輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。10話くらい平和なオリジナル展開が続きます。原作だと、炭治郎君が意識不明になってた時期ですね。このタイミングを逃すと、日常回書けるのが柱稽古編前半だけになってしまうので、筆者の我儘ではありますが何卒お付き合いください。少年少女の恋模様を多分に含むと思うので、そういうのが好きな方は楽しめる内容となっております。

注意:心苦しいのですが一部失恋要素もあります。


60話 おめでとう

ここは蝶屋敷の病棟の中でも重篤者の治療部屋である。現在、負傷した複数名の柱が治療のためベッドに横たわっている。

 

奥から順に、雁哉君、宇随さん、伊黒さん、カナト君の四名が目を閉じたまま寝息を立てている。

 

今回の吉原遊郭への潜入任務では、宇随さん、稲葉君、私の三名の柱と、カナヲ、炭治郎君、善逸君、伊之助君の計7名により、新しく上弦の参となった妓夫太郎と呼ばれる鬼を討伐するに至った。

 

しかし、その後すぐ、三年前の任務で会敵した元上弦の弐、童磨が襲来し、私たちは壊滅的な痛手を受けた。

 

まず、妓夫太郎をカナヲと一緒に討伐した炭治郎君が、左肩から胸にかけて大きく切り裂かれ瀕死の重傷を負った。

 

加えて彼を庇った稲葉君が右脇の肋骨を全て切断され、私も背中を切り裂かれ、大きな傷を負った。

 

宇随さんは妓夫太郎との戦闘で既に全身を切り裂かれ重傷を負いながらも、さらに童磨と戦闘となり、血鬼術の蔓を巻き付けられ凍傷を負った。今は血を失い過ぎたことによる意識不明の重体だ。

 

途中で増援に駆け付けた伊黒さんも肘から先を凍らされ、右腕は壊死したため手術で切除することとなった。

 

カナヲも左腹部側面を氷柱で抉られ重傷を負い、善逸君は瓦礫の下敷きになったことで全身複数個所の骨折、伊之助君は背中から心臓が位置するはずの部位を貫通されていた。心臓は無傷だったけど・・・

 

それと、割とどうでもいいけど、白峰が童磨の血鬼術を吸って肺胞の半数が壊死していた。あの状態でどうやって戦っていたのか不思議でならない。

 

唯一無傷だったのは甘露寺さんぐらいだった。彼女は一番最後に増援として駆け付けたため、戦闘時間も短く、伊黒さんの献身もあって傷一つなかった。

 

 

「全員酷い有様ですね・・・」

 

 

私は、患者の状態を確認するため巡回で入室し、負傷した柱のみんなを見渡してそうつぶやく。

 

私の背中の切り傷は、蝶屋敷に帰還後、真っ先に姉さんに縫合してもらった。

 

理由は単純で、私がいないと稲葉君の右脇胸部の手術や伊黒さんの壊死した右腕切除の手術ができなかったからだ。

 

宇随さんの全身の縫合は姉さんに、炭治郎君の左肩から胸にかけての縫合はアオイに一任した。

 

私一人ではとても手が足りない上に、宇随さんや炭治郎君は出血死直前の状態だったので一刻の猶予もなかったからである。

 

鎮痛剤を打っての二人分の手術は苛烈を極めた。最低限の処置が終わった後、私は倒れて意識を失っていたと、後で姉さんから伝えられた。

 

 

「しのぶさん。もう動き回って平気なの? せめてもうしばらくは休んだ方が・・・」

 

 

私に気が付いたのか、ベッドで横たわる稲葉君がそう声を掛けてくる。

 

 

「私は比較的重症ではなかったので大丈夫ですよ?」

 

 

私は稲葉君を安心させたくて、穏やかな笑みを見せた。しかし、彼は心配する素振りばかりしている。

 

 

「蝶屋敷に帰って来てから傷も治らないまま僕や伊黒さんの手術までして相当疲弊してるはずだよ? そもそも上弦との戦いの後からまともに休んでないじゃないか・・・頼むから無理しないでほしい・・・」

 

 

