崇道の末裔   作:ちぇりー×ちぇりー

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胎動

 男は10年と言う年月をかけ、一欠片の脳細胞から復活を果たし、あらかじめ用意しておいた『中身のない』傀儡に飛び移ると、復活を遂げた。

「おはよう夏油ぅ。気分はどうかな? 」

「呪霊を喰う時よりは良い気分だよ。」

 呪霊を飲み込む立場にあった彼は、呪霊(折本里香)に飲み込まれて、あっけない最後を遂げた。

 だが、男の千年の歴史の中で、そのような肝を舐めるような経験は何度もあり、今更気にすることでも無かったであろうと考えられる。

 だが、目の前の銀髪の呪霊は、男のそのような考えなど知る由も無かっただろう

「乙骨憂太によって、私の保有していた呪霊はすべて失われた。」

「今残っているのは、再生してから捕まえた呪霊一匹のみ。身体が傀儡であるせいか、あまり多くの呪霊を取り込めないんだ。」

「そっか。まぁそんなことどうでも良いけどね。」

「僕たちの関係は変わらない。こっちはこっちで好きにやらせてもらうから。」

「君たちとはそういう『約束』を交わしたはずだ。」

「そのまえに一発殴らせろよ脳みそ野郎。」

 銀髪の呪霊が、男に飛び掛かる。

「辞めろ。」

 火山頭の呪霊がソレを制した。

「止めるなよ漏瑚。」

「そうだ。心配はいらない。」

「真人。君は特級呪霊で唯一、極端に至った存在だ。」

「漏瑚。私はお前のことを八本分だと言った。」

「なぜだか分かるかな?」

「君は理性的すぎるんだよ。」

「そうだよ漏瑚ぉ。本能的に生きろよ。俺たちは呪霊なんだからさ。」

「そんなことだからワシらは失敗したんだ。」

「ぐうの音も出ないね。」

「だが、私が彼の相手をしてやらなければ、真人との軋轢は埋まらなそうだ。」

「そうかなくっちゃなぁ。」

「行くよ羂索(・・)!!俺たちの仲間(・・)に変わっちまっても知んねえからなぁ。」

 六眼でも看破されなかった男の術式。

 魂を見ることの出来るこの呪霊は、ついに男の正体に辿り着いたのだ。

 そのことに彼はワクワクしながら、自分に残された僅かな駒で、どうやって彼を屈服させようかと考える。

「正直、君の役目はもう終わってるんだけどね。」

 だがしかし、一つ問題がある。

 それはこの特級呪霊たちの中で、唯一、この男だけが、私の真の目的に気づいており、漏瑚も花御も陀艮もそのことを知らない。

 おそらく、腹の中が彼によって暴露されれば、男は今の不完全な状態で彼らを相手することになるだろう。

 男はソレを避けたいのだ。

 呪霊操術は、彼の身体にしか適応できなかった。

 だからこそ、男は彼の身体を高専から取り戻す必要がある。

 目の前の駒たちを使って。

「こい!!虹龍!! 」

 男は自身の腹の中から白銀の龍を引っ張り出す。

 龍は男の周りを回ると、金色の眼を光らせて、真人を睨んだ。

 対する真人はというと、いきなり遍殺即霊体と成り、男へと斬りかかってくる。

「おー怖い怖い。」

「人間が行方不明になれば、呪術師がくる。」

「だから、あいにくだけど、僕のストックも潤沢じゃ無い。」

「奇遇だな。私も、彼の故郷で祀られていた、このレアモンスターしか今は取り込めないんだ。」

 真人が己の刃が、男に触れる寸前のところで、虹龍がソレを弾き返した。

「かってえなぁぁぁぁぁぁぉ。」

「虹龍も君には言われたく無いと思ってるんじゃ無いかな? 」

 男は、白銀の龍の背中にのり、彼の無為転変から、自身のレアモンスターを自身の呪力で守りながら、体術で応戦する。

 そして、彼と拳を交える中、自分はなぜ、あのような経歴の浅い呪術師たちによって、アッサリやられてしまったのかを考える。

 彼のブレードは龍を盾にして、彼の両腕は、自身の呪力を纏った両腕で。

 そしてソレから、僅かなスキを見つけて、彼の頬を殴るのだ。

 黒い呪力が弾け、彼の兜が砕ける。

 彼は、その形態を解き、自身に課した縛りを解くと、自身の魂をヘンゲさせて、手印を結ぶ。

「領域展開ぃ。」

【自閉円頓裹】

 今、男の身体は充分では無い上に、虎杖香織の生得領域は失われており、閉じない領域どころか、具現化することすら難しいだろう。

 術式を抽出するか?

 いや勿体無い。

 男は自分の手に入れたレアモンスターにある種の愛着のようなモノを感じていた。

 なぜ男はあのような若僧に負けたのか。

 私たちの心が一つでは無かったからでは無いのか?

 そこで男は、自身に呪いに対するある種の慈愛のようなモノが芽生えていることに気付く。

「そうだ。人も呪いも手を取り合って仲良く暮らせば良いんだ。」(LOVE&PECE)

 バカな。

 男は焦燥した。

 まざか、あの売れない漫才師に自分は影響されてしまったのかと。

 いや落ち着け。

 男は冷静になる。

 あの男の術式に今も影響されているのだ。

 あの術式の正体は未知数。

 今のは私の本心では無い。

 真人はため息を吐き。

「あーあ。しらけちまったよ。」

 領域を解き、振り返ると手を振りながら、何処かは行ってしまった。

 火山頭は、今にも、その頭の其れを噴火させるかと膨れ上がっている。

 1000年以上生きた術師は、そこで初めて、人生の境地というモノを味わう。

 生唾を飲む。

 ソレと同時に火山頭は、何かが溢れたように溢れたように涙を流し始める。

「人の世無くして呪いなしか…… 」

「なぜワシは泣いておる? 」

 花御はというと、無言でこちらを見ている。

「貴方がそこまでいうのなら見せてもらいしましょう。人と呪いが共存する世界というモノを。」

 しめしめ。私は発動させようとしていた簡易領域を解き、虹龍を自身の腹の中へと仕舞う。

 まざか、コメディアンに命を救われる日が来ようとは。

 

 

 

 

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