輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「・・・ったく、雁哉の野郎。一銭の徳にもならねぇこと頼みやがって・・・」
「まあ、そう言わないでくださいよ。白峰さん。」
「白峰。炭治郎に生意気な口利かない。私たち柱だよ? 白峰よりも偉いから。」
「はいはい。カナヲは相変わらず愛想ねぇのな。」
「白峰こそ女の子のことそんな目で見ないようにしてよ。不快なんだけど。」
「まあまあ、カナヲ。警戒するのはわかるけど、仮にも稽古つけてもらってるの俺の方だからさ。少しだけ我慢してくれ。」
「むう・・・」
俺は白峰さんに毎日15分程度の稽古をつけてもらっていた。
鬼殺隊全体での柱稽古も始まり、二週間になる。
初週の日中は他の隊士の鍛錬に付き合い、それ以外はカナヲと過ごすことが多かったのだが、今週くらいから空いた時間に白峰さんとも打ち合うようになった。最近はそんな日の繰り返しだ。
現在行っている柱稽古の順番は主に次の通りだ。
第一の試練 宇随天元
「基礎体力向上」
第二の試練 竈門炭治郎&栗花落カナヲ
「反射訓練及び全身訓練」
第三の試練 甘露寺蜜璃
「地獄の柔軟」
第四の試練 時透無一郎
「高速移動」
第五の試練 伊黒小芭内
「太刀筋矯正」
第六の試練 不死川実弥
「無限打ち込み」
第七の試練 冨岡義勇&鱗滝真菰
「打ち崩し訓練」
最終試練 煉獄杏寿郎
「柱昇格を判定するための試験試合」
十二鬼月の下弦が出現しなくなって久しく、鬼の出現もピタリと止んだため、今後の柱昇格は煉獄さんと試合をして実力を認められた者のみが言い渡されるそうだ。
悲鳴嶼さんは現在療養中だ。ただ、内臓に大きな後遺症を残したため、今後戦線に復帰することは難しいだろう。
そして、行方不明だった雁哉さんは現在浅草にいるらしく、珠世さんを鬼殺隊に引き入れるために交渉中とのことだ。一応、対無惨用の薬の開発については既に共同研究の意向を伝えたみたいだ。
カナトさんとしのぶさんはそんな珠世さんとの共同研究をするための下準備をしながら、時々俺たちに会いに来たり、宇随さんや甘露寺さんに会いに行ったりしてる。
カナトさんがカナヲに会いに来るのは、なんでも花の呼吸終ノ型の改良を行うためらしい。まあ、俺達が健全な付き合いをしてるか、特にカナヲが暴走してないかを念のため確認するためとも言ってたけど・・・
ただ、宇随さんや甘露寺さんに会いに行くのは一体なぜだろう。それについては確認してないから、理由まではわからなかった。
「さて、と。雁哉からは猗窩座と会敵しても殺されないよう炭治郎を鍛えてやれって言われてるんだが、なんでお前ばかり気にかけてんだろうな、あいつは。
俺の目から見れば、お前は煉獄の下位互換だ。柱稽古が始まった初週のうちは、暇そうな煉獄の相手を度々してたから、実力差が否が応でもわかる。まだ煉獄を鍛えてやった方が期待できると思うんだがなぁ。」
「きっと俺が五体満足で、痣、赫刀、透き通る世界全て使えて、尚且つ日の呼吸を使えるからだと思います。もしくは雁哉さんの直感がそう言ってるのかもしれません。」
「あー・・・そう言えば手紙にそんなこと書いてあったな。産屋敷様の直感がどれだけ当たるって言うんだか・・・まあいい。約束通り給金もらえるようになったし、これぐらいは目を瞑ることにしてやるよ。」
「すみません・・・ありがとうございます!」
そうして俺と白峰さんの打ち合いが始まった。お互い透き通る世界に入り、加えて俺は痣を発現する。
「ちっ、流石に痣出ると強えな。まあ、それでも対処は容易だが・・・」
「くっ!! 動きが速い!! それに読みにくい!!」
「ああ? お前の方が速いはずだ。それでもお前が俺に後れを取ってるのは、予備動作が多いからだ。対して俺は予備動作を極限まで削ってるからな。お前もそうしろ。」
「ぐっ!! そんな簡単に・・・!!」
「できねぇじゃねえよ。やるんだよ。じゃなきゃお前は猗窩座に瞬殺されて終いだ。俺との稽古は猗窩座との模擬戦闘であることを忘れるな?」
白峰さんの動きは、予備動作がほとんどないため、動きを予測するのが難しく、余計に速く感じる。透き通る世界で血液や筋肉の収縮が見えるものの、それも一瞬のためやはり後れを取ってしまう。
「炭治郎っ!! 頑張って!!」
「はあ・・・いいなお前は。後ろから黄色い声援浴びやがって。いいからもっと本気になれよ。じゃなきゃこのまま袋叩きにするぞ?」
「ぐぅうううう!!! あぁあああああ!!!!!」
凄まじいほどの動きの切れだ! 透き通る世界で何とか動きを察知しても対応しきれない!! 悲鳴嶼さんに重傷を負わせた猗窩座はこれよりも速いっていうのか!?
