巡る、巡る、巡る……。舞台は人形達で溢れて舞台の外へと廻り始める。絡繰人形達が、彼女達の舞台に心奪われた観客達を巻き込み……そして、『種』を蒔き始めるのであった。
響く轟音。人々の悲鳴が木霊する。舞台は廻り、廻る。その中心にて嗤う人形達の姿に観客達は恐怖し……そして、魅了されていくのであった。
「〇〇地区で爆発が発生!! テロか!? それとも事故!?」
「分からない!! 兎に角人員を回せ!! そこかしこで爆発が起きてるぞ!!」
「報告します!! 〇〇地区で銃撃戦が発生!! テロリストと思われます!!」
そんな、混乱の渦中にあるゲヘナ自治区にて。彼女達は嗤う。人形達は嗤い続ける。始まるのだった。絡繰演舞の宴が始まるのだった。
ーゲヘナ自治区ー
無差別な爆発がゲヘナ自治区で発生し、住民達は混乱の渦中にいた。
突如発生した爆発は街中に広がり、次々と被害を拡大させていったのだ。
皆が皆、我先にと逃げ惑い、その混乱に乗じるように、彼女達は動き出す。
「さて……そろそろ始めるとするかの」
廃墟が立ち並ぶゲヘナ自治区でも一際大きい建物から顔を覗かせながら彼女は呟く。長髪のポニーテールに山伏衣装を身に纏った少女。絡繰演舞の主催者たるヒノエは、そう呟くと口角を吊り上げた。
「わしと主人様の舞台……存分に楽しむが良い」
そんな呟きと共に爆発が連続する。そんな中を、ヒノエは悠然と歩き始める。目指すのはこの自治区の中でも一際目立つ建造物……ゲヘナ学園だ。
「さてさて、さてさてさて……主人様からは摘み食いは控えよと苦言を呈されたが……」
ヒノエはそう呟きつつ、自身の懐に忍ばせた銃火器を取り出す。この日の為に、彼女の主人であるシオンが用意してくれたものだ。
「じゃが……『喰ろうてはならぬ』とは言われておらぬ」
そんな呟きと共に、彼女は銃火器を構えると、引き金を躊躇なく引くのであった。
絡繰人形達が街中を疾走する。
どれもこれもが人とは思えぬ機動力と運動能力で、人々が逃げ惑う中を縫うように駆け抜けながら銃を乱射していく。
「くそっ! あれだっ!! 撃てっ! 撃てぇぇぇぇぇ!!」
市民を襲う絡繰人形達を発見した風紀委員会の生徒達。
隊列を組み、銃火器を構えた生徒達が引き金を引けば、弾丸の雨が絡繰人形達を襲う。
銃弾の雨が絡繰人形の身体を穿ち、音を立てて削り取っていく。
「よしっ! いける! いけるぞ!!」
銃火器が絡繰人形に有効である事を確認し、生徒達は更に引き金を引く。弾丸の雨が絡繰人形達を穿ち……そして、その内の一体がガクンと機能を停止させ、沈黙した。
「やった……のか?」
動かなくなった絡繰人形を見て、生徒達はそう呟いた。しかし、その希望も束の間だった。
『ギギ……ガガッ』
そんな機械的な音と共に、人型の姿を模していた絡繰人形の背中から節足動物を彷彿とさせる外骨格が出現し、異形の姿となって再起動した。
そして、風紀委員会の生徒達を視覚に捉えると同時に、蜘蛛のような八本の脚を動かしながら、猛然と突進を始めた。
「ひっ……!?」
そんな蜘蛛のような絡繰人形の姿に生徒達は悲鳴を上げるがもう遅い。弾丸の雨を潜り抜けた絡繰人形達は一気に距離を詰めると、指揮を取っていた風紀委員会の生徒に飛び掛かり、無数の足で絡みつき、その身体を拘束する。
「は……離せっ!!」
もがく風紀委員の生徒だが絡繰人形の拘束からは逃れられない。周りの生徒達も絡繰人形の拘束を解こうと銃口を向けるも、次の瞬間には絡繰人形を中心に大規模な爆発が引き起こされ、生徒達を吹き飛ばしてしまう。
「な……何が……?」
身体中に走る痛みに呻きながら風紀委員の生徒はそう呟く。そして、そんな彼女の眼前には自爆した絡繰人形の残骸と爆発に巻き込まれて戦闘不能となった仲間の姿があった。
「自爆……したのか? ま、不味い……みんなに知らせないと」
そんな彼女の思いも、無数の絡繰人形達の足音に掻き消されてしまう。そして次の瞬間には風紀委員会の生徒もまた、蜘蛛のような姿を模った人型の絡繰人形達に拘束され、爆炎の中に消えていくのだった。
ゲヘナの自治区を疾走する絡繰人形達。逃げる市民は銃火器で対応し、反撃に出た者達がいれば、蜘蛛の姿に変形し、組み伏した状態で至近距離からの自爆で道連れにする。
これが絡繰演舞 戯ノ章。彼女達の宴の始まりだ。
着物姿の令嬢であり、絡繰演舞の部長を務める松永 シオンの人形達。その数は目視だけでも100体を超える。
絡繰人形達はゲヘナ自治区を縦横無尽に疾走し、そして逃げ惑う住民達を容赦なく狩り獲っていくのだ。
「さぁ、さぁ、興じようぞ。これなるは妾達の戯れじゃ。思う存分楽しむが良い」
轟音が鳴り響き、人形を一体失ったのだと認識しながら、それでも構わずに彼女は嗤う。
「妾達の『戯』はまだまだ続くぞ」
そんな彼女の呟きと共に、人形達は更に加速するのだった。
(さて、ヒノエはそろそろ始めた頃かの)
ゲヘナ自治区を疾走する絡繰人形達を眺めながら、シオンは心の中でそう呟く。舞台は整えた。後は観客達の視線を自身に向けるだけである。
特等席は用意した。
空崎 ヒナ。ゲヘナ学園の風紀委員長。ゲヘナ学園最強格の彼女であれば、この『絡繰演舞』の舞台で共に興じるには十分な役者といえるだろう。
彼女の為に用意した絡繰人形達。街中を疾走する絡繰達とは比べ物にならない程の高性能を有する、彼女の為に用意した絡繰人形達。
「あぁ……楽しみじゃ」
そう言って彼女は嗤うのだった。彼女の『戯』に心奪われた観客達を嘲笑うように。そして、その笑みをより一層深めながら、彼女は思う。
負けると分かっている舞台に興じるもまた良し。結末が分かりきっているからこそ、観客達は舞台の上の者達に熱狂するのだから。
届かぬ強者の懐に潜り込み、毒牙を突き付け、一矢報いる。その期待感こそが、舞台をより盛り上げるスパイスとなるのだから。
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