輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
それでは最終話どうぞ。
「さて、そんじゃ帰るか。俺こっちで4年も経過してるから、向こうに帰ったらどうなるんだろうな。」
ここはかつて俺たちが平成から大正にタイムスリップした時の神社の鳥居前だ。
実はこの神社のことは何度も調べたのだが、なんでも数百年前に産屋敷家に嫁入りしたある神職の人の実家だったらしい。
だから神仏の力が働いたのか。正直真相はわからない。
ただ、確実に言えることは、無惨討伐後からこの鳥居の先の風景が僅かにぼやけて見えるようになった。何なら夜間だとうっすら光って見えるのだ。
摩訶不思議の現象に、カナトが科学的にどういう原理なんだと躍起になって考察をしていたが、結局結論は出なかった。当然と言えば当然だが。
「雁哉。もう戻るんだね。」
「・・・・・・・」
俺の後ろに見送りとして、カナトとしのぶが来ていた。輝哉さんや他の柱達には最後の柱合会議の後に元の時代に戻ることを周知している。
柱の面々は宇随さんを除いてとんでもなく驚いていた。特に真菰は柱の中でも飛びぬけて衝撃を受けていた。
結局、あいつは俺への未練を払拭できたのだろうか。いや、無粋だな。それに冨岡さんだっているし、真菰のことは何も心配いらないだろう。
それよりも気がかりなのはやはりカナトだ。血は繋がっていないが、俺のたった一人の弟。特別な情が湧かないなんてことはない。
そんなカナトが俺に未練があるような視線を注いでくる。俺は思わず苦笑いするしかない。
「はあ・・・言っとくが俺は何を言われてもこの時代には残らねえよ? 俺の居場所はあっちの時代にしかないんだ。
俺は戻って、お前は残る。これが今生の分かれって奴だ。まあ名残惜しいのは俺も一緒だがな。」
俺はカナトの顔を見るのが気まずくて思わず背を向ける。
本当は俺だってカナトとは一緒にいたいと思っている。だが、カナトは寿命があと6年しかない。仮に元の時代に戻っても、新しい生きがいや伴侶を探すだけで寿命を使い切ってしまうだろう。
そうなるぐらいなら、最愛の人と最期まで一緒に居させてやった方がいいに決まってる。何より弟がそれを選んだんだ。なら俺は兄として、カナトの決断を尊重すべきだ。
「なあ、カナト。最後にもう一度聞かせてくれ。後悔しないか?」
「え・・・」
ついそんなことを口走ってしまった。最後の最後で何を言っているんだ。未練たらたらしいのは俺の方じゃないか。つくづく自身の優柔不断さに嫌気が差す。
暫くの間、静寂が続く。やがて、カナトは落ち着いた声色で俺の問いに答える。
「うん。後悔しないよ? 僕はしのぶさんと残りの人生を共にする。それが僕の生まれて来た意味なんだ。だから、雁哉。何も心配しなくていいよ?」
俺は思わずため息をつき、笑みをこぼしてカナトに振り返る。カナトからもう未練がましい視線を感じることはない。
しのぶの手を握って、二人で俺を見つめている。
「しのぶ。カナトのことを頼んだぞ? カナトが生まれてきて良かったって思えるよう、最期まで傍に居てくれ。それが兄貴としての一番の願いなんだ。お前にしか頼めない。」
「雁哉君・・・はい! 任せてください。カナト君が一度も後悔なんてしないよう命一杯私が幸せにしてあげます! だから安心してくださいね?」
「ああ、わかった。」
しのぶの答えに俺は信頼を寄せることができた。もう大丈夫だと思い、俺はカナトに拳を突き出して掲げる。
「達者でな。カナト。」
「うん。元気でね。・・・さよなら、雁哉。」
俺達は拳を突き合わせて最後の言葉を交わす。
それから俺は階段を上り切り、ぼやけた光を発する鳥居をそのまま潜った。
「ふっ、これで現代に帰れてなかったら、とんだお笑い草だな? なあ、そう思うだろ? カナト・・・」
俺は振り返る。階段を上り切って振り返った鳥居の先の風景には、高層ビルや国道などの近代的な夜景が見て取れた。そして、階段を降りた先にはカナトとしのぶの姿はなかった。
「・・・っ・・・」
目頭が熱くなり、俺は思わず天を仰ぐ。熱いものが零れてしまいそうだったからだ。そうして暫くしていると、後ろから声が掛かった。
「え・・・か、雁哉さん?」
