風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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殺意

 彼女が……ヒノエと名乗る彼女が、私に対して並々ならぬ執着を抱いている事は理解していた。

 

 目を見れば分かる。

 

 成程、彼女もまた、その域に足を踏み入れているという事か。

 

 確かに理解した。あれは踏み越えてはならない領域を容易く踏み越え、そして、踏み外した事をしっかりと自覚している。

 

 自覚しているからこそ余計に質が悪い。理解してしまったが故に歯止めが効かない。いや、寧ろその歯止めの無さを楽しんですらいる。

 

 私は『化物』である。そうあれかしと望まれた。否、そうあるのであれば、そうあり続けよと肯定されたのが彼女なのだ。

 

 そうか…あぁ、そうか。

 

 彼女は私とは真逆の存在なのだ。

 

 『化物』である事を肯定された彼女と、『人』である事を肯定された私。

 

 違いは、きっと……。

 

ー貴女は化物じゃないわー

 

 この一言に尽きるだろう。

 

 だからこそ、彼女は私に対して並々ならぬ執着を抱いたのだ。同じ『化物』でありながら、『人』として生きる事を許された存在に……だ。

 

 そんな彼女の心情を、私は理解してしまった。いや、理解したつもりになってしまったのだろう。

 

「消すしかないの。空崎 ヒナを」

 

 彼女はよく理解している。

 

 踏み越えてはならない領域の踏み越え方を。そして、踏み外した事を自覚しながらも尚、それを『楽しむ』という狂気を。

 

『空崎 ヒナを消す』

 

 彼女は私にそう告げた。

 

 その一言に、私は静かに目を伏せた。そして、ゆっくりと目を開けば、視界は鮮明になり、思考は冷えていく。

 

 それと同時に、明確な『殺意』が私の中に生まれた。その一言に、私は明確な殺意を抱いた。

 

 そして同時に理解する。あぁ……これが『人間らしさ』というものかと。

 

 そんな私の変化を彼女は感じ取ったのだろう。恍惚とした笑みを浮かべながら口を開いたのであった。

 

「はっは、やはりお主も『化物』よ」

 

 そして、彼女はこう続けるのであった。

 

「やはりお主は……『人間』などではないわ」

 

 黙れ…黙れ黙れ黙れ。

 

 身体が内側から熱く滾る。

 

 そして、そんな私の変化を彼女は感じ取ったのだろう。まるで歓喜するかのように身体を震わせながら口を開くのだった。

 

「さぁ……もっと魅せてくりゃれ」

 

 その言葉が、私の中の『殺意』を更に加速させた。そんな彼女の戯言など聞く耳を持たない。ただ只管に、そんな戯言を囀る口を黙らせる事だけを考える。

 

「さぁ、いざ見遣れ。これなるは『絡繰演舞』の舞台なればっ! 戦場の華は、この種島 ヒノエが咲かせようぞっ!」

 

 彼女の言葉など、もう私には聞こえていなかった。

 

「はっは……『絡繰演舞』の幕開けじゃ!?」

 

ーあぁ、そうか……これが『殺意』かー

 

 そう理解した時、私の身体は自然と動いた。降り注ぐ銃火器を掴み取り、銃口をヒノエへと向けた。

 

 一挙手一投足、決して見逃すものか。

 

 ずっと見てきたのだ。

 

『人』というものを、ずっと、ずっと観察したきたのだ。

 

 彼女が次にどう動くのか、手に取るように分かる。だからこそ、私は躊躇なく引き金を引いたのだった。




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