輝利哉君のひ孫が大正時代にタイムスリップするお話 作:科学大好き人間
「わあ! 凄い! カナト兄さんが言ってた通り、本当にお湯の色が黄金色みたい!」
「ああ・・・すごいな・・・」
私は旅館の温泉の前で大はしゃぎしていた。一方、炭治郎は初めて目にするのか、驚きに目を見開いている。
「カナト兄さんが言うにはね、この黄金
「いや・・・そんなことはないと思うけど・・・鉄錆の嫌な臭いなんてしないし・・・いや・・・カナトさんが言ってたのならそうなのか???」
炭治郎が困惑してる姿が珍しくてつい私は笑ってしまう。そこで私は炭治郎をからかうつもりで追い打ちをかける。
「ふふっ、このお湯って刺激の少ない柔らかいお湯なんだって。しかも体の芯から温めて血行を良くしてくれるから、『子宝の湯』なんて呼ばれてるみたい。ねえ、炭治郎。私たちにぴったりだと思わない?」
そう悪戯な笑みを浮かべて私は炭治郎の腕に抱き着いた。
「ちょっ!? カナヲっ!? 急に何を・・・!! そ、それに、わざわざくっつかなくてもいいだろ///!?」
「え~? 別にこれくらい良いでしょ? 夫婦なんだから。二人きりなんだしそんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
「だ、だからって・・・他の人も入ってるかもしれないし・・・」
「大丈夫。今日この時間は貸し切りだから。カナト兄さんはここのお得意様らしくて顔が効くんだって。だから事前に頼んでもらったの。」
そう言って私が一糸まとわぬ姿で炭治郎の腕に抱き着いていると、炭治郎が「・・・カナトさん・・・そこまでして・・・」と呟いているのが聞こえた。
やがて炭治郎は観念したのか私に苦笑いを浮かべながらも微笑み返してくれる。
「それじゃあ湯舟に浸かる前に体をお湯で流そう。」
「うんっ! 洗いっこしようね!」
「いや・・・自分で洗えるから・・・」
再び炭治郎は力なくそう呟いていたが、私は気にせず炭治郎にかけ湯を浴びせて洗い始める。気のせいかな? 炭治郎の顔がもの凄く赤い気がする。お湯に入る前からそんなにのぼせて平気なんだろうか。
「カ、カナヲ・・・背中だけでいいから・・・」
「遠慮しなくていいのに~。」
「いや、遠慮とかではなくて・・・ちょっ!? そこは流石に自分で洗うって!?」
私が炭治郎の身体の隅々まで洗おうとしたところで逃げられてしまう。もう、恥ずかしがらなくていいのに・・・
「じゃあ今度は炭治郎が私のこと洗って。ちゃんと優しくしてね?」
「あ、ああ・・・わかった・・・」
炭治郎はカチコチだった。緊張してるのかな。もう結婚して一年も経つのに炭治郎は相変わらず恥ずかしがり屋さんみたい。まあ、そんな可愛い一面も炭治郎の魅力の一つなんだけど。
「ありがとう、炭治郎。そろそろお風呂に入ろう?」
「ああ、そうだな。」
炭治郎もだいぶ落ち着きを取り戻したのか、いつも通りの優しい微笑みを浮かべている。そのまま二人で温泉の傍まで移動する。
私達は温泉に浸かるとあまりの心地よさに思わず息が漏れてしまう。私も炭治郎も二人で笑い合う。
「二人で来て良かったな、カナヲ。」
「うんっ!」
私は炭治郎の肩に自信の頭を傾けて乗せる。私たちは暫く無言で温泉の心地よさを堪能していた。
するとふいに炭治郎が私に語り掛けてくる。
「こうして温泉に浸かっていると、刀鍛冶の里の時のことを思い出すな。」
「うん。そうだね。・・・そう言えばあの時私が一緒に温泉入ろうっておねだりしたのに炭治郎は頑なに断ってたよね? 今でも私あの時のこと思い出すと凄く悲しい気持ちになるんだけど・・・」
「うっ!! だって仕方ないじゃないか? あの時は恋人になったばかりだったんだから。いくらなんでも夫婦でもない男女が積極的に一緒にお風呂に入るのはおかしいって。」
「もう、炭治郎は本当に頑固なんだから。そう言えば眠る時も一緒のお布団に入れてくれなかったような気が・・・。 私、炭治郎に抱き着いたまま眠りたかったのに。」
