僕は楽巌寺総督に呼び出され、手錠を付け、彼らの前に立った。
「天竺櫛羅、お主今何級じゃ? 」
「つい最近二級になりました。」
「櫛羅。いい目になったな。ワシの目に狂いはなかった。」
「そして謝罪させてほしい。お主にカマをかけるようなやり方をして。」
上層部の一人が声を荒げた。
「総督。なぜそこまで彼に肩入れするのです? 」
「数ヶ月で一級となり、五條悟と並んだ夏油傑、術師として覚醒し、二ヶ月で領域展開を、三ヶ月で反転術式を習得した日車寛見、そして、四級に降格したあと、三ヶ月で特級に返り咲いた君の師、乙骨憂太。ワシは今まで色々な術士をこの目で見て来た。」
「だが、この短期間でここまで風格が変わったのは、お主が初めてじゃぞ。天竺櫛羅。」
イマイチ実感が沸かないが、前の自分より少し強くなれた。そういうことだろう。
もともと燻ぶらせていたんだ。
校庭で青春を謳歌する運動部を見て。
自分も何ものかになりたいと。
「異常なまでの呪術師適正。」
「だが、呪術師が持つ異様な冷気とも違う。」
「なぜ特級呪霊の花御を見逃した。」
「彼女は領域の影響で術式が焼ききれていました。そして彼女の呪力は僕が
「結果として彼女も、祟道の遺骸も彼らに取られてしまいましたが…… 」
「良い。ワシは怒っとらん。むしろ二人で特級呪霊を二人葬れたわけじゃ。良くやったと褒めてやりたい。」
「早良よ。今の息子を見てどう思う? 」
お父さん? ここに来てるの?
「彼にこれ程の呪術適性があったとは。運命とはなんと皮肉な。」
「呪術師はあまり褒められる職ではない。今でも私の考えは変わりません。今にでも息子は普通の生活に戻すべきだ。」
---そうやってワシをまたコヤツに封印するのかのぉ---
「玉藻前、私は許されぬことをした。煮るなり焼くなり好きにするといい。」
---お主の悪行。許されるべきではないが---
彼女が僕の首に手を回してくる。
上層部の人たちが怯えている。
「化け物め。もう顕現できるほどにまで成長しやがったか。」
「言葉を慎め。」
---お主たちとの付き合いは長い---
---だから許してやることにしたんじゃ---
---それにのぉ。この男は中々いい男じゃよ。今は術式を喰らわんといてよかったと思っている---
玉藻前? この狐の化け物が、伝説の妖狐の?
「羂索の喉から手が出るほどに……な。」
「櫛羅。お前宛に大先輩から手紙が届いている。」
"天竺櫛羅、奈良の龍脈に待つ。帷の中へ一人で来い。
君の宿敵より"
「この羂索という男は、呪術高専を特級呪霊、真人ともに襲撃し、夏油傑の死体と、伏黒恵の式神を盗んでいる。」
「正直お前一人には荷が重すぎる相手だ。」
「ヤツの帳の精度は非常に高い。一度入れば、お前の簡易領域では抜け出すことができないだろう。」
「僕だけでは……ね。でもね父さん。今の僕には玉藻前が付いてる。いや、ずっと僕の近くに居てくれたんだ。」
「それだけは、だめだ櫛羅。俺と縛りを結べ。お前はあと一回、殺生破戒無慙の術式を使えば、間違いなく魂が崩壊する。」
---お主らのことを許すとは行ったが、契を破ることが、如何いうことか、分かっとるな小童。そもそもコレは小童とワシとが結んだ縛りじゃ。破れば、ワシの魂が崩壊するじゃろう---
「父さんとは縛りを結ばないよ。玉藻前の時みたいに踏み倒すことは、目に見えているからね。」
「楽巌寺総督。貴方の意見も聞きたい。」
「櫛羅には悪いが、摩虎羅を継承した渾を羂索に取られた今、彼の意見に従うほかない。」
「右に。」
父さんは項垂れた。
「僕は行く気ですよ。楽巌寺総督。」
「その代わり、任務に成功したら、猫己を開放してください。彼女は無関係なんですから。」
「無関係……か。彼女は本当に呪術とは無縁の存在か。そうであると良いがな。」
「猫己が嘘を付くはずないんですから。頼みましたよ。」
* * *
「聞いたよ櫛ちゃん、とても強いワルモノのところにいくんでしょ。」
「うん。コレが終われば、またいつもの日常に戻れるから。やっとキミをそこから連れ出せるんだ。」
彼女が、僕に古びた鈴を渡す。
「危なくなったら鳴らして。きっと櫛ちゃんのことを助けてくれるから。お守り。」
「まだ持っていてくれたんだね。首飾り、てっきり捨てちゃったのかと思った。」
「バカでしょ女の子に首輪を渡すなんて。」
「僕も猫己も何も知らなかったんだよ。」
「ねえ。この鈴。僕が帰ってきたら、髪に付けてよね。」
「……考えとくから。」
「櫛羅は私のことを疑わないのね。」
「うん。」
「呪霊が見えていたことも不思議じゃない? 」
「うん。乙骨先生は生まれつきそうだって言ってた。窓の人たちだってそうでしょ。一般人にいても別に珍しくないよ。」
「私がなぜ囚われているかも? 」
「うん。これは全部僕のせいなんだ。だから君が人質に取られている。」
「私が嘘を付いているって言ったら? 」
「それは嘘だよ。『嘘を付いている』っていう嘘をついているんでしょ。」
「呆れた。私は櫛ちゃんと、一緒にいるところを他の女に見られるのが恥ずかしくてたまらないのに、アンタは昔から何も変わってないというか。」
「変わってないよ。今も昔と同じように『櫛ちゃん。』って呼んでくれている。僕はソレが嬉しいんだ。」
「ソレに、もう猫己に恥をかかせる男にはならないから。」
「___時間だ。行ってくる。」
僕は踵を返して出口へと目指した。
「最後に一つ聞かせて。もし仮に……もし仮に全てが無意味だったと分かっても。後悔しない? 」
「そんなことは絶対に無いから。」
東堂さんは僕に教えてくれた。
自分の過去、術師の過去、全てに意味があると。あるはずだと。
だとすれば、その価値を決めるのは。
「僕自身なんだ。」
僕は宿敵と相見えるために、霊山へと向かった