小さな小さな探偵事務所の中には、二人の男女が寛いでいた。来客用の二人掛けのフカフカソファにごろんと寝転んでいるのは、所長含めて二人しかいない調査員の内の一人である歌恋だ。付近の美大に通う女子大生で、この探偵事務所でのバイトを始めたのがおよそ二年前のことだった。現在、ソファの上で仰向けに寝転びながらコンビニで買った美術雑誌を読んでいた。
そして、仕事用の小さなデスクに載せられた骨董パソコンとにらめっこしているのが、この事務所の所長、正治郎である。来るはずもない仕事依頼のメールを待ち続け、二時間が過ぎていた。無論、その間何もしていなかったという訳ではない。冷蔵庫の中に何も無いことを危険視した正治郎は、コンビニでペットボトルコーヒーを買ってきていたのだ。その時歌恋がこっそりカゴに入れたのが、今彼女が読んでいる雑誌である。
「ふぅ。今日もあちぃな」
正治郎は冷蔵庫からコーヒーを取り出し言った。この日は春にしては気温が高い日であった。
「ん?おーい所長、蛍光灯切れかけてるよー」
仰向けで本を読んでいた歌恋が言った。切れかけている蛍光灯は、入り口に程近い場所である。これを無視する訳にはいかないと正治郎は立ち上がった。
「何?えー、在庫あったかなー」
仕事用のデスクの後ろにある箱を漁り始める正治郎。彼は取り敢えず何でも箱に入れる癖があった。
「んー、参ったなぁ。ここにはガラクタしか入ってねぇや。おっ、缶切りだ。これで缶が開けられるぜ」
「もうめんどいし、買ってこよっかー?」
「いや、もうちょい探してからにしよう。どうせ誰も来ないし」
「んー。私は課題制作あるからちょっと手貸せないけど、何かあったら呼んでー」
「あいよ。勉強頑張りな学生」
そう言って、歌恋は休憩を終えて来客用の広めの机の上のノートパソコンを開いた。
正治郎は、箱の中身を改めるのを諦めて、隣の生活スペースへと移動した。生活スペースには、すっかり綿の抜けたペラペラの敷布団が部屋の隅っこに寂しげに寝そべっている他は、何処からか拾ってきた謎の機械だったりが部屋の殆どを埋めていた。
「だいたいこの辺だと思うんだがな」
ネジや釘が小分けにされて置いてある棚の隣の棚を見た正治郎は、そこに並んだ数種類の蛍光灯を何本か掴んで部屋を出た。
「よく分からんから、適当に試していくぞー。脚立どっかないか知らんか?」
「その変にあるでしょ多分。無かったら所長の椅子使えばいいし」
「そうだな」
そして、部屋をぐるりと見回した正治郎は、部屋の隅にいつか拾ってきた謎の台座を見つけた。あれでいいか、と正治郎はそれを持ち上げ該当箇所の下に置いた。
「よっ、と」
靴を脱ぎ台座に上がり、蛍光灯を取り外してサイズを確認した。幸い、同じサイズの物があったので、それを取り付けた。チカチカと点滅していた蛍光灯を取り替えたことにより、入り口は明かりを取り戻した。
「若干前より暗くない?」
作業をしながら見守っていた歌恋は言った。それの対し正治郎は答えた。
「まぁ気のせいだろ」