アレから座学とシン・陰流の鍛錬を続けていた僕は、ついに任務に連れて行って貰えることとなった。
昔と違い、人手不足というわけでは無いのだが、新人教育という名目で、ある人物に呼ばれた。
「櫛羅。どんな女がタイプだぅ。」
嫌われているとは言われていたが……
三輪さんは、彼が道場に入って来たことを見るなり、いきなりストレートを喰らわした。
あと僕は、この方と面識がない。
「東堂さん。ソレやめてください。ホント恥ずかしいので。」
三輪さんが冷めた目で、東堂さんを見ている。
陽のモノに急に話を振られたような、気まずい気持ちになる。
だけど、ここでしどろもどろになってしまうと、空気が悪くなることは火を見るより明らかなので、僕は思い切って答えた。
「胸の大きな女性ぃ。」
後で考えても正気の沙汰とは思えない。
三輪さんや、こけしちゃんがいる中で、ソレは無かった。
三輪さんもこけしちゃんも、アレからしばらく口を聞いてくれなかった。
「つまらん男だ。」
え? それだけ。
「正直、失望しました。櫛羅くんは違うと思っていたのに。真面目で誠実な子だと思っていたのに、こんなムッツリだったなんて。」
「櫛羅……最悪。」
「まぁまぁ。マジになんなよ三輪。男なんてみんな巨乳好きなんだよ。隠してるだけで。」
「俺はケツ派だぞ日下部。」
「話をややこしく、しないで下さい。」
そんな中。
「へえ。胸派なの? 良いじゃん。」
桃色の髪の好青年がそう呟いた。
見た感じ、陽のモノだけど、嫌な感じがしない。彼からは、何とも言えない安心感を感じる。
「俺は虎杖悠仁。東京高のOBで今も呪術師やってんだ。」
「東堂に呼ばれてやって来てさぁ。ほんで新人教育っつうから飛んできたんだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「うんよろしく。」
「あっ。東堂くん久しぶり。」
乙骨先生が道場に入ってくる。
「久しぶりだな乙骨。こっちで働いていたのか? 」
「家のこともあるし、五条家や禪院家に近い方が良いかなって。そんなことで転勤届を出してね。つい最近、京都高にやって来たんだ。」
「腕の呪具の調子はどうかな? 」
「ああ、術式もちゃんと
そう言って東堂さんは、自身の腕をグーパーして見せた。
「何だ、櫛羅、この下が気になるか? 」
「い、いえ。」
東堂さんは、左腕の下を見せてくれた。
「任務で? ですか? 」
「そうだ。自分で斬り落とした。」
「忘れるな櫛羅。俺たちは呪術師だ。」
「ブラザーも俺も、乙骨もお前も。」
僕はまだ東堂さんの言葉の意味を理解できなかった。
「はい。」
「良いだろう。いつかお前も、その言葉の意味を理解できる日が来る。」
東堂さんは再び両腕に赤い鬼の手のようなモノを付けた。
「櫛羅くん。彼らのいうことを聞いて、絶対にハグれたらダメだよ。呪霊の生得領域の中はとても危険なんだ。」
「分かりました先生。」
虎杖さんがみんなに手を振る。
「ほんじゃ行こうぜ東堂。早く行かないと、高田ちゃんが声当ててるロボットアニメ見れなくなるだろ? 」
「望むところだブラザー!! 」
* * *
僕たちは、窓の人の車に乗せられる。
車は山を南に下り、下京区辺りで左折してから、東山へと向かった。
トンネルの前で、僕たちは車から降ろされる。
「ここら一帯、墓地だったみたいなんだけど、気味悪がって誰も近づかないらしくてさぁ。死者の思念もあって、元々呪霊が生まれやすい場所ではあったらしいんだけど、そこにブログの都市伝説みたいなのが重なって、やべー呪霊が生まれたみたいなんだ。YouTuberみたいなのが入って来て被害が拡大したらいけないから、早めに処理してくれって伊地知さんが。」
