輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
不定期となりますが、2,3話くらいの番外編を出します。以前告知した炭カナの温泉旅行回となります。
完結後、日本中の温泉地を調べまくったのですが、最終的には群馬の伊香保温泉にしました。
理由は単純で、竈門家からアクセス良さげなのが他に見当たらなかったからです。
本当は草津温泉を舞台に番外編を書くつもりだったのですが、なんと大正時代は草津には車でしか行けなかったそうです。加えて当時は温泉街というより湯治のための場所だったようなので、渋々却下することにしました。湯畑とか西の河原とかエピソードてんこ盛りにできそうだったんですけどこればかりは仕方ないですね・・・。
一方で、伊香保は明治時代で既に立派な温泉街のモデルケースとして確立しており、加えて大正時代には鉄道も開通したため当時大勢の方が足蹴く通ったそうです。
竈門家は奥多摩付近と言われていますが、鉄道があれば行けるやろと思い、今回は伊香保温泉を舞台に話を書くことにしました。いや、伊香保も草津もどちらもいいところなんですけどね・・・汗
実は筆者は伊香保に行ったことがあります。と言ってもグリーン牧場しか行ったことがないのですが(笑)
ただ温泉もかなり魅力的だなと当時思った記憶があるので、今回を機に色々と調べてみました。
という訳で、炭カナ成分を堪能するついでに現地の観光気分も味わってもらえたら嬉しいです。
ひとまず前編ですが、前置きの話なので物足りないかもしれません。加えて、ナイーブな話題にも触れているので、もし不快に思われるようでしたらブラウザバックを推奨いたします。
それでも構わないという方は本編へどうぞ。
「炭治郎っ! すぐに降りるよっ! 早くしないと日が暮れちゃうっ!!」
「ま、待ってくれ、カナヲ。着いたばかりなんだ。そんなに焦らなくても・・・」
「何言ってるの!? カナト兄さんに教えてもらった場所、一杯あるんだからそんなのんびりしてたら全部寄れないでしょ!? ほらっ! さっさと行くよっ!!」
「ちょっ、カナヲ!? 早い早い!! 転ぶって!?」
俺はカナヲと一緒に群馬県にある伊香保温泉街に来ていた。俺達二人だけの所謂お泊り旅行である。
ここは明治のうちに鉄道が開通していた街なので旅行に来るには最適だった。それも考慮してカナトさんが俺たちにお勧めしてくれた観光地でもある。
無惨を討伐し、あれから早3年。俺達は蝶屋敷から雪取山の実家へと帰り、そこで生活を始めた。
家には俺とカナヲだけじゃない。禰豆子も、善逸も、伊之助も皆一つ屋根の下で生活することになった。
それから2年が経ち、俺とカナヲは晴れて夫婦
祝言を上げる際は、禰豆子たちだけじゃなく、鬼殺隊の柱の皆さんや蝶屋敷のみんな、他の隊士たちや隠の人達まで大勢来てくれて、盛大に俺たちを祝ってくれた。
そして仲人は恐れ多いことにお館様が引き受けてくれた。
お館様は既に何組もの柱の皆の結婚式に仲人として出席してくれている。
カナトさんとしのぶさん。不死川さんとカナエさん。伊黒さんと甘露寺さん。義勇さんと真菰さん。俺とカナヲに加えて、善逸と禰豆子、伊之助とアオイさんまで本当にお世話になりっぱなしだ。
寧ろお館様は率先して引き受けて下さっている印象を受けた。逆に断る方が難しかったのかもしれない。
「私の可愛い子供たちの晴れ舞台だ。是非とも任せてほしい。」
そう言って、鬼殺隊出身の人で結婚式の予定が入ると、どこから聞きつけたのかわからないけれど、そのような趣旨のお便りが毎度届くのだ。俺とカナヲの時もそうだった。
今でも産屋敷の直感で察しているのだろうか。きっと俺には推し量れないような方法で聞きつけているに違いない。
そしてカナヲと夫婦になってから早一年。あっという間に立ってしまった。
同じ屋根の下で住んでいるのは一切変わらないが、俺たちはいつも寄り添うように一緒に過ごした。
一緒にご飯を食べるだけじゃない。一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団でくっついて眠ったりしてる。
俺はそんな日々だけでも常に満ち足りていた。しかしある日その潮目が変わる。
「炭治郎。カナヲちゃんから相談受けたんだけどちょっといい?」
ある日突然、カナトさんとしのぶさんに蝶屋敷の客間へと呼ばれた。お二人は俺達よりも2年早く結婚し夫婦になっているため、よくカナヲは俺達の間のことで二人に相談することが多いのだそうだ。
