輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「カァアア!! 夜明ケマデ40分!!」
市街地の中心部で砂塵と突風が舞い起こる。その元凶は無惨であり、その周囲を結集した柱達が取り囲みながら駆け巡る。
「透き通る世界が見える奴が無惨の攻撃を捌け!! その隙に赫刀で絶えず攻撃しろ!! 何としても無惨をこの場に縫い留め続けろ!!
これが最後の戦いだ!! 正念場だ!! 手足がちぎれても食らいつけ!!!」
宇随さんが激を飛ばす中、柱全員で連携し、無惨の逃亡を防ぎ続けて20分が過ぎた。
無惨の表情も刻々と鬼気迫るものに変わる。明らかに焦っているのが見て取れる。このまま時間だけ過ぎれば、確実に無惨は日の光の中で朽ち果てるのだから。
「避けろォオオオ!!!」
ガヒュッ!! ガヒュッ!! ガヒュッ!!
無惨の音速以上の薙ぎ払いに加え、広範囲を巻き込む吸気攻撃も行われるが、不死川さんの掛け声で皆一早く回避行動に移り、致命傷を避ける。
加えて、頭上から落下物が投下され、突如紫色の煙幕が舞う。
「小賢しい真似を!!!」
今落下してきたものは、しのぶが開発した藤の花の毒煙玉だ。それも、カナトが藤の花の抽出物を更に濃縮還元して高濃度化した原料より生産したものだ。
宇随さんがすぐさま上空の気球に登場する支援部隊の隊士に無線で指示を送り、無惨の吸気攻撃のタイミングに合わせて投下させたが、見事成功したようだ。
藤の花数十kg相当の原料分の毒を一瞬で吸い込めば、単純な毒でも物質量が並大抵ではないため、例え無惨でも分解には一秒程度の時間を要す。
しかし、その僅かな時間を周囲の柱が何もせず待っているはずがない。
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
ー蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れー
ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー
ー蛇の呼吸 壱ノ型 委蛇斬りー
ー恋の呼吸 伍ノ型 揺らめく恋情・乱れ爪ー
ー風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風ー
赫刀による斬撃、透き通る世界が見える者による急所への正確無比な斬撃を同時に受けることで、無惨は再び硬直する。
すぐさま無惨は腕を引っ込め、代わりに背中や大腿部の管で周囲を薙ぎ払うが、
ーヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞いー
ー雷の呼吸 漆ノ型 火雷神・六連ー
ー獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂きー
ー花の呼吸 弐ノ型 御影梅ー
透き通る世界に入った炭次郎、善逸、伊之助、カナヲの4人による迎撃で無惨の攻撃は全て無効化される。
加えて、無惨の側頭部に凄まじい速度で何かが打ち付けられ、一拍遅れて狙撃音が遠方より聞こえる。
「目標命中。」
「ナイス、玄弥。」
玄弥に渡したボルトアクション方式の狙撃銃が無惨を打ち抜いた瞬間無線より声が聞こえる。俺は無惨から他の柱が距離を取っているのを視認しつつ斬撃を放つ。
ー月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月ー
斬撃を渦のようにまとった旋盤状の攻撃が無惨の肉体を削り取る。拾ノ型は月の呼吸の中で比較的攻撃範囲が限定的且つ攻撃密度が高い型のため、乱戦でも使いやすい。
そのため、見事俺の赫刀による斬撃が無惨の胴体半分を削り飛ばし、決定打を与えたかに見えた。
「今だ!! 全員で掛かれ!!!」
宇随さんの声に反応して、柱達は止めとばかりに無惨に接近する。しかし、刹那炭治郎より警鐘の声が上がる。
「ダメです!! 皆逃げ・・・」
ドンッ!!!
