「食器の箱、ここに置いておくよ。」
「ありがとうございます。引越しの手伝いまでしてもらって。」
「大丈夫だよ。そんなに遠慮しなくても。」
乙骨先生は特級術師、日本の術師の中でも規格外の強さを持つ術師らしい。
そんな人が、今、僕の引っ越しを手伝っている。
「櫛羅、これ…… 」
こけしちゃんから、マル秘のシールが貼られた段ボールを受け取る。
こけしちゃんっていうのは、乙骨先生がそう呼んでいるから、僕もそう呼んでいる。
名前は知らない。
元々、乙骨先生に助けられた災害孤児であったらしいが、呪術の才能があったらしく、東京高で乙骨先生の授業を受けていたらしい。
「こけしちゃんは、特異体質で、発生させられる呪力の極性が逆なんだ。東京高で家入さんに預けるつもりだったんだけど。」
「……私は優太に呪術を教えて欲しいから。」
彼女は顔を赤らめてそう答えた。
先生の背後で呪力の揺らぎを察知し、身構える。
先生が、手を挙げると、揺らぎは治る。
こけしちゃん。
生得術式は太極天変。
呪力は本来マイナスの性質をしているらしいのだけど、こけしちゃんの呪力は素でプラスらしい。
だから反転術式を使える術師の下で、呪力の勉強をしているとか。
僕と同い年らしい。
やっぱり勉強をするのに一人は寂しい。
最近は呪霊も呪術師の素質がある人間も少なくなって、あんまり居ないみたいだが。
「懐かしいなぁ。こうやって引越し作業をするのも。」
「乙骨先生は一般家庭の出だと聞きました。」
「誰から聞いたんだか。」
「そうだよ。僕も高専に招かれて、五条先生は引越しを手伝ってくれなかったけど、真希さんや、狗巻くんたちが、引越しを手伝ってくれたんだ。」
「狗巻くん。元気にしてるかなぁ。」
「でも良かったね、こけしちゃん。櫛羅くんが来てくれてさ。一人ぼっちはやっぱり寂しいからさ。」
「……うん。」
僕は、ぎこちなく彼女たちに頭を下げた。
「あの、本当にありがとうございました。引越し手伝っていただいて。」
「違うよ櫛羅くん。」
「これからよろしくお願いします。でしょ」
「はい、これからよろしくお願いします。」
「じゃあ、僕たちは真希さんと一緒に戦闘訓練してくるから。何か必要なモノがあったら気軽に声をかけて。」
ソレから乙骨先生は僕に近づいて、こけしちゃんにもバレないように、こっそり封筒を渡してきた。
「君のご両親からの手紙。ごめん、こっそり渡すつもりだったんだけど、見つかっちゃって。」
手紙の封は空いていた。
両親との接触を禁止されているんだ。そりゃそうなるよな。
僕は封の空いている封筒から、一通の手紙を取り出した。
愛する愛息子へ
まず、お前には謝らなければならないことがある。
お前の意思を聞かず、勝手にお前の身体に×××を封印したことだ。
天竺家は代々、式神に生得術式を食わせる代わりに、彼女の術式を得るという縛りを結んでいた。
呪術名家の一つである○○家から没落する前まではな。
ソレが、私の代で、途絶えたのだ。
いや、私が血塗られた因果を断ち切った。
他人との縛りを踏み倒せる術式を持った私と、封印に特化した術式を持っていたお前の母さんとでな。
最初は上手く彼女を出し抜けると思っていた。
だが、彼女は私の術式が消滅していないことに気づくと……
お前を人質に取ったのだ。
お前を守るためにはそうするしか無かった。
だが、お前に術師としてではなく人間としての人生を送って欲しかった。
その気持ちは本物だ。
お前が老衰で死ねば、封印されている式神も死ぬ。
母さんの術式のルールだ。
ソレで○○家の忌まわしき呪いも完全に断ち切ることが出来る……はずだった。
でも、因果は、狐狸精さん……○○家の分家である彼女を離してはくれなかったらしい。
結果、お前は母さんの封印を解くハメになった。
どうやら、私たちの呪術でも、運命という鎖は断ち切れなかったらしい。
過去は消えないんだ。
過去は消えない。
だからこそ、櫛羅。俺はお前の未来に向けて出来る限りのことはしていきたい。
私たちの家では、術師が護衛という名目で我々を監視しているが。
どうか、引越しの手伝いに行けなかったことを許して欲しい。
ソレと、編入した高校に可愛い女の子はいたかね?
そこまで呼んだところで、僕は手紙をベットに放り投げた。
ところどころ検問が入っており、大事なところが墨で塗りつぶされている。
だが一つわかったことがある。
僕も術師で、僕にも生得術式があるってことだ。
通常、生得術式は幼少期に、術師自身が、自覚し始めるらしいが、僕にはその感覚が分からなかった。
ソレもそのはずだ。
僕の術式は、狐のバケモノと一緒に僕の心の奥底に封印されていた。
封が開いた後も、変わったことといえば呪力を視認できるようになったぐらいで、てから炎を出せるだとか、氷の山を召喚できるだとか、特に変わったことはない。
だが、その封印が解けたというのなら、バケモノは僕の術式に興味を示さず、わざわざ魂を喰らう縛りを交わしてきたのだろうか?
点と点が繋がりそうになった時、僕の部屋のドアが吹き飛ぶ。
何事かと思えば、乙骨先生が一緒に吹き飛んで来ていた。
「ここか? 新しく編入してきたモヤシがいる部屋ってのは。」
「真希さん、櫛羅くんが来るっていうから、徹夜で修繕したのに。」
彼女は新たな獲物を見つけたような鋭い目つきで僕を睨んだ。
「お前にも稽古をつけてやる。」
前の学校に、同じ目をした体育会系の先輩がいた。
僕がこういう人種が苦手な理由の一つである。
「まず体力だ。じゃねえと呪術界じゃやってけねぇ。」
「でもなぁ。呪力が無くても、女でも、フィジさえあればやってけんだよ。ソースは私。」
彼女に首根っこを掴まれ、引き摺られる。
やっぱり帰宅部続けてた方が良かったかな。