「恵君。アレ出して。」
「人をドラえもんみたいに言わないでくれ。」
伏黒恵の術式の十種影法術。
その力の肝となるのが、十種類の式神を召喚・能力の継承、そして融合。
しかし、その式神を生み出す影の存在こそ、禪院家が呪術御三家の一つとして呪術界の地位を揺るぎないモノとさせていた所以でもある。
彼の父、伏黒甚爾は、自分の仕事道具を保管するために、呪霊を持ち歩いた。
彼は、その呪霊の特性を生得術式の能力の一つとして内包している。
今、禪院家の人間は、彼と禪院真希だけになってしまったが、全盛期には、このイカれた術式を持つ術師が何人もいた。
「どうりで、宿儺が目をつけていたわけだよ。」
伏黒恵は影から、一つの呪具を取り出すと、華へと投げつけた。
彼女は右腕にソレを装着して、男と対峙する。
「愛されるために自ら不完全な形になる。とても美しい話じゃ無いか。」
「コレは、俺が望んだことだ。」
「君が来るのが遅かったら来栖華は確実に死んでいただろうね。」
男は推察した。
おそらく呪力を流すことで、作動するようになる装着型の義手。
彼女は翼で羽ばたくと、そのまま男に殴りかかってくる。
彼女の生得術式は知っている。
呪力ガード不可避の攻撃。
だが、ヤコブは飛んでこない。
ここは狭すぎるのだ。
同様に伏黒恵も、あまり大きな式神を出さない。
【脱兎】
華に拳で触れられる瞬間、ウサギが、男の全身を噛みちぎる。
流石にこの身体も、天与呪縛の人間ほど頑丈では無い。
呪力無しの無防備な身体に、式神の歯が突き刺さる。
三節棍で、来栖を払うと、呪力で強化したソレでウサギたちを振り払う。
脱兎自体はそんなに脅威では無い。
【
影には物質を飲み込む性質がある。
ソレを応用すれば、武器として使用することも可能だ。
男は二つの防御不可攻撃に、苛立ちと、高揚感を同時に感じながら、呪霊を引き出した。
「この感覚ッ。」
久しぶりに馴染みのある身体に戻れたことを再確認した彼は、一種のゾーン状態に入った。
呪力が黒く光り、脱兎を影の刃に押し込みながら、伏黒の顔を殴る。
「ぐっ。」
虹龍が、来栖に襲いかかる。
高専の保管庫が、脱兎の重量と、虹龍の体積に耐えきれなくなり、ついに床が抜ける。
【玉犬・渾】
彼の影から這い出た黒い狼は、伏黒と来栖を背中に乗せると、丈夫な梁の上に飛び乗った。
そして、男はあることに気づく。
「
渾の頭の上には、あの最強の式神が持っていた法陣が回っている。
「あの式神っ。欲しい!! 」
だが、男の思考は現実的な問題に直面する。
相手は、まだ複数の式神を使える。
ソレにもう一人は天逆鉾の術式を内包した人間。
男には
ソレもこの男の身体があってのモノだ。
彼が何度も使ってきた狡猾な手口。
【穿血】
指から血液を飛ばして、来栖向けて放つ。
無論、彼女の能力で無効化されてしまうが、彼には、そんなことなど分かっている。
伏黒はその異変に気づき、彼女に手を差し伸べるが……
彼女は両手を拘束されて、バランスを崩すと、玉犬から落ちる。
血に拘束性のあるゴムを混ぜていた。
術式が無効化され、液体化された時に固まるように細工し。
玉犬は法陣を回転させて、鵺の翼を生やす。
だがソレよりも早く、男の呪霊が彼女を拾うと、蛇のように締め上げる。
ダイアに迫る高度を誇る呪霊の締め付けだ、とても成人女性が耐えられる荷重では無い。
「華っ!! 」
「領域展開ッ」
男は虎杖悠仁のその声を聞くと、赤血操術を使い、イヤコの印を結んだ。
【赫鱗腕】
【彌虚葛籠】
背中で血を操作し、彌虚葛籠を展開する。
術式を薄めることで、彼の協力な縛りから逃れようとする。
【五力傾奪】
玉犬は、法陣を回転させんとするが、一回転するスンデのところで消滅し、来栖を縛っていた虹龍は音もなく消え去る、そして呪力の存在しない空間が出来上がった。
地から拳が生え、天には、四角い枠を縁取った照明が現れる。
そして、リングの中に、虎杖悠仁・東堂・伏黒・来栖……そして消えかけの呪霊の姿があった。
「夏油ぅ。」
彼はもう男が誰であるかも忘れている。
最後の藁をも掴む思いで呪霊が発した言葉。
その言葉にデジャブを感じながら、男は彼を調伏する。
「出せよ母さん。」
「出せと言われて出すと思うかな? と言うか、なら気がついているんだろう? この空間で私だけが呪力を使えると言うことを。」
五力傾奪は領域内の呪力操作を禁止し、完全な密室を作り出すこと。
生得術式で模様替えする・閉じない領域で外側から覆う・簡易領域で術式を薄める。
あらゆる領域対策はこの空間では作用しない。
だが、一つ例外があると私は考えた。
既に発動している簡易領域なら、領域内に課せられたルールを破ることができるのでは無いかと。
「脹相にも同じ可能性があった。」
「だがね虎杖。呪術とは芸術なんだよ。真っ白なキャンパスに、絵の具という呪力をぶつける。彼にはその芸術的才能が無かった。」
「なぜ加茂家のような術師たちが、禪院家やら五条家と並べたのか。」
「ソレは赤血操術に無限の可能性があったからだ。」
「そして、その可能性は君も持っているんだよ。虎杖悠仁。」
あとは言うまでも無い。
呪力の使えない領域で一人呪力を払うことの出来る男。
彼は、伏黒の渾を飲み込むと、虹龍に乗り虎杖の領域をぶち破る。
虎杖が領域を解くとともに、東堂が術式を使うも間に合わず、あっという間に彼は見えなくなった。