶさんと目線を合わせ、二人の間でのみ意図を伝え合う。

 

 

「わかった・・・お前の言うことを・・・」

 

 

そう言いかける僕を見て笑う妓夫太郎に瞬時しのぶさんが突きで目を潰す。

 

 

「がっ!!??」

 

「聞くわけないだろ!? 僕たちは柱なんだから!! 油断してくれて有難いよ!!」

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー

 

 

 

 

 

僕は矛を一閃する。しかし、妓夫太郎はそのまま後方に躱す。しのぶさんの刀も目から引き抜ける。

 

 

「ありえねぇえ!! ありえねぇえだろうがぁああ!! 俺の毒が効いてねぇえのかぁあああ!!??」

 

「それなら私が解毒薬を調合して投与したので暫くの間だけ問題ありません。今度はあなたが毒を喰らう番です。」

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー

 

 

 

 

 

先ほど突いた目とは反対のもう一方をしのぶさんは瞬時に肉薄し突く。妓夫太郎は鎌を振るが、毒で動きが緩慢なのか、しのぶさんは頭上を越えるようにしてあっさり躱す。

 

 

「お兄ちゃんしっかりしてよ!! こんな奴らにやれれないでよ!!」

 

 

後ろの妹鬼の髪が僕に迫ってきたので、それらを切り払い、僕はすかさずその頭を思いっきり遠くに蹴飛ばした。

 

 

「っ!! 俺の妹を足蹴にすんじゃねえよなああ!!!」

 

 

激昂した妓夫太郎と僕は数十合切り結ぶ。何回か鎌の斬撃を浴びるが、呼吸で止血する。毒はしのぶさんの解毒剤のおかげでそこまで影響しなかった。

 

 

 

 

 

 

ー花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬ー

 

 

 

 

 

隙をついて頭上からカナヲちゃんが九連撃を放つ。妓夫太郎はそれに見向きもせず、僕に蹴りを放って距離を空け、カナヲちゃんを迎撃する。

 

 

 

 

 

 

 

ー血鬼術 跋弧跳梁ー

 

 

 

 

 

 

斬撃の天蓋でカナヲちゃんをはじく。すかさず背後よりしのぶさんが忍び寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れー

 

 

 

 

 

 

「っが!!」

 

 

数か所刺し傷から鮮血が飛ぶ。妓夫太郎は苦しそうに動きを止めるので、僕はすぐに頭上へ跳躍し、矛を回転させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 伍ノ型 大樹砕断棍閃殺ー

 

 

 

 

 

 

妓夫太郎の頭へ渾身の一撃を振るうが、妓夫太郎は全力で回避し、矛が地面を割る。

 

 

「その技・・・童磨さんの頭蓋を砕いたやつだなああ・・・!!」

 

「共有はされてたんだね。でも逃がさないよ!!」

 

 

僕は後方へ下がっていく妓夫太郎に肉薄する。妓夫太郎は下がりながらも掌から追加で血肉の鎌を生成しようとする。

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角ー

 

 

 

 

 

駆け抜けるようにしのぶさんが追加の毒を打ち込み、過ぎ去っていく。生成途中の鎌が地面へと血肉の塊となって落ちて腐る。

 

しのぶさんは妓夫太郎の右腕にも毒を打ち込んだのか、奴が握っている武器は左手の鎌一つとなった。

 

妓夫太郎は接近する僕の頭蓋をかち割ろうと鎌を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 陸ノ型 百舌鳥の早贄ー

 

 

 

 

 

 

「ぐあ!!???」

 

 

猗窩座の時と同じく、攻撃をはじくと同時に矛を胴体に突き刺す。もちろん赫刀のため、妓夫太郎の体はこわばる。

 

 

「カナヲちゃん!! 頸を!!!!」

 

 

僕の叫びに反応し、僕の背後から頭上を飛び越えるように跳躍し妓夫太郎の背後に上下反転のまま回り込む。

 

 

 

 

 

 

 

ー花の呼吸 陸ノ型 渦桃ー

 

 

 

 

 

 

カナヲちゃんの日輪刀が妓夫太郎の頸に届くか否かのところで、妓夫太郎は鎌を差し込み、斬撃を防ぐ。加えて血肉の鎌でカナヲちゃんの日輪刀を固定する。

 

 

「残念だったなああ!! 右腕ももう少しで動くからなぁあああ!!!」

 

 

もう毒を分解したのか!! しのぶさんはさっきの型を打って離れたところに着地してしまったため、もう間に合わない。

 

僕の日輪刀を引き抜けば、即時腕の振りなしに飛び血鎌を周囲にまき散らすだろう。

 

