脳筋学園カピトリーノ高等学校   作:クロアカ・マキシマ

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第6話

破壊された基地に次々とカピトリーノの部隊が突入し、大した抵抗もないままに基地を制圧していく。まるで砂糖にたかるアリの群れのように基地はカピトリーノの生徒による草刈り場と化していた。

 

画面の向こうであらかたカイザーPMCの基地の制圧が終わるまで無言だった場を終わらせたのは奥空アヤネだった。

 

「あっあの、確かにカイザーコーポレーションは合法と非合法の間のような事をしていると聞いています。けれどもっ、直接PMCの基地に襲撃をかけるのは連邦法的にも問題があるのではないでしょうか?」

 

 

その言葉に思わずメナがこちらを向き、リアは理解ができないといった顔をしている。話をはじめようとしたメナを手で制し、私は一歩前に出る。

 

「もちろん、連邦法を文字通りダース単位で破っておりますわ。しかし、先生の前で言うのは心苦しいですが、一体誰が咎めると言うのでしょうか?」

 

「何言ってんのよ。そんな事をすれば。連邦生徒会が黙って…」

 

そこまで言って、全員が口を閉じる。

 

「そう、厄介な防衛室長さんは会長の失踪から上が空いたのを見て内部で空回りしております。ヴァルキューレはいつもの通り、アビドスやカピトリーノの自治権を考えたら直ぐには手を出せないでしょう。そもそも中央がごたついている中で連邦生徒会がカピトリーノ(うち)と事を構えるような判断をするのは難しいですわ。」

 

実際問題、こちらを咎める声明を出すのにすら数日かかることだろう。仕事量が爆発的に増えた今、D.U.の管理で手一杯の連邦生徒会に外部に目を向ける余力は無い。

 

「肝心のSRTですが連邦生徒会長の失踪以来、完全に動きを止めておりますわ。下手をすれば解体まで囁かれる始末で、こちらの対処は到底出来るとは思えません。動けるとすればそれこそ三大校くらいでしょうが、カイザーはこの三校からの反感を買っていおります。各校の内部的にも連邦法をもとにした実力行使に踏み切るのは無理でしょう。

いつもであればカピトリーノの頭を抑えにくるような厄介な方々からの支持がないのですから、あとは力の論理だけが残ります。そう、カイザーはもはやただの獲物に過ぎないのですわ。

実際、今まさにカイザーがアビドスに基地を作っても連邦生徒会は部隊一つ支援に寄越していないのは皆さんもご存知のはず。同じようなことをカピトリーノがしても誰が助けに来るのでしょうか。それにお姉様がケルスキ自治区を強引に組み込んだ時も、スエビ自治区を破産させて土地を接収したときも、なにやら口を挟んできましたが、出来たのはそれだけです。所詮はその程度ということですわ。」

 

ゲヘナがおとなしく撤退したのと合わさって、想像以上に中央の混乱はひどいらしい。三大校も動きたくはないだろう。

 

「全部あなたたちの思惑通りってわけね」

 

「そうですわ。これで詰みというわけですわ。」

 

そう、カイザーは詰んでいる。中途半端にアビドスに手を出してくれたおかげで思いっきり叩き潰せるし、ため込んだ財貨を吐き出させることもできる。ミツバチにはここで退場してもらって、ここからは得たハチミツでどこの安定化を図るかなのだ。

 

 

 

 

 

思わず饒舌に語った私に向けられたのは賞賛ではなく銃口だった。

 

 

「なるほど、そうやってアビドスも乗っ取る気なんだね。」

 

「アビドスから奪いつくすなんて絶対に許さない。」

 

 

目の前には完全に戦闘態勢に入ったアビドスの面々が並ぶ。

 

 

「えっ」

 

 

「「ユリ様..」」

 

 

私はアビドスを乗っ取る気はさらさらないんだけど、なぜかそれを宣言したような扱いだ。リアとメナの2人もどこか呆れたような表情をしている。

 

 

あれ?やっちゃったかな。

 

誤解を解く間も無く戦闘に入ろうとするアビドスの面々。さっきまで饒舌だった舌は今は全く回らない。ただ意味のない音を発するだけだ。

 

しかし、こちらには荒事になれたリアがいる。私がフリーズしたとみるや否や即座に万が一に備えて廊下に展開させていた部隊を部屋に突入させ、入れ替わるように私を担いで廊下に飛び出す。

 

 

 

ダダダダダダダダダダッッツ

 

ガガガガガガッツ

 

 

一瞬遅れてアビドス側から銃声が轟き、突入させた部隊がさらに一瞬遅れて沈黙した。

 

そこからはまさしく地獄だった。

 

 

 

校庭から駆けつけてきた部隊を必死に指揮しながら廊下を撤退するものの、完全に戦力の逐次投入になってしまう。投入しては倒され、倒されては増援が駆けつける。悪手も悪手だが、そうしないと次の攻撃が防げない。

 

そして、それ以上にアビドス側の戦力が想定以上だった。もちろん、突然指揮を始めた先生のもとで連携して戦うアビドスに対し、急造の混成部隊で指揮系統がぐちゃぐちゃになったカピトリーノという差は大きい。

 

しかし、だからと言って5人で中隊や大隊規模と撃ち合うというのは現実的ではない。

 

 

「神秘が濃いとは聞いていましたがこれほどとは」

 

その原因は間違いなく神秘の質にあるのだろう。

濃い神秘によって強化されたアビドス側から放たれた弾丸は容易にこちらの意識を刈り取る一方、こちらの弾丸は数発当ててもふらつかせるのが精々だ。戦車の手法でも撃てば違うのかもしれないが同じ武器でここまで差がつくとは。