俺は目元をぬぐい、後ろに振り向く。そこには現代に戻ったら一番に会いたいって思ってた人が佇んていた。
「瞳・・・か?」
「え? え? どうしたんですか? 先に家に帰られたはずじゃ・・・それにその格好は?」
俺は自身の格好を確認する。紫色の羽織に黒の着物。瞳から見たら時代劇にでも出て来たのかと突っ込みを受けそうな姿だった。
「ただいま、瞳。ずっと会いに戻れなくてごめんな?」
俺はそう呟く。しかし瞳は首を傾げていた。
「? ?? えっと・・・10分前に先に家に帰ると言って階段を降りていきましたよね? え? え??」
「・・・・・・・」
なるほど。完璧に理解した。向こうで4年も経過していても、こっちではまるで時間が経っていないのか。しかしそうなると可笑しいな。この神社にはカナトと二人で剣道大会の必勝祈願でお参りに来てたはず。その時、瞳はいなかったはずだ。
そして鳥居をくぐったら、俺とカナト二人で大正時代にタイムスリップしたはずなんだ。ということはもしかすると・・・
「瞳。カナトは見なかったか?」
「え? ええっと、雁哉さんと一緒に先に帰られたはずなんですけど、途中ではぐれたんですか?」
なるほど。そういうことか。こっちの時代にもカナトはいると。しかし、恐らく、そのカナトは俺の知ってるカナトと少し異なる、別人のカナトなのだろう。
恐らくタイムスリップをするはずのなかったカナトが現代にはいて、俺はその世界線に本来の俺の代わりに舞い戻ったということだろうか。
「そうだな。一度こっちに戻ってきたと思ったんだが、俺の勘違いだったらしい。この後携帯で連絡しておく。心配しないでくれ。」
そうして俺は現代の自宅に戻ることにしたが、俺の袖を瞳が掴んでいたようで、立ち止まることになった。
「雁哉さん・・・涙の跡があります。なにか悲しいことがあったんですか?」
瞳は心配そうに俺を見てくる。どうしたものかと俺は思い、笑みを浮かべる。
「済まない。直近の記憶がなぜか飛んでいてうまく思い出せないんだ。だから俺にも良くわからない。済まないな、瞳。」
「え・・・? それって何かの病気とかですか? え、えっと、今日はもう日が暮れているので、明日病院に行った方がいいんじゃないでしょうか? 私付き添います!」
「ああ、すまない。迷惑かけてごめんな? 瞳。」
そう俺は答えて、瞳と一緒にそのまま神社をあとにした。
一日かけて漸く現況が掴めた。
まず、家に帰ったら、そこにはカナトがいた。会話をしてわかったが、やはり大正時代にタイムスリップした記憶はカナトにはなかった。
人格はそのままだが、やはり、一緒に鬼殺隊に入って戦ったカナトとは別の世界線の人間なのだろうと判断できた。
そして俺の肉体は15歳に戻っていた。まず身長が当時の水準まで下がっていたし、全身の筋肉も同様だった。
鬼殺隊で柱になった後のような屈強な体ではなく、常中覚えたて程度の身体に戻っていた。摩訶不思議な現象である。
これ、うまくいけばカナトも現代に戻れば、痣発現前の身体に戻っていたんじゃないだろうか。
そうすれば寿命だって短くならずに済んだかもしれないが、そこまで思考を進めて首を振った。
そもそもあいつは自分の意思であの時代に残ったんだ。なら俺はあいつのその決断を尊重すべきだ。それに今更どうこう言ってもどのみち結果は変わらないのだから。
そして一番驚いたのが、俺がもともといた世界と微妙に環境が違ったり、歴史が違ったりしたことだ。
まずカナトの旧姓は稲葉ではなく胡蝶になっていた。家系図を見せられてわかったが、この世界線のカナトは、大正のカナトとしのぶのひ孫に当たる人間になっていた。
加えて、カナトの両親が亡くなっていたことは変わらなかったが、輝利哉曾爺様が胡蝶家を説得して、カナトを産屋敷家の養子に引き取ったという事実に変わっていた。
胡蝶家は日本有数の製薬会社になっていた上に、親族も皆存命で、本来であればカナトは養子に出されることはなかったように思える。
しかし輝利哉曾爺様は敢えてカナトを産屋敷家の養子に招き入れたそうだ。俺はこっそり輝利哉曾爺様にそのことについて聞きに行った。すると、
「雁哉様が可哀そうだと思ったんだ。鬼の首領を倒したのに、何の対価もなく弟とも離ればなれにされてしまったことが。