「「っ!!??」」
突如、無惨を中心に凄まじい衝撃波が発せられる。
俺は技を放った後、皆の邪魔にならないよう遥か後方まで下がったため回避できたが、柱全員はまるで落雷を受けたかのように白目を剥いて失神し、次々とその場に崩れ落ちてしまう。
俺は無惨の姿を見て、驚愕する。
今の無惨は俺が削った胴体の断面を巨大な牙を生やした口のようなモノに変化させていた。その口より、蒸気のようなものが発せられている。
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
僅かに息を切らせていた無惨だったが、周囲に這いつくばる柱達を一瞥したので、俺は間髪入れずに技を放つ。
ー月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面ー
俺は可能な限り、攻撃範囲を無惨周辺に狭めて、斬撃の雨を打ち下ろす。しかし、無惨はそれを迎撃するでもなく、周囲の柱に止めを刺すでもなく、一目散にその場から退避し、遠方に向かって逃げ出した。
「・・・は?」
無惨が遥か彼方に消え去っていくのを見て、俺はあっけにとられる。
いや、無惨が生きることだけに固執している生命体だとは聞いていたが、まさか鬼殺隊最高戦力をまとめて全滅させるチャンスすら放棄して逃亡を選ぶとは。
その事実にじわじわと来るものがあり、俺はつい乾いた笑い声をあげてしまう。
「おい!! 間笑ってる場合か!? 無惨に逃げられたんだぞ!!??」
「ははっ・・・ああ、すみません。あまりにも無惨の理解力の低さが滑稽過ぎてつい・・・大丈夫です、何も問題はありません。」
俺は取り乱す宇随さんをなだめて、懐から注射器を一本取り出し、横たわる炭治郎に打ち込む。
「愈史郎からもしもの時のために預かっておいた一本きりの血鬼止めだ。見たところ痙攣してるだけで命に別状はなさそうだな。立てるか?」
「は・・・はい・・・」
やがて薬が効いたのか、炭治郎はよろよろと立ち上がる。俺は炭治郎の目を見て語り掛ける。
「炭治郎。俺とお前で今から無惨に引導を渡してこようと思う。猗窩座を倒したお前ならきっと十三個目の型だって再現できるはずだ。違うか?」
「え・・・なぜ雁哉さんは十三個目の型について知っているんですか? 俺もさっき意識を失ってその間に夢で見て知ったばかりなのに・・・」
「俺は産屋敷当主の血を継ぐ人間だぞ? 当然縁壱さんが遺した極秘文書には目を通してある。さあ、俺達二人で、縁壱さんと厳勝のやり残したことを果たしてこよう。」
そう言って、俺は炭治郎の肩に手を乗せる。
「宇随さん。今から血鬼術で無惨の傍に飛びます。その間に愈史郎と合流して血鬼止めで柱全員を復帰させといてください。お願いします。」
「っ!! 待て間!! たった二人で無惨と戦うつもりか!? せめて他の柱全員を起こしてからの方が・・・」
俺は宇随さんの必死の提案に首を振る。
「夜明けまでもう20分もありません。俺は今鬼の身体なので、それまでには決着をつける必要があるんです。何かあればすぐ無線を飛ばすんでもしもの時はよろしくお願いします。」
「おい間!! いくらなんでも無謀としか言えねぇだろうが!! 何を根拠にそんなことを・・・」
「産屋敷の直感ですよ。信じてください。」
俺がそうにこやかに答えると、宇随さんも落ち着きを取り戻す。
「ほ・・・本当か?」
「はい。うまくいく。そんな予感がするんです。ただ、もしもの時に備えて準備はしておいてください。では行ってきます。」
そう言い残し、俺は炭治郎と共に無惨のいる場所へ血鬼術で移動した。
無惨は市街地を駆け抜け、人気のいない大通りを歩いていた。
「忌々しい鬼狩り共め・・・だがこれでもう奴らに会うこともないだろう。100年程度潜伏しておけば、今代の柱は誰一人年老いて生きてはいられないのだから。
そうだ。これでいいのだ。わざわざ異常者の集まりに付き合ってやる必要もない。私には充分に時間がある。
禰豆子を探してもよし。青い彼岸花を探してもよし。どのみち、私が太陽を克服するのも時間の問題で・・・」
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
一薙ぎでありったけの月の呼吸の斬撃を無惨の背中に浴びせる。
「ぐぁああ!!??」
「俺が空間転移の血鬼術を使うのを一番最初に見せただろ? もう忘れたのか? やっぱり頭無惨だな、お前は。」
「っ!? お前っ・・・産屋敷の・・・!!!!」
無惨は血管が切れるんじゃないかってくらい青筋を浮かべていた。やがて腕と管を放ってくるので、俺は月の呼吸で迎撃する。凄まじい攻撃の応酬が拮抗する。
「お前たちは本当にしつこい!! 飽き飽きする!! 心底うんざりなのだ!!! 口を開けば親の仇、子の仇、兄弟の仇と馬鹿の一つ覚えのように・・・!!!!」
「ん? 俺がいつそんなことお前に言ったよ? 少なくとも俺はお前を仇だと思って殺そうとしてる訳じゃないんだが・・・」
「私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え!!!! 何も難しく考える必要はないだろう!!!!」
「いや・・・お前の場合は災害っていうより害獣だろ?