僕はわずかな逡巡を見せてしまい反応が遅れる。妓夫太郎の右手の鎌がカナヲちゃんに迫るその瞬間、カナヲちゃんの背後に重なるような影が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 斜陽転身ー

 

 

 

 

 

 

 

「がああ!!??」

 

 

突如として炭治郎がカナヲと同様空中で上体を反転させたまま刀を振るい、カナヲちゃんの日輪刀の峰に斬撃を重ねるように打ち付ける。

 

甲高い音と共に、カナヲちゃんと炭治郎の日輪刀が赫々と発光する。

 

 

「カナヲ!!! 今だ!! 押し込めえええええ!!!!!」

 

「炭治郎っ!! わかった!! ハァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

赫刀となったカナヲちゃんの日輪刀は、二人の膂力も合わさり、妓夫太郎の鎌を焼き切りながら、頸まで到達する。

 

 

 

「さっき殺したはずだろうがぁあああ!!! ふざけんなよなぁああああ!!!!!」

 

 

妓夫太郎は最後の抵抗を見せる間もなく、炭治郎とカナヲちゃんの力を合わせた一閃により、頸を刎ねられる。

 

炭治郎とカナヲちゃんはそのまま一緒に地面に落下し、妓夫太郎の体は力なく脱力する。

 

僕は赫刀の矛を突き刺したまま、微動だにしなかった。

 

 

「・・・・・・これは・・・やったのか・・・?」

 

 

暫く妓夫太郎の首無しの体を串刺しにしたまま様子を伺う。一切動かなくなった。復活する様子はない。兄妹の頸を同時に切断した状態にしたから、倒せたのか?

 

僕が警戒を怠らず、赫刀を維持していると、やがて妓夫太郎の体が崩れ始める。加えて、遠くに転がってる妹鬼の体も崩れ始めているのが見えた。

 

 

「やった・・・③で正解だったってことか・・・なんにせよ良かった・・・」

 

 

完全に体が消え去ったことを確認し、僕はその場に崩れ落ちる。しのぶさんの解毒薬のおかげで何とか生きているが、安心した途端、凄まじい倦怠感と吐き気に襲われる。

 

僕はその場に突っ伏して動けなくなる。

 

 

「稲葉君!! しっかりしてください!!!」

 

 

気が付けば、しのぶさんが駆け寄って僕の上体を抱きかかえてくれる。

 

 

「し・・・しのぶさん・・・?」

 

「はい! 私です!! 気をしっかり持ってください!!」

 

 

僕は口から血がこぼれていることに気づいた。目がかすむ。耳も聞こえなくなってきた。どうやら解毒剤の効果が切れたようだ。あんな注射器一本の薬の量で上弦の毒が全部分解できるはずもないか・・・

 

 

「しのぶさん・・・最期に・・・言っておきたいことが・・・あるんだ・・・」

 

「っ!! そんな・・・!! 嫌です!! こんな・・・こんなの・・・!!」

 

 

しのぶさんの顔は見えないが、僕の顔を覗き込んでいるようだった。何か熱い液体が僕の頬に零れ落ちた気がした。

 

 

「僕は・・・今までの人生・・・がふっ!!」

 

「っ!! 稲葉君!!!!」

 

 

ダメだ。もう舌も回らない。このまま何も言い残せず、最愛の人を残して死ぬのか・・・こんなの・・・あんまりじゃない・・・か・・・

 

そんな風に絶望していると、僕の意識が消え入りそうになる瞬間、突如体が火に包まれる。もう火葬されるの? と、どうでもいい考えが浮かんだが、やがて火が収まり、体が信じられないくらいラクになった。

 

僕は死んだのだろうか・・・でもしのぶさんのぬくもりを感じる・・・一体・・・

 

僕はそっと目を開ける。すると目の前に、涙を流しながらも目を見開いてるしのぶさんの顔があった。

 

 

「しのぶさん・・・?」

 

「稲葉君・・・稲葉君・・・!!」

 

 

戸惑っていたしのぶさんは一転して僕のことを抱きしめてくれる。心が安らぐ。でも不思議だ。どうして突如毒が消えたんだろう。

 

 

「ムー! ムー!」

 

「・・・禰豆子・・・ちゃん・・・?」

 

 

傍には禰豆子ちゃんがいた。その傍で炭治郎が笑っていた。

 

 

「よかった・・・! 間に合って・・・! 禰豆子の血鬼術が、鬼の細胞からできた毒を燃やしたんだと思います。那田蜘蛛山の蜘蛛の鬼の糸も燃やしてたので、もしかしたらとは思ったのですが・・・」

 

「そう・・・なんだ・・・」

 

