風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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化物の本質

 鏡の前で袖を通し、身嗜みを整える。鏡に映る自身の姿に、コトリは満足そうに笑みを浮かべた。

 

 借り物ではない自分の制服。

 

 風紀委員会の証である腕章。

 

 コトリは鏡に映る自分を見つめながら、静かに口を開く。

 

「ふふ……やっとだ」

 

 ずっと待ち望んでいた瞬間が漸く訪れた。コトリは鏡に映る自分の姿に、そっと手を伸ばす。鏡に映る腕章に触れながら、コトリは言葉を紡いだ。

 

「これで私は『風紀委員会』の一員だ」

 

 そう呟き、コトリは笑みを浮かべる。

 

「さぁ、行こう」

 

 鏡から手を離したコトリは静かに歩き出すのだった。その一歩を踏み出す度に、胸が高鳴るのを感じながら、彼女は歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 そして、コトリがゲヘナ学園の門を潜ろうとしたその時、ゲヘナの自治区の彼方此方で爆発音が鳴り響いた。

 

「っ……!?」

 

 突然の出来事に、コトリは思わず足を止める。

 

 何が起きている?

 

 そんな疑問を抱くコトリの耳に、銃声が鳴り響いた。

 

「今のは……っ!?」

 

 ゲヘナ学園内に響く銃声。

 

 聞き慣れた銃声。風紀委員会のメンバーが所持する銃火器の発砲音だ。

 

 それに紛れて別の銃声。その銃声が鳴り響く毎に風紀委員会の所持する銃声の数が減っていく。

 

 そして、その銃声が完全に聞こえなくなった時、コトリは呆然とした様子で呟いた。

 

 銃声から判断するに、風紀委員会のメンバーは20〜30人はいた筈だ。それが、たった1人に壊滅させられた?

 

 一体、誰が?

 

 そんなコトリの疑問に答えるように、彼女は姿を現した。

 

 長髪のポニーテールに山伏姿の少女。その手には硝煙を燻らせる銃が握られており、彼女が発砲した事が分かる。

 

 頬を赤く染め、恍惚の笑みを浮かべ、銃から漂う硝煙の香りを嗜む少女。

 

 彼女はコトリの姿を見つけると、頬を赤く染めたまま嬉しそうに笑うのだった。

 

「はっは……漸くお会いする事が叶ったな。コトリ殿」

 

 そう言って笑う少女に、コトリは思わず後退るのであった。背筋に薄ら寒いものを感じる。そして何より、彼女からは形容し難い『嫌悪感』すらも感じるのだ。

 

「……貴女は?」

 

 そんなコトリの問い掛けに、彼女は笑みを浮かべる。

 

「種島 ヒノエ。お初にお目にかかり光栄の極みじゃ」

 

 そう言って恭しく一礼した後、ヒノエはコトリに向かってゆっくりと歩みを進める。

 

 ゆっくり、ゆっくりと、しかし確実にコトリとの距離を縮めるヒノエ。そんな彼女に対し、コトリもまた後退りながら問い掛けた。

 

「先程から聞こえる爆発音は?」

 

「我が主人の餞別じゃ」

 

「……風紀委員会のみんなは?」

 

「わしの目を見よ。それで分かるじゃろう?」

 

「……そうですか」

 

 コトリはそう呟くと、静かに目を閉じた。そして、次の瞬間にはその目を大きく見開きながら口を開いた。

 

「なら……風紀委員として貴女を捕縛します」

 

 その言葉に、ヒノエは笑った。

 

 笑って、笑って、一頻り笑って……そして、笑った。

 

「はっは……それは何とも光栄な事じゃな」

 

 呟きと共に彼女は銃を構えるとコトリに向かって発砲するのだった。

 

「っ……!?」

 

 銃弾に穿たれながらも、即座にSGを構えて引き金を絞る。放たれた銃弾がヒノエの頬を掠め、彼女はその頬に伝う血を指で拭い舐めとった。

 

「あぁ……なんと甘美な味わいか」

 

 そんな彼女の呟きと共に、コトリは引き金を絞り続ける。しかし、そんなコトリの銃弾はヒノエに掠りもしない。

 

「はっは……良い、良いぞ」

 

