撃沈戦記:架空版:Ⅰ   作:渋川雅史

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 「撃沈戦記」この題名に心当たりのある方は私と同年代のミニタリーマニアです(笑)
コンセプトは廃刊となった「シーパワー」誌(編集長はあの岡部いさく氏!)に連載され、朝日ソノラマから単行本として発行された連載と同じ、1隻あるいは2隻の軍艦を主人公とし、
1.その艦が建造されたコンセプト・歴史的背景・その艦が撃沈される最後の戦いまでの略歴
2.最後の戦いの発生経緯、戦況の流れ
3.その艦が沈むまでの戦いにおける活躍
4.その艦が沈んだ事とその戦いがその後に与えた影響
を描く、その際特に2.の一部、3.のほぼ全て、4.の一部についてはフィクションを挿入する
以上の方針で作品を構築します




撃沈戦記:架空版

米戦艦ワシントン・サウスダコタ 第一章

 

第二次ロンドン軍縮会議

あまり知られていないが、ワシントン会議、ロンドン会議に続く第3ラウンドとして開催されたのが、第二次ロンドン軍縮会議である。保有トン数対英米比率6割に不満を募らせていた日本の態度から、まとまる見込みのない会議だった。しかし、事態をさらに難航させたのは、英国が提案した戦艦主砲口径上限を14インチ(35.5cm砲、日本では36cm砲と呼称)とする案であった。

一連の軍縮条約が、突出する日本に枷をはめることを目的としていたのは否定できない。しかし、どの国も(米英はもちろん日本も)果てしない建艦競争を望んでおらず、その無意味さも理解していた。特に英国は、ジャットランド沖海戦の当事者として、この問題に強い危機感を抱いていた。

 

ジャットランド沖海戦と装甲の脆弱性

“There seems to be something seriously wrong with our bloody ships!”

(「俺たちのフネはどこかが!酷く!おかしいぞ!」)

これは、英グランドフリート副司令長官であり巡洋戦艦部隊司令官でもあったビーティ中将が、ジャットランド沖海戦の最中に発した言葉だ。この戦いでは、クイーン・メリー、インディファティガブル、インヴィンシブルの3巡洋戦艦が轟沈するという悲劇が起こり、彼の旗艦ライオンも危機一髪の状況に陥っていた。

設計上は耐えられるはずだった独巡洋戦艦リュッツオウの12インチ(30.5㎝)砲弾が、ライオンのQ砲塔装甲の継目に命中して砲塔内部へ貫通。砲塔は大破し、瀕死の砲塔指揮官が弾薬庫への注水と扉閉鎖を命じなければ、轟沈艦はもう1隻増えていた可能性が高い。

軍艦の装甲板は、設計者と運用者の間で暗黙の了解として「中央に命中すること」を前提に防御力を算定されている。しかし、現実はそう都合よく行く筈はない。もし装甲板の端や継目部分に命中した場合、その脆弱さが露わになるのはライオンの例が示す通りだ。

たとえ格下の砲弾と言えども命中すれば、貫通されなくても命中箇所の装甲の変形、剥離、脱落は避けられず、その部分は防御力を喪失せざるを得ないのである。

さらに、16インチ(40.6cm)砲弾の重量は1tを超え、弾着速度は音速の2倍に達する。たとえ装甲を貫通されなくとも、その被弾衝撃に耐えられる取り付け部構造を実現することは不可能だ。

 

測距儀と戦艦の脆弱性

更に、戦艦の主砲を自らの動きと揺れを含めてコントロールし、1万m以上の先に存在する敵艦に命中弾を与えるのに必要な測距儀や方位盤(機械式計算機)は、その性能が命中の有無を大きく左右する重要な装備だ。しかし、これらの精密機器が砲弾の被弾衝撃に耐え続けることを期待するのは非現実的だった。

要するに、戦艦という兵器体系は航空機や潜水艦の発展を待つまでもなく、設計そのものが自己矛盾を孕んでおり、すでにその存在意義を失いつつあったのだ。そんな兵器に国費の多くを費やし、建艦競争やキャリバー・レース(砲口径競争)を続けること自体が悪夢でしかない――それが英国の本音だった。

しかし、日米海軍はお互いを仮想敵とする無言の睨み合いの中で、このような危機意識を比較的薄くしか持ち得なかったのは致し方ないだろう。

 

ノースカロライナ級戦艦の設計と課題

米国のノースカロライナ級戦艦ワシントンは、このような第二次ロンドン軍縮条約の影響を強く受けた艦である。当初は条約に従い、主砲を14インチ砲12門(4連装砲塔×3基)とする計画だった。しかし、条約が破棄される可能性を見据え、設計段階から16インチ3連装砲塔×3基に換装できるよう準備されていた。

ちなみに、この艦が最終的に16インチ砲を採用することになったのは、米国の条約全権が「貴国の新戦艦の主砲は16インチか?」と日本の全権に質問し、無言を貫かれたことがきっかけである。米側はあらかじめ「返答なし=肯定」と解釈すると決めており、16インチ砲の搭載を決定したのだ。

