輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「雁哉、体の調子はどう? 傷は痛んだりする?」
「そんなに心配しなくてもいいぞ、真菰。傷痕は流石にどうしようもないが全部治ってるし、機能回復訓練だってもう始めてるんだ。退院するのだってそう先の話じゃないだろう。」
俺はベッドで上体を起こし、見舞いに来た真菰と今まで何度もしたような受け答えをしている。
カナトが言うには、俺が黒死牟との戦いで数ヶ月目を覚まさなくなった間、何度も真菰は俺の見舞いに来ていたらしい。
俺の傍の机には、真菰が用意したのか花瓶がおいてあり、今日も新しい花がそこにはあった。
「そっか。でもあんまり無理しちゃだめだよ? 私カナトから聞いてるんだ。雁哉は生まれつき体が丈夫じゃないって。」
「カナトの奴・・・余計なことを・・・」
真菰はやたら俺を気遣ってくる。カナトがそう言ったからか、それとも俺が産屋敷の人間だと教えたからか。
いや、本当はもう気づいている。俺はカナトと違ってそう鈍感でもない。真菰が俺にどういう感情を向けているかを・・・
「真菰・・・今後俺をそう気に掛けなくたっていい。お前だって柱に任命されるのも秒読みだろう。これからは忙しくなるぞ?」
「大丈夫。雁哉の設立した支援部隊の人達のおかげで柱の任務の量も減っているから、柱になってもお見舞いぐらい来れるよ? それに・・・」
真菰はそこまで言うと、少し困ったように笑った。
「私が水柱になったら義勇は柱をやめるって言ってるんだ。だから、説得するまでは柱の任命は受けられないと思う。」
「は?」
真菰は那田蜘蛛山での一件で重傷を負い、しばらく任務には行けなくなったが、怪我が完治した後飛ぶ鳥を落とす勢いで鬼を討伐し続けた。
本当は下弦の鬼を自力で2体も倒している訳だし、すぐに任命されても可笑しくなかったのだが、那田蜘蛛山に巣食うっていた上弦の伍が冨岡さんの証言によると想定よりも弱かったため、真菰の下弦討伐の実力に疑問の声が上がっていたのだ。そのため、今日までコツコツ自力で鬼を討伐し続け、ようやく先日柱任命条件である50体討伐まで漕ぎつけた。これで間違いなく二人目の水柱になるだろうと俺は予想していた。
だが、真菰から冨岡さんが柱を引退しようとしていると聞いて俺は耳を疑った。冨岡さんが負傷したという話は一切聞かない。なんだかんだ言って、あの人の実力は柱でも上位に位置する。
それなのに一体どういう腹積もりなのか。俺は全く理解が及ばず呆けた声を漏らすしかなかった。
「冨岡さんはなんでそんなことを言いだしたんだ? 理由は?」
「・・・私も聞き出そうとしているんだけど教えてくれなくて・・・」
正直冨岡さんが何を考えているのか俺には一切わからない。あの人基本自分の考えていることを人に言わない。だから、柱の引退理由については一切予想がつかない。
「お館様には伝えたのか?」
「伝えたよ。そしたら、『独りで後ろを向いてしまう義勇が前を向けるよう、根気強く話をしてやってくれないか。』とだけ・・・
お館様もかなり体調が悪くなっていて、もう義勇に直接会いに行くこともできないみたいなんだ・・・」
「独りで後ろを向く・・・か。まさか錆兎のことか?」
俺は唯一の心当たりをつぶやく。真菰も同じことを思っていたらしく頷き答える。
「私もそのことを義勇に尋ねたんだけどね。『お前には関係ない』って言われちゃって・・・」
「・・・まじか・・・」
仮にも真菰は鱗滝一門の後輩だろうにあの人は何を言っているんだ・・・
俺は頭が痛くなる思いだった。少し対策を考えていると、あるアイデアが浮かんだ。
「炭治郎をけしかけるか。」
「え? 炭治郎?」
「ああ。こう言っちゃなんだが、あいつは相当頑固だ。俺達から頼み込めば、冨岡さんが観念するまで付きまとってくれるはずだ。一か八かやってみよう。」
俺は真菰に頼んで炭治郎にその旨を伝えてもらった。炭治郎も機能回復訓練に参加できるくらいには回復しており、外出するぐらい訳なかった。
