「やぁよく来たね。私は羂索。」
「僕は天竺櫛羅って言います。」
「知ってるよっ!! 」
足元の術式が浮かび上がる。
「血? 」
憲紀さんから、赤血操術のレクチャーはうけている。
【シン・影流簡易領域】
「チッ!! 」
まだだ。
術式が発動したということは、今、この血と、羂索の脳は接続されている。
【
彼の脳へとアクセスしようとしたところ、逆に術式の主導権を握られそうになった。
「チッ。」
羂索は頬の鮮血を手で抑えると、目を細めて僕を睨んだ。
「やるじゃないか。久しぶりに楽しめそうだ!! 」
【赫鱗躍動・載】
咄嗟に防御の姿勢を取る。二振りのチャクラムを交差させて。
【血刃】
出た、近接での血の攻撃。
左腕からチャクラムを手放し、ポケットに忍ばせておいた水風船を投げつける。
「流石だな天竺櫛羅、情報で得た通り、小癪な闘い方をする男だね。」
浸透圧の影響により、赤血球が破裂する。
血として認識されなくなった液体は、ビチャビチャと地に落ちる。
羂索は体内の体液濃度を変えないために、皮膚を塞いだ。
その隙を僕は見逃さない。
彼の頭の縫い目の部分を左手で鷲掴みする。
彼の毛細血管、動脈を辿り、脳細胞へと辿り着く。
そこで、赤血操術の術式に栓をした。
「ぐあっ。」
彼が、自身の頭を抑える。
「僕の術式は他人の術式に干渉できるモノだったんだ。」
彼は頭を押さえながら、肩をプルプルと震わせる。
「フフフフッ。」
「フハハハッ。」
「ソレは術式の開示か?天竺櫛羅ぁ!! 」
「良いぞ。良いぞ。やはり私と対峙する存在は、こうでは無くては。」
「ああ、知ってるさ。君に教えられなくてもね。天竺櫛羅。年齢16歳、特技はPCゲーム。好きなモノはネギ玉牛丼温玉付き。」
「そして、生得術式は阿吽万象。万物の呪力に干渉できる術式。私が生まれてから現代まで、誰一人として発現しなかった特異術式。」
「そして……呪術黎明期、人間を術師に昇華させようとした崇道の君と同じ術式。」
「君は今、そこで鎮座している崇道の生まれ変わりだ。」
「世紀の大罪人のね。」
「君がその気なら、私も本気を出すとしよう。」
彼は両手で掌印を結ぶ。
「生きたまま取り込んでやるつもりだったが…… 」
「術式さえ手に入れば、死体でも良い。」
「領域展開。」
【阿鼻叫喚百鬼夜行】
洞窟内が、紫の光に装飾される。
続いて岩肌。
地の底から呪霊が生まれ始める。
「術式の効果内、全ての呪霊を調伏する。」
「だが、ここは龍穴。いわば天元の"口"だ。この意味が君には分かるかな? 」
僕の足を掴んだ餓鬼を呪力で吹き飛ばし、襲いかかってくる落武者の頭をチャクラムで叩き割る。
虹色の立派な龍の眉間をチャクラムで叩き割ろうとする。
硬い。
「抉れ月輪!! 」
チャクラムに
そのまま回転しながら龍の肉を断ち、その先に、頭に法陣が乗っている狛犬の顔を蹴飛ばす。
「ガルルルっ。」
頭の法陣が回り始めた。
僕はチャクラムを放り投げると、法陣の動きを止める。
そして、狛犬の術式へと干渉しようとした。
「ガコン。」
呪霊に弾かれ、干渉を拒否される。
「アオーン。」
彼の咆哮が僕を吹き飛ばした。
「なんて威力だ。」
犬ころの攻撃を防ぐことで手一杯だ。
すぐさまチャクラムを手元に戻すと、呪力でソレを固めて、前脚の攻撃を防ぐ。
「ガコン。」
また法陣が回る。
地面に勢いよく叩きつけられ、そこへ、下級呪霊たちが群がってくる。
ソレを呪力で吹き飛ばすと、そこに犬ころが身体を大にしてのしかかってきた。
【りぅ……簡易領域ィ】
自分の領域を作り、犬ころの猛撃を少しでも抑えようとした。
「ガコン。」
このカードも、もう彼には通用しない。
「随分苦戦しているじゃ無いか。」
後頭部を狙ってきた羂索を、左のチャクラムで受け止める。
「今、術師を直接狙おうと思っていた。」
「いずれにせよ二級の君には私を倒せない。」
「君は式神の渾一匹すら倒せない。」
「僕は。」「君は。」
「「最初から詰んでいたんだ。」」
そんなこと最初から分かっていた。
だけどね。理論だけじゃ無いんだ。
世界は、もっと大きな枠組みの中に存在している。
人間も同じ。
今、この瞬間。僕はやらなきゃいけないから。
簡易領域を展開しながら、自分の中で最後の栓を抜く。
蛇口を捻れば水が出る。
簡単なことだ。
みなぎる呪力で目の前の巨大な存在を殴る。
脳の中に電流が走り、羂索が吹き飛ぶ。
黒い閃光。いつしかの時と同じ。
「一つ君に忠告しておく。呪霊操術の術者は下手に刺激しないほうがいい。中の呪霊が飛び出てくるかもしれないからね。」
「今、アンタの中はすっからかんだよ。」
彼の首を、チャクラムで掻き斬る。
再び黒い閃光が走る。
「理由は、領域が終わると、術式が焼き切れて、従えていた呪霊の制御権を失うからだ。」
「渾っ!! 」
犬コロの法陣を黒い閃光で斬り裂く。
「クゥーン。」
割れた法陣は、カタカタと震え始めると、宙に浮かび、犬コロの頭上で再生した。
「どこを狙っているのかな? 僕はここだよ? 」
羂索は首を、糸のような細いモノで身体と繋いでいる。
反転術式が封じられている今なら!!
【シン・影流簡易領域・
「簡易領域を……私の脳内に……直接……」
犬ころが僕に噛み付つかんとすると同時に、世界が崩壊し、僕の呪力が尽きた。