脳筋学園カピトリーノ高等学校 作:クロアカ・マキシマ
来る時は謝罪ということもあって近くから歩いたけれど、帰りは楽をしようか。ということで待機させていた私の親衛戦車中隊を呼び出す。流石に謝罪相手に戦車で乗りつけるわけには行かなかったので自治区に入る手前に配備していたのだ。一応、万が一戦闘になった時の保険として戦闘体制を取らせていたが、使うことにならなくてとりあえずは一安心。
校門の前で戦車隊を率いる私の右腕、万神リアを待ちつつ、今回のことをどう姉様に報告しようかと私は頭を巡らせる。特に建設部の連中への処分は難しい。問題児とはいえ都市の整備には欠かせない上に、戦闘時には工兵としても働くという性質上即応できる状態にはしておきたい。
それをメナに相談しようとしたとき、突然メナに押し倒される。
「ユリ様、敵です。」
ダダダダダダダダダダダダッ
次の瞬間、私たちの頭上に弾丸が通過していく。直ぐに立ち上がってわけもわからぬまま今さっき出てきた校門の中に入る。射線を切るように隠れると校門の前にわらわらと敵が姿を現した。
ヘルメットを被った数十人の生徒達が猿のように喚き散らしながらこちらに向かってくる。どれもこれも顔を覆い隠すようなマスクとヘルメットを被っており、なんとも珍妙だ。どこかの特殊部隊かと思ったものの、立ち振る舞いがそれを否定している。
もしかして私が狙いかとも考えたものの、口々にアビドス高校への低俗な因縁を捏ねているので悪いのは私の運であるらしい。もしも、あれがカモフラージュだとすれば敵はよほどバカの生態に詳しいのだろう。
「オラオラーー!、ぐだぐだヘルメット団様のお通りだ。」
「今日こそ学校を占拠させてもらうぜ。」
オラついているといってもなんというかチンピラ的で、訓練を始める前の新兵のようないきり方をしている。それに呼応するように、校舎からさっきの三人が飛び出してくる。
襲撃にかち合うとは運がないと思っていたが、これはあの小鳥遊ホシノの戦闘を間近で観測できるよいチャンスだ。一向に尻尾を掴めなかったが、ここでその力の一端を伺い知ることができるかもしれない。さっきのなんちゃら団の口上を聞く限り、何度か襲撃されているのだろうか。対策として校舎から門までにはよく見ると遮蔽物となるものが転がっている。建設部を追い散らした小鳥遊ホシノが負けるとは考えにくいし、そのうちリアが戦車を率いてくるはずだ。茶々を入れつつ物陰から戦闘を観察しよう。と思っていたが......
「ノノミ先輩たちがもう少しで帰ってくるはずなのに、なんでよりによってこんな時にくるのよ!!!それにこの間の襲撃で弾なんてほとんど撃ち尽くしちゃったわよ。」
「ん、弾薬はあとこれだけ」
「おじさんは撃ち尽くしちゃったから盾で戦うかなぁ」
始まった銃撃戦の合間から聞こえてくるアビドス側の会話はあまりに酷い現状を表していた。
「ユリ様、アビドスはまともに弾薬を購入できていないほど財政が厳しいようです。窮状は聞いてはいたのですが流石に想定外でした。」
とメナが囁く。というかもしかして弾切れの原因ってうちの高校か。建設部を退かせるためになけなしの弾を吐き出してしまったのだろう。
とはいえ、本格的に参戦しようにも私たち二人は最低限の自動小銃しか装備していない。謝罪に来たわけなので弾も大した量を持ってきていない。直ぐに撃ち尽くしてしまう量だ。一応、遮蔽物を校舎のほうに伝いながらアビドス組の近くまできたもののどうしようか。
そう思っていたら弾幕が薄いと見たのかチンピラの一部が強引に突出してくる。どうやら小鳥遊ホシノは反対側で盾を奮っての大太刀回りを見せているようで、こちらには対処できなさそうだ。仕方がないのでダメージが通りやすそうな首を狙って数人を倒す。その音で敵の突出に気が付いたのか、アビドスからの銃撃によって突出した分隊はあっという間に全滅した。