「どうされたんですか? お二人ともそんな真剣な面立ちで・・・」
二人から何やら怒ってるような匂いがする。どうしてだろう。
俺が戸惑っていると、カナトさんが口を開く。
「炭治郎。カナヲちゃんと結婚してもう一年経ったよね? その自覚はあるかい?」
「え? あ、はい。丁度昨日が結婚一周年の記念日で、禰豆子が俺たちに盛大に晩御飯を振舞ってくれて・・・」
「炭治郎君。ちゃんとカナヲと夫婦の時間は取れてますか? 同じ家に禰豆子ちゃんや善逸君達がいたら難しいのでは?」
「? ちゃんと取れてますよ? 昨日もずっとカナヲとは朝から晩まで寝食を共に過ごしましたし、二人で過ごす時間は取れています。それが何か?」
すると二人は盛大に大きなため息を付く。二人から何やら呆れるような匂いがし始めた。
「はあ・・・しのぶさん。やっぱりもうはっきり言ってあげないとダメだよ。これじゃカナヲちゃんがあまりにも可哀そう過ぎる。」
「ですね・・・ふう・・・いいですか、炭治郎君。今朝、カナヲから手紙で相談を受けたんです。実は・・・」
やがて二人からカナヲの悩みについて聞かされる。粛々と。淡々と。延々と話を聞かされ、俺は唖然とする。
「こ・・・子ども・・・ですか・・・」
「炭治郎。君も僕と同じで痣が出ているよね? そんな君も今年で十九だ。つまり寿命はあと六年。わかるかい? この否定しようのない事実が。」
「は・・・はい・・・よくわかっています・・・」
「それなのに君は今までカナヲと一夜を共にしたことがあるのかい?
ちなみにここで言う一夜というのはただ同じ布団で眠ることを言ってるんじゃない。そんなおままごとみたいな考えじゃ困るんだ。特にカナヲちゃんがね。」
「はい・・・申し訳ありません・・・」
「僕に謝ったってしょうがないよ。僕が言いたいのは早く行動を起こせってことだ。わかるかい?」
「で、でも・・・家には禰豆子も善逸もいますし・・・そんなことできる隙がないと言うか・・・正直言ってできなくないですか???」
「それでもやるんだ。男なら。男に生まれたのなら。隙を見つけてやる以外の選択肢などない。」
「ちょっ!? なぜそこで錆兎みたいな物言いを!?」
「まあ、冗談はさておき。」
「じょ、冗談だったんですね・・・」
「カナト君。ふざけてる場合ですか? カナヲにとってこれは死活問題です。下手をすればカナヲは家族も持てず晩年独りぼっちになってしまいます。そんなの私が許せません。」
「そうだね。という訳で・・・僕がおすすめの温泉旅館探しておいたから、近日中にそこにカナヲと二人きりで泊ってきなさい。
宿泊先なら禰豆子ちゃんや善逸の目を気にする必要もないし、思う存分二人の時間を過ごせるはず。だからちゃんとするべきことをやってくるんだ。
言っておくけど、カナヲちゃんを泣かせるような真似は僕だって許さないからね?
これは義兄および義姉の総意なんだ。いいかい、炭治郎。わかったよね?」
「は、はい・・・!」
いつになくカナトさんの視線が剣吞なものになる。日ごろ穏やかな人だからこそ思わず震えが走ってしまう。
俺が震えあがっていると、屋敷のどこかで赤ん坊の泣く声がする。
やがて慌ただしく足音が聞こえ、客間の扉が開き、なほちゃんが顔を出す。
「すみません・・・しのぶ様・・・あやしてあげたのですがお子さんが泣き止まなくて・・・どうしたら・・・」
「ごめんなさい。すぐ行くわ。だからそんな顔するんじゃありません。」
余程赤ん坊が泣き止まなくて困ってしまったのか、なほちゃんまで泣いてしまいそうな顔になる。しのぶさんはそんななほちゃんに微笑みかけ、その場を立って移動する。
結果、客間には俺とカナトさんの二人だけになる。
「あの・・・カナトさん・・・」
「ん?」
俺はおずおずと質問する。
「カナトさんは不安だったりしないんですか? 自分が先に死んで、しのぶさんが一人で子どもを抱えて生きていくこととか・・・」
俺の質問にカナトさんはキョトンとしている。やがて首を傾げ、俺の質問に答えてくれる。
「ん~・・・そもそも別に一人じゃなくない? 蝶屋敷には他に人もいるし、しのぶさんを支えてくれる人たちは大勢傍についてくれるからね。
それにしのぶさんは僕なんかと比べものにならないくらい芯が強い人だ。僕が死んでもきっと強く生きてくれる。最愛の子どもたちを立派に育ててくれる。僕はそう確信してる。だから何も心配していないよ。」
「・・・」
