今日は先生や師範が、仕事で出払っているので、こけしちゃんと二人で自習。
って言っても、僕と彼女の呪力特性は違いすぎるので、ソレらしいことは出来ないのだが。
僕は一度、彼女の許可を得て、彼女の呪力に干渉しようとしたが、点でコツを掴めなかった。
乙骨先生は『プラスの呪力に触れることで、反転術式の習得につながるかも知れない。』と言ってたけど、僕にはその才能がないらしい。
二人で瞑想して、呪力コントロールの感覚を掴む。
呪力を練るには、感情のコントロールが不可欠だ。
一般人が放出するソレを自在に操るのが呪術師らしい。
「敵が来た。」
一瞬なんのことか分からなかったが、遅れて校内に警鐘が鳴り、僕たちは茶室から出る。
「いくよ櫛羅。今は私たちしか居ないから。」
「早いよ。こけしちゃん。」
彼女の呪力は、僕たちの呪力より身体に対する親和性が良い。
だから、身体に纏うんじゃなくて、直接身体に流すことで、細胞の活性を促す。
僕だって呪力強化が得意な方なのに、ソレでも体力的に劣っているはずの彼女には追いつけない。
校庭に出ると、呪霊が一匹……二匹……三匹……
が
いや
「偽夏油の言っていた通りじゃ。高専の主戦力は外に出払っとる。」
「ならさっさと崇道の遺骸をもらって帰りましょうか。」
こけしちゃんが、飛び上がり、ツノの生え呪霊に飛びかかる。
白い呪力が弾け、呪霊のツノが弾け飛ぶ。
「ほう。反転術式ですか。漏瑚、陀艮。中々厄介な相手ですよ。」
「反転じゃない。コレが私にとっての正転。」
「なら、あの女から先に殺すのみ。」
タコの攻撃をチャクラムで受け止めて、弾き返す。
「櫛羅。邪魔。そういうの良いから。」
直後、背後に回ってきた火山の呪霊が、彼女の顔をぶん殴り、石垣まで吹き飛ばした。
「若造。術式に対する回答は常に持っておくもんじゃぞ。」
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、彼の身体の周りに薄い呪力の膜が出来ていることに気づく。
「結界術!! 」
背後に巨大な存在を感じて、大きく飛ぶ。
自分がいた場所を、ムキムキのタコ星人がえぐっていた。
【死累累湧軍】
彼の右手? から無数の呪霊が吹き出す。
【シン・影流簡易領域】
空中で、円を描き、世界を切るイメージ。
縛りを介さない術式の展開。
実戦ではコレが初めてだ。
発動したのは良いものの、僕のソレはまだ精度が良くない。
領域内で、消しきれなかった魚をチャクラムで弾く。
「止まりなさい!! 」
ツノの呪霊に両手を拘束され、簡易領域が解ける。
そこに火山の呪霊が炎を放ってくる。
チャクラムに呪力を流し、ガードする。
「漏瑚。植物を燃さないでください。」
「じゃないと奴を殺せん。」
「私たちの目的は術師の殺害ではありません。」
「行きますよ陀艮。」
刹那、陀艮と呼ばれているタコの怪物に黒い物体が走り……
彼は消滅した。
「こけしちゃん? 」
いや……いつもの彼女よりもずっと身体が成長している。
彼女には姉がいたのだろうか?
