輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「ここかァ、水天宮はァ。カナエ、体調平気かァ?」
「私は平気よ、実弥君。寧ろすこぶる元気なくらいだわ~。」
「姉さん、あんまりはしゃぎ過ぎて疲れを溜めないように気をつけてね。もう4ヶ月目の終わりは過ぎてるけど、流産とかになったら大変よ?」
「大丈夫よ、しのぶったら心配性ね~。少しぐらい動いた方が健康のためにもいいわ~。ねえ、稲葉君?」
「そうですね・・・本当は5ヵ月目であれば安定期入り始めで最善なのですが、カナエさんの体調がいいなら4ヵ月目後半の今でも問題ないかと。
ただ、無理だけは決してなさらないよう気をつけてくださいね。」
僕はカナエさんの安産祈願の為に水天宮へお参りに来ていた。もちろん実妹のしのぶさんと、旦那さんの不死川さんも一緒だ。本日は予定を調整して関係者全員で来ている。
「もう、皆心配し過ぎよ~? これくらいどうってことないわ~。そこまで言うならどうしてもう一ヶ月待たなかったのかしら?」
「今後鬼の勢力がいつ動くかわからない以上、早めにお参りに来る必要があったからですよ。カナエさん。」
「本当は妊娠五ヶ月目の最初の戌の日が良かったけど、今は縁起担ぎよりも安全なうちに来る方が優先順位が高いわ、姉さん。」
「つうわけだ、カナエ。納得したかァ?」
「もう~、みんな揃って固いこと言うわねえ。まあ、ズルズル予定が先延ばしになるよりはいいわあ。皆ありがとね~?」
カナエさんは再びご機嫌になる。僕らは鳥居を潜り、そのまま水天宮の境内を進み、やがて社殿の傍まで移動した。するとカナエさんがふとあるものに目を奪われる。
「あら? 可愛いワンちゃんだわ~。」
「ええと、子宝いぬですね。多産でお産が軽い犬にあやかるための縁起担ぎでしょう。」
僕がどこかで聞いたことがある知識で軽く説明する。
「うふふ~。つまり子沢山にあやかるのね~。実弥君、これからもよろしくね~?」
「お、おう・・・」
「姉さん、今は安産祈願のことだけを考えて。最初が一番大変なんだから。」
「もう、わかってるわよ。しのぶったらそんな怖い顔しないの。」
このお姉さんはもう既に次の子どものこと考えてるのか・・・不死川さんも若干引いてるし、気が早いというかなんというか・・・
僕はそんなことを考えながら周囲を見渡すと、ある違和感に気づいた。
「あれ? 狛犬がいない・・・」
「狛犬だァ?」
「あら、稲葉君。水天宮には狛犬もいるの? 私見たいわあ。」
「いや、いたと思ってたんだけど、見当たらない。ああ、そうか、昭和からなんだね。確かブリジストン創立者が・・・」
「カナト君。きっと勘違いですよ。そろそろ社殿の中に入って安産の祈祷をしてもらいましょう。このまま入ればいいのでしょうか?」
「おいィ、先に受付してからに決まってるだろうがァ。あっちで必要な手続き済ませに行くぞォ。」
危ない危ない。しのぶさんが誤魔化してくれたけど、ついうっかり未来の話をしてしまうところだった。
なるべく他の人には言わない方がいいもんね。流石しのぶさんはその辺しっかりしてるなぁ。
僕がそんな風に感心していると、不死川さんが先に受付を済ませに向かう。受付の女性が不死川さんを見て一瞬怖がっていたから、僕がすかさず間に入って笑顔で応対することになったけど・・・
加えて、受付の女性が僕の応対中に少し顔を赤らめているのを見て、受付後にしのぶさんが僕の脇腹に肘打ちする。僕は悶絶し、三人が社殿に向かう中、そのまま後ろからよろよろと後を追う。
受付でもらった名前札を神職の人に渡して、そのまま御祈祷をしてもらう。
やがてそれも終わり、僕らは社殿の外に出た。
「安産祈願もできたし、これで当初の目的は果たせたわねえ。受付でもらったこの御子守帯はどうすればいいのかしら?」
「この説明書きに巻き方が書いてあります。戻ったら読みましょう。ちなみに出産後は赤ちゃんの産着に作り替えるらしいですよ? カナエさんは裁縫はできますか?」
「あら? 見くびられたものね、稲葉君。私、お裁縫くらいお手のものよ?」
「姉さんは子供のころから習い事やら何やら全部すぐ覚えてしまう器量よしなんです。私の自慢の姉ですから。」
「あら~? しのぶにそう言ってもらえるなんて嬉しいわあ。」
「それと生け花は勿論、琴だって弾けるんです。他にも姉さんは・・・」
「しのぶ~? 稲葉君もいるんだし、そろそろ姉離れしてほしいわ~。」
