それってクリーチャー?ああ!変態女装おじさんさ! 作:くざし
僕にしかわからないが、今日この日を迎える朝は世界で初めての朝かもしれない。昨夜のチャイカさんの話によれば、昨日から全てがデュエマで決まる世界になっているはずだ。まずは普段見ないDチューブのニュース速報でも見てみるか。どれどれ?
≪今なら「グラディアン・レッド・ドラゴン」が50万円借り入れですぐに買える!?国が認めた借金救済方法とは?≫
これは違う。いつもDチューブに流れてくる詐欺広告だ。ってか、グラディアン・レッド・ドラゴンが50万するのか?
「とりあえずスキップっと」
≪ついに今週東京デュエマーランドが50周年をむかえます!≫
≪超人気子役、静岡セリちゃんの切り札とは!?子役もデュエマも華麗にこなすマルチタレントに密着取材!≫
≪白昼堂々の反抗か?強盗事件・被害額は50万円!!最高級のレアカードが盗まれた模様…≫
最後のやつ絶対グラディアン・レッド・ドラゴン盗まれてるじゃん。
非常に異常な事態だが、まだ納得するわけには行かない。僕の後ろでアサリの味噌汁を作っている大柄のおじさんが仕掛けた悪戯かもしれないのだ。いやもう、ほんとは99%ぐらい信じてるけどね。
「おはようございますチャイカさん。意外と早起きなんですね」
「あ?テメェ俺がエルフだからジジイすぎて早起きなんだろ?ってかぁ?」
「言ってない言ってない」
相変わらず被害妄想が激しいこのメイド服を着たおじさんは花畑チャイカさん。何でも次元の裂け目に体を挟んでしまい、全身がエクゾディアパーツになってしまった可哀想なおじさんだ。
「お前も飲む?アサリの味噌汁」
「ありがとうございます。いただきます…あっ、美味しい」
意外にも料理は得意なようで、僕が料理の感想を口にすると目に見えてウキウキし始めるチャイカさん。この人本当にチョロイぞ。
「ごちそうさまでした。あと、今日会社に行くので帰り多分遅れます。もしお腹空くようでしたら、冷蔵庫の中身勝手に使って構いませんので、家の外には出ないでくださいね。いや、ほんと勘弁してください」
ウキウキで身支度を始めるチャイカさんに釘を刺しておく。油断も隙もあったもんじゃない。僕の部屋からこんな変態女装おじさんが出てきたら、ご近所さんに何を言われるかわかったもんじゃない。
「お前もしかして、ここが俺との愛の巣だってことを周りの人に誤解されるのが嫌で俺が家から出るのを止めようとしてるのか?」
違う。違うけど部分的に合ってる。
「チャイカさんは大柄で目立ちますからね、もしパーツを持っている相手を見つけても、こっちが逆に目をつけられないか心配で…」
「なるほどね、だが安心していいぜ」
「と、いいますと?」
「俺の存在は《地雷冥土The World Is Mine》の所有者であるお前にしか認識できない。勝手ながらお前の魂と俺の魂を結ばせてもらったぜ」
これでお前とも縁ができたな!と妖怪縁結びことチャイカさんは何でもないかのように重要そうなことをさらっと僕に伝えてきた。
「その、魂を結ぶことって僕にリスクとかあるんですか?」
「いや、ないぜ。精々お前の中に俺の世界で過ごした記憶、この地球には存在しない記憶がフィードバックするぐらいだぜ」
シンプルに嫌すぎる。外傷はゼロだが、精神的苦痛が伴いそうだ。
「今度からそういうことするときは一声かけてくださいね」
「怒ってる…?」
「怒ってないです」
激おこである。ただ、メンヘラに指摘しても何もいいことはないので黙っておこう。
「とりあえずまとめると、チャイカさんの存在は現状他の人には見えないってことでいいですか?」
ああ!と気合の入った返事が返ってくる。まぁ、それなら心配ないか。
「うーん、とりあえず仕事に行ってきます。帰ったら聞きたいことがたくさんあるので、全部話してもらいますからね」
「あいよ〜」
こうして適当に相槌を打つチャイカさんを後ろに、家を出るのだった。
僕の仕事は市役所の窓口担当だ。日々困っている市民のために文字通り身を粉にして働く仕事だ。大変だがやりがいがあり、周りの人に助けられながら何とか仕事は続けられている。
職場で割り当てられている自分のデスクに座ろうとした瞬間違和感に気づく。
昨日まで置いてあった仕事の資料は全てデュエマのカード一覧票になっている。そして僕の机の隣に置いてあった裁断機は無くなり、代わりにストレージボックスが山積みになっている状態だ。
「しかも一覧票に書いてあるクリーチャー達古いなぁ。エメラルやスナイプモスキート、二つ牙なんかもいるのか」
「おお、君か、相変わらず出勤早いねぇ」
カードリストを眺めていると、いつの間にか出勤してきた課長が話しかけてくれる。この世界の課長も相変わらず変わらないようで一安心だ。
「おはようございます課長。今日もよろしくお願いします」
「ああ!こちらこそよろしく!今日も君にはたくさんデッキを組んでもらうから、じゃんじゃん頼りにさせてもらうよ!」
ん?
