輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「そ・・・そうか・・・思い出した・・・漸く思い出した・・・! 伊之助だ・・・!! 琴葉の・・・!! あの時崖から落ちたのに生きていたんだね!! 凄い!! こんなの奇跡だ!!!」
「アァ!? さっきからボソボソと何言ってんだコラ!! てめえは上弦の弐だろ!? 隠しててもすぐにわかるからな!!
丁度いいぜ!! 丁度いいぜ!! つい最近ギョロギョロ目ん玉に認められて俺は猪柱になったばかりだからな!!
腕試しにてめえの首をもらうぜ!! 派手にな!!」
伊之助が宇随さんの口癖に影響されていることは良く伝わってきたが、今問題にすべきはそこではない。伊之助が現れてから童磨の様子が明らかに可笑しい。
僕が童磨を注意深く観察していると、唐突に童磨は目から大粒の涙を流し始めた。
「うお!! てめえなんで泣いてやがる!? 腹痛ぇのか!? 言っとくが鬼に同情なんてしてやんねぇぞ!!」
「うう・・・まさかあの時死んだとばかり思っていた伊之助がこんなに大きくなって俺の下に帰ってくるなんて・・・!!
きっと俺のこれまでの善行を神様や仏様が認めて下さったんだね!! 今までそんなもの欠片も信じちゃいなかったけど今日で考えが変わったよ!!」
童磨は歓喜の涙を流し、高らかに笑う。はっきり言って怖気が走った。生理的嫌悪感が拭えない。こいつは一体何を言っているんだ?
「ああ、ごめん。何の話か分からないよね? ごめんよ、伊之助。実は俺、君が赤ん坊の頃一緒に暮らしてたことがあるんだ。君のお母さんとも一緒にね?」
「はああ!? なわけねぇだろうが!! 脳味噌爆発してんのか!? 俺に母親なんていねぇ!!俺を育ててくれたのは猪だ!! 関係ねぇ!!」
「君は猪から生まれたの? 人間なんだから人間から生まれてるでしょう? 君のお母さんはね、琴葉って言ってね、とても綺麗な子だったよ。」
童磨は一瞬で伊之助の背後に立ち、猪の被り物を取る。
「っ!! 返せ!!」
「やっぱり琴葉にそっくりだ。その野太い声と筋骨隆々の身体は父親譲りかな?
琴葉が言うには本当にひどい父親だったみたいでね。毎日殴られて、ある日赤ん坊だった君を抱えて俺の下へ来たんだ。俺の万世極楽教はそういう可哀そうな人たちを保護していたからね?」
伊之助が童磨から被り物を取り返そうと必死に手を伸ばすが、童磨はひらひらと躱し、昔話を言い聞かせる。
「最初見た時顔が原型もわからないくらい腫れてたんだけど、手当てをしてあげたら綺麗な顔に戻ったんだよ。今の君そっくりにね?」
「知らねえ! いい加減返しやがれ!!」
「それに君のお母さんは顔だけじゃなく心もとても綺麗だった。君と再会して漸く思い出せたよ。ありがとう、伊之助。」
「うるせぇ!! ぶち殺す!!」
ー獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂きー
童磨は一瞬で伊之助の攻撃を避け背後に回り羽交い絞めにする。鬼の膂力に伊之助はどうすることもできない。
「それに君のお母さんは歌が上手でね。君を抱いてよく歌っていたよ。俺はそんな君ら親子を眺めているのが好きだった。心地よかったんだ。」
「放せ!! この野郎が!!」
「覚えてないかい? 伊之助。ゆーびきーりげーんまんって。そればかり子守歌のようにずっと歌ってたんだ。俺はその時の光景を思い浮かべるだけで心が安らぐ。君は違うのかい?」
一瞬、伊之助が固まる。童磨の話の中で身に覚えのあることでもあったのだろうか。
「ああ、懐かしい・・・赤ん坊の君を抱かせてもらったのもつい昨日の出来事のようだ。君が俺の前に戻って来てきてくれたおかげで漸く思い出せたよ。伊之助、ありがとう。」
「それで? お前がさっきからべらべら喋ってる伊之助のお母さんは今どうしてるんだ? まさか殺したわけじゃないよな?」
僕は童磨が穏やかな口調で話を続ける様に吐き気がして、つい口を挟む。僕の指摘に童磨が口をつぐむ。
「・・・殺すわけないよ・・・でも・・・本当にどうしてあんなことに・・・」
