崇道の末裔   作:ちぇりー×ちぇりー

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エピローグ

「おはよう。」

 薬品の刺激臭が残る白い病室の中、一人のスーツ男に話しかけられて覚醒する。

 男は、眉毛がとても印象的で、その眉毛が作る眉間の皺が、彼のコレまでの人生の苦労を物語っていた。

「貴方は? 誰ですか? 」

「私は……こういうものだ。」

「日車寛見……さん? 弁護士…… 」

 僕はハッと目を見開き、身を引いた。

「はっはっは。君には何の容疑もかかってない。そして()は君の弁護をしに来たわけでも無い。」

「君に伝言を伝えに来た。政府の重役からね。」

 国家公務員とは検事やら裁判官のイメージがあったので、僕は少し引っかかった。

「検察じゃあないんですか? 」

 すると男は困ったように眉をハの字に曲がると、僕を宥めた。

「そう警戒しないでくれ。俺は国家公務員でも検察でもない。」

「今は訳あって呪術高専の専任弁護士をしながら、呪術界と政界を繋ぐ役割を担っている。」

「君は、日本全国の人間たちを呪術師にしただろう? 」

「あーまてまて。咎めているわけではない。君に色々と伝えなければならないことがあるから、来たんだ。」

「……っとその前に、嬢ちゃんを起こそうか。」

 僕は今、猫己が自分の膝で寝ていることに気づくと、首を横にゆっくり振った。

「……やっぱり本当に日本人、老人から赤子に至るまでが呪術師に。」

 彼女をソファに寝かせると、病室のベットの上に弁護士と並んで腰掛ける。

「そうだ。今や君はこの国を牛耳れる存在となったわけだよ。」

「僕にその気はありません。」

「問題はそこじゃない。君が人々を呪術師に昇華させたという事実、そして君は他人の術式を操れる。その状況証拠が政界の人間たちにとって面白くないみたいでね。」

「彼らはキミに生得術式を使うと死ぬ縛りを結ばせろと念入りに押してきた。流石に高専の圧力でも抑えることができなかったんだ。」

「だからそこで俺は提案したわけだ。『彼の父親は優秀な呪術師だから、彼が適任だ。』ってね。」

「詐欺師じゃないですか。」

 年寄りに不要なモノを売りつけるセールスマンみたいだな。

「何を言ってるんだ。君の父親は詐欺師(・・・)だろう? 」

「僕の父は呪術師です。」

「話を戻そう。縛りを結んでいるところを、彼らに見せなければいけない、だから、目が覚めれば君に一番に伝えなければならなかったわけだよ。」

 ソレから彼はフーっと一息付いた。

「私の専任弁護士としての仕事は終わった。どうだ? 一級術師同士(・・・・・・)雑談でも? 」

「一級? 僕がですか? 」

「そうだ、君はもう一級になった。高専は君の今回の働きに免じて君を一級術師・禁忌指定に昇級させた。」

「禁忌指定? 」

「そうだ。君は術式の性質上、単体で特級と並ぶほどの脅威を有してない。」

「だけど、先述したように君には、国家を転覆させかねない力がある。」

「君はイレギュラー中のイレギュラーだ。だから上層部も君の先生も頭を抱えたよ。」

「すみません…… 」

「本当にやってくれた。やっと大衆たちが死滅回游を忘れ、呪術師の存在が人々から忘れ去られようとしていたのに。」

「ソレが今や、誰もが呪術を操れ、使える・見える社会だ。」

「まるで某アメコミ風漫画の社会が飛び出して来たようだよ。」

「コレから法整備もしなきゃならないし、子供にはソレ相応の教育が必要だ。」

「おい、何ほうけている。人が大切な話をしているっていうのに。」

「未だに現実味がなくて。だって僕、数ヶ月前は普通の高校生で、呪霊すら見えなかったんです。」

「ソレ言えば、俺だって呪術師としての人生は浅い方だよ。」

「恐怖とか……無かったんですか? 」

「無いと言えば嘘になるが。ソレどころでは無かったかな。随分前の話になるからどういう心境であったかは覚えていないが。俺には恐怖する余暇すら無かった。」

「あの時は弁護士としての自分に限界を感じていた。崖っぷちで深淵に落ちる寸前の俺の前に、都合よくあの男(・・・)は現れた。」

「あの時は、ソレどころか、妙な解放感に支配されていたよ。」

「軽蔑するか? 」

「いえ、別に。」

「やはり君は面白いな。」

「君は教師に向いている。」

「君はイレイザーヘッドになると良い。」

「もう良いですよ。そういうジョークは。」

「ははは、っと。彼女が起きそうだ。ちょっと煩くしすぎたかな。この辺で失礼する。」

「ありがとうございました。それと。」

「コレからもよろしくお願いします。」

「おう。よろしくな天竺櫛羅。」

「んっ。」

 彼女の瞼がゆっくりと上がる。

 そして彼女は目をゴシゴシと擦って、ソレから意識が覚醒した。

「櫛羅!! 目を覚ましたんだね。」

 彼女に抱きつかれて、彼女の柔軟剤の匂いとシャンプーの匂いが鼻腔を刺激する。

 ソレから慌てて引き離そうとしたが、彼女が僕を強く抱きしめる。

「また引き剥がそうとして。もう逃さないよ当主。」

「当主? 」

 僕は声が裏返った。

「そうだよ。櫛羅が崇道家の本家の当主で、私が分家。」

「本家の人間には、分家の人間の扶養義務が発生するの。コレ呪術界の常識ね。」

「御主人様。ご無事で何よりです。」

「白々しい。」

 猫己の中から玉藻前が出てくる。

「本当に、あんなに御先祖様に尻尾振ってたくせに、虫が良すぎるよね。」

「そんなことありませんわよ。ワ・タ・ク・シは御主人様一筋。櫛羅様が勝つと信じていましたから、だから……ね。」

「コレまで通り、小童で良いよ。」

「本当、狐って図々しいわよね。」

「「コレからもよろしくね。当主様。」」

 

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