輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「稲葉君。このあとちょっといいですか?」
「別にかまわないけど、どうしたの?」
薬剤室で二人で作業を行う中、しのぶさんから声をかけられた。
しばらくすると、しのぶさんは部屋を出ていき、片手で持てるサイズの瓢箪をもって戻ってきた。
「これ、息を吹き込んで割ることってできますか?」
「うん。できるよ。」
即答すると、しのぶさんは顔をひきつらせた。
「何で割れるんですか? どうやったら割れるんですか?」
「う~ん。とりあえず全集中の呼吸の要領で息を吸って、一気に吹き込めば割れると思うよ。」
「えぇ・・・」
何だか呆れられている気がする。なぜだろう。
「しのぶさんは、それ割れないの?」
「割れませんよ。稲葉君はいつから割れるんですか?」
「カナエさんの継子になった日に瓢箪渡されたから、その場で思いっきり吹き込んだらそのまま割れたね。」
「なるほど・・・稲葉君が天才だってことはよくわかりました・・・」
「? 僕は天才じゃないよ。雁哉は天才だと思うけど。」
「いやいや、姉さんに教わる前から常中をすでに身に着けている時点で間違いなく天才だと思いますよ!?」
「え? 常中って何?」
「え?」
「え?」
なんだろう。しのぶさんとコミュニケーションがうまく取れていない気がする。気のせいか・・・?
「・・・なるほど・・・姉さんが強引にでも継子にしたのがわかる気がします・・・」
「ねえ、しのぶさん。常中って何?」
「常時全集中の呼吸を継続することです。ご存じないんですか?」
「え? 全集中の呼吸って普通日ごろから継続するものなんじゃないの?」
「え?」
「え?」
「えぇ・・・」
なんだろう。なぜか今日は特にしのぶさんとうまく会話ができない。どうしてだろう・・・
「あの・・・なんかごめん・・・僕何かおかしなこと言ってるよね・・・自分じゃわからなくて・・・」
「あっ・・・いえ! 稲葉君は悪くありません!! 私が順を追って確認しますね!」
しのぶさんに気を使わせてしまった・・・心苦しいな・・・
「まず、前提として、全集中の呼吸とは酸素を大量に取り込むことで、身体能力を向上させる技術のことです。これは、稲葉君もわかりますよね? 次に、常中とは、さっきも言ったように、常時全集中の呼吸を継続することです。これが、できると、基礎体力が日に日に向上していきます。常中は柱の第一歩とされていまして、習得には血の滲むような努力が必要なんですよ。」
「なるほど。ようやく僕にもわかったよ。つまり、僕はカナエさんに会う前からすでに常中ができていたってことだね!」
「そ・・・そうです! よくわかりましたね! えらいです!」
「う・・・うん! そのうえで、しのぶさんは僕に聞きたいことがあるんだよね?」
「は、はい! 実は私、今常中の習得に苦戦していまして、稲葉君から助言をもらえたらなぁと!」
「わかったよ。コツを知りたいんだね。そうだね・・・」
しのぶさんがとても丁寧に教えてくれたことで僕の認識に齟齬があることがわかった。
気を使われてるのもひしひしと感じるからめちゃくちゃ辛い・・・
しかし、呼吸のコツを教えるのは正直言って・・・
「う~ん。といっても、僕は全集中の呼吸を学校の友達に教わったのがきっかけだから、あまり参考にならないかも・・・」
「え・・・ええ!? 鬼殺隊外部の人間で呼吸を使える人がいたんですか!!?」
「うん。いたよ。竈門炭彦君って言うんだけどね。今思えば、彼は生まれつき、全集中の呼吸、それも常中が使えたみたいなんだ。」
しのぶさんが信じられないとばかりに目を見開く。確かに自分で言っててそれがおかしいことに気づく。
よくよく考えてみると、生まれた時から全集中の呼吸ができて、それが自然になってるなんて常軌を逸している。