人食い鬼は人類にとって害にしかならないから殺さなくちゃいけない。つまり人食い鬼を量産できるお前は殺さなくちゃならない。
それこそ何も難しく考える必要はない話だ。見事なブーメランだな?」
「お前達鬼狩りは異常者の集まりだ!!!! 異常者の相手をする私の身にもなってみろ!!!! いい加減終わりにしたいのは私の方だ!!!!」
「ははっ。マジで人の話聞かないで自分の意見しか言わない奴だな? 人様に散々迷惑かけ続けておいて良く言えるな。まるで言葉の通じない害獣と会話しているみたいだ。
もう千年も生き続けて充分満喫したろ? いい加減さっさと死ねよ。老害が。」
周囲の建物が次々と攻撃の余波で吹き飛ぶ中、一つの影が無惨に接近する。
ーヒノカミ神楽 円舞ー
「っ!!」
無惨の攻撃が一瞬弱まり、俺の斬撃が無惨に入る。
「己っ・・・!!」
ー碧羅の天ー
ー烈日紅鏡ー
「死にぞこないがっ!!!」
ー幻日虹ー
ー火車ー
「ぐっ!?」
ー灼骨炎陽ー
ー陽華突ー
ー飛輪陽炎ー
ー斜陽転身ー
「がっ!!」
ー輝輝恩光ー
ー日暈の龍 頭舞いー
ー炎舞ー
「いい加減に・・・」
ーヒノカミ神楽 円舞ー
ー碧羅の天ー
ー烈日紅鏡ー
「っ!!?? 亡霊がっ!!!!」
ー幻日虹ー
「っ!!」
ー火車ー
ー灼骨炎陽ー
ー陽華突ー
ー飛輪陽炎ー
ー斜陽転身ー
ー輝輝恩光ー
ー日暈の龍 頭舞いー
ー炎舞ー
「っ!!!! 鬱陶しいっ!!!!」
ドンッ!!!!
