SSまとめ   作:鬼ころし

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ある春の日

 四畳の部屋の中で、私は一人物思いに耽っていた。部屋の中には、くたびれた布団が一枚と小さな卓袱台が一つあった。それ以外には、小さな燭台が一つあり、すっかり溶け切った蝋燭が中にあった。

 私は万年床の上で正座して、あることについて考えていた。来る夏について、である。

 先に述べた通り、私の部屋にはエアコンどころか扇風機すらもない。これでは、夏になると、熱中症であっという間に死んでしまう。しかし私の懐には、新たに冷房器具を買う余裕は無い。家賃と生活費でかつかつであるというのに、そんな高級品を買えるわけがない。

 私は今年の春に一人暮らしを始めたばかりの一人暮らし初心者だ。ほんの数か月前に、家賃二万円のこの部屋に入居したばかりのルーキーだ。一人暮らしの道理なんてものは、まったく知らない。冷蔵庫すらないので、私は毎日安い缶詰を一日一個のひもじい生活を送っている。

 ふと私は、こんなことを思った。大学のサークル室なら、暑さをしのげるのではないか。

 私は現在、暖炉大学という大学に通っている。しかしこれはさして重要ではない。重要なのは、私の所属しているサークルだ。

 映画サークル「シェイカー」は、OBの多くが映画業界に務めている。無論、監督や俳優なんかも多く輩出している。その実績もあってか資金は潤沢なようで、サークル部屋もとても豪華絢爛極まりない。のだが、撮影用の小道具や衣装なんかが所狭しと並べられているので、実用的なスペースはかなり狭い。そもそもこの部屋は創設時に使われていた部屋で、現在はもはやただの物置部屋でしかない。撮影部屋等の方が使われている。つまり、この部屋には滅多に人が来ないスペースがある、ということだ。

 思い立ったが吉日、私はすぐさまサークル部屋へと向かった。

 まだ5月ということもあってか、そんなに暑くはない。長袖でも余裕で過ごせる気温だ。

 サークル部屋の前には「現在改修工事中につき立ち入り禁止」という看板が立てられていた。私の野望は打ち砕かれたが、残念無念とすごすご逃げるのはまだ早い、と私は切り替えた。

 その足で学園事務局へ向かい、改修工事のバイトを申し出た。これは断られた。その代わりに、購買部のバイトを紹介されたので、そこで働くことになった。

 こうして私の食生活はほんの少しだけ水準が向上した。

 夏が来るまでまだ時間はある。コツコツと貯金して扇風機と冷蔵庫を買わなければ。また一つ、私の目標が増えた。

 ちなみにこれは完全な余談だが、映画を作ったことは一度もない。

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