「は? もったいぶらずに早く言えよ。伊之助のお母さんは今どうしてるんだ。ちゃんと生きてるんだよな? それだけ嬉々として語るぐらいなんだから。」
僕の苛立つ声に対し、童磨の目線が僕に移る。今まで何を言っても一切感情の籠らない目をしていたのに、その瞳の奥には明確な怒りの色が見て取れた。
「君さ。ちょっと黙っててもらえる? 今俺たちは感動の再開で打ち震えていたところなんだから。」
童磨は伊之助を放し、僕へと歩み寄る。今まで何の感情も持たないはずだった童磨から突如凄まじい殺気が漏れ出し、僕はその変化に思わず後ずさりしてしまった。
「・・・母ちゃんは今どうしてるんだ?」
不意に童磨の背後で棒立ちになる伊之助から声が漏れる。童磨は振り返り、悲しそうな表情を浮かべる。
「・・・伊之助・・・済まない・・・俺が力不足だったばっかりに・・・」
「母ちゃんは今どうしてるのかを聞いてんだよ!! さっさと答えろ!!」
伊之助が辛抱できないとばかりに大声を上げる。童磨は片手で顔を覆い、涙を流す。
「琴葉は・・・十五年前に自殺した・・・君が崖から落ちて・・・それで死んだと思ったようで・・・俺は彼女の行動を止めることができなかった・・・」
「・・・は?」
伊之助は啞然としている。童磨は続ける。
「ある日、俺が信者を喰っていることを琴葉にバレてしまった。
説明しても俺の善行を理解できるほど頭も良くなくて、それで行く当てもなく寺院を飛び出してしまったんだ。
当然俺は後を追いかけた。森で獣に襲われでもしたら大変だし、君ら親子だけじゃいずれ野たれ死んでしまうと思ったから。
そして崖の行き止まりのところで俺はついに追いついた。夜明けも近かったから、俺はその時とても焦っていた。
俺が琴葉に迫ると、彼女は後ずさりして崖から足を滑らせてしまったんだ。
俺は仮にも上弦だから、咄嗟の出来事でも琴葉の手を掴んで助けてあげるくらいわけなかった。でも伊之助、赤ん坊の君が琴葉の腕から滑り落ちてしまったのは流石に予想外で反応できなかったよ。
俺は琴葉の腕をつかんだまま崖から落ちていく伊之助を眺めていることしかできなかった。
琴葉を崖から引っ張り上げた後、彼女から何度も殴られたよ。どうしてって、なんで伊之助を助けてくれなかったのって・・・
俺は朝日を浴びるのが怖くてすぐに琴葉を抱きかかえて寺院に戻った。そして琴葉を建物の一室に軟禁した。
一日経てば落ち着いてくれるとそう思ってね。泣いてる彼女をなだめるのに俺も必死だったよ。
そして日課の信者との対話の時間がやってきて、俺は琴葉を部屋に閉じ込めたままその場をあとにした。あの時、俺にもっと気を回す余裕があったならあんなことにはならなかったのに・・・」
童磨はそこまで言うと、突如嗚咽を漏らし始めた。
「部屋に戻った時・・・琴葉は花瓶を割って・・・その破片で頸動脈を切り裂いて絶命していた・・・!!
俺は暫く放心していたように思う。どうして・・・琴葉は俺をおいて死んでしまったのだろうって。自身で首を切り裂いて死ぬなんて絶対に痛くて苦しかったはずなのになんでって・・・!!
俺はせめてもと思って、死んだ琴葉の亡骸は骨一本も残さず食べて体の一部にしたよ。これでもうずっと一緒だ。離れ離れになることなんてないって。
でも俺はこの時初めて悲しい、辛い、苦しいって感情を自覚した。それは今まで感じたことがないくらい強烈なもので・・・俺は耐えられなかったんだと思う。
そうして暫くして、俺は琴葉と伊之助のことを心の奥に押し込めて忘れるよう努めたんだ。その結果、今までずっと忘れていたんだ。・・・伊之助、君と会うまではね。
でも・・・でもこれで!! 漸く皆一緒になれる!! 伊之助!! 君のお母さんは俺の中で君に会えるのを待っているんだよ・・・!! さあ、早く三人で一つになって未来永劫ともに過ごそう・・・!!」
「ざけんな糞野郎がァアアアア!!! てめえには地獄を見せてやる!!!」
ー獣の呼吸 弐ノ型 切り裂きー
伊之助はとうとう聞いてられなくなり、激昂して交差の斬撃を振るう。しかし、童磨は数歩引いて躱す。
「どうしてだい伊之助!! お母さんに会いたくないのかい!?」
「うるせぇ!! 気狂い野郎がァアアアア!!! 要はてめえが俺の母親の死ぬきっかけ作ったってことだろうがァアアアア!!!