悲痛そうな声で彼はそうつぶやく。私は彼の傍により、椅子に腰かけた。

 

 

「無理の一つや二つしますよ・・・稲葉君たちにもしものことがあったらと思うと安心して眠ることもできませんから・・・」

 

「でも・・・」

 

 

抗議の声をあげている彼の手をそっと握る。

 

 

「私は大丈夫です。それよりも稲葉君は自分の体のことを・・・」

 

 

私がそう言いかけると、後ろから誰かの気配がした。

 

 

「しのぶ様! 巡回は私に任せてくださいとあれ程言ったではありませんか!! 早く部屋に戻って休んでください!!」

 

「アオイ・・・でも・・・」

 

「でもじゃありません!! カナエ様に言われているんです!! 早く戻らないとカナエ様に報告しますよ!?」

 

「わっ、わかったわ・・・すぐに戻るから、だから姉さんにだけは勘弁して・・・」

 

 

私は姉さんに怒られる未来を想像して慌てて立ち上がる。そして一度だけ稲葉君に振り返る。

 

 

「稲葉君・・・痛かったり苦しかったりしたら言ってくださいね・・・すぐに来ますから・・・」

 

「しのぶさん・・・気持ちは嬉しいけど僕はしのぶさんにこそ安静にしてほしいな。早く怪我直してね。」

 

 

私は稲葉君のことが心配でそうつぶやくが、反対に彼からそんな苦言を呈される。私は不本意ながら自室に戻り、用意された布団の上で横になった。

 

 

「・・・寂しい・・・もっとお喋りしたかった・・・」

 

 

私はそうもらす。本当はこうして一人部屋で寝てるのが嫌で稲葉君に会いに行ったのだ。

 

それなのに彼は私が会いに行っても嬉しそうにしてくれない。私のことを心配してくれてるのはわかるけど、せめて顔を合わせる時ぐらいもう少し楽しそうにしてくれたっていいのに・・・

 

そんなことを思いながら、私は目を閉じてそのまま静かに寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが蝶屋敷に帰還してから一週間が経った。私の背中の傷は殆ど癒え、問題なく日ごろの医療行為を行えるまでに回復した。

 

その診断を姉さんとアオイに下されて真っ先に向かったのが、稲葉君のいる部屋だ。

 

この一週間自室で一人っきりで横たわる時間が多かった。時々、なほ、きよ、すみの三人が相手をしてくれていたが、それでも彼と一緒に居られなくて寂しかったのである。

 

私は軽やかな足取りで稲葉君の横たわるベッドの脇まで移動した。

 

 

「稲葉君、おはようございます。具合はどうですか?」

 

「おはよう、しのぶさん。一週間ぶりだね。僕は上体を起こせるぐらいには回復したよ。しのぶさんはもう元気そうだね?」

 

「はい・・・! 漸く稲葉君と気兼ねなく会えると思ったら嬉しくて・・・!」

 

「そう・・・僕も元気そうなしのぶさんが見れて嬉しいよ。今日からもう蝶屋敷の仕事するの?」

 

「ええ。でも一時間おきにはお喋りしに来ますよ? 稲葉君だって、話相手がいた方が楽しいですよね?」

 

「そうだね。でも一時間おきは多くない?」

 

「そっ、そんなことありませんよ! 今まで会えなかった分、一緒にいる時間増やしたっていいじゃないですか! 私この一週間すごく寂しかったんですからね!?

 そもそも稲葉君が遊郭に潜入してからずっと離れ離れだったんですから、その埋め合わせぐらいしてください!」

 

「そっか。寂しい思いさせてごめんね。これからは可能な限り一緒にいるよ。」

 

 

そう言って、稲葉君は私の手を握ってくれる。私はそれがたまらなく嬉しくてついにやついてしまう。

 

こんなやり取りができるのも今ぐらいだろう。同室の伊黒さんは現在機能回復訓練の真っ最中だ。彼は柱を引退する気はないそうで、死ぬまで鬼殺隊に身を捧げると公言していた。

 