「わかりました! 必ずや義勇さんから理由を聞きだして説得して見せます!!」
炭治郎はそう言い残し、蝶屋敷を暫く離れた。
そして驚いたことに、一週間も経たないうちに義勇さんを説得して戻ってきた。どうやったのか聞いてみたら、4日間ずっと話しかけ続けたそうだ。
あの無口な義勇さんに4日間休みなしで話しかけるその根気強さ、驚嘆に値するとしか言えないが、結果的に問題は払拭できたようだ。
「炭治郎。お館様には俺から手紙を出しておいた。後日真菰と一緒に柱の任命を受けてこい。お館様もきっとお喜びになるだろう。」
炭治郎も実は柱任命の話があがっていた。妓夫太郎討伐の実績があってのことだ。実力も柱として申し分ない。俺とカナトの推薦も込みでお館様も納得されていた。
「俺が柱に・・・だったらカナヲも同じく柱の任命を受けても可笑しくないはずです。カナヲにはそういう話が出ていないんですか?」
俺の言葉に疑問を感じた炭治郎がそう聞き返す。
「カナヲは一度、カナトが一対一で実力を見定めて、それから柱に任命するかを決めるらしい。しのぶからもそう提案されている。」
「しのぶさんからもですか?」
「ああ。継子だからこそ、他よりも厳しく見定めたいのだろう。気持ちはわからなくはない。」
「俺は良いんですか? 俺は最初の頃、雁哉さんに鍛えてもらったようなものなので・・・」
「煉獄が認めているんだから良いに決まってるだろ。別に俺はお前の師匠でも何でもないからな。所謂ただの先輩だ。それにお前の実力は既に俺と並ぶかそれ以上だと思っているから何も問題ない。」
「それは買いかぶりすぎですよ・・・俺は透き通る世界が見えるわけじゃありませんから・・・」
「いや・・・お前は那田蜘蛛山での上弦の伍の討伐時に一瞬とは言え透き通る世界が見えてるはずだ。まだ使いこなせないだけで潜在能力は申し分ない。
白峰に今後お前のことは鍛えてもらう予定だし、すぐにでもコツを掴めるだろ。そうしたら間違いなくお前は俺よりも強くなるはずだ。」
「俺にとって雁哉さんは柱上位の実力の持ち主だと思ってます。上弦の壱、黒死牟を討伐したのだって雁哉さんですよね?」
「あれは・・・産屋敷家の極秘記録に書いてあった奴の過去の情報からプロファイリング、つまり人物像を予想して言いくるめて頸を差し出させただけだ。俺の腕っぷしの実力で倒したわけじゃない。」
「いや・・・むしろ言葉だけで説得して倒すなんて実力行使よりよっぽど凄いですよ。流石はお館様と同じ血縁者ですね。」
「まあ、人心掌握術の一環かもしれないな、あれは・・・」
そんな会話を続け、やがて炭治郎は部屋を出ていった。もうじき白峰が悲鳴嶼さんに透き通る世界を習得させて戻ってくるはずだ。そしたら今度は炭治郎にも稽古をつけてもらえるだろう。
俺は順調にことが運んでいることに笑みを浮かべていると、今度は真菰が部屋に入ってきた。
「炭治郎のおかげで、義勇も以前よりずっと前向きになったよ。ありがとう、雁哉。」
「礼なら炭治郎に言え。俺は何もしていない。」
「そんなことないよ? 雁哉が炭治郎に義勇の説得をお願いしてくれなかったら、今頃私はずっと悩んでたと思う。」
「・・・」
「だから改めてお礼を言わせて? ありがとう、雁哉。」
「・・・そうか。」
「雁哉はもっと自分の行いの凄さに自覚を持った方がいいと思うよ? 雁哉にとっては何でもなくても私にとっては凄く感謝してることが一杯あるんだから。」
「何の話だ? 心当たりがないが・・・」
「もう・・・私は忘れていないからね? 最終選別で雁哉が私の命を救ってくれたこと。炭治郎を鍛えるとき私を頼ってくれたこと。一杯私のことを褒めて認めてくれたこと。全部全部覚えてるよ?」
「・・・」
俺は閉口する。目を背ける。今の真菰の顔を見るのは気まずかった。真菰の俺に対する眼差しは他の奴に向けるものとはまるで違うものだったからだ。
俺はそんな真菰の気持ちに気づかないふりをしてきたが、頃合いかと思い始めた。
「なあ、真菰。」
「ん? どうしたの? 雁哉。」
俺は真菰にかける言葉を慎重に探る。できることなら傷つけたくなかったからだ。