だから、私は『カナト』の名前を持つ子が生まれたと聞いて、君の弟になるよう取り計らった。きっとその子が雁哉様の弟に当たる子だと思ったからね。
英雄を独りぼっちにしたまま元の世界に帰らせたことが心苦しいと、胡蝶家の当主に事情を説明したら、あちらもそのことを知っていたようで快く承諾してくれたよ。」
この世界線の輝利哉曾爺様は間違いなく、俺が鬼殺隊として戦っていた時のあの輝利様と同一人物だったと、話を聞いて確信した。
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
俺は深々と頭を下げた。視界が潤む。そんな俺の様子を見て、輝利哉曾爺様は笑っていた。
「私のお節介が少しは役に立ったようでよかった。雁哉。」
以上が、今いる俺の居場所だった。
「雁哉。本当にいいの? 病院で精密検査してもらった方がいいんじゃない?」
「う~ん。主治医からは異常なしの診断貰ってるし、一時的な記憶の混濁だと思う。別に平気だと思うぞ?」
「雁哉さん。もしかしたらストレスなんじゃないでしょうか? 学校で何か嫌がらせをされてるとか・・・」
「瞳、流石に心配し過ぎだ。クラスメイトとも部活動の先輩たちとも仲は良好だから大丈夫だ。何も問題ない。」
俺は一日だけ学校を休み、翌日から普通に登校していた。カナトも瞳も俺のことを心配してあれこれ言ってくるが適当にあしらった。
正直に『タイムスリップしてました。今の俺は別の世界線から来ました。』みたいなとんでもないことを言うつもりはない。
このまま問題なく学校に通っているところを二人に見せ続ければ、いずれは余計な心配をかけることもなくなるだろう。
俺は話題を別のものに変える。二人もやがて気にしなくなり、いつも通りの日常へと戻っていく。
ふと、通学路の途中で、カナトがあるものに目を奪われているのに気付いた。その視線の先には俺達とは少し異なる制服の女子生徒が二人歩いていた。
「わあ、鶺鴒女学院の方ですね。お二人ともとても美人さんです。珍しくカナト君が女の子に釘付けになってますよ。ねえ、雁哉さん。」
「ああ・・・ん???」
カナトの視線の先に居る女子の容姿を見て俺は眉を寄せた。その姿があまりにもしのぶにそっくりだったからだ。
しかし、俺の隣を歩くカナトはしのぶを知らないはず。なぜ、あんな食い入るように見ているんだ?
俺はいぶかしむ目線をカナトに送る。
「おいカナト、あんまり女子生徒をガン見してたらやばい奴だと思われるだろ。さっさと行くぞ?」
俺はカナトに声を掛けたが、やがてすれ違うしのぶ似の女子生徒に突如カナトが声を掛ける。
「あ、あのっ!!」
「?」
「カナト急にどうした?」
俺はカナトに声を掛けるが、カナトは脇目も振らず、そのしのぶ似の女子生徒に近付き頭を下げる。
「貴方が好きです!!! 僕と付き合ってください!!!」
「ぶっ!!」
「まあ・・・」
突然のカナトの公開告白劇に、俺は思わず吹き出す。そして瞳はそんなカナトの様子を見て楽しそうにしている。
対するしのぶ似の女子生徒は目を見開いて固まっている。当然だ。路上で急に知らない男子生徒に声を掛けられた挙句、言い寄られているのだから。
顔を真っ赤にして震えながら必死に目を瞑っているカナトの頭を俺は思いっきりはたいた。
「ちょっ!! 痛い!! 雁哉は何するのさ!!」
「お前こそ何してんだ!! 脳味噌爆発してんのか!!?? すみません、鶺鴒女学院の方お二人は気にせず学校に向かってください。こいつには俺がきつく言っておきますので・・・」
俺はカナトを思いっきりヘッドロックして、二人から引き離す。
路上で急にこんなこと言い出す奴じゃないはずなんだが、カナトの奴一体どうした???
俺がそう頭を悩ませていると、後ろからか細い声が聞こえる。
「え、えっと・・・あなたのお名前は?」
驚いたことに、今さっき声を掛けたその女子生徒がカナトに名前を訪ねている。おれはあっけに取られて開いた口が塞がらなかった。
「ええええっと・・・産屋敷カナトです!! 貴方のお名前は!?」
カナトもカナトで名前聞き返すのか・・・図太いというかなんというか・・・とんでもない弟だ・・・
「こら!
