銃声が響き渡り、銃弾が飛び交う中で、二人は互いに激しい攻防を繰り広げる。
ヒノエは装束の鈴懸から射出したアンカーを駆使し、三次元の軌道で銃弾を掻い潜り、距離を取りながら的確にコトリを射抜いていく。
一方、コトリは迫る銃弾をものともせず、銃を撃ち続けながら前進を続ける。
コトリにとって、被弾するかどうかは問題ではない。
例え被弾しても、傷口は瞬時に再生し、対してヒノエは銃撃に合わせて行動を最適化する事で回避率を上げていく。
既に戦況は佳境を迎えている。そんな状況下であっても、彼女たちの戦意は一向に衰える気配がない。
それどころか、両者の攻撃の激しさは増すばかりであり、互いに決定打を与えることが出来ずにいた。
幾度目かも分からない被弾を受けながらも、コトリは怯むことなく引き金を引き続ける。
しかし、ヒノエが放つ弾丸はコトリを穿ち続けているにも関わらず、彼女の勢いは衰えない。
それどころか、彼女の動きは次第に加速しており、その速度はヒノエの想像を超えていた。
「あぁ……やはりお主は最高の逸材じゃな」
恍惚とした表情を浮かべながらそう語るヒノエに対し、コトリは静かに引き金に指をかけると、そのまま躊躇うことなく引き金を引いた。
放たれた銃弾はヒノエの右肩へと被弾した。
「っ……!?」
肩から伝わる痛みに思わず顔を歪めるヒノエ。初めての被弾。これまで全ての攻撃を回避してきた彼女にとって初めて味わう感触だった。
痛みはある。だがそれ以上に高揚感の方が強い。それはまるで麻薬のような感覚だった。
心臓が早鐘を打ち鳴らし全身が痺れるような快感に襲われる。
肩の痛みなど些細なものだと言わんばかりに、すぐに態勢を立て直したヒノエは再び銃を構えると、その銃口をコトリへと向けた。
しかし、引き金を引いても弾が出ることは無かった。
弾切れだ。
「っち……!!」
舌打ち混じりに銃を投げ捨て、代わりとなる銃を手に取ろうとした刹那、ヒノエが手を伸ばした先にある銃が弾け飛んだ。
「なん……っ!?」
驚愕の声を漏らすヒノエを尻目に、コトリは更なる追撃を行うべく引き金を引く。
放たれた銃弾はヒノエの周囲に点在する銃火器へと命中し、それらを次々に破壊していく。
咄嗟にアンカーを射出し、コトリから距離を取りながら別の銃火器を拾おうとするも、その悉くがコトリの銃弾によって阻まれていく。
あぁ、成程。コトリはその観察眼でヒノエがどう動くかを見越した上で銃撃を加えている。
故にこの結果は必然なのだ。
ならば……ならばこそ。
「はっはっは! これは凄まじいなっ!」
口角を吊り上げ不敵に笑うヒノエの瞳が妖しく光り輝く。
次の瞬間、ヒノエは装束の鈴懸に隠されていたグレネードを取り出すと、それを風紀委員会本部の建物の壁に向かって放り投げた。
爆発音と共に轟音が鳴り響き砂埃が舞い上がる。爆発によって建物の壁に穴が開いたのを確認すると、ヒノエは素早くアンカーを射出しその穴目掛けて飛び込むのだった。
明らかに罠だ。
しかし、それが追わない理由にはならない。コトリは迷うことなくその後を追いかけた。
建物の内部には、やはり無数の銃火器が所狭しと置かれていた。
屋内戦も視野に入れた用意周到な準備の良さ。ヒノエの手には既に無数の銃火器が握らており、それらがいつでも使用可能状態であることを示唆していた。
その内の一つを構え、引き金を引きコトリに向かって発砲する。放たれた銃弾は真っ直ぐにコトリの頭部を捉え、炸裂するように衝撃波を撒き散らした。
だが、コトリはそんなものには臆することなく前進し続ける。
屋外戦なら兎も角、屋内ともなれば、アンカーによる三次元の移動は制限される。
ヒノエからすれば、屋内に設置した銃火器をある程度回収した後に屋外に出て、仕切り直しを図りたいのだろう。
しかし、そうはさせない。
コトリは一気に距離を詰めると、ヒノエに狙いを定めて引き金を引いた。
ヒノエはそれに対抗するように無数の銃火器を撃ち放ちながら後方に跳躍する。
そんなヒノエの銃撃の嵐を掻い潜りながらコトリは前進し続けていく。
お互いに相手の攻撃を回避することなく受け続けるという異常な光景。
普通の人間であれば耐えられないであろう苦痛の中で、二人は一切表情を変えず笑みすら浮かべていた。
『目の前の敵を狩り取る』
それがお互いにとって唯一の目的であり手段だったからだ。
両者ともに譲れないものがある。互いに引くことができない理由がそこにはある。