「隙あり。」
「っああ!!」
俺は一瞬の判断違いで同薙ぎを受け、地面に突っ伏す。
「今日はここまで。」
「炭治郎っ!!」
カナヲが心配して駆け寄ってくる。
「手元を緩めたんだ。有難く思えよ。」
俺が腹を押さえる傍ら、カナヲは白峰さんを睨む。
「師範ならっ! もっとわかりやすく教えてくれるのに! こんなので稽古って呼べるの!?」
「ああ??」
「カ、カナヲ・・・いいんだ・・・俺がダメなところを直せないのが問題なだけで・・・」
「でもっ! こんな打ち合うだけの稽古で炭治郎の上達に繋がるなんて思えないっ!! ただ痛めつけてるだけでしょ!?」
「はあ・・・わかってねえな。」
白峰さんはため息をつく。
「いいか? 今の炭治郎は何ができてて何ができていないと思う?」
「え・・・」
「もう少し分かりやすく言おうか。炭治郎はどこまでできていると思う?」
白峰さんの問いに、カナヲは唖然としているが、必死に言葉を紡ぐ。
「た、炭治郎は、柱の人でも数人しか見えない透き通る世界に入ることができて・・・痣もあって・・・」
「そうだな。透き通る世界は見えてるな。だが見えてるだけだ。その先まで進んでいない。」
「ど・・・どういうことですか?」
俺は白峰さんに聞き返す。
「できることと、使いこなすこと、極めることはそれぞれ違う。炭治郎は透き通る世界に入ることが『できる』だけだ。まだ、使いこなせてはいない。
こいつは呼吸が乱れるとすぐ透き通る世界が見えなくなる。それで隙ができる。
どんなに追い込まれても透き通る世界に入り続けられて、どんな体勢でも、状況でも、最適化された動きを維持できて初めて『使いこなす』って言えるんだ。
まあ、俺も『使いこなす』程度で頭打ちになってるから、あんまり偉そうに言える口でもないけどな。」
「・・・使いこなす・・・」
「さらに使いこなしている技を、他の誰よりも速く強く、常に最大限の力で出せるよう練り上げることが『極める』ってことだ。お前らも良く知る、始まりの呼吸の剣士がまさにその領域だな。
まあ、それは無理だとしても、せめて、半死人の俺よりも『使いこなす』ができないと、無惨はもちろん、猗窩座にすら勝てないだろうな。
あいつは俺よりも技における『使いこなす』ができてるからな。まあ血鬼術とかいうインチキ技を駆使してはいるが・・・」
「猗窩座が・・・ですか?」
「ああ。あいつは動くその瞬間まで予備動作どころか、肉体における起こりが一切発生しない。一度戦ったからわかる。どんなに目が良くても、透き通る世界が見えても、時間を止めて殴りかかってきたと錯覚させるほどの動きができるんだ。
だから悲鳴嶼っつう人も不覚を取ったわけだ。言うなら、あいつは肉体の動作を最適化して思考すら挟まずに動くことができてるんだろう。所謂『体が勝手に動く』ってやつだな。
つまり、敵の動きを見てから思考して動く俺達じゃ初めから追いつけないわけだ。」
「っ!! どうやったらその猗窩座と対等以上に戦えるようになるんですか!? そんなの無理じゃないですか・・・!!」
俺は弱音を溢す。しかし白峰さんは落ち着いた口調だった。
「じゃあ俺たちも考える前に動くしかねぇわな。」
「え・・・」
「まあ、それでも追いつけないだろうけど・・・」
「ええっ!? じゃあどうやって!?」
「白峰。いい加減答え教えて。これ以上炭治郎いじめるなら私許さないから。」
「つまりあれだ。後の先を取るのはまず無理だってことだ。理屈から考えて対処が間に合わないからな。要は先の先を取り続けるしかない。一方で奴の最適化された動きは逆に予想が着きやすい。