「あいた!!」
俺が呆れていると、もう一人の女子生徒がカナトの脳天に手刀をかます。その痛みにカナトは思わず悶絶していると言った様子だ。
「ちょっと! 姉さん!! いきなり叩くなんてあんまりよ!!」
「こんな訳分からない子叩いて当然よ!!」
「待って姉さん!! この子カナト君よ! 15年前に産屋敷の家に養子に出されたあの・・・それと曾おばあ様が生前お話してたでしょ!?」
「ええ? う~ん。でもこんな子駄目よ! 菫の初めての彼氏に似つかわしくないわ!」
よく見るとこの人・・・カナエさんにそっくりなんだが生まれ変わりか何かか? もしかすると・・・
「あの・・・もし違ったらすみません。お二人は胡蝶家の方ですか?」
「え!? なんで知ってるの!?」
なるほど・・・生まれ変わりっていうより隔世遺伝か何かなのかもしれない。
「あ、いえ・・・うちの曾祖父が以前胡蝶家から弟のカナトを養子に引き取ったって聞いたことがあるのでもしかしたらと思ったんです。不審に思わせてしまい申し訳ありません。」
「あ、いえ・・・こちらこそすみません・・・でもこの子急に菫に告白するなんてどうかしてます! お兄さんからもちゃんと言っといてください!!」
「ええ、それはもうきつく言っておくのでご安心を。じゃあカナトもう行くぞ。」
「ま、待ってよ! 漸く会えたのにこんなのあんまりだ! せめて連絡先だけでも・・・」
「ちょっ!! おまっ・・・いい加減にしろ!! ってうおお!?」
カナトが炭彦に教わった全集中の呼吸を使い始めたのか、尋常ではない力で俺の拘束を振りほどこうとしてくる。俺も負けずと呼吸を使って押さえ続けるが・・・
「あ、あの・・・連絡先の交換ぐらいだったらいいですよ? 私もいくつか聞きたいことがあるので・・・」
「「「え」」」
気が付けば菫と呼ばれたその子は携帯をカナトの目の前まで近づける。俺もカナトも唖然とした。
「ちょっ・・・菫っ!! こんな頭が可笑しな子と連絡先交換なんてしてどうするの!? ストーカーになったら大変よ!!??」
「大丈夫よ姉さん。曽おばあ様が言ってたことってきっとこのことだったのよ。だから安心して?」
「うっ・・・そ、そんな風に言われたら・・・もう、いいわよ。好きにしなさい。」
あっちはあっちで決着が着いたようなので、俺もカナトの拘束を外す。するとカナトは携帯を取り出して、その菫という子と正対する。
「あ、あの・・・変なこと言ってるように聞こえると思うんだけど・・・僕は貴方の曾おじい様の記憶を断片的に遺伝しているんだ。
もし生まれ変わってまた会えたなら、今度こそずっと一緒に生きようってそう約束したみたいで・・・
すみません・・・ほんと何言ってるんだって話ですよね・・・今のは忘れてください・・・」
そこまで言って、カナトは力なく俯く。俺は顎に手を当てる。記憶の遺伝・・・確か炭治郎も似たようなことを言ってた気がする。それで日の呼吸十三個目の型を知ることができたとも。
つまり今この場にいるカナトは、大正時代に残ったカナトのひ孫に当たるから記憶を遺伝したと。だから今目の前にいるしのぶそっくりな子を見て突飛な行動をしたということなのか。
俺がそう考え込んでいると、その菫という子は優しくカナトに笑いかける。
「ふふっ、実は私もなんです。つい先日、曾おばあ様の記憶の夢を見たばかりで・・・生まれ変わりとまた違うかもしれませんが、これもある意味ご縁なのかもしれませんね?」
カナトは顔を上げる。菫も嬉しそうに微笑みかける。
「不束者ですがこちらこそよろしくお願いします。今度はお互いがお爺さんお婆さんになるまで一緒にいましょうね?」
カナトはその菫の返事を聞いて、一気に表情が明るくなる。そして衝動的なものなのか、携帯を落として菫に抱き着く。
「うん!! 今度こそずっと一緒に生きよう!! 10年でも、20年でも、30年でも!! ずっとずっと傍にいるからね!! 約束するよ!!」
「ふふっ・・・はい、よろしくお願いします///」
菫もカナトをそっと抱き返す。頬も朱色に染まり、とても幸せそうだった。
俺はあっけに取られてただ茫然と見ているだけだったが、隣の瞳は嬉しそうに俺の手を握って「良かったですね」と呟き、カナエさんそっくりの人はカナトを妹から引き剥がして再び引っぱたいていた。
俺達4人はその日仲良く学校を遅刻した。
終
最後まで読んで下さった読者の方には本当に感謝しています。この場をお借りして御礼申し上げます。
正直に申し上げると、途中何度も書くのをやめようと思っていました。それでも作品を好意的に受け取ってくれる人の方が多かったので、その人たちのおかげで最後まで書けたと今では思っています。
当初はこんなに話数を長くするつもりはなかったのですが、書きたいエピソードを挿入してたら想像以上に膨らんでしまいました。もし別の作品を書く機会があればもっと簡潔にまとめて話数を少なめにしたいと思います(汗)
本小説は番外編をあと一つ出したら終わると思います。いつになるかわかりませんが、アンケート結果を基に、炭カナの温泉お泊り旅行でも書こうかなと思っています。予定は未定ですが・・・
加えて、明日からまた別の二次小説の投稿を始める予定です。鬼滅ととある作品のクロスオーバーものです。
もし興味があれば読んでみてください。それではご縁があればまた。