殺す!! ぶっ殺す!!!」
ー獣の呼吸 壱ノ型 穿ち抜きー
童磨は伊之助の突き技を躱し、両腕を広げる。
「もう一度抱きしめてあげるよ!! 赤ん坊の頃のように!! そのまま食べてあげる!!」
「糞がァアアアア!!!」
ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー
童磨が伊之助を抱きしめようと接近した瞬間、側面よりしのぶさんが高速の突き技を放ち、童磨の脇腹を貫く。
「君の毒は既に効かないし、もう今となってはどうでもいいんだよ、しのぶちゃん。さっさと死ん・・・っ!!」
突如、童磨は身体が強張り表情を歪める。
「毒では効きませんが、赫刀ならどうです?」
「そんなっ!! 君の握力じゃ発現できるはずが・・・!!」
ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー
童磨がしのぶさんの頭蓋に扇を振り落とそうとしたので、僕はその腕を赫刀で切り飛ばす。
「っ!! そうかっ! 君がしのぶちゃんの日輪刀を握力で・・・!!」
「気づくのが遅いよ。これで詰みだね。」
ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー
童磨は僕の左右の薙ぎ払いをもう片方の扇で打ち払う。片腕とは思えない腕力だ。
ー獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂きー
ー風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風ー
童磨の前方からは伊之助の左右切り払いの斬撃が、頭上からは不死川さんの暴風雨のような斬撃が浴びせられ、童磨は辛うじて首だけを守り、全身から血しぶきがあがる。
「しのぶ!! そのまま抑えてろォオオ!!」
「死に腐れ!! この蛆虫が!!!」
背後からは不死川さんが、前方からは伊之助が、側面からは僕としのぶさんで挟撃する。しかし、童磨は扇を構え直す。
ー血鬼術 霧氷・眠蓮菩薩ー
突如、巨大な氷の像が出現し、視界一杯が冷気で覆われる。僕はとっさにしのぶさんを抱きかかえ、童磨から距離を取らせる。
童磨は像の肩に乗り、僕らの頭上へと退避し距離を取りながら、脇腹に刺さったしのぶさんの赫刀を引き抜き捨てる。加えて僕らに巨像の手刀が振り下ろされ、凄まじい衝撃と音が鳴り響く。
「こうなったら呼吸ももう使えないでしょ? 無理に技を使えば一瞬で肺胞が壊死して・・・」
「全員一斉に退避!! 童磨と氷の巨像から距離を取れ!!!」
僕の掛け声でしのぶさんも不死川さんも全速力で距離を取る。事情を知らない伊之助は不死川さんが肩に担いでいた。
「あれ? 向かってこないんだね? まあこの冷気の中特攻してくるのは自殺行為だと思うけど、拍子抜けだなあ。」
僕は全員が充分に童磨から距離を取ったことを確認し、配線済みの白い粘土を取り付けた矛を全力で童磨に向けて投擲する。
「いやいや、投槍で戦うつもり? そんなんでこの状況が何とかなるわけ・・・」
僕の投げた矛が童磨に接近し、奴がそれを一瞥した瞬間、僕は手元でスイッチを押す。
その瞬間、オレンジ色の独特な閃光と共に、凄まじい爆発が起こり童磨及び氷像を粉々に破壊した。
「うぉおおお!? なんじゃありゃあああ!!??」
「稲葉ァ!! あれが例の新兵器か!?」
「はいっ!! プラスチック爆弾の一種です!! 特に今投げたC4は寒冷下でも使える仕様で・・・」
「カナト君!! 説明は後で!! 今は爆薬の追撃をお願いします!!!