土地の歴史が溜め込んだ歴史が神秘を育むとは聞いていたものの、ここまで"濃い"とは恐ろしい。やはり東方(オリエント)はこれまでのような西方(オチデント)でのようにはいかないのだろう。

 

 

 

が、そんな悠長なことを考えている時ではなかった。

乱戦の中で小鳥遊ホシノの放った弾丸がリアに命中、前線を張っていた指揮官がやられたことで混成部隊は次々に討ち取られていった。危機を察した戦車部隊が校舎ごとの砲撃の許可を求めてきたが、ここで撃っても仕方がない。誤射をするのが関の山だ。

 

 

「ユリ様!!!」

 

そうこうしているうちに、メナを含めて残っていたこちら側の部隊が全て気絶させられた。そして、私の頭には小鳥遊ホシノの銃口が付けられる。

 

 

やばい、やばい。このままではぶち殺される。いやいや、話し合いの途中に銃を構えるなんてなんと野蛮な連中なんだ。もし仮に無事に帰れたとしても、たった5人に大隊率いて負けたとあれば本国でどんな目に遭うか分からない。そう、私のやるべきことはここを口先三寸で誤魔化すことだけだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「会話中に銃を向けるとは、アビドスというのは随分と野蛮ですわね。」

 

銃を向けられていてなお、皇ユリはその振る舞いを一切変えなかった。それどころか批難の面持ちで小鳥遊ホシノを睨んでいる。

 

 

「それは、あなたがアビドス自治区を潰そうとするからっ!!」

 

 

 

「それは悲しい誤解ですわ。我々にその意思はありません。それに例えそうだとして今ここで私を攻撃してどんな意味が?」

 

黒見セリカの主張に対しても堂々と誤解であると主張し、一切の表情の変化がうかがえない。

 

「ここで私を捕らえたところでカピトリーノに侵攻の良い口実を与えるだけです。人質になるどころかお姉様はこれ幸いと全軍をアビドスの制圧に向けるでしょう。」

 

「脅す気!そっ、そうなったら迎え撃てばいいのよ!」

 

「無理でしょう。自治区郊外から砲兵で耕して終わりです。カピトリーノは個人の力が生きる室内戦闘を好みません。街ごと破壊してしまえばそんなものに関係なく制圧が可能ですからお姉様は必ずそれを選ぶでしょう。」

 

「そんな...」

 

皇ユリは淡々と続ける。

 

「お気になさらず。仮定の話です。何度も話している通り、そもそも我々、少なくとも私にはアビドスを統合することを望んではいません。」

 

「信用できません。カピトリーノはこれまで多くの自治区を飲み込んできたと聞いています。アビドスだけが例外とは考えにくいです。」

 

「ん、信用できない。」

 

 

「それはその通りです。残念ながら我が校にそうして勢力を広げようとしているものが多いのもまた事実です....」

 

「やっぱり、はじめっからアビドスを支配しようとしていたのね。」

 

「絶対にゆるさない。」

 

シロコが銃を突きつけるものの、どんどん皇ユリの様子がおかしくなっていく。突然の豹変ぶりに驚くアビドス組をよそに、皇ユリは爆発した。

 

「だけど、だけど、もう。限界なんですのよ。」

 

先ほどまではまるで鉄仮面でも付けているかのような澄まし顔をしていたものの、今やその目からは大粒の涙がこぼれていた。それだけでは足りず、声は震え、手は強く握られている。

 

「一体どういうつもりですの? 統治する気もないくせに支配域ばかり広げて! その後の管理? 全部わたくし! 全部! 復興の予算? ゲリラになった残党の対処? 連邦生徒会だとか、他校との調整だとか? 全部わたくしなんですのよ!!」

 

声を荒げてさらに続ける。

 

「アビドスですって? そんなものを手に入れて、何が嬉しいんですの!? 砂漠に埋まってるかもしれない古代の遺物程度でまかなえるほど親衛隊の出費は安くないですのよ!」

 

気迫に押されてアビドスの面々は構えを解いていた。

 

「考えてみなさいな! あの寂れた街と脆弱すぎるインフラを整えるために、どれだけの予算が必要だと思っているんですの!? しかも砂漠化の対策まで加えたら……もうどう考えたって足りませんわ! どんな計算をしたって足りませんのよ! しかも、産業? そんなものありません! アビドスには何もないんです! 本国からも遠いから対応するのだって骨が折れますのに、東方の三大校から横槍を入れられるに決まっているんです! イテッツ」

 

アビドスをこき下ろし始めた事に対してシロコが小突くも意に介さず勢いよくしゃべり続ける。

 

「それに訳の分からない廃校対策委員会以外元から統治機構なんてありませんのよ!? 統治機構がないものを、一から作るんですのよ! わたくしが! それを任せられる人材がカピトリーノにいると思いますの? いませんのよ!!」

 

 彼女は崩れるように座り込むも、吐き出すべき言葉はまだまだ尽きないようだ。

 

「それに……おまけに……連邦生徒会から変な虫まで送られてきて……。資産が有り余っているカイザーならともかく、わたくし達には何の旨味もありませんの!…ッ……けほっ、けほっ……!」

 

そこまでいって皇ユリは座り込んで髪の毛をいじり始めた。彼女にはもはやカピトリーノのナンバー2としての威厳もなにも感じられなくなっていた。

 

 




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