それにしても凄まじい人数差での戦闘にもかかわらず高いレベルでの連携を維持して敵を要所要所で釘づけにしている。是非とも私の親衛隊に欲しい人材だ。徐々に校舎に向かって引きながらの遅延戦闘は教科書に載せたいくらいの素晴らしいものだ。
そうしたアビドス側の粘りがやっと報われる時が来た。
ドゥオーーーーン
敵の後方で榴弾の派手な着弾音が轟き、続いてエンジン音が徐々に大きくなってくる。やっとリアの戦車隊が到着したらしい。
そこからは一方的な戦闘だった。校舎前の道をふさぐように進んできた戦車によってチンピラの退路は完全に塞がれ、戦車からの砲撃と機関銃の掃射によって瞬く間に倒れ伏した。
そして次のターゲットとして校舎に砲塔を向けたところで私がアビドスと戦車の間に出なかったらおそらく余計な戦闘が発生していただろう。どうやらメナからは襲撃とだけ聞いていたようで、私たちが交渉に失敗してアビドスから攻撃されたと誤解していたらしい。
同じく戦車を警戒していたアビドスの3人にも味方である旨と状況を説明し、一個小隊を警戒にのこして残りは校庭に止める許可を取り付ける。
「ユリ様、ご無事ですか。」
「ぐえっ」
停止するや否や先頭の戦車から飛び出した大柄の少女に私は押しつぶされる。こいつは万神リア。メナと同じく
「うへーー、かなりの規模の部隊だね。戦車だけで10両以上もあるや。」
「んっ、宝の山」
「シロコ先輩、物資を勝手に漁っちゃだめですよ。」
「よろしければこちらをお使いください。セリカさんのほうは薬莢のサイズからしてこちらのほうがよろしいでしょうか。あとは散弾のほうはこちらです。」
先ほどの戦闘で弾薬が完全にきれたアビドス組にはメナから補給物資を提供する。
やっと人心地ついたと思った私に補給を終えた小鳥遊ホシノが近づいてくる。
「いやー ホントに助かったよ。ところでユリちゃん。こんな戦力で一体何をしようとしていたのかな?」
そこから小鳥遊ホシノの疑念を解くのは大変だった。先ほどまでとは全く違う鋭い眼光を放つ彼女は、どうやらこの戦力でアビドスを乗っ取ろうとしていると誤解しているようだ。単に親衛隊がついてきただけなのだが、なにしろ交渉が決裂したときの見せ札くらいには考えていたので否定するのも難しい。
結局気絶しているヘルメット団というチンピラを引き取る代金として歩兵1個小隊分の弾薬を渡すことでその場を収めることができた。これなら最近建設部が立てた闘技場での見世物用に使えば費用は回収できるだろう。それに加えて関係を築くためにも定期的に弾薬を送ると伝えると驚くほど喜んでいた。弾薬程度でこの地域の安全が保障されるのならば安いものだ。なにより、小鳥遊ホシノという戦力をこちらに引き付けておけるのが大きい。
さらに遅れて炊事車や野営用の物資を積んだ部隊が到着し、調理を始めたことで校庭は一気に和やかな空気に包まれた。アビドスの残りの2人も外出から帰ってきたことで、交流会の様相を呈し始めた。
ただ、その中で一つ気になる情報を手に入れた。なんでも、カイザーという企業がアビドスを乗っ取ろうとしているらしく、ヘルメット団とやらもその差し金らしい。小鳥遊ホシノが疑ってきたのもそのあたりが原因だったようだ。なんとも不遜な名前の企業だがなかなかの力を持っているようで、既にアビドスの土地をかなり抑えているのだとか。厄ネタの匂いがするが報告をしないわけにもいかない。私は面倒ごとが増えそうな未来を心配しつつ、ひとまずアビドスから去るのだった。
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