「勿論!!! ありったけ浴びせるよ!!!」
僕は鞄から大量のダイナマイトを取り出して順次着火し、童磨のいた地点に予備の矛で次々とうち飛ばしていく。
部屋中に爆音が鳴り響き、周囲は再び爆炎で包まれ、氷像は跡形もなくなり、辺り一帯は炎熱で満たされる。
「まだ終わりではありません!! これからが本番です!! 童磨を見つけ、即刻頸を刎ねてください!!」
「よっしゃぁあああ!!! 俺が真っ先に見つけてやるぜぇええ!!! 猪突猛進!!!」
伊之助は肌感覚を頼りに童磨を探しに走り去る。
「伊之助から目を離さないでください!! 奴は異常なほどの執着を伊之助に抱いています!! 爆炎の中からいつ現れるかわかりません!!」
「わかったァ!! 俺が面倒見てやる!! 稲葉としのぶは一緒に動け!! 見つけ次第童磨の頸を刎ねるぞォ!!!」
不死川さんも伊之助に続く。僕としのぶさんはその二人の後を追う。
この周囲の炎熱によって、童磨は血鬼術を使えなくなったはず。なら奴が取る行動は間違いなく不意打ちによる奇襲だ。
逆にこの視界の悪さを奴に利用される恐れがあるため、僕はしのぶさんと離れずに周囲を警戒しながら進む。
するとすぐ傍から何かが落下する音がし、僕はそちらを振り向く。
ー草の呼吸 漆ノ型 千草生い茂る峰塵ー
燃え上がる炎が矛の突きで霧散する。視界が開けた足場に童磨の扇が落ちていた。
すると僕の背後より一瞬殺気を感じた。
「っ!! カナト君!!」
しのぶさんが予備の日輪刀で突きを放つが、それを躱した童磨が全身燃えながらそれを搔い潜り、しのぶさんに脇目も振らずに僕に迫る。
「やってくれたね!! こんなに腹が立ったのは初めてだよ!! せっかく伊之助と琴葉を再会させてあげられると思ったのに!! 君はもう殺す!!!」
童磨の口元は笑っているものの、今まで見せたこともないような怒りの感情を露わにしていた。僕はその凄まじい殺気の籠った斬撃を、とっさに分割した三節棍の矛で受ける。
普段は受けに回る童磨が、攻め主体に回るとこれ程の猛攻に転じることができるのか・・・!!
僕は必死に小刻みに三節棍の矛を動かし振り回して童磨の連撃を相殺する。
対の扇と三節棍の激しい打ち合いが、秒間十数回も繰り広げられる。凄まじい金属音と火花が両者の間で飛び散り続ける。
一瞬の隙を突いて頸に矛の斬撃を入れるも、寸でのところで扇に弾かれ、代わりに僕へと斬撃が入る。ギリギリで打ち払うも、徐々に受けきれなくなり、応酬が続く度に切り傷が増えていく。
僕は攻撃を捌きながら後退する。
「今まで何人も何人も殺しておいて、今更自分勝手なことを言うなよっ!!!
お前が救済とかいう訳の分からない行いを続けたせいで、一体どれだけ大勢の人の命が犠牲になったと思っている!?
まさか死んでいった人たちに親、家族、恋人や子供がいなかったとでも思っているのか!!
そんな訳ないだろ!!! その人たちを大切に思う人たちは大勢いたはずだ!! 大勢悲しんだはずだ!! お前のせいでその人たちは永遠に再開できなくなったんだっ!!!
伊之助のお母さんはもうこの世にはいない!! 彼ら親子が再開することなんてない!! お前の中で二人が再開できるなんて・・・その下らない妄想をさっさと捨てろ!!」
僕の言葉に童磨は目を見開く。そして、歯を食いしばったかと思うと一層殺気を強めて、攻撃は更に苛烈なものとなる。
「やっぱり君は駄目だね! 俺の言ってることがわからないなんて本当に残念な頭してるよ! もう死んだ方がいいんじゃないかな!?」
童磨の猛攻に圧される僕を見て、しのぶさんが加勢に加わろうと突きを放つが、童磨はそれを受けたところで気にも留めない。もはやしのぶさんの毒は童磨には一切通用していなかった。
「しのぶちゃんもこんな残念な彼を好きになるなんて駄目だね!! 君らは二人とも心底頭が悪いまま生まれて来たみたいだ!! 可哀そうだけどここで殺してあげる!!」
「ふざけないで!! カナト君は誰よりも知的で聡明な人です!! 頭が可笑しいのはお前だ童磨!!!」
しのぶさんは更に連続突きを放ち僕を援護するが、童磨に一瞬の隙を突かれ肩口に斬撃を受けその場に倒れ込んでしまう。
「しのぶさん!!」
僕が動揺した瞬間、童磨は笑い斬り掛かってくるが、同時に傍の炎が霧散する。
ー獣の呼吸 壱ノ型 穿ち抜きー
突如として伊之助が乱入する。しかし童磨は寸でのところでその突き技を躱し伊之助を蹴りで吹き飛ばす。
「会いたかったよ伊之助!! すぐにこの邪魔者を消すから少し待ってよ!!」
童磨は僕に止めとばかりに扇を一閃する。しかし、僕は彼岸朱眼の強度を上げてその攻撃を打ち払う。