「ちょっ!? 姉さん!! 私はただ、姉さんのことを話そうと思っただけで・・・!!」
「もう充分よ~? これからは稲葉君と一緒にいる時間の方が多いんだから、そんなに私にべったりじゃダメよ~?」
「そ、そんなつもりないから!!」
「ふふっ、しのぶさんは本当に姉想いの優しい妹さんだね?」
「っ! カ、カナト君だってこう言ってるし、別に問題ないでしょ!? 姉さん!」
「あらあら~。でも今後私は実弥君と一緒にいる時間の方が増えるんだから、離れ離れになっても寂しがったりしちゃダメよ~?」
「カナエも安定期に入るし、今後は俺の屋敷で過ごしてもらう。それでいいかァ?」
カナエさんと不死川さんから、突如今後の別居の話を切り出される。しのぶさんは唐突のことで驚くも、僕はうすうす二人が考えていることに気が付いていたため、すんなり答える。
「・・・やっぱり今後は風柱邸で過ごすんですね。カナエさん。」
「うん。やっぱり、実弥君と一緒にいる時間増やしたいもの。いつまでもカナヲの柱就任でもらった花柱邸にいるわけにはいかないわあ。」
「そっか。じゃあそろそろ僕らも花柱邸から出ていった方が・・・」
「あなたたちはいいんじゃないかしら? だって、カナヲったら、炭治郎君が新しくもらった日柱邸にいる時間の方が多いんだし、寧ろ今後花柱邸を蝶屋敷の代わりに使った方がいいんじゃないかしら?」
「確かに。アオイちゃんやなほちゃん達もいるしその方がいいですね。わかりました。」
「姉さん。やっぱり出て行っちゃうの?」
「もう、しのぶったら、そんな悲しそうな顔しないの! あなたには稲葉君がいるじゃない。だから大丈夫よ?」
「そうだよ、しのぶさん。僕は出て行ったりしないよ。ずっとしのぶさんの傍にいるから。」
「カナト君・・・」
僕はしのぶさんの頭をそっと撫でる。少しだけ安心してくれるだろうか。
「つうか、稲葉、しのぶ。お前ら最近ほとんどあの珠世とかいう鬼と一緒に共同研究するために産屋敷邸に居んだろ。カナエが花屋敷邸から出て行ってもさほど変わらねえだろうがァ。」
「おっしゃる通りですね、不死川さん。だからしのぶさん、二人の同居を認めてあげようよ。それがお姉さんの幸せのためだよ?」
「うん・・・わかったわ。」
漸くしてしのぶさんは頷いてくれた。カナエさんも不死川さんも安心したようで笑ってくれた。
「ちなみにしのぶ達の方は最近どうなの? 特に夜の方は何か進展あったりするのかしら?」
「は? はぁあああ!!?? ちょっ!! 姉さん何言い出すのよ!! そもそも私たち柱同士だし、気軽に子どもができるようなことなんてできないわよっ///!!」
「ほんとに~? だって以前あなたに渡した例のものがあるんだし、大丈夫じゃないかしらあ。ねえ、稲葉君?」
「はあ・・・カナエさん・・・別に僕らが二人で夜どう過ごしてようがどうでも良くないですか?」
「あら~? そんなことないわよ。だって、私の可愛い可愛い妹のしのぶが、ちゃんと女の子らしく幸せになってるか気になるもの~。」
「姉さん!! ほっといてってば///!! 別に姉さんが気にするようなことじゃないでしょ///!?」
「そう・・・残念だわあ。しのぶにはあの多幸感を知ってほしいのに。まさに天にも昇る心地よ~?」
「て、天にも昇る心地///!!??」
「そうそう。特に初めての時なんて・・・」
「おい、コラ、カナエェ・・・いい加減にしろやァ・・・稲葉も居んだろうがァ。ベラベラしゃべってんじゃねえぞォ・・・」
「も~、実弥君ったら意外と恥ずかしがりなのねえ。姉として妹に助言してあげてるだけなのに~。」
「そういうのを下世話って言うんだよ、カナエェ・・・二人のことは自由にやらせとけばいいだろうがァ・・・」
「それもそうね。じゃあしのぶ、進展があったら教えるのよ~? 稲葉君とうまくいかないことがあったらいつでも相談に乗ってあげるからね~。」
「もうっ!! 姉さんは不死川さんと幸せになることだけ考えてくれればそれでいいからっ!!」
「あら、そう言ってくれるなんて姉さん嬉しいわあ。ありがとねえ、しのぶ~。」
結局散々しのぶさんが振り回されて、カナエさんが上機嫌になっただけだった。
僕は苦笑し、その様子をただ眺めていた。
続く
筆者の勝手なイメージなのですが、カナエさんはオープン、しのぶさんはむっつりな気がしてます。何がとは言いませんが、姉妹揃って強い方だと思います(やめろやめろ)。