輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話   作:科学大好き人間

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兄の雁哉君視点です。珠世さんを柱達の前に引っ張り出します。説得回です。


79話 合理的な選択

「よう、カナト。久しぶりだな。・・・一か月振りか?」

 

「そうだね、雁哉。随分と戻ってくるのが遅かったね? 後ろの珠世さん達を説得するのにそんなに時間がかかったの?」

 

 

真夜中の産屋敷邸の門前で、俺は久々に再開したカナトと対面していた。

 

 

「ご無沙汰しております。カナトさん。お元気でしたか?」

 

「はい。珠世さんこそ、お変わりないようで良かったです。」

 

 

カナトが珠世さんに微笑み返したところ、前後から刺すような視線を受けた。

 

 

「おい、貴様。珠世様に色目を使うな!!」

 

「カナト君・・・その方と随分親しそうに接するじゃないですか・・・旦那さんがいる方に色目を使うなんてどうかしてます・・・」

 

「ちょっ・・・愈史郎さんもしのぶさんも言いがかりだよ。別に僕はそんなつもりじゃ・・・」

 

「そうです、愈史郎。あの日、カナトさんが身を挺して私たちを守ってくださったことを忘れたのですか?」

 

「くっ・・・! やはり珠世様はあの日からそいつに特別な感情を抱いて・・・!!」

 

「なっ!? 何を言い出すのですか!? 愈史郎は・・・」

 

「カナト君・・・やっぱりあなたは・・・」

 

「誤解だよ誤解っ!! 僕の想い人はしのぶさんただ一人だけで・・・」

 

「おい・・・早く屋敷に入れろ・・・他の柱達も待たせてんだろうが・・・!!」

 

 

俺はカナト達の痴話げんかに嫌気が差し、屋敷への案内を催促する。珠世さんも満更でもないようなリアクションはしないでほしいんだが・・・

 

 

「そ、そうだね! すぐ案内するよ!」

 

 

俺の言葉を助け船と捉えたのか、カナトは身を翻して屋敷へ案内しようとする。

 

すると、間髪入れず、しのぶがカナトの顔を引き寄せて、唇を重ねる。

 

 

「・・・は・・・?」

 

 

俺は思わず呆けた声を出した。しのぶは不敵な笑みを浮かべ、珠世さんを見る。

 

 

「御覧の通り、私とカナト君は婚約済みの仲なので、変な気を起こさないでくださいね? 珠世さん。」

 

「へ・・・/// あ・・・はい・・・///」

 

 

こいつらいつ婚約までしたんだ? 知らない間に随分と仲が進展したようだが・・・

 

それにしても、しのぶがこんな大胆なことを人前でするようになってるとは思いも寄らなかった。これくらいどうとでもないくらいのことを裏では既にやってるのか?

 

 

「おい・・・カナト・・・お前まさかとは思うが・・・」

 

「ささっ! 早く産屋敷邸に入ってよ!? 柱の皆待たせちゃってるからさ!!」

 

 

俺の問いに身の危険を感じたのか、カナトが慌てふためいて屋敷に戻っていく。俺はため息をついて、その後ろをついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめえが珠世とか言う鬼かァ・・・よく柱の俺たちの前に顔が出せたなァ・・・!!」

 

 

部屋には柱がずらりと正座していたが、不死川さんが立ち上がってこちらに近づいてくる。その間をカナトが立ちふさがる。

 

 

「不死川さん。お気持ちはわかりますが、一旦座ってください。」

 

「稲葉ァ・・・禰豆子の時と言い、お前はやたら鬼を庇い立てしやがるなァ・・・」

 

 

不死川さんはカナトに凄む。しかし、カナトは動じない。

 

 

「珠世さんの身の安全は僕が保証する・・・そう決めてるんだ。」

 

「カ、カナトさん・・・」

 

 

カナトはそう啖呵を切り、その言葉に珠世さんが言葉を漏らす。すぐに傍のしのぶがカナトの腕をつねる。

 

 

「カナト君・・・またそうやって・・・!!」

 

「ちょっ!? 痛い痛いっ!! しのぶさんやめて!?」

 

「不死川さん。事前に話は通してるはずです。座ってください。あと、しのぶ。お前も少し落ち着け。」

 

 

俺は不死川さんを座らせ、しのぶをなだめ、カナトの頭をひっぱたいた。

 

 

「ちょっ! 痛いって! なんで雁哉まで!?」

 

「お前マジいい加減にしろよ・・・話進まねえだろうが・・・!!」

 

 

俺が腹から根限り低い声を出したら、流石にカナトもおとなしくなった。こいつ本当にそういうところあるせいで昔から困る。

 

やがて、柱が一同揃う中で、珠世さんは正座でお辞儀する。

 

 

「お話をお聞きになっているかと存じます。鬼であり・・・医者でもある珠世です。以後、お見知りおきを・・・」

 

「以後があるかは、この場でお前が俺たちにとって有益な存在かを判断してから決める。段取り通り、最初に不死川の稀血で確認だ。」

 

