ヒナを襲った凶弾。
そして、自らの手でヒナに銃口を向け、引き金を引いた風紀委員会の生徒達は、己の行動に驚愕していた。
「な、なんで……私達……」
そんな声と共に動揺が広がっていく生徒達。そんな彼女達を嘲笑うように一人の生徒が声を上げる。
「ふふ……あぁ、愉快じゃな」
そう言って嗤うのはシオンだ。彼女は手袋の先から伸びる糸を操り、蜘蛛の絡繰を風紀委員会の生徒達に取り付かせ、彼女達の身体を人形のように操ったのだ。
「これなるは裏切りの物語。妾の可愛い絡繰達が、空崎ヒナを舞台から引き摺り下ろす為の舞台装置となるのじゃ」
全ては舞台の中心で脚光を浴びるヒノエの為に。ヒノエが望む舞台の為に、シオンは嗤う。そんなシオンの指先から伸びる糸が妖しく揺らめき、風紀委員会の生徒達に絡み付く。
「さぁ、見遣れ……空崎 ヒナよ」
シオンはそう呟くと、指先で摘まんだ糸を引っ張るように手を動かす。すると、それに呼応するように風紀委員会の生徒達が動き出し、混乱するヒナに向かって殺到するのであった。
「絡繰演舞の舞台に主も妾も不要じゃ。主はただただ、舞台が織り成す『戯』に魅入られるがよい」
シオンの呟きと共に、風紀委員会の生徒達が一斉に銃火器を構える。そして、ヒナに狙いを定めて引き金を引いた。無数の銃弾がヒナの身体を撃ち抜き、それで終わる筈だった。
しかし、次の瞬間、ヒナの姿が視界から消え、銃弾の雨は空を切る。
そして、ヒナはいつの間にか風紀委員会の生徒達の背後に回り込むと、その内の一人を羽交い締めにするのだった。
「なっ……!?」
突然の出来事に混乱するシオンだが、指先の糸が引っ張られる感覚に、ヒナの狙いを察する。
「糸……ね。これは。そう、人形といい、これといい、なんとなくだけど、見えてきたわ」
そう言ってヒナは風紀委員会の生徒達に絡み付く糸を引き千切ると、羽交い締めにしていた生徒を解放する。そして、糸の先にいるシオンを見据えた。
「貴女が糸で操っているのね。原理は分からないけど、人形劇と似たようなものかしら?」
そんなヒナの言葉にシオンは笑みを浮かべると、拍手を送るように手を叩くのだった。
「流石じゃな空崎 ヒナよ。この短時間で絡繰の正体を見破るとは……いやはや、実に愉快じゃな」
そう言って楽しげに笑うシオン。しかし、その目は笑っておらず、ヒナを獲物として見据えていた。
そんな視線を一身に受けながらも、ヒナは冷静に思考する。
絡繰人形と風貌。いつかコトリに見せた各学園の生徒達でリストアップした名簿の中に、彼女の名があった事を思い出す。
絡繰演舞。自ら定めた獲物を自分達の舞台に招き入れ、そして狩る。
目的の為なら手段を選ばない事で有名で、彼女達による犯行で多くの生徒や一般人が巻き込まれる事件が後を絶たないと聞く。
「……一つ、聞いても良いかしら?」
「ふむ……質問か。良かろう。一つだけじゃぞ」
ヒナの言葉にシオンは楽しげに笑いながらそう答える。そんなシオンに、ヒナは問い掛けるのだった。
「『誰』が目的?」
明確で、そして核心のついた問いに、シオンは一瞬だけ目を見開く。しかし、すぐに笑みを浮かべるのだった。
「ふふ……やはり主を舞台から引き摺り下ろして正解じゃったわ」
そう言って笑うシオンだが、ヒナは動じない。獲物が自分でない事が分かったが、ならば誰が選ばれた?
そんな疑問が浮かぶ中、シオンは約束通りに答えるのであった。
「不死川 コトリ」
その答えに、ヒナは一瞬だけ目を見開き、そして静かに銃口をシオンに向けるのであった。
「判断が早いな。しかし、それだけじゃ。何せ既に……」
と、シオンの口角が吊り上がった瞬間、風紀委員会の生徒達に取り付いていた蜘蛛の絡繰達が一斉にヒナに襲いかかった。
「主は妾の術中じゃ」
シオンの言葉と共に、蜘蛛の絡繰達から無数の糸が吐き出され、ヒナの身体を拘束していく。一人の生徒につき、一体で十分に効果を齎す傀儡の糸を、複数体で拘束し、完全に動きを封じる。
これで漸く……。
(これで漸く、妾でも300秒時間を稼ぐ事が出来る。さぁ、ヒノエよ。存分に楽しむが良い)
空崎 ヒナと対峙した自分が稼ぐ事が可能となる300秒の最初の一歩。
ヒノエに求められた300秒の為に、シオンはヒナに対し、全身全霊をこめて挑むのであった。
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