風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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嵐の前の静かさ

 トリニティの一件から暫くして、コトリの日常は以前と変わらず、またゲヘナ学園でも特に変わった事のない日々が続いていた。

 

 見回りの際は借り物の風紀委員会の制服を身に付け、ゲヘナの治安維持に努める。

 

 銃声鳴り響く廃墟。不良生徒達の巣窟。盗品を売り捌き、利益を得ていた彼女達を一斉検挙すべく、建物の周囲をぐるりと囲み、突入していく。

 

 逃げられないと判断したのか、不良生徒達も徹底抗戦の姿勢を見せ、バリケードを築いてはコトリ達に銃火器を向け行手を阻む。

 

 下手に飛び出せば的になる。対して、バリケードを築いた不良生徒達は、上手く隙間から銃口を覗かせ、コトリ達に狙いを定めて発砲してくる。

 

「ちっ……厄介だな」

 

 前線を指揮していた風紀委員会の生徒がそう毒付く。確かに厄介だ。不良生徒達は障害物を上手く利用してコトリ達の攻撃を防ぎつつ、隙を見ては発砲してくる。

 

 このままでは悪戯に時間が過ぎ、陽が落ちてしまう。そうなっては視覚による視認が困難となり、不良生徒達を逃がしてしまう恐れがある。

 

 誰かが前に出なければならない。しかし、それは同時に囮となる事を意味する。

 

「……私が出ます」

 

 だからこそ、コトリは名乗りを上げた。委員長である自分なら万が一の場合にも対処できるだろうと判断してだ。

 

「コトリちゃん……しかしだね。君はまだ、正式には……」

「はい、確かに私は、まだゲヘナ学園の生徒ではありませんが、それでも、お役に立ちたいと思っていますので」

 

「コトリちゃん……」

 

 そう言うと、風紀委員会の生徒は暫し悩むも……。

 

「……分かった」

 

 そんな呟きと共に、空になった弾倉を地面に落とし、新たな弾倉に交換すると、側に控えていた副官の生徒に後を任せ、突撃のタイミングを見計らう。

 

「私が盾になります。上手く背中に隠れてて下さい」

 

 そう言って、銃声が途切れた瞬間、コトリはバリケードに向かって突撃する。

 

「っ!?!?」

 

 まさか真っ直ぐに突っ込んでくるとは思っていなかったのか、一瞬不良生徒達が怯みを見せる。その隙に一気に距離を詰めたコトリと前線を指揮していた風紀委員会の生徒は、一人、また一人と不良生徒達を鎮圧していく。

 

「くそっ、この……!?」

 

 不良生徒達も負けじと反撃してくるが、飛び交う銃弾を無視してバリケードまで肉薄すると、SGでバリケードの一部を破壊。そこからバリケードを潜り抜け、不良生徒達の懐まで潜り込むと、そのまま乱戦に持ち込んだ。

 

 乱戦になればコトリに分がある。風紀委員会の手伝いで修羅場を潜ってきた実績と経験により、相手を翻弄する戦闘方法は熟知しているし、何より敵の懐まで潜り込む度胸と技量は、並大抵のものではない。

 

「がっ……!?」

 

 そんなコトリに怯んだ不良生徒達を見逃す筈もなく、一人また一人と制圧していく。そしてコトリの後に続く風紀委員会により、あっという間にバリケードの内側を制圧したのだった。

 

「コトリちゃん、大丈夫かい?」

 

 風紀委員会の生徒にそう声をかけられて、コトリは一息つくと。

 

「はい。問題ありません」

 

 そう言って頷くのであった。

 

 

 

 

 

「コトリちゃんのお手柄だね。本当に助かったよ」

 

 不良生徒達の一斉検挙を終えた後、風紀委員会の生徒はそう呟いた。

 

「いえ……私は何も……」

 

 そんな彼の呟きに謙遜するコトリだったが、腰の付け根から生えた翼がパタパタと揺れている。嬉しい時の反応だ。

 

 褒め慣れてないコトリの反応に、風紀委員会の生徒は苦笑いしながらも、彼女の肩をポンと叩き。

 

「謙遜する事はないさ。コトリちゃんはよく頑張ったよ」

 

 そんな言葉に、コトリは頬を掻いて、『ありがとうございます』と呟くのだった。

 

 

 

 

 

ーゲヘナ学園ー

「なぁなぁコトリぃ」

 

「なんですかレンちゃん?」

 

「コトリはゲヘナに入学するんだろ。正直言って怖くねぇのか?」

 

 姉のユタカと共に給食部に食材を届けに来たレンの質問に、コトリは暫し考え、それからゆっくりと口を開いた。

 