先の柱全員を戦闘不能にした無惨の衝撃波のような攻撃が放たれるが、まるでそれが来るのを予め察知していたのか、炭治郎は先に回避に移り、危なげなく後方の俺の位置まで下がっていた。
「な・・・なんだと・・・!!??」
無惨は攻撃が回避されるとは夢にも思わなかったようで驚愕に目を見開いている。
「炭治郎。連れて来た俺が言うのもなんだが、良く躱せたな? 一体どうやってるんだ?」
「ハア・・・ハア・・・はい・・・透き通る世界と同じ要領で、嗅覚の感覚を極限まで開いて動作予知をしています。今の俺には数秒先の無惨の動きが知覚できます。」
「なるほどな。確かに猗窩座を倒せるわけだ。よし、一旦休ませてやるから呼吸を整えろ。
その間、俺が無惨の隙を作ってやるから、次の接敵で無惨の脳と心臓を可能な限り破壊してくれ。そうしたらあとは俺がやる。」
「はいっ!!!」
俺と炭治郎の会話の間に、無惨は再び逃亡していた。毎度のことながら呆れる。この期に及んで俺を潰すことよりも逃げることを優先するとは。
ー月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映えー
俺は血鬼術で再び無惨の背後を取り、地を這う斬撃を浴びせる。無惨が鬼の形相でこちらを振り向く。
「いい加減にしろ!!! しつこいと言っているのだ!!! 害虫共がっ!!!!」
「見た目で言えばお前の方が害虫っぽいだろ? 一回鏡見て自分の姿見てきたらどうだ?」
無惨は逃げながらも俺に管の攻撃を浴びせて距離を取ろうとする。しかし、俺は距離を離されても、すぐさま血鬼術で接近し、何度も型を浴びせる。
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
ー月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面ー
ー月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月ー
ー月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月ー
「い、いい加減にしろ産ッ屋敷ィイイイッ!!!! なぜそうまで執拗に私を追いかけてくるのだ!!??」
「いや、お前を殺さないと産屋敷家の呪い解けないからだよ。輝哉さんが言ってただろ? お前は何でもかんでもすぐ忘れるな? 本当に脳味噌五つも付いてんのか?」
「異常者がァアア!!! 呪いなどというくだらない妄言の為に私を追いかけまわすようなことをするから貴様は頭がおかしいと言っているのだ!!!! 何の因果関係がある!!??
貴様もあの死にかけの産屋敷当主と同じく病が頭にまで回っているのかァアア!!??」
ーヒノカミ神楽 円舞ー
「っ!!」
ー碧羅の天ー
ー烈日紅鏡ー
「貴様もだ竈門炭治郎!!! 身内が殺されたから何だというのだ!!!! お前は生き残ったのだからそれで充分だろう!!??
自分は幸運だったと思って日銭を稼いで静かに暮らせば済む話だろうっ!!!! ほとんどの人間はそうしているというのに、なぜお前は、お前たちはそうしない!!!!」
ドンッ!!!!
ー幻日虹ー
「っ!!」
「・・・無惨。」
無惨の衝撃波の攻撃から充分距離を取った場所で着地した炭治郎が、かつてないほど冷たい目で無惨を見据えて答える。
「お前は存在してはいけない生き物だ。」
ー火車ー
「このっ・・・」
ー月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映えー
「っ!!??」
「誰が同時に攻撃しないって言ったよ? 毎度毎度都合よく解釈してんじゃねえよ。」
ー灼骨炎陽ー
ー陽華突ー
ー飛輪陽炎ー
「死ねっ!!!」
ー斜陽転身ー
ー輝輝恩光ー
ー日暈の龍 頭舞いー
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
「がっ!!??」
ー炎舞ー
ー円舞ー
ー月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面ー
ー碧羅の天ー
ー烈日紅鏡ー
「ぐうっ!!」
ー幻日虹ー
ー月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月ー
「ごはっ!!??」
ー灼骨炎陽ー
ー陽華突ー
ー飛輪陽炎ー
ー斜陽転身ー