「あ、当り前だろ? カナヲは嫁入り前の身だったんだから。そもそも夫婦でもない男女同士でお風呂もお布団も一緒に入るのはおかしいって・・・」
「むう・・・」
炭治郎は私の物言いに対して諫めるように言葉を返してくる。私はそれに不満を感じ、頬を膨らませる。
その様子を見て炭治郎は困ったように笑う。
「ははっ、今のカナヲを見てると初めて会った時のことが信じられなくなるよ。最終選別の時なんて他の剣士の子見捨てようとしてたくらいなのに。」
「っ!! それって本当に最初の頃の話でしょ!? もうっ! そんな時のことなんて思い出さなくていいからっ!!」
「アハハ、ごめんごめん。でもカナヲは最初そんなだったけど、俺の話を聞いてくれた後は積極的に他の剣士の子たちを助けてくれたじゃないか。俺はあの時からカナヲは優しくて思いやりのある子なんだなって気にはなってたよ?」
「えっ!! そ、そうなのっ!?」
「ああ、本当だよ。だから那田蜘蛛山で再会できた時は本当に嬉しかった。カナヲが鬼に殺されず生きててくれたこと以上に、俺あの時死なないで済んで良かったって心の底から思えたんだ。蝶屋敷で看病してくれた時も本当にありがとな。あの時はカナヲが傍に居てくれて本当に嬉しかった。」
「た、炭治郎っ///」
私は嬉しさで真っ赤になる。そんな前から炭治郎は私のことを気にかけてくれていたの? なんだろう。すっごく嬉しい。嬉しすぎて身体がむず痒い。思わず温泉を飛び出してしまいそうなくらいに。
「あれ? でも炭治郎が私に告白してくれた時ってずっと後になってからじゃ・・・」
ふと私はそれに気づき一気に冷静になる。もしかして炭治郎・・・私の機嫌を取るために嘘言ってる・・・?
「ああ、そうだな。はっきりと自覚したのは痣が出たことを認識した後だったよ。あの時はなんて言うか・・・想いを伝えなきゃ絶対後悔するって思ったんだ。カナトさんが背中を押してくれたおかげでもあるけど・・・」
「そ、そうなんだ・・・カナト兄さんが・・・」
私は炭治郎の答えを聞いて安心した。炭治郎の言ってたことは嘘偽りない本音だったんだ。私は嬉しさのあまり笑みがこぼれる。
「まあ、でも・・・カナヲがこんなに積極的な子になるなんて夢にも思わなかったよ・・・告白した日にいきなりお風呂や布団に一緒に入ろうとするんだから・・・」
「え? それの何がいけないの?」
「いや・・・カナヲにはさっき説明したと思うんだけど・・・」
「あれ? そうだっけ?」
私が首を傾げていると炭治郎はとうとう天を仰ぎ始める。
「いや・・・だから夫婦でもない男女がそんなお風呂も布団も一緒になんて・・・まずいってカナヲ・・・」
「? カナエ姉さんは結婚する前から頻繁に不死川さんの家でそうしてたみたいだけど・・・」
「頼むカナヲ・・・カナエさんの行いはあまり参考にしないでくれ・・・」
「? それにしのぶ姉さんだって結局柱稽古期間中はずっとカナト兄さんと一緒に添い寝してもらってたって言ってたし別に可笑しくないと思うけど。」
「・・・そんな・・・しのぶさんまで・・・」
ついに炭治郎が力なく観念した様子で声を漏らす。私は炭治郎がなんで困り果ててるのか一切わからなかった。
「と、とにかく・・・夫婦でもない男女がそうベタベタするものじゃないんだって・・・他の人がそれを聞いたらきっとびっくりしてしまうよ、カナヲ・・・」
「・・・そうなんだ・・・」
私はしょんぼりしてしまう。今まで私は、好きな人ができて思いが通じ合ったらずっと一緒でもいいと思ってたけど、どうやら世の中の常識は違うらしい。
私がうなだれていると心配させてしまったのか炭治郎は慌ててる様子だった。
「カ、カナヲ! そうは言ったが今は違うぞ!? 俺とカナヲはもう夫婦なんだから! これから先は一緒にご飯も食べるしお風呂も入るし一緒に眠ったっていいんだ。だからそんな悲しそうにしないでくれ、カナヲ・・・!」
私は炭治郎に振り向いて目をぱちくりさせる。炭治郎が余りにも狼狽えるものだからそれが可笑しくて思わず笑ってしまう。