俺は目から鱗だった。自分が死んだ後のことを必死に考えている様子は、カナトさんも俺と同じはずだったから。
俺はカナヲの将来のことが不安で、貯金を作ろうと必死に炭焼きの仕事をおし進めることでこの一年頭が一杯だった。
カナヲには何不自由なく生きてほしい。そのためには先立つものがないとって。
別に俺はカナヲとの間で子どもを作ることに否定的だったわけじゃない。ただ不安だったんだ。俺がいなくなった後、カナヲは一人で子どもを抱えて生きていけるのかって。
けどカナトさんの言葉で何だかそんな不安が和らいだ気がした。
「炭治郎。もっと周りを頼りなよ。禰豆子ちゃんだって同じ家に住んでいるし、蝶屋敷だって歩いて移動できないほどの距離じゃないんだ。
カナヲちゃんの傍で見守ってくれる人たちは大勢いる。だから必要以上に将来に悲観的になる必要なんてないんだ。
もし金銭面で不安があるのなら僕の遺産を使えばいいじゃないか。しのぶさんだってそれくらい許してくれるよ。ほかならぬ妹の為なんだから。」
「・・・・・・」
俺は涙が零れそうになって思わず袖で拭う。そんな俺を見てカナトさんは俺を肩に手を置く。
「だからさ、炭治郎はもっとカナヲちゃんとの時間を大切にしなよ。仕事なんてほどほどでいいんだ。大切な人と一緒に過ごす時間を一番に考えなよ。カナヲちゃんだってきっとそう望んでるよ?」
「はい・・・! そうですね! 俺、先のことばかり考えて今の生活が全然見えていなかったみたいです! もっとカナヲとの時間を大切にしようと思います!!」
「うん。君がそう言うなら僕も安心できるよ。ささ、せっかくだから君の姪にあたる子の顔くらい見てってくれ。親ばかに聞こえるかもしれないけど、この世で一番可愛いから。」
「あはは・・間違いなく親ばかですね・・・でもそういうものかもしれません。」
俺達が談笑していると、客間にしのぶさんが現れる。腕の中にはおくるみに包まれた赤ちゃんがすやすやと寝息を立てていた。
「わあ! 本当に可愛いですね・・・!」
「でしょ? カナヲちゃんに見せたら余りの可愛さに悶絶してたんだからさ。きっとこの子の可愛さも後押しして、僕らに炭治郎との間のことで相談しに来たに違いないよ。」
「全く・・・カナト君の娘自慢にも困ったものです。」
「え~・・・そんな・・・僕としのぶさんの間に生まれて来た子なんだからさ、他の追随を許さないくらい可愛いに決まってるじゃないか?」
「はいはい。」
呆れているしのぶさんだったが、口元は笑っている。本当に幸せそうだった。俺もいつか・・・カナヲと・・・今の目の前にいる二人のように過ごせたら・・・
「こらこら、炭治郎。そう何度も泣くもんじゃないよ? 大丈夫、炭治郎とカナヲちゃんの間の子なら、うちの子に負けず劣らずの可愛さに決まってるよ。だから楽しみにしていなよ。」
「全くカナト君は・・・言っときますけど子どもは作ろうと思ってそう簡単にできるものじゃありませんからね? 私なんて結婚してから2年以上かかったんですから・・・」
「まあ、しのぶさんは藤の花の副作用があったからね。でもカナヲちゃんならきっと大丈夫だよ。もしかしたら来年には生まれてるかもしれないし・・・」
「はあ・・・じゃあ炭治郎君には早いとこ行動してもらうしかありませんね・・・全くカナト君は本当に楽観的なんですから・・・」
「あはは・・手厳しいなぁ・・・」
しのぶさんに苦言を呈されて苦笑いするカナトさんの顔を思い出し、ふと俺は笑ってしまう。あれから数日後、こうして無事俺はカナヲとお泊り旅行に漕ぎつけた訳だ。
「もうっ! 炭治郎! 笑ってないで早く宿に入るよ? そしてらすぐにお風呂ねっ! その後はあちこち行って、温泉街歩き回るんだからねっ!」
「ああ、ごめんよカナヲ。それじゃあ入ろうか。」
俺はカナヲに手を引かれ、カナトさんに紹介してもらった温泉旅館に足を踏み入れた。
続く
子どもについての考えは様々あると思います。加えて炭治郎がどう思ってたかは原作でも明らかにされていないので皆様と解釈違いがあるかもしれません。
ただ、それでもこれだけは確かでしょう。炭治郎は晩年をカナヲと幸せに過ごしたはずだと。そして二人の間にはめちゃんこ可愛い赤ちゃんが生まれたはずであると。
筆者はそう確信しています(真顔)。
次回以降は本格的な温泉デート回です。寧ろ新婚旅行みたいなものかな?
投稿はいつになるかわかりませんが、でき次第アップします。
もしよろしければ番外編も楽しんでいってください。