崇道の末裔   作:ちぇりー×ちぇりー

6 / 21

 


真希さん

「安心しろ。呪具は使わないでいてやるからよ。」

「僕はやるなんて言ってませんよ。」

「チッ。女々しいやつだなお前は。」

 彼女は刀を捨てた。

「つい最近まで一般人だったお前なんぞ素手で十分だ。」

「真希さん!! 」

 乙骨先生が鬼の形相で真希さんを睨んでいる。

「そんなに怒んなよ憂太大丈夫だ。私にだって手加減するだけの器用さはある。」

「そう言って……僕の時は、全身殴打で、救護室に運ばれたんだが。」

 僕は腰のチャクラムを取り外すと、構えた。

 真希さんは、自分が旧姓で呼ばれると怒る。

 この前、イノタクさんがぶっ飛ばされたことを知っている。

 先生によれば、真希さんのその底知れぬ力の要因は、彼女の血筋にあるらしい。

 僕は狐の封を解いてから、呪術師から一般人まで、他人から呪力を感じられなかったことはない。

 しかし、今の彼女からは、呪力の『じゅ』の字すら感じられない。

 息を吐いて、意識を集中させる。

 狐の力は借りない。

 僕も術師だってことが分かったから。

 生得術式を使わなくても、呪力を練ることはできるはずだ。

 日下部師範もそうしている。

 生得術式を持っていない彼も。

「ブォン」

 自身に呪力が宿ったのが分かる。

 同時に彼女の姿が消える。

 日下部さんとは違う。

 気配すら感じられなかった。

 そして僕は、彼らの呪力で攻撃を予測していたことに気付く。

 コレが彼女が鬼神と呼ばれる理由。

 全身に呪力を薄く纏う。

 横腹に衝撃を感じる。

 遅れて真希さんの拳が、肋骨へとやって来た。

 呪力を脇腹に固めて、衝撃を逃す。

 吹き飛ばされて、視界が回転する。

 目が回り、頭が混乱する。

 おそらく高度五メートルぐらいはとばされている。

 だがしかし彼女は、そんなもの、お構いなしで飛んでくるので、僕は度肝を抜かれた。

 チャクラムに呪力を流して、地面へと放り投げる。

 二対の円盤が、大地へと突き刺さる。

 チャクラムをアンカーがわりにして、呪力で作った綱で、身体を思いっきり引き付ける。

 僕のつま先に彼女が掠ったのが、感じ取れた。

 身の毛がよだつ。

 身体中の筋肉がこわばった。

 ここで、可動域を下げれば、一気に刈り取られる。

 身体中の血管に呪力を流す。

 瞳孔が開いているのが分かる。

 彼女の影をかろうじて捉えることができた。

 彼女はすでに大地へと両足をつけており、僕が地面に着地したタイミングを狙って奇襲するつもりだ。

 僕は、自分が次にすべき行動を思考した。

 着地してすぐに、チャクラムで攻撃を受け止める。

 現実的では無い。

 足を呪力強化して逃げる。

 なぜ自分は攻撃を防ぐことばかりを考えているのだろうか?

---汝よ困っとるようじゃのぉ? ---

 彼女の声が聞こえ始める。

 だけど。

 急降下し、体勢を低く、限界まで下げる。

 砂埃で目が眩む。

 僕は彼女を、彼女の脚を、チャクラムに繋がれている鎖で捕まえた。

「ガクンッ。」

 関節が外れそうになる。

 腕に呪力を集中させる。

 真希さんは体勢を崩して、前からゴロゴロと転がった。

 自身の身体を反転させて、彼女の元へと疾走する。

 飛び上がり、両手の円盤を振り上げると、彼女へと飛び掛かる。

「そうだ。ソレで良いんだ。」

 彼女は両足で、僕のチャクラムを蹴り上げた。

 チャクラムから手を離し、左腕で錘を握る。

 右腕で彼女に殴りかかろうとした。

 彼女に両手で受け止められ、上半身から振い落とされる。

 僕の頭部が地面に突き刺さり、グランドが割れる。

 反動を利用して、左腕で握っている鎖の先のチャクラムを振り落とす。

 彼女は僕の武器を受け止めると、ソレごと僕を放り投げようとする。

 彼女の右手に鎖を巻き付ける。

 錘から手を離す。

 そして彼女の腹部へとストレートを放つ。

「硬い!! 金剛石みたいだ。」

 人間なのか、彼女は?

 右拳が腫れる。

 真希さんは、僕が巻き付けた鎖ごと、チャクラムを振り下ろしてくる。

 僕はソレを右手で受け止めた。

 刃が刺さり、血が吹き出す。

 呪力で強化しているはずなのに。

 チャクラムを掴む。

 そして僕の身体からチャクラムへ、チャクラムから真希さんへと呪力を流した(・・・・・・)

「そこまで。」

 先生が割って入った。

「真希さん、スイッチが入りかけてたね。」

「悪い。櫛羅がしぶといもんだからつい力が入っちまってな。」

 こけしちゃんが、僕に呪力を流した。

 身体の傷がみるみるうちに回復する。

「あの、ありがとうございました。」

「ああ、もう退くんじゃねえぞ。そこにお前の未来はねえ。」

 彼女がつけてくれた稽古のおかげで、少しだけ自身の生得領域に近づけたような気がする。

「ありがとうこけしちゃん。もう大丈夫だよ。」

「何か掴めたかい?櫛羅くん? 」

「うーん。なんとなくは。」

「ただ、ソレが術師としての練度が上がったことによるものなのか、本来の自分が持っている術式なのか分かりにくいです。」

「なるほどね。」

「僕から見れば、君は、呪力量こそ少ないものの、緻密な呪力操作が得意な気がするね。」

 日下部さんは、僕のことを器用な男だと言った。

 だけど、僕はその実感がない。

 どちらかと言えば不器用な方だ。

「こんな時に六眼があれば良いんだけどね。」

「憂太、その話はもうやめてくれ。」

「真希さんは何か無いの? 」

「呪力を血管に流すことのできる奴は見たことがある。」

「だけど、それは相伝の術式を持った術師だけだ。」

「櫛羅くん? 血管に呪力を? 」

 彼に驚かれる。

 そんなに凄いことなのだろうか?

 みんな当たり前のように呪力で身体を強化して、呪力で殴ってくるもんだから、普通だと思っていた。

  

        * * *

 

「赤血操術では無いな。」

 短髪で細目の男はそう言った。

「私は……なんだろうか? 血液よりも呪力の方にタネがある、そんな気がする。」

「ダメかぁ。良い線行っていたと思うんだけどなぁ。」

「少年。何も自分の運命に縛られることはない。」

「もしまた俗世に戻りたくなったら、私の元に来ると良い。店長に頼んで雇ってやる。」

「ありがとうございます。でも、僕、やることがあるので。」

「……そうか。なら言うことはあるまい。」

 そういうと、男は、哀愁漂う顔で高専の校門へと歩いて行った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。