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
ー輝輝恩光ー
ー日暈の龍 頭舞いー
「ぐぅうううああああああ!!!!!」
俺達の度重なる赫刀による攻撃によって、無惨はついに頭部の脳一つ残してその場に膝を着く。すると無惨は必死な形相で奥歯を噛み締める。
「っ!! 雁哉さん!! 無惨がっ・・・!!!」
「問題ない。寧ろ良くここまで追い詰めた。あとは任せろ。」
俺は上体をこれでもかと捻り、六尺刀を背後まで構え、呼吸を溜める。そしてかつて受けた黒死牟の剣技で最も攻撃範囲が広く凶悪な斬撃回数を放った技を脳裏に浮かべる。
そして炭治郎が危惧した通り、無惨は全身を千八百に分割して周囲にはじけ飛んだ。俺はその一つ一つを透き通る世界で視認し、全身全霊で刀を振り抜いた。
ー月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満纎月ー
かつての黒死牟が放った斬撃と遜色ないほどの、周囲すべてを飽和するかのような斬撃を放つ。
緋色の月の斬撃は周囲を台風のように吹きすさび、視界全てを、辺り一帯を隙間も残さず全て薙ぎ払う。
一瞬にして凄まじい砂塵と突風が舞い起こり、やがてそれは収まった。
「・・・・・・・」
「・・・か、雁哉・・・さん・・・」
俺の遥か後方まで退避した炭治郎が動揺しながら俺に駆け寄る。俺はそれを一瞥し、一言呟く。
「頭部一個分・・・漏らしたな・・・」
「っ!! そんなっ・・・ここまで・・・ここまでやったのに・・・!!!」
炭治郎は今にも泣き出しそうな悲痛な声を発するが、俺がそれを手で制する。
「問題ない。言ったはずだ。あとは任せろって。」
俺は六尺刀は背中に担ぎ、代わりに腰に差した普通の長さの日輪刀を引き抜く。
「奴の位置は知覚している。少し離れたところで、無事な体の一部を寄せ集めてるのがわかる。夜明けも近い。急ぐぞ。」
「っ!! はいっ!!!」
そうして俺は、炭治郎の肩に手を乗せて、最後の血鬼術を発動させた。
「ハア・・・ハア・・・ぐぅうう・・・!!」
私は頭部だけ再生させて、頸だけの状態で何とか生き永らえていた。
このような目に遭うのは300年振りか・・・
あの男以来だな・・・ここまで死の予感を感じるまでに弱らせられたのは・・・
あの男に到底及ばないとは言え・・・炭治郎が繰り出す赫刀の斬撃は、一時的に私の脳と心臓を破壊するには充分な威力だった。
加えて産屋敷の血を引く、黒死牟と同じ呼吸を使う鬼狩り。奴さえ居なければ、ここまで追い詰められることもなかったのだ。
もうじき夜明けが来る。ここは路地裏のため、すぐに陽光が差すことはないが、さほど猶予があるとも思えない。一刻も早く身体を再生せねば。
奴とて、鬼になった以上、陽光の中で生きることはできんのだ。血鬼術を使って私の下に来ることもできないだろう。
あれほど忌々しく思っていた朝日をこれ程心待ちにしたこともない。全く持って皮肉な話だ。
私はそう苦々しく思いながら、全身を少しずつ再生させようとしたのだが・・・
「土産にくれてやるよ。」
そう声が聞こえた途端、私の頭蓋に日輪刀が突き立てられ、地面に固定された。
「ぐぅうううああああああ!!!!!」
私の頭部より、肉が焼けるような音がする。ただの日輪刀でこれ程の痛みを感じることなどない。これは紛れもなく赫刀だった。
「ば、馬鹿なぁああ・・・正気かっ!? ここももうじき陽光が差す・・・鬼の身で日に焼かれる覚悟までして追いかけてくるとは気でも狂っているのか・・・!!」
私は頸だけの状態で必死に背後に視線を移した。するとそこには二人の鬼狩りが数歩離れた場所で佇んでいた。
産屋敷の鬼狩りは注射器を一本取り出すと、自身の頸動脈にそれを打ち込む。するとため息をついて私の問いに答える。
「日に焼かれるのはお前だけだ無惨。俺は人間化薬を打ったから暫くすれば日向も歩けるようになる。なんならお前にも打ってやろうか?」
「な、なんだと!? 鬼の身体を捨てるというのか!? 禰豆子さえ取り込めば、何不自由のない完璧な生物になれるというのに・・・!! 貴様はその可能性も捨て去ると言うのか!!!!」
「興味ないな。そもそもここにいる炭治郎が許すわけねぇだろ。やっぱりこの期に及んでも倫理観皆無なんだなお前は・・・」
すると炭治郎が何の熱も籠らない冷たい目で私を見つめ、日輪刀を携えて近づこうとする。しかしそれを産屋敷の鬼狩りは手で制止する。