「はい! だから毒を喰らった宇随さんも伊之助も善逸も生きてます!! みんな禰豆子が毒を燃やしてくれました!! ただ怪我は治せないので、あまり無理はしないでくださいね・・・?」

 

「っ! ・・・そうか・・・良かった・・・!!」

 

「よかったですね、稲葉君。禰豆子ちゃんは命の恩人ですね。」

 

 

やがて、炭治郎はその場を去って、妓夫太郎兄妹の頸を探しに行ってしまった。建前では生死の確認って言ってたけど、恐らく珠世さんに上弦の血を届けるのが狙いだろう。

 

僕も傷の止血は呼吸でできているので、少し遅れて炭治郎を探しに向かった。カナヲちゃんは先に炭治郎について行ったので、今は僕としのぶさんの二人きりだ。

 

 

「・・・本当に・・・本当に良かったです・・・稲葉君が生きていてくれて・・・夢じゃないですよね?」

 

「うん。この手のぬくもりは間違いなく本物だよ。そうに違いないよ。」

 

 

そう言って、しのぶさんと繋いだ手を少しだけ強く握る。

 

 

「もう・・・今後はこんな無茶はしないでくださいね? 約束ですよ?」

 

「うん。僕ももうしたくないね。宇随さんにははっきりそう伝えるよ。危険な任務はもう懲り懲りだって。」

 

「ふふ。稲葉君は上弦と会うのはこれで三回目ですからね。流石にもう嫌ですよね。」

 

「当り前だよ・・・もうこんな目に遭うぐらいなら柱なんてやめてしまいたいぐらい・・・」

 

 

僕がそう言いかけたところで、炭治郎の後ろ姿が見える。

 

 

「・・・仲良くしよう。この世でたった二人の兄妹なんだから・・・」

 

 

少し離れた場所で、僕もしのぶさんもその様子を眺める。

 

炭治郎は鬼に同情している。でも気持ちはわかる。炭治郎たちと妓夫太郎たちの境遇は似ている。助けてくれたのが人間だったか、鬼だったかの違いだけで。

 

 

「・・・だからせめて二人だけは、お互いを罵り合ったら駄目だ・・・」

 

 

炭治郎の悲痛そうな声を聞いて、妹鬼が泣き出す。

 

 

「悔しいよう!悔しいよう! 何とかしてよォ! お兄ちゃあん!!」

 

 

そうして妹鬼は消えて行ってしまった。すると隣のしのぶさんがポツリと呟く。

 

 

「もし、私があの妹鬼の立場だったとしても、私は兄に頼るだけなんてしたくありません。妹として、最後まで泣き言は言わず、兄の力になりたいです。」

 

「そうだね・・・僕も同じ考えだよ・・・もしあの妹鬼がそういう考えの持ち主なら、今回僕らは勝てなかっただろうね。」

 

「違いありませんね・・・」

 

 

僕らはそう語り合い結末を見届ける。

 

炭治郎は、妓夫太郎たちに同じ兄妹として何か思うことでもあったのだろうか。塵になって空へと舞い消えていく様子を感慨深く眺めていた。

 

しかし、突如炭治郎は日輪刀を抜刀する。その刹那、闇を影が一閃した。

 

僕らは完全に気を緩め切っていたため、一瞬何が起きたかわからなかった。

 

炭治郎の左肩から胸にかけて鮮血が飛び散り吹き出す。カナヲが急いで駆け寄るが、炭治郎は力なく倒れてしまう。

 

 

「あれえ? よくわかったねえ。気配を消して近づいて、一瞬で肺まで切り裂いて殺すつもりだったのに。またあの方に詰めが甘いって怒られちゃうなあ。」

 

 

炭治郎の様子をニコニコと眺める一人の男がいた。その男は僕たちに気づいたようで、こちらに振り返る。

 

 

「あれえ? 誰かと思ったら、また会ったねえ。」

 

 

雲で月明りが陰っていたが、やがて周囲を月光が照らした。その男の姿が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、久方振り。丁度三年くらいかな? 念のため自己紹介するけど覚えているかい? 俺の名前は童磨。いい夜だねえ。」

 

 

僕たちは望まぬ邂逅を果たした。

 

 

続く

 

 




今回は特にカナヲちゃんと炭治郎君の初めての共同作業を書きたかったので悔いはありません。ケーキ入刀じゃなくて妓夫太郎の頸入刀になってしまったのは大変心苦しいですけどね・・・
さて、最後の展開については妓夫太郎も堕姫も童磨童磨言ってたんで薄々予想が付いてた人いたかもしれませんね。次回からさらにハードな展開になります。果たしてカナト君は無事しのぶさんと一緒に帰れるのでしょうか。乞うご期待。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。