 

宇随さんが指示すると、カナトは不死川さんから注射針で献血し、それを布に染み込ませて珠世さんの前にかざす。珠世さんは眉一つ動かさない。

 

 

「御覧の通り、珠世さんと愈史郎さんは体をいじってるため、血に反応しません。ごく少量の血を稀に摂取するだけで事足ります。」

 

 

俺は無機質に報告する。

 

 

「次。尋問をする。聞かれたことのみに答えろ。まず鬼を人間に戻す薬とかいう派手なもんを開発したっていうのは本当か?」

 

 

宇随さんの質問に、珠世さんは頷く。

 

 

「はい。本当です。」

 

「どうやって証明する?」

 

「禰豆子さんに薬の投与を行えば、すぐにわかると思います。」

 

「次。過去に人を喰ったことはあるか?」

 

「・・・あります。」

 

 

すると、柱全員のまとう空気が変わる。それを見て、カナトが慌てて擁護する。

 

 

「しかしっ! 珠世さんはもう300年以上、人を喰ったりしていません!! 加えて、愈史郎さんに関してはこれまで一度も人を襲ったりしていません!! だから・・・」

 

「稲葉は黙ってろ。俺はそいつに聞いている。今、後ろの鬼は一度も喰ってないって話だったが、それはどういう理屈だ?」

 

「・・・愈史郎は・・・私が鬼にしました。」

 

 

度重なる珠世さんの発言に、柱全員が驚く。不死川さんはとうとう我慢できないと言いたげに、立ち上がる。

 

 

「おいおいィ・・・過去に人を喰ったことがあるだけじゃなく、鬼まで増やしやがったのかァ? そいつは聞き捨てならねぇなァ!?」

 

 

再び、不死川さんが珠世さんに近づこうとするので、カナトが両手を広げて立ちふさがる。

 

 

「でもっ! それは愈史郎さんの不治の病を治すためにです!! 本人の意思をちゃんと聞いた上で行ったことです!!」

 

「鬼を増やせるって事実が問題なんだよ・・・! 稲葉ァ、お前いい加減にしろやァ・・・!!」

 

「不死川もいい加減口を挟むのをやめろ。尋問が終わらねぇっつうの・・・!」

 

 

宇随さんも両者のやり取りに苛立つ様子。それに対し、珠世さんは再び、頭を下げる。

 

 

「無惨を無事討伐できた暁には・・・私は頸を差し出します。どうか怒りを収めては頂けないでしょうか?」

 

 

珠世さんの言葉に愈史郎は反対する。

 

 

「珠世様!! なぜそのようなことをおっしゃるのですか!?」

 

「私がかつて、あの生き汚い男の口車に乗って鬼となり、夫と我が子を食い殺した事実は消えません。その後自暴自棄になって大勢殺しました。その償いをするべきだと私は考えております。

 ただ、あの男だけはっ・・・! 鬼舞辻無惨だけはっ!! 一緒に地獄に引きずり込むまでは、死んでも死に切れません!!

 どうか皆様のお力を貸して頂きたい!! お願いします!!」

 

 

珠世さんは必死に頭を下げる。無惨の名前が出た時の底知れぬ憎悪の表情と、本心から絞り出された言葉は、柱全員にその心の内を悟らせるには充分だった。宇随さんは頷く。

 

 

「あくまでもこの尋問は、お前が俺たちにとって有益かどうかを見定めるためのものだ。そして、その判断を下すには充分な回答が得られた。俺は生かすべきだと判断する。」

 

「おいっ! 宇随ィ・・・!! てめえまで何言ってやがるゥ!! 鬼を滅してこその鬼殺隊だろうがァ!!」

 

「彼女が鬼であることは事前に報告を受けている。この屋敷に招いた時点で、それを理由に殺す選択肢はねぇんだよ。それに・・・こいつの覚悟・・・お前には伝わらなかったのか?」

 

「・・・」

 

 

宇随さんの言葉に、不死川さんは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 

「無惨の名前を口にしても死なないのは本当みたいだな。加えて無惨を殺したいとも。その点で利害は一致してんだろうが。それに、鬼を人間に戻す薬は俺達にとって喉から手が出るほど欲しい手札だ。感情論は抜きにして、俺たちは協力すべきだ。

 本人も過去の行いについて重く受け止めている。母親が鬼となり我が子を手にかける・・・その行いを本人が自覚したまま生き永らえる辛さは、母親を鬼にされて兄弟姉妹を殺されたお前なら想像ぐらいできんだろ?」

 

「っ!!」

 

 

不死川さんは目を見開き、唇を噛む。不死川さんはそれ以上何も言わなかった。

 

 

「他からも文句はねぇよな? ここは一つ、無惨を討伐するまで停戦と行こうぜ。」

 

「待て・・・無惨を殺した後、珠世様の頸を差し出すことに俺は反対だ・・・!!」

 