「と、とりあえず帳を降ろさないと。」
「良いよ。俺やるから。」
虎杖さんが手印を組むと、辺りが黒いレースのようなモノに包まれる。
「すまんなブラザー。俺は結界術が苦手で。」
「気にすんなよ東堂。コレも多分
「うわっ。生得領域だ。」
「うわっ。一際不気味なのにあたっちゃったな。櫛羅くん大丈夫? 」
トンネルの壁一体に、無数の目が映し出される。
「目を合わせるなよ櫛羅。呪霊は弱い獲物から狙う。」
「本人の前で言わないで下さいよ。」
「と言っても、向こうから来てくれないと、どうにもならないだよあー。このトンネルも無限に続くだろうし。俺、集団恐怖症だからさ。」
そう言って虎杖さんは、壁の目たちと目を合わせている。
えっ。あっ。
僕は気がつくと、真っ暗な世界の中で一人佇んでいた。
ソレから目が一つ……二つ……
「ふぃ。」
血の気が引いていくのが分かる。
上下左右あらゆる方向から目が出現し、獲物を見るような目でコチラを睨むと、ケラケラと嘲笑し始めた。
コワイ
サムイ
だけど。
僕も呪術師何だ。
僕は『彼女』に魂を差し出し、対価として呪力を貰おうとする。
「領域展開。」
【五力傾奪】
黒の心象世界は消え去り、地面から拳が生える。
生得領域は徐々に塗り替えられていき、ボクシングリングが生成された。
虎杖さん。東堂さん……そして呪霊。多腕の落武者のような風貌で、六本の腕には全て刀が握られている。
「ケケ? 」
「捉えた。」
虎杖さんが、呪霊へと飛びかかる。
彼が殴りかかると、呪霊の上に表示されている数字が『拾』から『玖』へと変わった。
僕も参加しようと、呪力を練ろうとする。
が、うまく生成できない。
「櫛羅。身体は常に鍛えておけ。呪詛師の術式によって呪力を剥奪されたり、一般人を巻き込まないために、呪力を制限しなければならない局面は必ずやってくる。」
「分かりました。」
虎杖さんは、両手を顔の前で構えると、六本の刀から繰り出される斬撃を華麗に避け、ストレートで確実に数字を減らしていく。
そこに東堂さんも加わり、呪霊の肩を両手でチョップした。
「東堂チョップ!! 」
「きえぇぇぇぇぇ。」
「東堂っ!! 」
「おう。ブラザー!! 」
虎杖さんは、彼の肩に手をかけると、飛び上がり、足で呪霊の首をガッチリ掴むと、そのまま前に倒れ込むように倒立すると、呪霊を頭からリングの床にぶつける。
東堂さんは、倒れた呪霊の胸ぐらを掴むと、ロープへと投げる。
呪霊の数字が、『壱』に変わる。
呪霊の投げた刀が、東堂さんの左頬を擦り、彼の頭の上の数字も『玖』に変わった。
東堂さんは、虎杖さんの手を取ると、呪霊へ向けて思いっきり投げつけた。
虎杖さんは、飛びながら、空中で一回転し、渾身の右ストレートを呪霊へとお見舞いする。
「ギエェェェェ。」
呪霊の頭の上の数字が『零』に変わり、呪霊は虚空へと吸い込まれていく。
ソレと同時に、リングも、巨大な腕も消滅し、僕たちは何の変哲もないトンネルの中で立っていた。
「本当にご迷惑をおかけしました。」
「良いって。あのまま生得領域の中を歩き続けるのも良くなかったし。」
「櫛羅。今日学んだことは? 何だ? 」
「人の忠告はしっかり聞くことですか? 」
「違う。」
東堂さんは、僕の肩をパンパンと叩いた。
「身体を鍛えろ。巨乳の女にモテないぞ。」
「分かりました。」
「おっ、東堂。もうすぐ17時半だぜ。」
「何っ!! 」
「おい櫛羅。お前の寮にもテレビはあるだろ。」
「そりゃありますけど。」
「このままじゃ間に合わん。お前の部屋借りるぞ。」
「えっ。マジすか? 」
部屋は適度に掃除しているけど。
「何もないですよ。」
「新田さん。コンビニ寄って。ジュースとポテチ買うから。」