無意識に体が動いて防御と回避ができるってことは、余計な駆け引きとかが発生しないからな。
こちらの先手に対し、奴がどんな対処をしてくるか予め想定しつつ攻め続ければ勝てるだろう。」
「それはそうですけど・・・難しくないですか?」
「まあ、そりゃあな。」
「白峰はできるの?」
「まあ、15分間の足止めだけならな。だが俺の場合、先に体が限界を迎えて終わりだ。そしたらすぐに殺されるだろう。」
「なんだ。でかい口叩く癖に大したことないんだね。」
「こら、カナヲ! せっかく白峰さんが猗窩座との戦い方を教えてくれたんだ! たった15分でも凄いことだぞ!?」
「むう・・・」
カナヲは少しむくれている。俺はさらに白峰さんに質問する。
「じゃあ、俺はこれからどうすればいいのか教えてください! 白峰さんの代わりに、俺が猗窩座を倒します!!」
「いや、もうそのための特訓一週間も続けてんだろ? お前、気づいてないのか?」
「え・・・どういうことですか?」
「つまり、俺はお前に動きの最適解をずっと見せ続けている訳だ。まあ、猗窩座は無手だから、細かいところは違うと思うが、それでも基礎的な体の動かし方は同じはずだ。
お前はそれが無意識に、感覚的にわかるようになればいいんだ。こればかりは、慣れるしかないな。
それか、もういっその事、お前が以前に言ってた『嗅覚による動作予知』って奴をもっと磨いた方がいいかもな。
敵が攻撃してくる前にそれが予測できるなら、相手の動作の傾向を把握して先読みするなんてまどろっこしいことをする必要もない。まさに対猗窩座戦にうってつけの特技じゃねえか。今後はそっちを重点的に磨いた方がいいかもな。
まあ、どちらにしても、地道に実践稽古で感覚を磨くしかないから、特訓内容はこれまでと変わらないだろうがな。」
「そういう狙いがあったんですね! 今までありがとうございます!!」
「まあ、言われる前に気づけよとは思うが・・・」
「白峰こそ、なんで最初に言わないの? 教えるの下手過ぎ。師範の教え方見習った方がいいよ。」
「・・・こいつ・・・」
「カ、カナヲ!? ちょっ・・・白峰さんも落ち着いてください!! カナヲはまだ一般の人に比べて感情の制御が苦手なんです!! ここは一つ穏便に済ませてあげてくれませんか!?」
「はあ・・・わかった。お前に免じて許してやる。」
「私も炭治郎に免じて許すけど、次同じ事したら許さないから。」
「ちょっ!? カナヲ!? 頼むから落ち着いてくれ!! 後でなんでも言うこと聞くから!! 頼むっ!!」
「ほんと!!?? わかった炭治郎っ!! 私、楽しみにしてるからねっ!! 約束だよっ!!」
カナヲと白峰さんの口論の仲裁に入ったら、最後の俺の言葉に反応し、カナヲは一瞬で機嫌を直して俺に抱き着く。俺は気まずく白峰さんに頭を下げた。
「本当にちょろいなこいつ。炭治郎、カナヲが悪い大人に騙されないよう目光らせておけよ? さて、と。せっかく給金も入ったし、俺はこの後、色町にでも繰り出すぜ。」
「現状一番悪い大人は白峰だと思うけど・・・自覚ないの?」
「カナヲォオオオ!!?? 頼むから白峰さんのことこれ以上煽らないでくれぇえええ!!!」
俺はそう心の悲鳴を吐露した。とりあえず、白峰さんは帰るみたいだから、この後のカナヲとの約束をどうしようかと俺は悩むことになった。
続く
こうして徐々に炭治郎君は原作とはかけ離れた強さを身に着けつつあります。流石に縁壱さんほど強くなったら最終決戦秒で終わるので加減が難しいですが・・・
「できる、使いこなす、極める」の話は単行本の話の合間のページに書いてあります。今回はその話に触れる内容を投稿した次第です。