「っ!? 愈史郎っ!! 何を言い出すのですか!? せっかく合意が取れるところで・・・」

 

「俺にとって、珠世様の命こそが全てだっ!! それを奪われるぐらいなら俺は協力できない!!」

 

「お前・・・確か目隠しの血鬼術を使うんだってな? 稲葉が言ってたが・・・」

 

「ああ! この場に鬼を数百体隠して潜伏させていると言ったらどうする!? 俺の主張を少しは聞く気になるか!?」

 

 

柱の全員が抜刀しそうになるが、宇随さんは手で制す。

 

 

「はったりだな。お前の主人である珠世はそんなこと知らないって顔に書いてあるぜ? お前の顔にもな。」

 

「・・・くっ!」

 

 

嘘を一瞬で看破され、焦る愈史郎。しかし、すぐにカナトが擁護する。

 

 

「待ってください! 愈史郎さんの血鬼術が無ければ禰豆子ちゃんを無惨から隠し続けることはできませんよ!? 愈史郎さんの要求を呑むべきです!!」

 

「主導権を握ってるのは俺達柱だ。そいつの要求を呑む必要はねぇ。」

 

「愈史郎さんに心から納得してもらわなければ、禰豆子ちゃんを隠す際、信用して任せられません!! 無惨に見つかって取り込まれでもしたらどうするんですか!?

 愈史郎さんの理解を勝ち取るのは最優先事項です!!」

 

「・・・」

 

 

宇随さんは僅かな間、逡巡する。その隙に俺は口を挟む。

 

 

「過去に人を殺めた罪は・・・死を持ってしか償えないものなのでしょうか?」

 

「・・・は?」

 

 

柱の誰からかそんな呆けた声が聞こえる。俺は続ける。

 

 

「珠世さんは数百年間、人を救い続けた医者です。そして、その知識は人間のどの医者よりも優れていると言っていい。なら、殺すのではなく、今後も人々を救うことで、罪を償ってもらうのはダメでしょうか?」

 

「間ァ、何甘っちょろいこと言ってんだァ? 人を何人救おうと、死んだ人間は戻ってきやしねぇんだよ!!」

 

「わかっています。失われた命は回帰しない。でも、せっかく鬼を人に戻す薬があるんです。無惨討伐後は珠世さんを人間に戻して、医者として、一人の人間として生きて罪を償ってもらう方がいいじゃないですか?」

 

 

俺の提案にカナトが乗る。

 

 

「そ、そうです! 今更、珠世さんを殺したって誰一人命は帰ってこない!! なら死罰ではなく、珠世さんの人生を賭して罪を償ってもらう方が、よっぽど道理に適っています!! 違いますか!?」

 

 

俺とカナトの言葉に、周囲は静かになる。やがて、口を開いたのはしのぶだった。

 

 

「私は、カナト君の考えに賛成です。」

 

「はあ!? しのぶも何言ってやがんだァ!?」

 

「珠世さんは無惨を殺した後、家族を手にかけてしまった罪悪感から死に逃げようとしています。そんなのは償いではありません。

 本当に申し訳ないと思うのなら、自身が殺めてしまった人の数とは比べものにならないほどの人の命を救うべきです。彼女を殺すのは彼女と我々の自己満足にしかなりません。違いますか?」

 

 

しのぶの発言にみんな息を飲む。やがて、しのぶは珠世さんに向かって話しかける。

 

 

「珠世さん。私とて医者の端くれ、人の命を救うことの難しさと尊さを充分に理解しているつもりです。

 貴方には今後、死んで罪を償うためにではなく、その先の人を救う人生のために無惨討伐に命を賭して戦ってもらえないでしょうか? お願いします。」

 

 

しのぶは珠世さんに頭を下げる。柱の全員が驚きの表情を浮かべる。その様子を見て、宇随さんは笑う。

 

 

「はっ! 両親を殺され、姉を傷つけられて、鬼が憎くて仕方ない胡蝶がそこまで言うなら、年長者の俺が無下にするわけにはいかねぇわな。

 わかった。もともと、禰豆子を無惨から隠す他のいい代案もねえんだ。珠世の命を保証する代わりに、愈史郎にも協力してもらう。

 それが無惨討伐を考える上での最も合理的な選択だろう。それで手打ちにしようぜ。お前らも柱ならそんくらい懐のでかいところ見せてやれ。」

 

 

最後に宇随さんの締めくくりで、柱達は全員頷いていた。あの不死川さんですら、最後は了承した。

 

 

「ありがとう・・・ございます・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

沈黙が続く一室で、涙を流す珠世さんの震える声が静かに響いた。

 

 

 

 

続く

 

 

 




こんなにスムーズに話が進んだのには理由があります。次回でわかると思います。
それとしのぶさんが珠世さんに釘を刺した件ですが、雁哉君が想像するほどカナト君としのぶさんの仲は進展しておりません。カナト君が奥手なせいでしのぶさんはずっとお預けを喰らっています。それはそれで書いてて面白いのですが(おい)。
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