「うふふ、そうだね。じゃあ約束して。これからは私がおねだりしたらお願いちゃんと聞いてくれるって。破ったら針千本飲ませるからね?」
「ああ、わかった。約束する。」
炭治郎は再び困ったように笑うが、私は嬉しくてつい炭治郎の肩に乗せた頭を擦り付ける。炭治郎から小さな笑い声が聞こえる。
「それにしてもこの露天風呂は本当に景観がいいな。外の紅葉が本当に綺麗だ。」
「うん。凄く綺麗。ちょうど紅葉の季節に来れてよかったね?」
「ああ、本当に良かった。」
露天風呂を囲う柵の外は朱色に染まった紅葉が広がっており、ずっと二人で眺めて居られそうだった。
ただ、いつまでもそうしている訳にもいかない。徐々に身体がのぼせてきているのを実感する。
「炭治郎。そろそろ・・・」
「あ、のぼせたか? カナヲ。先に上がるか?」
「炭治郎はまだ上がらないの?」
「ああ、痣が出たせいなのか、体温が高くて中々のぼせないんだ。せっかくの温泉だし、もう少し浸かっててもいいか?」
「うん。わかった。私、先に上がって涼んでるね?」
そうして私は炭治郎を残して温泉を上がる。湯上り用の手拭いでしっかりと身体の水気を拭いて、浴衣に着替える。
そのまま旅館の庭園が見える場所へと移動し、縁側で腰を下ろして涼む。旅館の外は一面紅葉の木が植えられていてとても鮮やかだった。
私は涼む傍らそれをずっと眺めて居た。
確か刀鍛冶の里に炭治郎と一緒に滞在した時も、紅葉の季節だった。あの時の私はとにかく炭治郎の傍を離れたくなくてずっとくっついていたような気がする。
あまりにも私が炭治郎を独占するものだから、時々禰豆子ちゃんと取り合いになったっけ。終いには二人で炭治郎の両腕に抱き着いていたなあ。
私がその時のことを思い出して一人で笑っていると、浴衣を着た炭治郎が背後に現れる。
「カナヲ。売店でラムネ買ってきたぞ。飲むか?」
「えっ! 本当っ!? ありがとう、炭治郎っ!」
「あはは・・カナヲはいくつになってもラムネが好きだな。沢山買ってきたから慌てずに飲むんだぞ。」
私は炭治郎からラムネを受け取り、瓶のビー玉の栓を開ける。シュワシュワと炭酸があふれ出し、瓶の飲み付きから僅かにあふれ出す。
私が慌ててそれを溢さないように口をつけていると、炭治郎はクスクスと笑っていた。
「カナヲ。そんなに慌てなくてもラムネは逃げないよ?」
「べ、別に慌ててないもん。」
私は炭治郎にからかわれて少しだけ恥ずかしくなる。でも炭治郎が私のことを優しく見守ってくれることがとても嬉しくて、私は思わず笑顔になる。
「ありがとう、炭治郎。今までで一番おいしいよ?」
「そうか。なら良かった。」
そう言って、炭治郎は私の隣で穏やかに微笑みを浮かべている。私はそんな炭治郎を眺めて居るととても幸せを感じる。胸の奥がじんわりと暖かくなる。
やがてどれくらい経ったのか、気が付けば私は何本も瓶を空にしていた。その様子に炭治郎は苦笑いを浮かべる。
「いつもだったら止めるんだけど、今日は特別な日だからな。充分堪能できたか? カナヲ。」
「うん。思う存分堪能したよ? 炭治郎もだいぶ涼めた?」
「ああ、そろそろ街に散策に出かけてもいいか。ここの石段街は情緒があっていいよな。ただ、結構上り下りがあるけどカナヲは平気そうか?」
「ふふっ、炭治郎。私これでも元柱だよ? 石段街の上り下りの一往復や二往復くらいどうってことないよ?」
「そうか。なら心配無用だな。ただ、どうしても足が痛くなったりしたら言うんだぞ? いざって時は俺がおぶってあげるから・・・」
「大丈夫だよ、炭治郎。でも、ふふっ、ありがとね。」
炭治郎はそう私を気遣ってくれる。自然と優しくしてくれるところも炭治郎の魅力の一つだ。恋柱様じゃないけど、胸が思わずキュンとする。
そうして私たちは身支度を整え、伊香保の街へと散策に出かけるのだった。
続く
これ、三話で終わるかな・・・まあその時はその時で。
次回は散策会です。伊香保について調べた内容を基に二人の様子を描写していく予定です。