きっと彼の想い人である甘露寺さんが気掛かりでならないからだろう。彼は本当に命を捨ててでも彼女のことを守り通すつもりで、今も必死に訓練に汗を流している。

 

宇随さんは依然として目を覚まさない。まるで、数ヶ月前に上弦の壱と戦った雁哉君と同じ状態だ。彼ら二人はこの先再び意識を取り戻す日が来るのだろうか・・・

 

私が病室の奥のベッドで並んで眠る雁哉君と宇随さんを見ていると、カナト君もそれに気づいたようだ。やがて彼は口を開いた。

 

 

「そういえば・・・煉獄さんも伊黒さんと同じで、片腕を失ったのに柱を引退しなかったんだね。今も十二鬼月出現時の救援要請では、いの一番に駆け付けてるくらいだし本当にすごいよ・・・」

 

「そうですね。煉獄さんはとても責任感の強い人ですから、きっと痣で寿命が尽きるまで戦い続けるのでしょう。」

 

「・・・僕は痣が出た後しばらく塞ぎこんでたのに・・・かなわないなぁ・・・」

 

「ふふ。稲葉君みたいに市井の人に近い価値観の人がいてもいいんじゃないでしょうか? 私はそんな稲葉君も好きですよ?」

 

「・・・ありがとう、しのぶさん。・・・僕もそうやって励ましてくれるしのぶさんが好きだよ・・・」

 

 

彼は私の手を握る力を強める。こんなやりとりができるのも二人きりの時だけだから、私は無性に嬉しくなってしまう。

 

 

「そういえばカナエさんと不死川さん、婚約したんだってね。僕は遊郭の潜入任務に行ってたから、最近になって初めて知ったよ。」

 

「そうでしたか・・・私もあの時は驚きましたよ・・・姉さんはずっと不死川さんとの交際を周囲に秘密にしていましたからね・・・」

 

「まあ、柱の人はみんな知ってたし、隠や一般隊士の間でも噂にはなってたから、どのみちバレてたと思うけどね。」

 

「ふふ。姉さんここ最近は毎日のように風柱邸に通ってましたからね。当然目撃者も増えますよね。」

 

「・・・最近はそんなに沢山通ってるの? 具体的にいつから?」

 

「え? そうですね・・・毎日通い始めたのは稲葉君が遊郭に潜入し始めてからですけど・・・それよりも数ヶ月前から比較的頻繁に通うようになってたと思いますよ?」

 

「・・・」

 

「? 稲葉君? どうかされましたか?」

 

 

私の回答に可笑しな点でもあったのだろうか。彼は何かを思案しているようだった。

 

 

「・・・まさか・・・いや、日数からして・・・だとすると・・・」

 

「稲葉君? どうしたんですか?」

 

「あ、ごめん。考え事してた・・・ちょっと後でカナエさんに確認しないといけないことができたから・・・」

 

「? 何の話ですか?」

 

「・・・うん・・・しのぶさんにはまだ早いと思う・・・気にしないで・・・」

 

「? どういう意味ですか? 答えになってないですよ?」

 

「・・・いや・・・しのぶさんがもう少し大人になったら教えてあげるから気にしないで・・・」

 

「ちょっ!? 私が子供だって言いたいんですか!? 心外です!! 私だってもう十七ですよ? 充分大人の女性ですから!!」

 

「いや・・・そうなんだけど・・・うん・・・どうしようかな・・・」

 

 

彼がそう言い淀んでいると、突如病棟の奥の部屋の方から驚くような声が聞こえた。今の声ってもしかしてカナヲ・・・!?

 

 

「カナヲがあんなに大きな声をあげるなんてただ事ではありませんよ・・・! 私見てきます!!」

 

「うん。いってらっしゃい。」

 

 

私は大急ぎで声がした場所へと向かう。カナヲもこの一週間で概ね生活に支障が出ない程度には回復した。それで頻繁に炭治郎君の様子を見に行くようになったのは知ってる。

 

炭治郎君が目を覚ましたのだろうか? しかし、あの容体が一週間で良くなるとは思えない。まさか、炭治郎君と同じ部屋で入院している白峰に何かされたんじゃ・・・!!