「この姿。身体に負荷がかかるから憂太に止められてるし、周りの人たちにジロジロ見られるから、あんまり好きじゃないんだけど。」
彼女は疾走し、火山の呪霊を殴る。
「さっきのお返し。」
結界術のおかげで、身体が消滅することはないが、パンパンにパンプアップした彼女の拳で、呪霊の頭が吹き飛ぶ。
「このっ。よくも漏瑚を。」
彼女が僕に対する拘束を弱めたその隙を狙って、呪力を解放させる。
地面に着地し、火山の呪霊の頭に向けて、チャクラムを投げつける。
【シン・影流簡易領域・
鎖から先のチャクラムへと呪力を流す。
チャクラムを円に見立て、簡易領域を展開する。
チャクラムは、彼の周りに纏っている呪力を掻き分けると、そのまま術式へと突き刺さる。
「ナイス。櫛羅。」
彼の周りに纏っていた結界術は消え、そこに彼女が呪力を流し込んだ。
火山の呪霊の頭が弾け飛び、遅れて身体の方が塵となり崩れていく。
「櫛羅……ごめん。眠い。」
呪力切れ。
倒れる彼女を抱き抱え、地面に優しく寝かせると、ツノの呪霊を見た。
「呪術師になって何年ですか? 」
「僕は一ヶ月とちょっとぐらい。こけしちゃんは知らないけど、そんなに長くないと思う。」
「そうですか…… 」
「貴方たちは、私たちの作戦の邪魔になる。ここで始末しておくことにしましょう。」
「領域展開。」
【朶頤光海】
彼女がそう唱えた瞬間。
僕はチャクラムで、こけしちゃんを
「私は花御。人間が森を恐れる感情から生まれた呪霊です。」
僕は、この世界に足をつけた瞬間、自身の気力が、植物たちに吸い取られていることを肌身で感じた。
「人間。領域を解きなさい。さすれば、その小娘と共に楽に殺してあげましょう。」
「解かない。絶対に。死んでも。こけしちゃんだけは。」
「こけしちゃんは僕と違って天才だから。」
・
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「___また出会ったな小童よ。」
「君が出てきたってことは、僕はまた死にかけているんだね。」
「左様。煩わしい檻が壊れかける。だからワシはソナタと意識を共有できるのじゃ。」
「君は僕の身体に封印されているんでしょ。なら、このまま僕を殺せば良いじゃないか? 」
「ほう。じゃが、ワシがあの女子を助けるとは思わんぞ。ソレどころか、お主はもう二度と、あの女と会えんくなる。」
「ソレは困る。だから……契約だ。僕に呪力をくれ。」
彼女は少し不機嫌になった。
「そこまで主人に無碍にされたのは、ソナタが初めてじゃよ。」
「なぁソナタよ。なぜ、会って日の浅い人間のために、魂を明け渡す? 」
「こけしちゃんの魂は、今、この瞬間に奪われようとしているんだ。僕の寿命の少し、お前にあげたところでなんてことない。」
「ソナタにいい提案があるんじゃがぁ。」
「断る。」
「お前に売るのは魂だけだ。それ以外はやらない。」
「全部、猫己にあげるって決めてるから。」
「……後悔しても知らんぞ。女は薄情じゃからな。」
「猫己はそんな人じゃなかったよ。」
「少なくとも僕には。」
狐の式神はクスリと笑うと、契約通り、僕に呪力をくれた。
「お主は必ずワシのモノになる。それまで操は取っておれよ。」
「それと気をつけた方がええ。お主は騙されやすい性格じゃからな。」
意識が戻り、身体に気力がみなぎる。
チャクラムの簡易領域が消えていないことを確認すると、自身にも簡易領域を展開した。
そのまま身体強化で跳躍し、彼女が立っている木の上まで昇る。
彼女を五発殴る。
遅れて黒い閃光が五回弾けた。
呪力が更にみなぎる。
花御は、桜の幹を盾がわりに展開するが、僕はそれを両手で掻き分け、領域がそれを消し去る。
もう一回。
逃げる彼女を追う。
樹海が生き物のように僕を阻むが、木の幹を呪力で破壊し、纏わり付くツルを簡易領域で消し去り、胞子をばら撒く怪しい花を足で蹴飛ばした。
少しずつ大きくなる彼女の背中を追い、世界を追い抜いていく。
僕に触れた木々が燃え始めた。
そして彼女を捉え。
ソレと同時に世界の壁に穴が開く。
彼女の領域を突き抜け、高専の瓦屋根へと彼女を叩きつけた。
「何をしているのですか? 早くトドメをさしなさい。」
「領域は壊れた。お前はしばらく術式を使えない。」
「甘いのですね。」
<花御ちゃん。そろそろ良いかな? >
「呪霊……ではない。人間。なんで呪霊と? 」
「ヒッヒッヒ。経験が浅い術師は、俺を見た時、みんな同じ反応をすんだよな。コレだからやめらんねえ。」
僕は花御から手を離してしまった。
「扉田、彼は見逃しなさい。」
「ヘイヘイ。んまぁ。俺たちの目的は遺骸の回収だしね。さっさと終わらせて帰っちゃおうぜ。」
「羂索の呪力はもう覚えたからさ。帰りはひとっ飛びだぜ。」
「まてっ。」
呪力が切れた。
反動で身体に負荷がのしかかる。
心なしか、前の魂譲渡よりも反動が重い気がする。
まだ気を失ってはいけない。
呪力を……もっと呪力を……
「ほんじゃあなぁ。学生さん。こんなオッサンに固執してないで青春謳歌しろよ。」