「行きますよ櫛羅くん。」
「はい、よろしくお願いします。」
アレからというものの、僕は乙骨先生から呪術についての学びを受けながら、放課後は、シン・陰流の稽古を受けていた。
今日は日下部さんが任務に出ていて、不在なので、代わりに兄弟子である三輪さんが、僕の相手をしてくれている。
【呪装刃・朧月】
彼女は腰に手を当てると、呪力で刀身を作り出した。
彼女自ら編み出した、朧月の派生技。
僕もチャクラムを構えると、呪力で強化する。
沈黙の中で、両者の呪力の燃ゆる音だけがただ聞こえていた。
「どうしたの?早く? 」
真希さんに、『受け身だ。』と指摘された事であり、自身の改善すべき点ではあるが、シン・陰流とは弱者のための術式。武術の殆どが、カウンター技で占められている。
こちらから動くのは悪手だろう。
そもそもシン・陰流とは対術師を想定した流派であるのであり、門下生同士で、試合をしても、何か得られるのかと思うが、師範の狙いとしては、シン・陰流を発動するに際して、僕らが課している縛りを克服するとかなんだとか。
《焦ったいな》
三輪さんの首で何かが光り、近くに転がっていたネズミの傀儡が、一斉に僕へと飛びかかる。
【シン・陰流簡易領域】
ネズミは電波を遮断され、音もなく崩れて落ちるが、三輪さんの首に乗っている呪力の狙いはそこではない。
《今だ三輪》
【抜刀】
彼女は、腰で構えていた呪力の刃を引き抜くとともに、僕へ向けて斬りかかる。
縛りを解いてでの簡易領域の展開。
光が消えかける。
「ぐぬぬッ。」
が、すぐに光がぶり返し、次の瞬間には、僕の目の前まで迫っていた。
僕はまだ簡易領域を習得して日が浅く、縛りを解くことができない。
夕月で弾き返せば良いが、ソレでは師範の狙いに反する。
日下部さんは、『せめて縛りを課したまま動けるようにしろよ。』と僕に教えた。
師範は、簡易領域を生存能力を上げるための術式だと、それと同時に、他の術式と併用できるとも教えてくれた。
動きながら簡易領域を維持できるようになれば、戦闘の幅が広がる。
足を地面から離さないまま移動する方法。
右のチャクラムを後方に投げる。
呪力を帯びたソレは、勢いよく道場の壁に突き刺さり、鎖に繋がれた錘と、僕が左手で持っているチャクラムが後方へと引っ張られる。
【
三輪さんは止まらない。
僕は壁へと追い詰められた。
状況は変わらない。
だけど。
【
術式の解釈を広げて、壁を地面として再認識する。
重力と視界が90度回転する。
「メカ丸!! 」
【夕月】
三輪さんは、背中にメカ丸という名前の
僕は彼のアシストに嫌気がさして、師範に言われていたことをそっちのけで、彼女に飛びかかることにした。
とは言っても自体が好転するわけではない。
僕が攻めれば攻めるほど、彼女の土俵の上で戦うこととなる。
だから僕はちょっと意地悪をした。
チャクラムを伸ばして、彼女に直接攻撃する。
当然、彼女も夕月で迎撃しようとするが、僕は呪力で彼女を捕らえた。
最近分かったこと。
僕は他人の呪力にも干渉できるらしい。
最初は、他人の呪術コントロールを少し乱せるぐらいだった。
ソレが練習するうちに、他人の呪力を自身の支配下に置けるようになり、今に至る。
今は呪力を通せる物質を介してでしか、この力が使えないが、いずれは、接触していなくてもソレが可能になるかも知れないと、乙骨先生は言っていた。
「えっ。ちょっと何コレぇ? 」
そのままメカ丸に呪力を流して、傀儡操術をジャミングしてやろうと試みるも、彼に弾かれてしまう。
ここ数日で、その仕組みについてある程度、法則が理解できてきた。
この技は自分より格上の術師には通用しない。
というか、呪力に干渉されていると、術師が認識した上で呪力を固めれば簡単に弾けるらしい。
乙骨先生には、未知の相手に遭遇したら、とりあえず使うようにと指導された。
呪力に干渉出来なくても、自身と相手の力量を測る物差しになるからだ。
三輪さんはシン・陰流の術者としては一級だが、そもそも呪術は、そこまで得意じゃない。
だからこそ、こうやってイタズラをしている。
「こら、櫛羅くん。そんなことしてると、女の子にモテないですよ。」
「えっ? 」
僕の集中が途切れ、そこに彼女の呪力の刃が飛んでくる。
気がつくと、僕は冷たい床の上に寝かされていて、こけしちゃんが頭に呪力を流してくれていた。
「良かった。生きてた。」
「ごめんね櫛羅くん。つい力がはいちゃって。」
「それより。」
こけしちゃんはなんで僕の頭だけに術式を当てているんだろうか?
「身体の傷より、脳の病気の方が重症。」
「大丈夫。僕はもう大丈夫だから。」
「アハハ。櫛羅くんって、小さい時の弟にそっくり。」
「弟ですか? 」
「弟だよ。君もシン・陰流の門下生ですから。」
「そりゃそうですけど。」
《三輪がお前のことを認めてくれている。素直に喜べ。》
「ありがとうございます。」
僕は以前から気になっていたことがあった。
「ところでなんで三輪さんは刀を握らないんですか? 」
「
「ただ、私ね。昔に自分に課した強力な縛りのせいで、刀を握ると、本来の力を出せないんです。」
「どうやって全力を出そうかと考えたら、こんな風になっちゃって。」
《バカなことを。》
「バカじゃ無いよメカ丸。私、今でも後悔してないから。」
「それより、また帰ってきてくれて良かった。」
《帰ってきた……か、そうだな。お前の力になれているならそれで良い。》
「おーい。バカ弟子どもやってるか? 」
「ってまた道場メチャクチャにしやがって。あっ。簡易領域出さずに暴れ回りやがったなテメェら。」
「罰として蚊帳を羽織ったままグランド百周。頼むぜお前ら。毎回修繕費を経理に頼み込む俺の気持ちにもなってくれってんだ。」
「良いですよね。日下部師範は優しいですから。」
「良くない。早く百周走って帰ってこい。」
三輪さんは日下部師範が、スーパーの袋に牛肉・白菜・椎茸が入っているのを見ると、砂埃立てながら、グランド向けて走って行った。
僕もそれに習って彼女を追う。
「やったね櫛羅くん。今夜はすき焼きです。」