「突然何を言い出すんだと思うかもしれないが・・・俺は故郷に恋人を残している・・・いつかまた会いに行くと約束までしてな・・・」
「っ!」
真菰の顔は見ていないが、明らかに動揺する気配がする。俺は続ける。
「これは・・・俺の思い違いかもしれない・・・だったら笑い飛ばしてくれてもいい。
もしお前が・・・俺に対して特別な感情を抱いているのなら・・・俺はそれに応えることができない・・・申し訳ない・・・」
暫く俺たちの間で沈黙が続く。俺は真菰の顔が見れなかった。そうしてどれくらいの時間が経ったか、やがて真菰が震える声で答えた。
「あはは・・・やっぱり気づかれてたんだ・・・私の気持ち・・・」
「・・・」
「そうだよね。バレバレだよね。恥ずかしいなぁ・・・」
「真菰・・・俺は・・・」
「ううん。それ以上は言わないで。」
俺が真菰に言葉を投げかけようとした瞬間、真菰は俺の発言を制止する。俺は真菰の気持ちを尊重し口をつぐむ。
「私ね・・・ずっと雁哉のことが好きだったんだ。私の命を救ってくれたあの日から・・・
それからしばらく会えなくなって、それでも気持ちはどんどん膨らんで、どうしようもなくなった時に雁哉は炭治郎を私と鱗滝さんのところに連れてきて・・・
私のことを頼ってくれたのが凄く嬉しかった。それから日に日に気持ちはもっと大きくなって、ある日雁哉は私に本当の苗字を打ち明けてくれて・・・
それで私、雁哉のことを守りたいって思ったんだ。今後雁哉の身に危険が及んだら、今度は私が雁哉の命を救う番だって・・・そう思って頑張って修行もしてついに柱の任命も受けられるくらいになったよ。
だからつい、気持ちを抑えられなくなっちゃったみたい。こんな形でバレるなんてほんと恥ずかしいなぁ。」
そう言って、真菰は俺に背を向ける。
「そっかぁ。雁哉には恋人がいたんだね。それなのに私、勝手に舞い上がっちゃって・・・ほんと恥ずかしい・・・
でも後悔してないよ? 雁哉を好きになったこと。雁哉は一杯私に特別な言葉を投げかけてくれた。一つ一つが私の宝物だよ?
この気持ちにけじめをつけるのは少しかかるかもしれないけど、いつか素敵な恋だったなぁって思える日が来ると思う。
だから改めて言わせて? ありがとう、雁哉・・・」
最後のお礼の言葉は一段と声が震えていた。俺は自分で切り出しておきながら罪悪感を覚える。手前勝手だとわかってはいるが・・・
「私、外の空気吸ってくるね? 私が言ったことは気にしないで。雁哉には申し訳ないなんて思ってほしくないから。」
そう言って、真菰は部屋を出ていく。俺は暫く茫然自失していた。
「・・・派手に振っておいて随分と辛気臭い顔だな?」
俺の隣で一か月振りに目を覚ました宇随さんから苦言を呈される。
「・・・ようやく目を覚ましておいて、第一声がそれですか・・・盗み聞きなんて趣味悪いですよ。真菰に謝ってください。」
「はあ・・・そいつは悪かったな? 俺だって漸く意識が戻った途端お前らの会話が聞こえてきたんだから仕方ねぇだろ。でもまあ、謝っておくぜ・・・地味にな。」
「・・・そうですか。とりあえず宇随さんの奥さんたちに速攻手紙送っておきますよ。とても心配されていましたから・・・」
そうして俺は筆を執り、手紙をしたためる。ついさっきの真菰の声が耳に残り、心がかき乱される。俺は何度も手紙を書き損じ、鎹烏に手紙を渡すのに二刻以上時間を消費することになった。
続く
真菰ちゃん、ごめんなさい・・・でもきっとこれから先いい人見つかるから・・・だからどうか許して欲しい・・・(泣き)
読者の方も申し訳ありません。失恋エピソードなんて誰得なんだっていう話ですよね・・・でも雁哉君には瞳ちゃんっていう彼女がいて、その子に一途なんで彼にはよそ見させたくなかったんです。筆者のわがままです。すみません。一応、この作品は原作キャラ救済も意識しているので、真菰ちゃんも救済される予定です。せっかく鮭大根好きのあの人が前向きになったので、是非ともその人には頑張ってほしいものです(人任せ)