「課長、今なんて?」
「だから昨日みたいにたくさんデッキのお悩み相談が来てるから、デュエマ甲子園出場経験のある君に頼みたいんだけど…どうかしたかい?」
なるほど。市民からの相談が全てデュエマ関係になっているのか。貧困家庭問題や住民トラブルよりデュエマのトラブルが優先されるの、社会的に大丈夫なのだろうか…?
「いえ!何でもないですよ、ちょっと寝ぼけてたみたいです。早速仕事してきますね」
「うん、よろしくね。ところで君、今日はデッキを持っていないようだけど…?どこに携帯してるんだい?」
うん?デッキを持っていないことって何が悪いのだろうか?とりあえず言い訳をして誤魔化しておこう。
「いや〜この前コンビニ行った帰りに公園でデッキ落としちゃったみたいで、ハハ」
「エッ!?!?!?デッキを落とした!?!?!?命の次に大事なデッキを!?!?!?」
「え?」
「今日は有給使っていいから!早く探しに行きたまえ!!」
就職以来、見たことのないような焦った表情で課長が慌てている。どうやらこの世界でデッキを持ち歩かないのは余程の異常事態らしい。そして、カードは命の次に重いらしい。命が1番でよかった。
「ありがとうございます課長、僕、デッキがもう見つからないって勝手に諦めてました。お言葉に甘えて今から探してきます。」
ああ!行ってらっしゃい!と快く課長に送り出され、荷物をまとめた僕は自宅前にある公園に向かう。トンボ帰りとはまさにこのことだ。
公園に着いた僕はベンチに座って状況を整理する。
まずこの世界の僕はデュエマ甲子園なるデュエマの全国大会出場という好成績を残しているらしい。これがまず一つ。
次にこの世界のカードプールだ。市役所で見たカードプールには基本的に拡張パックDM26あたりまでが使われているようだ。しかし、主流なカード達やお悩み相談資料にあったカードは古いカードがほとんどだった。これが二つ。
そしてここが大事だ。今の僕にはこの世界の基準に合わせたデッキがないことだ。前の世界で使っていたカード達を使おうにも、今の世界ではそもそもカードパワーが高すぎるし、もし盗難されてしまったらチャイカさんの体を奪った黒幕の手に渡ってしまうかもしれない。なのでこの世界でカードを集め、デッキを作ること。これで三つだ。
「とはいえ、どこかにカードが落ちていないものかな…」
公園を眺めていると、ふと目に入ったゴミ袋に黒いカードが何枚か紛れている。
「これは…汽車男にブラッディ・イヤリングか?」
ゴミ袋の中に入っていたのは長年のファンもいるほどの闇文明のカードだ。しかしなぜゴミ袋の中に?というか…
「クズ男にデーモンハンド、全部闇文明のカードじゃないか」
捨てられていたのは全て闇文明のカードのみだ。デュエル・マスターズというカードゲームは例外を除いて火・自然・水・光・闇の5文明の中から好きなカードを40枚集めてバトルするゲームなのだ。だがしかし、闇文明のみが捨てられていて他文明のカードが一枚も見当たらないのはどういうことなのだろうか?
「うーん、考えてもわからないなぁ、とりあえず他にもカードショップやいろんな場所を見て回ろうかな。せっかくの休みだしね」
そうしてゴミ箱に入っていた闇文明のカード達をポケットにしまいこんで公園を出て行こうとした際、ふと砂場に埋まっていた4枚のカードが目に入る。
「こいつは…いいね」
そうして公園で闇文明のカードを20枚ほど集めた僕はカードショップへ向かうのであった。
主人公の名前はしばらく出てこないかもしれないです。
ここまで読了ありがとうございました。