攻撃力の強化、すなわち主砲の交換はスムーズに進んだが、問題は防御力だった。さすがに14インチ砲艦に当初から15~16インチ砲対応の防御力を持たせるなど、議会で予算承認を得られるはずもない。装甲厚は対14インチ砲対応に留まり、防御構造には可能な限りの工夫を凝らしたものの、安全圏は狭く、15~16インチ砲にはある程度耐えられるという「想定」に過ぎなかった。

 

サウスダコタ級戦艦の設計と集中防御方式

やがて、日本の新戦艦が16インチ砲を搭載することが確実となると、米海軍は初めから16インチ砲搭載と対16インチ防御を備えた艦の建造を求めた。これにより建造されたのが、サウスダコタ級戦艦である。

サウスダコタ級は、ノースカロライナ級の武装をそのまま維持しつつ、防御力を強化する――つまり、対16インチ砲の防御力を備える設計だった。しかし、第二次ロンドン軍縮条約による基準排水量35,000トンの制限は、この艦にも影響を及ぼしていた。

設計段階から、全長の短縮やパイダルパート(要防御箇所)を集約し、その空いたスペースを装甲防御に回し、更に装甲を構造材の一部として取り込むことで軽量化を図る集中防御方式を採用した。この手法は、日本の大和型戦艦にも採用された方式である。

しかし、ノースカロライナ級と比べて船体が短縮された結果、船腹が厚くなり、水の抵抗が増加。これにより、前級と同じ最大速力27ノットを維持するために機関出力を増強せざるを得なくなった。その結果、以下の問題が発生した

・機関スペースの増加によって、燃料搭載量が減少。これにより航続距離が短くなり、居住性も悪化。

・波を切る性能(凌波性能)が悪化し、悪天候下での航行が危険に。

・防御区画の隔壁が狭く、脆弱な箇所が多かった。

つまり軍縮条約下で設計建造された日本の吹雪型や初春型駆逐艦、或いは千鳥型水雷艇と同様に3万5千tの船体に過大な攻撃力と防御力を「靴べらで押し込んだ」艦だったのだ。

 

友鶴事件や米海軍の鈍感さ

更に集中防御方式は排水量増加を防ぎつつ、戦艦の防御力を強化することを期待されて採用されたが、実際には大問題を抱えていた。これが第三次ソロモン海戦で最悪の形で露呈することになる。

余談だが、船体キャパシティを無視して兵装や装甲を詰め込んだ結果、復元性が不足する問題については米海軍は深刻な被害を経験しなかったため、現在に至るまで鈍感だと言える。イージス巡洋艦タイコンデロガ級を見ればお分かりいただけるだろうが友鶴事件や第四艦隊事件のような悲劇を経験しなかったことが影響しているだろう。

 

ワシントンの大西洋配備と太平洋回航

ワシントンは就役後しばらく大西洋方面で活動し、英海軍の指揮下で船団護衛に従事していた。英海軍の新戦艦キングジョージ5世級では、ドイツの新戦艦ビスマルク級ティルピッツとの1対1の戦いには力不足と見られていたため、ワシントンの配備はその備えであったが、早期に就役させてその後の不具合是正や慣熟訓練に多くの時間を費やすのが今も変わらない米海軍の方針なので、一行に外洋に出てこようとせず英空軍や英海軍の特殊潜航艇に滅多打ちにされているティルピッツと遭遇する可能性は低いと見て、習熟訓練という一面も合った。

その後、ワシントンは僚艦ノースカロライナとともに太平洋へ回航され、米軍の反攻の足掛かりであるソロモン諸島での作戦、「ウォッチタワー(望楼)」に投入される。この作戦は日本が設営したガダルカナル島の飛行場を奪取し、日本側の米豪分断計画を阻止するのが目的である。

日本側だけでなく米側にとっても凄惨なガ島戦役(Guadalcanal Island Campaign)が最終的なクライマックスを迎えようとしていた。

 

 




次回予告
「飢島」と化したガダルカナル島、不確かな情報と希望的観測、組織文化と軋轢…もろもろをが露呈する中、腰の定まらない攻勢を続ける日本側。どん底の兵力と試行錯誤の連続、それでもヘンダーソン飛行場にしがみつき続ける米側。
天王山、第三次ソロモン海戦への経緯をお話ししましょう

あとがき
檜山氏や霧島氏の架空戦記で、大和や武蔵が続々と米戦艦を屠っていくという展開に心躍らせ、そこからこの道に入っていった方は多いのではないでしょうか?
私も似たような経緯でこの道に入りましたのでその気持ちは痛いほどよくわかります、しかし×十年もこの道を歩み続け、毎月「世界の〇船」「〇:まる」「歴〇群像」などを読み続け、病膏肓に至ってしまうとどうしても
「そんな状況はありえたのか?」
という心境に至ってしまうようです。
これから連載するこの架空戦記はそんな私の一つの結論です。
今回の舞台は第三次ソロモン海戦、私の考える限り大和が米戦艦に「戦術次元」で勝利できた可能性のある唯一の舞台です。
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