「私のセオリーなんだよ。」
「戦いに負けて、ゲームに勝つ。」
目の前で縫い目の男が、僕を見下ろしている。
「ッ。」
羂索が僕を蹴り上げる。僕は地面に無惨にも転がった。
「フフ……柄にも無いことするんですね。」
「何を勘違いしているのか知らないが、コレはお灸だよ。なってない君に対してのね。」
「でもコレで、乙骨先生や、虎杖さんを相手にするのは難しくなった。」
「何を勘違いしているのかは知らないが……」
「領域展開。アレは前座だよ。」
前座? 赤血操術も呪霊操術も封じた今、彼には何が……
「見ろ、崇道が呪力を吸収している。」
「私が天元を使い、吸い寄せた呪力全てを。」
僕の呪力も、彼の呪力も……
「おお、やってんじゃねえか。」
帷には、僕以外を入れない・出さないという強力な縛りが課せられている。
「一足遅かったな禪院真希。」
「いいや
真希さんだ。
僕はホッとして、うつ伏せに倒れた。
「このなまくら、借りるぞ。もやし。」
「……お願いします。」
ここまでは計画通り。
僕が彼の術式二種を封じて、あとは真希さんにトドメを刺してもらう。
フィジカルギフテッドは呪霊に対しての回答が乏しい。
だからこそ、この対処だけは唯一、帷の中に入れる僕がこの役を買って受ける必要があった。
ただ、真希さんは術式どころか呪力すら無いので、僕と、すこぶる相性が悪い。
「なんて顔してんだよ櫛羅。別にコッチは、おめえなんかの力を借りなくても、アンナ袈裟野郎、ボコボコにしてやるからよ。」
彼女は、羂索向けて月輪を投げる。
羂索はソレを避けることなく、わざわざ受け止めた。
「私を狙うフリをして、帷を狙っていただろう。」
「しかしまぁ。防御無視、オマケに魂に直接ダメージを与えてくる呪具……少々厄介だな。」
羂索は呪力によるガードをしていなかった。彼の掌が赤く染まる。
真希さんが、月輪を引きつける。
「やっぱりか『櫛羅を中から出さない。』そのことだけに特化させているな。」
「この結界には櫛羅の呪力しか入れない。もちろん呪力を持たない君は別だが。君のような世界のエラーを縛るルールなど、この世界のどこにも存在しない。」
「そうだ……私の悲願は、千年間の努力は、君と同じ世界のエラーによっていとも簡単に達成されてしまった。世界とは残酷なものだよ。」
「ギャンブル中毒のヒモとは一緒にされたくねえな。」
羂索は呪力を纏い、真希さんに殴りかかる。
月輪と拳が衝突するとともに、黒い閃光が弾ける。
「天竺櫛羅、いい武器じゃないか。手入れが隅々まで行き届いている。私の黒閃でもヒビ一つ入れることができない。」
真希さんは羂索の拳を月輪の鎖で弾き返すと、頭を殴りつける。
「手応えがねぇ。」
「三節棍だよ。君の持っていたハンモノとは違うがね。」
「やはりこの武器は私に馴染む。」
真希さんが押され始じめる。
「呪力によるガードが出来なくても、呪具である以前に、鉄の塊であることには変わりない。」
「やはり、君は游雲のような癖のある武器は、あまり好みじゃないみたいだね。」
目に見えた挑発。羂索は帷を壊されることを嫌っている。
真希さんは、自分の極めて来たものに対するプライドを傷つけられることを嫌っている。
「……うるせぇ。それ以上いうとブッ殺すぞ。」
「伏黒甚爾のような狡猾さが君には足りない。」
真希さんは、月輪を宙に放り投げると腰から刀を引き抜く。
「そうこなくっちゃな。」
羂索は子供のように、クシャクシャと嗜虐的な笑みを浮かべると、三節棍を構えた。
「うぉらぁぁ。」
真希さんは大きく刀を振りかぶると、羂索向けて振り下ろした。
彼は、それを人差し指と、親指で受け止めた。
「なぁ禪院真希。君に私は
「どうも見えていないさ。それより。お前には私がどう見えている。」
「櫛羅の呪具!! 」
「安い挑発だな。昔の私なら乗っていたかも知れないが。」
「あいにくそんなモノ、相撲を取ったとき、一緒に置いてきた。」
「なるほど。君はあの時、真の意味で伏黒甚爾になっていたのか。」
月輪が帷の膜にささり、音もなく砕け散る。
外には……
みんながいた。
虎杖さんに東堂さん。三輪さんにこけしちゃん。そして、師範と乙骨先生。
なんとか間に合った。時間通り。
「そうだ。時間通りだ。」
羂索は両手を大きく上げる。
崇道の遺骸は、龍脈から流れる呪力を吸い続けていた。
そして……彼の頭上に法陣が浮かび上がり、ソレが『ガコン』と音を立てた。
次の瞬間、『彼』は姿を消し、真希さんの姿も消える。
「真希さん!! 」
「憂太。私なら大丈夫だ。」
「さぁ始めようか。人類を次のステージに進める儀式を。」