 

 

「カナヲ!! どうしたの!?」

 

 

私が急いで部屋に入ると、そこにはベッドで上体だけを起こしている白峰と、その傍で立ち尽くしている姉さんとカナヲがいた。

 

 

「っ!! 白峰・・・!! アンタまさか二人に手出してないわよね!? 蝶屋敷から追い出すわよ!!??」

 

「おいおい。酷い言いがかりだな。俺はただカナエを透き通る世界で見てただけだぜ?」

 

「っ!? 視界が透けて見えるっていうあれですか!? 姉さんの裸でも見てたんですか!!!!」

 

「いや・・・そんな服だけ透けるような都合のいいものでもねえわ・・・皮膚も全部透けて臓器やら何やら丸見えになるんだからよ・・・」

 

 

私は状況が呑み込めず、白峰に強く当たる。どうやら二人が何かされていた訳ではないようだが・・・

 

 

「しのぶ。落ち着きなさい。彼は親切に教えてくれただけよ? それでカナヲも驚いて声をあげちゃったの。」

 

「カナヲが大声を出すなんてただ事じゃないわ! 一体何があったの!?」

 

 

もしや透き通る世界で姉さんを診たら何か重大な病気でも見つかったんだろうか・・・私はそんなことが頭をよぎり嫌な汗が噴き出る。

 

しかし、姉さんから返ってきた回答は予想だにしていない内容だった。

 

 

「うふふ~。おめでたよ~。まだ一か月も経ってないみたいなんだけど~。」

 

「・・・は?」

 

 

姉さんは何を言っているの・・・? 私の耳がおかしいのだろうか・・・

 

 

「あの・・・姉さん・・・どういうこと? 意味が理解できないんだけど・・・」

 

「もう~。しのぶったら慌て過ぎて呑み込めないのかしら~。だから私、不死川君の子どもを妊娠したそうなの。透き通る世界で見たらわかったそうよ?」

 

「・・・は?・・・ちょっ・・・えぇえええええええええええええええええええ!!!!????」

 

 

私はカナヲとは比較にならない大声をあげてしまった。姉さんが妊娠・・・それも不死川さんの・・・!!??

 

 

「ん~。自覚はないんだけど、確かに今月はいつもの周期と比べて随分と遅いからもしかしたらとは思ってたんだけどね~。これから少しずつ体調不良とか起こるのかしらぁ。」

 

「カナエ姉さん・・・おめでとう・・・でも今後は安静にしてた方がいいんじゃ・・・」

 

「ありがとう、カナヲ。そうねえ。具合が悪くならないよう気を付けるわあ。」

 

「姉さんが妊娠・・・不死川さんの・・・姉さんが妊娠・・・」

 

「こら、しのぶ~? いつまで呆けているの? そんなに驚かせたかしら~。」

 

 

姉さんはわかってない・・・私にとってそれがどれだけの重大発表か・・・頭が混乱して考えが整理できない・・・

 

私がその場で立ち尽くしていると、姉さんは私のことをそっと抱きしめてくれる。

 

 

「しのぶ。おめでとうって言ってくれないの? 私は貴方にこそそう言ってほしかったのだけれど・・・」

 

 

姉さんのその言葉で思わず両の眼から涙が零れ落ちる。

 

 

「も~。泣くことなんてないじゃない。」

 

「泣いてないわよ・・・いや滅茶苦茶泣いてるけど・・・何だか嬉しくて・・・おめでとう姉さん・・・!!」

 

「うふふ~。ようやく聞けたわ~。私すっごく嬉しいわよ~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は幼いころの自分に戻ったかのように、それから暫く姉さんの腕の中で泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




カナエ姉さんがご懐妊です。母性溢れるカナエさんには是非とも母になって頂きたくこういう展開となりました。カナト君からしたらカナエさんはお母さんみたいな人らしいので、これで名実ともにお母さんです(どゆこと???)。そしてこの展開は今後の刀鍛冶の里編に繋がってきます。筆者が是非とも書きたかった内容なので、よろしければお付き合いください。
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