「怖いかどうかと問われれば、私としては怖くないというのが答えです。少なくとも、此処にいる皆は凄く良い人たちですからね」

 

 とはいえ、治安そのものは他の自治区と比較しても最悪に近しいのがゲヘナだ。だからこそ、レンは心配しているのだろう。

 

 少なくとも、レンが一人で此処に来た時はカツアゲどころか追い剥ぎに近い状態にあったわけなのだが……。

 

「それに、私を拾ってくれたヒナ委員長には凄く感謝しているのです。なので、彼女のいる此処以外に行く気はありませんよ」

 

「そっか。なら良いんだ」

 

 そう言って、レンは小さく笑った。そんな笑顔にコトリもつられて笑うのだった。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りから数日後の事だった。いつものように治安維持の為の巡回を終え、執務室に報告に向かおうとしたコトリに、ヒナが声をかけてきた。

 

 その両手には厚手の紙袋が握られており、コトリは首を傾げる。

 

「コトリ、ちょっといい?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「貴女が此処の仕事を手伝うようになって、もう大分経つわよね」

 

「そうですね。風紀委員会での仕事にも慣れましたし、時期も時期ですからゲヘナ学園の生徒として正式に入学する日も近いと思います」

 

 そんなコトリの答えにヒナは『そう』と呟くと、手に持っていた紙袋をコトリに手渡す。

 

 渡された紙袋の中を覗くと、そこには綺麗に畳まれた制服が入っていた。

 

「……これは?」

 

「今日届いたの。ゲヘナの制服よ。正確には、風紀委員会の制服なんだけど」

 

 ヒナの言葉にコトリは驚く。まさか、自分の為に制服を用意してくれていたとは思わなかったからだ。

 

「でも……良いのですか?」

 

 風紀委員会の制服は『借り物』だ。正式にゲヘナ学園の所属となっていないコトリがそれを着ても良いのだろうか?

 

 そんな不安を他所に、ヒナは笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ。これは私の個人的な贈り物だしね」

 

「……ありがとうございます」

 

 感謝の言葉と共に、コトリの腰の付け根から生えて翼がバタバタと動く。凄く嬉しい時の反応だ。

 

「折角だから着てみる?」

 

「良いんですか!!」

 

 そんなコトリの言葉にヒナは『えぇ』と頷く。そして、ゲヘナの制服を紙袋から取り出すと、今まで借りていた制服を丁寧に畳み、真新しい自分の制服に袖を通す。

 

「どう、でしょうか?」

 

 自分の制服という特別な感覚に戸惑いながらも、コトリはヒナにそう尋ねる。

そんなコトリの様子に『よく似合ってるわよ』と感想を返しながら、ヒナは微笑んだ。

 

 サイズもぴったり。少しかたく感じるが、それも慣れれば直ぐに馴染むだろう。

 

 嬉しい。自分の制服。そして、ヒナに認められたという思いが強くなり、コトリは笑顔を浮かべる。

 

「改めて、これからもよろしくお願いします!!」

 

 そんなコトリの言葉にヒナも頷き返し『こちらこそ』とコトリの頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー百鬼夜行ー

「ほぉ、それで。主のお気に入りはゲヘナの生徒であると?」

 

「はい。とはいえ、まだ正式にゲヘナの生徒として手続きはされておらぬようじゃがな。しかし、いずれはゲヘナの所属になるじゃろう」

 

「ふむ……それで、主は何を所望する?」

 

「……戦場を」

 

「相手は一人かえ?」

 

「否、必要とあらば、彼奴が所属する風紀委員会も……否、必要とあらばゲヘナ学園全てを」

 

「この戦狂いが。ゲヘナ学園全てを相手取るとは中々に豪気じゃの。しかし、主がそう望むのなら致し方あるまい」

 

「感謝致しますぞ、我が主よ」

 

「とはいえ……だ。空崎 ヒナ。彼奴を相手するとなると少々骨が折れるのう」

 

「シオン様であれば、300秒は持つかと」

 

「全く、正直に言う。じゃが、確かにその通りじゃ。妾であれば、300秒は持たせてやる事は出来る。であれば、精々興じると良い」

 

「……はっは。ありがたき幸せ」

 

「あぁ、精々楽しむが良い。それが我等『絡繰演舞』の流儀じゃからな」

 

「それでは、わしはこれより戦の準備にとりかかりまする」

 

「うむ、後は任せるぞ」

 

 ……種島 ヒノエ




コミケの準備が進んでおります。
もう少ししたら改めてお知らせすると思います。

感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
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