「炭治郎、これ以上無惨には近づくな。死の間際に鬼にされたら堪ったもんじゃない。人間化薬はもう手元には一本も残っていないからな。」
私は顔を更に歪めて鬼の形相で奴に怒鳴りつけた。
「貴様っ!! はじめから私に人間化薬を打つ気などなかったではないかっ!!! 私を救うつもりなど毛頭ないくせによくものうのうとっ・・・!!!!」
「何当たり前のこと言ってやがる。どうして俺がお前みたいな塵屑救ってやらないといけないんだ? お前は死んで当たり前のことをしたじゃないか。年貢の納め時って奴だな、無惨。」
産屋敷の鬼狩りは笑ってそう言い捨てると、路地の先に視線を移す。
私は奴の視線で既に朝日が昇っていることに気づいた。路地裏の陰が徐々に狭まり、私の傍までじりじりと陽光がにじり寄っている事実に気が狂いそうになる。
「ま、待て!!! 炭治郎!!! お前は無限に生きたいとは思わないのか!? お前は既に痣を発現しているのだろう!? 鬼になれば寿命に縛られることもない!! 私がお前を生かしてやるぞ!?」
私は必死に炭治郎に提案をする。そうだ。黒死牟だって、痣の寿命に怯え、最後には私の提案を飲んだのだ。死が怖くない生き物などいない。私は期待を込めた目で炭治郎に視線を注ぐが・・・
「無惨、俺は鬼にはならない。無限の命なんか少しも欲しくない、いらない。俺はただみんなの下に笑って帰りたいだけだ。」
奴にはそう言い捨てられる。それと同時に私の地面に垂れた髪の先端が陽光を浴び、徐々に塵になっていく。いよいよ今わの際であることを実感する。
「っ!! 屑めっ!!! 今まで大勢が死んだというのにお前だけがのうのうと生き残って幸せを謳歌するなどっ!! 死んだ者の憎しみの声が聞こえないのか!? なぜ自分は失ったのにお前だけがと・・・」
私の恫喝に炭治郎は口をつぐんだが、産屋敷の鬼狩りがすぐさまなだめる。
「炭治郎、無惨の聞くに堪えない妄言なんて聞かなくていい。だれもお前の不幸なんて願ったりしない。寧ろ感謝してるはずだ。お前はお前の責務を全うしたんだから。ほら、諸悪の根源ももう消える。」
ついに陽光が私の顔にまで降り注ぐ。赫刀とは比較にならない灼熱の焼かれるような痛みに悶絶する。
「ぐぅうううああああああ!!!!! どうしてだ!!! 私はっ!! 私はただ平穏に生き続けたかっただけだっ!!!! 私は何も間違っていないはずだぁあああああ!!!!!」
死の間際に、人間だったころの平安の世の生活が思い浮かんだ。ただただ死に怯え、病に苦しみ、苦痛を感じる日々を。
そうしてすぐに私の意識は消え去った。私は陽光の下で、跡形もなく塵へと還ったのだと悟った。
続く
もっと無惨の最期をみっともなく書けたらなと最初は思っていたのですが、とんでもない文字数になりそうだったのでやめました。
無惨の倒し方は、縁壱厳勝兄弟が力を合わせたらこんな感じだろうなぁとイメージして書きました。まあ、炭治郎雁哉ペアだと力不足かなと思ったので、敢えて逃がして弱ってるところを血鬼術で追跡して日に当てて殺すという力技決着でしたが。正直強引な印象は拭えないかと思います。何卒ご容赦ください。
次回最後の柱合会議です。投稿開始時点はもっと色々エピソード追加する予定でしたが、あっさり終わらせることにしました。ご容赦願いたい。
完結後読みたい話はありますか?
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恋愛もの
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バトルもの
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クラフトもの
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オリ主の深堀エピソード
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原作キャラの深堀エピソード
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現代キャラの描写
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大正キャラの描写
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別の鬼滅二次小説を書いてほしい