「___目が覚めたか? 」
何だ?
僕は確か、下校していた。
ソレで、とてもとても暑くて、猫己が橋から。
「猫己は無事なの? 」
「とりあえず落ち着け若僧。」
裁判官台のような机に、白い髭を生やしたハゲの老人が座っている。
他の人間たちは、襖で隠れており、よく見えない。
僕は今、自分の両腕が、ヒモのような何かで縛られていることに気がついた。
「何? 何これ。」
墨で呪印のようなモノが刻まれている。
薄く脆い紙のような素材なのに、両腕はまるで動きそうには無かった。
「単刀直入に訊く。」
「キサマは人か? 呪術師か? 」
「ソレとも呪詛師か? 」
僕は混乱から声を荒げた。
「なんですか呪術師って。僕はただの人間です。なんの力もない非力な。」
皆が、驚きどよめく。
「静粛に。」
ハゲの老人が皆を宥めると、この室内は再び静寂に包まれた。
「なら、なぜお前は呪霊に黒閃を打ったのだ? 」
こくせん? 僕にはなんのことだかまるで分からなかった。
襖の中の一人が、書類のようなモノを持ち上げると、声を荒げて話した。
「窓の情報によれば、赤血操術のように、呪力を血中に流して戦っていたとか? 」
ハゲの老人は唸り、ソレからゆっくりとこちらに迫ってくる。
「危ないですよ
「止めるな。」
「あとワシはもう学長ではない!! 」
ハゲは僕の眉間をじっと睨み、圧をかけてきた。
「もう一度訊く。お前は、人か呪術師か? 」
彼から、あのエネルギー体のようなモノが飛んできて、身体が萎縮する。
「僕は!! 人間です。」
「ならなぜ、お前の身体には一般人を遠に超える呪力が宿っておる? 」
「楽巌寺さん危ないです。ソイツは崇道家の人間なんですよ。」
「ソレに彼が呪術を使用するまで、窓が呪力を探知出来なかった。コイツは何かを隠している。」
「黙れ!! これ以上奴を刺激するな。」
楽巌寺さんは、僕が彼のエネルギーに抗えないことを知ったのか、振り返ると、また裁判台の方へと戻っていた。
「奴はシロじゃ。経過観察。」
「しかし楽巌寺どの。そうやって引き入れた夏油傑と、虎杖悠仁はどうなりましたかね? 」
「やはり人は人、呪術師は呪術師、人間の心を持った術師を育てることは危険です。」
「僕が居ますよ。」
襖の中の男の一人が、襖を刀で斬り裂くと、中から出て来た。
「乙骨!! 東京高にいるはずのお前がなぜここに? 」
「上層部の一人の、伏さんには、眠ってもらいました。」
「キサマ、変身の術式を。」
「流石に術式まで貰うのは躊躇ったんですけどね。」
「身体検査の時にバレないかヒヤヒヤしましたよ。」
彼は僕の裏に回ると、僕の封
「彼は僕が指導します。清く正しい呪術師の道を進んでもらうために。」
「呪術師に清く正しい道などない。そこにあるのは、呪いを祓うための血塗られた道だけだ。」
「楽巌寺総監督。貴方、僕に何か隠していることはありませんか? 」
「………」
「彼は呪術を悪用したわけではないし、僕のように呪力を暴走させて誰かを傷つけたわけではない。」
「………」
「根拠が無いのなら、彼は何の罪で裁かれているのでしょうか? 」
「人には人のやり方が、呪術師には呪術師のやり方がある。」
「十年前の虎杖君の件ですね。」
襖の一人が声を荒げた。
「そうだ。誰もがお前のように呪いをコントロールできるわけでは無い。力と精神性、両方が呪術志向に向いている人間だけが、呪術師になるべきだ。彼は呪術師としての素養を持ち合わせていようと、彼の精神性がソレをコントロールできるとは到底思えない。」
「夏油さんが呪詛師に堕ちたのは、貴方たち総監督部が、彼の精神的ケアを怠ったことが原因でもあるんですよ。」
「貴方たちは、一般人を高専に引き入れるにあたって、医療班にそういった人員も動員するべきだった。そうすれば、彼はまた違う道を歩んだかも知れない。ソレを素養のせいにして自らの責任から逃げている。」
「ソレに渋谷の件は虎杖君だけの問題ではない。複数の術師が摩虎羅調伏の儀に巻き込まれた中で、果たして宿儺が暴れなければ、街の被害は最小限に抑えられたでしょうか? 」
楽巌寺さんは、乙骨という人を睨んだ。
「少なくとも、更地にはならなかった。彼にはその罪を一生背負ってもらうつもりじゃ。」
今度は別の襖が声を荒げる。
「なら乙骨。お前なら、彼をうまく制御させることができるんだな? 」
「……制御って、彼は一般人程度の呪力しか有していないじゃないか。」
「はい、僕の恩師が僕を影から引き摺り出してくれたように、今度は僕が彼を…… 」
* * *
「天竺櫛羅……くん? だっけ。あのごめんね。勝手に話を進めちゃって。」
「僕は乙骨憂太。一応、東京の呪術高専ってところで、教師をやってたんだけど。なんせ実家から遠くてね。つい最近、妻と一緒に、こっちの学校に転勤させてもらったんだ。」
「すみません。僕のためなんかに。」
彼は首を横に振る。
「君の意思を、まだ聞いていなかった。」
「乙骨さんは、どうだったんですか? 」
「なぜソレを……なるほどね。ある日突然日常が非日常になった。だけど、呪術師になることは自分で決めたよ。」
「僕もそうしたいです。このまま何者でもないまま腐って終わるぐらいなら、何か一つでも成し遂げてみたいです。何も無かったんです。僕には才能も、誰かに誇れるモノを何も。」
「言質、とったからね。」
「ようこそ呪術高専に。」