ー草の呼吸 陸ノ型 百舌鳥の早贄ー
「がっ!!??」
一瞬で三節棍の矛を連結し、返し技で赫刀を童磨に打ち付け、再度動きを鈍らせる。だが、童磨はそれでも目線を僕から外さない。
「確かに体は強張るけど・・・君の首を斬り落とすくらいわけないよ!! 死ね!!!」
童磨は再び僕に扇を振るう。矛を引き抜けず、僕はその攻撃の回避にも移れず、首を斬り落とされることを覚悟した。
ー風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬りー
その瞬間、一切の気配無く不死川さんが現れ、水平斬りを放つ。風すら起きないその一撃の後、童磨の頸に線が入り、そのまま滑り落ちて頭部が落下する。
「な・・・なぜ・・・気配がしないんだ・・・?」
童磨は驚きに目を見開いていた。しかし、不死川さんは日ごろの荒々しい気配とは一変して植物のような気配へと変わっていた。
「漸く俺も透き通る世界っつうものが見えたようだぜェ・・・そのおかげかもなァ・・・」
「そ・・・んな・・・」
足元に童磨の頭部が落ちて転がり止まる。その表情は心底信じられないとばかりに驚愕に染まっていた。
「・・・どう・・・して・・・俺はただ・・・伊之助を琴葉に会わせてあげたかっただけなのに・・・ずっと親子一緒にいさせてあげたかっただけなのに・・・なん・・・でだ・・・」
童磨は目を見開いたまま止めどもなく涙を流し、かすれるような声でそう自身の想いを吐露した。その様子を伊之助が見つめる。
「・・・母ちゃんにあの世で謝って来いよ。俺の母ちゃんは心が綺麗だったんだろ? ならお前のその気持ちに対してだけは・・・少しくらい喜んでくれると思うぜ・・・」
「・・・伊之助・・・」
そうして、童磨は塵となり、この世から消えた。
「あれ・・・ここはどこだろう・・・地獄にしては何もない場所だな・・・」
俺は真っ暗な何もない空間で一人そう呟く。すると俺の背後から人の気配がした。
「童磨さん・・・」
俺は驚いて振り向く。そこには琴葉が困ったように笑って俺を見つめていた。
「琴葉・・・俺は・・・」
「童磨さん。お礼を言わせて? あの日私と伊之助を匿ってくれたこと。少しの間だったけど、私たち親子を傍に置いて見守ってくれたこと。私、本当に感謝してるの。
伊之助だって、覚えてなくてもきっとそうに決まってるわ。だって、私の可愛い伊之助だもの。」
「・・・っ!!」
俺は思わず涙をこぼしてしまう。そうだった。俺に初めて人並みの感情を抱かせてくれたのは、全部、全部・・・琴葉だったんだ。
安らぎを・・・愛しいと思う気持ちを・・・そうした感情を教えてくれたのに・・・俺は琴葉が死んで悲しさで苦しくて、その気持ちにまで蓋をしてしまっていたんだ。
俺は思わず琴葉に抱き着いた。
「ごめん・・・ごめん!! あの日、俺が伊之助を助けていれば! いや、その前に琴葉を崖まで追い詰めていなければ!
いや、そもそも鬼になって人を喰うなんてしていなければ・・・あんなことにはならなかったのに!!
本当にごめん・・・ごめんよ琴葉・・・!!
伊之助と離れ離れにしてしまって、本当にごめん・・・!!」
「もういいの。童磨さんの気持ちは伝わったわ。鬼になって酷いことをしたことは変わらないけれど、それでも童磨さんが私たちのことを大切に思ってくれたこと、私は本当に嬉しいと思ってるの。
今まで言われるがままに教祖様のお仕事をさせられて、さぞ疲れたでしょう? ゆっくりとお休みなさい。童磨さんがちゃんと寝付けるよう私が子守歌を歌ってあげるから。」
琴葉は指切りの歌を口ずさむ。その声はとても綺麗で、俺に安らぎを与えてくれた。
琴葉は俺が眠りにつくまで、ずっとその優しい声で俺にささやき続けてくれた。
地獄に行く前に、まさか琴葉に会わせてくれるなんて・・・神様仏様もなんて優しいのだろうと、俺は最後にそんなくだらないことを思い浮かべ、それから意識を手放した。
続く
童磨戦決着です。今話の童磨の性格改変は賛否両論だと思いますが強硬しました。敢えて理由を述べるなら童琴が書きたかったからですかね・・・
正直自分でもよくわかっていません。
さて、次回からは猗窩座戦です。童磨戦と同じく原作改変が入ることについては予めご了承ください。引き続き読んで下さると幸いです。
完結後読みたい話はありますか?
-
恋愛もの
-
バトルもの
-
クラフトもの
-
オリ主の深堀エピソード
-
原作キャラの深堀エピソード
-
現代キャラの描写
-
大正キャラの描写
-
別の鬼滅二次小説を書いてほしい