普通って、中学を卒業して、普通の高校に入って、成績も中の中、文化系の部活の幽霊部員になって、そのうち彼女が出来て……
そんなもんだと思っていた。
普通は難しい。
中学では成績が中の下だった僕も、今ではケツから順位を数えた方が早い。
一学期の終わり、仮入部期間が終わる。ホームルームが終わり、授業が終わり、放課後が始まり、みんなの青春が始まる。
クラスのみんなは各々、各部活の象徴となる武器を持って、放課後に望むというのに、僕はまだ、どこにも属していない。
幸い、この高校に部活を強制する校則は無いため(ソレが自分にとって良いことなのか悪いことなのかは分からないが。)
だから、僕はこうやって自分の机にうつ伏せになっているわけだ。(決して眠いわけでは無い。)
ふと顔を上げると、黒髪ロングヘアの首に鈴を付けた少女が、クラスメイトと楽しそうに談笑していた。
彼女の名前は
と言っても、彼女と会話を交わしたのは小学生が最後で、中学に入り、一学年の人数が増えてしまい、クラスが変わってしまって、そこから彼女も変わってしまって。
赤いゴムで2つに括っていたツインテールは、今のようなストレートになってしまったし、高校になってからは化粧もするようになった。
って僕は何を言ってるんだろうか?
幸い、彼女は、他の女子生徒たちとの会話に夢中で、僕のことなんて眼中にないので、マジマジと見ていたことはバレていないだろう。
ふーっと一息つき、また僕はうつ伏せになる。
授業は疲れないけど、この体勢は疲れる。
特に肩甲骨のあたりだとか、腰に負荷が掛かったり。
あと、教室の椅子って硬いんだよな。
だからケツが痛い。
心も痛い。
何も無いから。
その高校生の語彙力では言い表せない虚無感が、僕をさらに無気力にしていた。
「僕は将来何になるんだろうか? 」
そもそも高校を卒業できるかどうか怪しい。
ソースは僕の担任だ。
担任が僕の成績を見てそういった。
高校を卒業して僕はどうするのだろうか。
教師は進学しろといった。
大学に行って僕はどうするのだろうか?
無気力で無個性で無価値な僕は?
おそらく、また机に伏せて、人が教室から居なくなるのを待って、ソレから何事もなかったように起き上がって、帰路に着くのだろう。
* * *
人間とは不思議なもので、眠くなくても、寝たフリをすると、知らないうちに寝てしまっているものだ。
この高校のエアコンは放課後になると、自動的に切れるようになっている。
僕は汗なのかヨダレなのか分からないモノにドップリ侵されたカッターシャツをフルフルさせると「あっつー。」と叫んで見せた。
誰も居ない教室で。
この感覚がとても心地いいのだ。
僕しか居ない世界。
僕が支配する世界。
ふと僕は、校庭を見た。
同学年の野球児が、上級生の投げた玉をフェンスの裏側に飛ばすの見て、僕は唖然としていた。
ソレから。「僕にも何か特別な力が有れば。」と現実に引き戻させて、また自己嫌悪に陥ってしまうのだ。
「帰るか。」
そうだ。新作の狩ゲーをやらなきゃ。みんなに置いて行かれたら、ソロで素材を集める羽目になる。
高校になって、晴れてネットが解禁されたので、春からは帰宅すると、すぐさまディスプレイに向い、キーボードを叩きながら、マウスを走らせている。
本当はこんな窮屈な箱庭には入りたく無いのだけど、高校に入り、pcにドップリハマった息子を心配する両親に、要らぬ詮索をされたく無いので、仕方なく……だ。
(僕は立ち上がり、カバンを持っと、教室を出る。)
親は『早く部活に入りなさい。』なんてことを言うけど、ゲームをする時間が削られるのは、ナンセンスでは無いか?
そもそもなぜ部活は良いのに、ネットゲームはダメなのだろうか。
部活を作ろうか?
とふと思ったが、手続きが面倒だし、教師は許可してくれるか分からないし、pcをわかりやすく彼らにプレゼンする能力にも自信がない。
ソレに今自分が使っているスペックのモノを学校が用意してくれるとは思わないし、労力に対しての対価に担わないのではないだろうか。
下駄箱で、他クラスの『同類』が、狩ゲーの話をしていて、話に入りたくて、声を出そうとするのだけど、僕は手を伸ばすだけで、声が出なくて、そして彼らは行ってしまうのだ。
そしてソレから、目の前にいたのは『同類』ではなかったことを再確認して、ソレからまた自己嫌悪に陥るのだ。
僕は靴箱の扉を開けて、上靴を放り込み、下履きを取り出す。
コンコン。
ソレから炎天下に身を投げては、腕で太陽を覆うのだった。