 そんな呟きと共に彼女は恍惚とした表情を浮かべながらコトリに向かって発砲するのだった。

 

 俊敏な動きに合わせ、放たれる銃弾は正確無比。悉くがコトリの急所を穿ち続ける。

 

 しかし、それでもコトリは止まらなかった。銃弾をその身に受けながらも、銃口をヒノエに向け続ける。

 

 そんな彼女の姿を見て、ヒノエは嬉しそうに笑うのであった。

 

「はっは!? 成程成程、お主はそういうタイプであったか!?」

 

 如何に身体を傷付けようと、傷が瞬時に回復していく。それがコトリの本質の一部であると瞬時に理解したヒノエは、歓喜に身を震わせる。

 

「あぁ……これぞまさしく『化物』よ」

 

 そして、引き金を引き続けたヒノエであったが、途中からその指が止まった。

 

 弾切れである。

 

「はて……弾切れか?」

 

 首を傾げ、そう呟くヒノエ。そんな彼女の隙を突くようにコトリの銃口が火を噴いた。しかし、その銃弾も再び虚空に消える事になる。

 

「っ!?」

 

 驚くコトリ。そんなコトリを他所に、ヒノエは徐ろに懐から風紀委員会のメンバーが所持していた銃火器を取り出し、その銃口をコトリへと向ける。

 

「さて……続きと行こうか」

 

 そう言って、片手を明後日の方向へ向ければ、装束の鈴懸から何かが飛び出し、校舎の壁に突き刺さる。

 

「あれは……アンカー?」

 

 視界の端に映ったそれを見て、コトリは呟く。それと同時に、アンカーと繋がっていたワイヤーが動き出し、ヒノエの身体を引き寄せる。

 

 速い。一瞬でヒノエが校舎の壁に張り付いたかと思えば、次の瞬間にはコトリに向かって銃口を向け、引き金を引いていたのだ。

 

「くっ……!?」

 

 瞬時に身を翻し、銃弾を避けるコトリ。しかし、彼女の動きに合わせてヒノエもまた校舎の壁を蹴り付けて移動すると再び引き金を引き続ける。

 

 そんなヒノエの攻撃を防ぎながら、コトリは思考を巡らせる。

 

 ヒノエのあの動き、恐らくあの衣装の下には多くの仕掛けが施されているのだろう。

 

 それら全てを十全に扱うには、確かに彼女が言ったように『化物』のような身体能力が必要だ。

 

 しかし、この短時間の戦闘での観察で、彼女の本質は全くの別物である事も理解していた。

 

 銃声が鳴り響く度に精度は増し、動きも最適化されている。それはまるで、『戦闘を学習』しているかのようだ。

 

 いや、それは学習とは掛け離れた代物だ。

 

 恍惚の笑みを浮かべ、高揚した頬が意味するもの。それはある意味では『狂喜』と呼ぶべき代物。

 

「っ……」

 

 ヒノエの攻撃を凌ぎながら、コトリは考える。そして、一つの結論に至った。

 

 彼女の本質は、撃てば撃つほどポテンシャルが引き出され、成長していく戦闘狂。

 

 銃声に魅入られ、硝煙の香りに酔いしれる。そして、撃ち続ける事で成長していく存在……それが種島 ヒノエという『化物』としての性質なのだと。

 

 本来の意味とは異なる意味合いとはなるが、彼女の本質とはとどのつまり……。

 

「『トリガーハッピー』というやつですか」




・人物紹介
種島 ヒノエ
銃声を聞くのが大大大好きな百鬼夜行の生徒。
幼い頃に悪戯で耳元で引き金を引かれ、銃声により鼓膜が破裂し、病院に搬送された過去をもつ。しかし、その時に鼓膜を震わせ、心臓に響く『音』に魅入られてから彼女の狂気は始まった。銃声が彼女の生活の一部となり、その為だけに生きる毎日。荒毎に明け暮れ、居場所を転々とし、その最中にシオンと出会う。自分自身、その有り様は異常であると理解はしていたが、それをシオンが肯定してくれた事で更にタガが外れた節がある。キヴォトスでも上位の実力者。シオンの事を主人と崇拝している。実は自分の事を肯定してくれたシオンの事が大好き。



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