そういえば、僕のいた学校の剣道部がめちゃくちゃ強くなったのって、炭彦君から息の仕方を教わってからなんだよね。
今思えば、彼は元柱の祖先をもつ天才児だったのかもしれない。
僕らがこの時代にタイムスリップ(?)した時も、いきなり鬼に襲われたけど、僕や雁哉の方が動き速かったような気がする。
あの時は宇随さんが助けに来てくれてうやむやになってたけど・・・
「稲葉君! その炭彦君は鬼殺隊には入ってないんですか!?」
「え? う~ん。どうだろう・・・もし入ってたらお館様が教えてくれると思うよ。あはは・・・」
話がややこしくなりそうだったから、とっさに笑ってごまかしたが、しのぶさんは釈然としない様子。
「まあ、あれだよ。常中の時間を少しずつ伸ばしていけば、いずれ瓢箪も割れるよ。しのぶさんももう少しで割れるようになると思うよ。」
「そ・・・そういうものでしょうか・・・」
「うん。まずは起きてる間、ずっと続けて、眠るときは誰かに見張ってもらうといいよ。常中が止まってたら起こしてもらって、可能な限り続ける。僕も雁哉も兄弟二人でそうしてたらできるようになったから、しのぶさんもお姉さんに寝るときお願いすればいいんじゃないかな?」
「な・・・なるほど・・・」
苦し紛れに、過去剣道大会に備えて合宿でやったトレーニング(?)方法をしのぶさんに話した。
心なしか納得してくれそうな流れなので、頃合いだと思って僕は席を立った。
「それじゃあ僕は薬を届けてくるね。しのぶさんもあんまり根詰めすぎないで、休憩も兼ねてお姉さんとお話してきたらいいんじゃないかな?」
「え? ああ、そうですね。では、お先に休憩もらいますね。」
そうして僕らは薬剤室を後にした。
「・・・て稲葉君言ってたんだけど、姉さん彼が常中できてることに気づいてたの!?」
「当り前じゃない。柱なら見れば一瞬でわかるわよ。」
「どうして彼にそのこと指摘してあげなかったの!? 私彼と話して何回頭の中が混乱したか・・・!」
「も~。落ち着きなさい、しのぶったら、あわてんぼさんね。」
いやいや、逆になんで姉さんはこんなに落ち着いてるの?
普通驚くでしょ!? 無自覚に常中してる隊士がいたらびっくりするでしょう!?
ねえ! 私がおかしいの!? もうよくわからないんだけど!?
「彼に初めて声をかけられたとき、常中をすでに身に着けていることには驚いたわ。ただ、彼には花の呼吸を見せてもらうようお願いされたから、その時は、ひとまず道場で聞けばいいかなって思ったの。それで、確認のために瓢箪渡したら、あっさり割るじゃない、彼。『あなたは全集中の呼吸をずっと続けてるの?』ってその時に聞いてみたら、
『? はい、そういうものだと聞きましたので』なんて言うもんだからね。もう身についてるならちゃんと教えなくてもいいかな~て。」
「いやいやいや!!! よくないでしょ!!! 」
姉さんはおっとりしてるところあるけど、まさかここまでとは・・・
こんなんでも柱が務まるんだから、姉さんの実力の高さが伺えるわ・・・!
やっぱり姉さんはすごい・・・! いや! そうじゃなくて・・・!!
「と・・・とにかく、私も早く常中覚えたいの! だから、姉さんも協力して!! 一応、私は稲葉君の姉弟子にあたるんだから・・・!」
「あらあら~。しのぶったら稲葉君にいいところ見せたいのね~。姉さん嬉しくなっちゃうわ~」
「ちょ・・・! そんなんじゃないから!! ただ、姉弟子として弱いままじゃいられないだけだから!! ・・・ってちょっと!! 姉さん!! 聞いてる!!?」
姉さんに何だか変な勘違いされてるようでとてもむず痒い。
そもそも姉さんが思うようなこと、稲葉君との間でないのに・・・
これから先、姉さんに私は振り回されていくのが目に見えて、思わずため息をつくしかなかった。
続く