脳筋学園カピトリーノ高等学校 作:クロアカ・マキシマ
「そいつらはカイザーと言うのか?」
「えっ、ええ。 聞くところによるとそう名乗っています。メナの調べによりますと金融から軍事まで幅広く手を広げているようで、アビドスにも基地を作っているそうです........お姉様?」
私の姉にして
「許せん!外交使節として他校に訪れた相手を狙うとは何たる卑怯者だ。よりによってこの皇カエの妹を狙うというのは我が校に対する挑発以外の何物でもない。そのうえ、何の断りもなくカイザーを名乗るとは、とんだ無礼者だ。私直々に消し炭にしてくれる。」
「待って下さいお姉様。落ち着いて聞いてください。まだそうと決まったわけではありません。あえて私を狙ったというわけでもなさそうです。今仕掛けるのは早計です。」
やっぱりこうなったか。いつものこととはいえ今回の相手はブラックマーケットにも深く根を張っている曲者。このままでは大戦争を始めることになりかねない。
「ええいっ、これが大人しくしていられるか、ユリ、お前は悔しくないのか?我が友邦たるアビドスが得体のしれないクズに侵略されているのだぞ。それとも軍事拠点まで築かれていて侵略されていないとでも言う気なのか?逆にこちらがアビドスを保護すれば
「友邦といっても正式な防衛協定を結んだわけでもありません。まだ関係を築き始めたばかりです。下手に動くとこちらがアビドスから敵認定されてしまいます。それに絶対最後が本音ですよねお姉様。これ以上勢力を広げても管理ができません。地下にでも潜られたら厄介なことになりますよ。」
「友邦になったからこそ早く動く必要がある。トリニティあたりに巻き取られてみろ。そっちのほうが厄介この上ない。それに例の忌々しい条約に向けてトリニティもゲヘナも動けないはずだ。お前は手をこまねいてみすみす奴らの手に落ちるのを待てというのか?」
「いえ、ただまだ敵の全容が分からないうちに動くのは得策ではないかと。それに、お姉様まで行かれるとなれば元老院の方はどうするおつもりですか。」
元老院、それは各部活・組織の長が集まって学園の方向性を決める意思決定機関だ。強引な軍事力の行使はここの反発を招きかねない行為だ。
「いや、軍事基地が分かっているならそこをたたいて他をあぶりだせばいい。それにちょうど親衛隊は訓練のためにここに集まっている。動くなら今が最適だろう。よし、私が親衛隊の本隊を率いてカイザーとやらの基地を叩く。ユリ、お前はいつもの戦車中隊に加えて歩兵を一個大隊率いてアビドスを守れ。ついでに建設部のやつらを連れていって、防御を固めさせろ。それから元老院なんぞ暇している監察官にでも任せておけばいい、やつも戦車レースの合図以外の仕事ができて嬉しいだろう、それに
「「はっ!!」」
こうなったらお姉様は止められない。
「分かりました。こちらもカイザーについて小鳥遊ホシノから可能な限り情報を引き出してみます。」
広がる戦線、増える軍事費。頭が痛くなりそうな状況を呪いながら私は粛々と出発準備を進めるのだった。
お姉様がすぐに出撃だといくら息巻いてもキヴォトスは広い。カピトリーノの本校舎からアビドスまでにはいくつかの自治区を越える必要があるし、間には川やら山やらがいくつも連なっている。
身軽な戦車中隊ならともかく補給部隊や重機まで引っ張るとなればそれなりの準備が必要だし、移動にも何倍かの時間がかかる。それに伸び切った補給部隊への防衛にも手を回しておかないといけない。
そのうえ、いざ出発となったタイミングで連邦生徒会長が失踪するという意味不明な事態が発生。中央の3大校の連中が随分すったもんだ揉めた挙句になんとか喫緊の危機は回避されたらしいが、肝心の連邦生徒会長は未だに行方不明。西方辺境のうちの学園にはもともと影響は小さい上に、口うるさい連邦生徒会の連中からの圧力が減るのはありがたい。とはいえ、カイザーのような胡散臭い害虫がこれを機に動き出す可能性も否定できない。中央が収まった頃合いを見て一気に行動を起こすことにした。
が、それは遅きに失していた。
アビドス自治区の境界に差し掛かったころ、先行させていた斥候からアビドス郊外で大規模な戦闘が勃発しているとの報が入る。それも、迫撃砲やそれに類するものまで確認されており、以前のような単純な銃撃戦とは打って変わった本格的な侵攻が行われていることを示していた。
そうであれば事は一刻を争う。
「私は戦車中隊で先行して敵を強襲します。メナ、歩兵の指揮はあなたに任せます。索敵範囲を広げて退路の確保を優先しなさい。いざとなったら自治区の境まで引いてカイザーの基地に向かったお姉様の本隊との合流を目指します。」
「「はっ」」
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しかし、この時のカピトリーノ側の認識は結論から言うと完全に間違っていた。アビドスに押し寄せてきたのはカイザーではなくゲヘナの風紀委員会。そしてその表面上の目的はあくまで校則違反者たる便利屋68の確保であった。風紀委員会によるいきなりの砲撃から便利屋68の引き渡し要求。それが決裂したことで生じた乱戦が始まった瞬間だった。ユリ率いる戦車隊はエンジンの重低音を響かせて戦闘音のする方に交差点を曲がる。が、そこは完全に両勢力入り乱れた乱戦の真っ只中だった。
「えっ」
「この戦車は一体?」
「風紀委員会め、こんな奥の手まで隠していたのか。」
「待って、あれは敵じゃないはず。」
「いったいどういうこと?」
「アルちゃん、隠れないと」
乱戦状態の両勢力は突然現れた戦車を新たな敵勢力かと誤認、そしてその一方で突然戦闘に突っ込んでしまった戦車隊の混乱も頂点に達していた。そこでユリによって下された命令。
「撃ってくる連中、銃を向けている連中は構わず撃ちなさい!!!!」
その戦車に見覚えがあるアビドス組以外、誰もが警戒のために反射的に銃を向けている状況でその命令は事実上の無差別攻撃命令に他ならなかった。
ガガガガガッ
ダダダダダダダダダダッッ
ドォォォォォンッ!!
ズガァァァンッ!
一瞬の静寂の後に放たれた銃弾と砲弾の嵐。厚い装甲をもつ戦車に放たれた銃弾はほとんど効果を得られない一方、戦車から放たれた砲弾も狙いを絞り切れなかったがために至近距離にもかかわらずほとんど命中しなかった。それどころか、的を外れた砲弾は街路樹や街灯をへし折り、挙句に近隣のビルに着弾してそのフロアごと吹き飛ばした。辛うじて効果を発揮した機関銃は不幸な風紀委員を何人か吹き飛ばしたにとどまる。
戦車の中からでは高度な状況確認はできない。砲撃による煙と粉塵による視界不良は敵味方の状態が確認できないほどで、戦場の混乱はより一層深まりつつあった。ユリは一旦態勢を立て直すために攻撃を止めて陣形を立て直しに入る。一方で戦車の外の両勢力も新たに生じた遮蔽物に身を隠す。ここにきて両者は完全に膠着状態に陥った。誰もどこに誰がいて、誰が敵なのか味方なのか分からない。
この状況を終わらせたのは二人の少女の戦場への到着であった。
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