その信念を貫き通すために彼女達は撃ち合うのだった。
『化物』
その本質の一端が垣間見える。
人でありながら人を超えた怪物。
ヒノエとコトリは『化物』である。これは化物『同士』の衝突である。
銃火器という武器を使った命の削り合い。互いに命を燃やす二人の姿はまさしく化物そのものだった。
コトリの攻撃の勢いは衰えを見せない。
弾幕の嵐を突破し、ついにはヒノエの眼前まで接近を果たしたコトリは、勢いそのままに拳を叩きつけようと腕を振り上げた。
ヒノエはカウンターを仕掛けるべく銃を構えるも、それよりも早くコトリの拳が届きヒノエの腹部をえぐった。
だがヒノエは倒れない。寧ろその勢いを利用して身体を捻らせると同時に回し蹴りを放った。
ヒノエの蹴りは小鳥の顎を捉え、その意識を揺らがせることに成功したものの、ダメージは殆ど与えることはできていないようだ。
僅かな隙も逃すことなく攻撃に転じるヒノエに対してコトリは冷静だった。
コトリの胸にHGが押し当てられ、銃口を密着した状態で引き金が引かれる。
ゼロ距離からの発砲。
それも、弾倉が瞬時に空になる早撃ちによる速射。
一瞬にして数発もの銃弾がコトリの胸部に叩き込まれる。
いくら回復力が高いとはいえこの威力を受ければ流石のコトリでも無事では済まないはずだった。
それでもなお彼女は平然としていた。
痛みや苦しみを感じてはいるようだがそれでもまだ動ける余裕があったようだ。
今度はこちらの番だと言わんばかりにコトリが反撃に出る。
ヒノエの腹部目掛けて強烈なボディーブローを叩き込んだのである。
ヒノエは防御しようと試みるも間に合わずまともにくらってしまう羽目となった。
内蔵を抉られるような激痛と共に胃液が込み上がり、喉元へとせり上がってくる感触に嘔吐してしまうのではないかと思うほどの不快感を覚えてしまう。
しかし、それも束の間のことですぐさま意識を切り替えて応戦する。
アンカーを明後日の方角に射出し、そこに設置していたSGを引き寄せると銃口をコトリへと向けた。
一連の動作はとてもスムーズで無駄が無いものであった。
銃口から放たれた散弾によりコトリの皮膚が裂け、蜂の巣のように穴だらけになって吹き飛ばされるも瞬時に傷が再生されていく。
その様子を見てもヒノエは動揺することなく銃撃を続ける。
そして、弾切れと同時に、手にしたSGをコトリに向かって投げ捨て、素早く後方へと跳躍した。
ヒノエの視線の先にはロッカーに立てかけられた銃火器。それも大型の銃火器である。
火力は恐らく先程使用したSGより高い。
撃たれる前に接近して無力化する。
そう思い、コトリは駆け出そうとするが、
「はっは……目の良すぎたのぉ」
ヒノエは笑って、鈴懸をコトリへと向けていた。
「っ!?」
瞬間、小鳥の肩に衝撃が走る。
鈴懸から放たれたアンカーがコトリの肩を貫いたのだ。
やられた。
アンカーの使用用途を『移動のみ』と捉え、『武器』として使用する事を想定していなかったのだ。
抜く事は出来ない。返しが付いていて、無理に引き抜く事は困難だった。
そして、ヒノエの身体を牽引する力を有するアンカーと彼女自身の膂力はコトリの身体を軽々と引き上げ、彼女の体勢を崩してしまう。
空中で体勢が崩れた事で、重心がブレてバランスを維持できない。結果的に無防備な状態となり、その隙を突く形でヒノエは巻き上げていたアンカーを切り離し、ロッカーに向かって拳を振るった。
衝撃でロッカーが破壊され、中から木箱が出現する。
ロッカーから解放された木箱は空中で中身が飛び出し、それはヒノエの手に収まった。
コトリは理解した。全てはヒノエの手の内だった事を。
彼女の手に収まったそれは、これまでヒノエが使い捨てにしていた銃火器と異なり、一際異彩を放っていた。
愛用された銃火器には独特の『圧』がある。
洗練されたフォルムに刻み込まれた無数の傷跡が歴史を物語っているようでありながら、同時に機能美を感じさせるデザインでもある。
まるで長年共に過ごした相棒との再会を待ち侘びていたかのように、ヒノエはその銃火器を優しく撫でるように触れた。
あれこそは『戦狂い』のヒノエの愛用品。
『火縄銃 大鉄砲 八咫烏』
ただ火力のみに重きを置き、それ以外の全てを度外視した規格外の代物を、ヒノエは容赦無く至近距離でコトリに突き付けた。
「終わりじゃ」
宣告と共にトリガーが引かれると、乾いた破裂音と共に火花が迸る。
発射された弾丸が真っ直ぐにコトリの胴体を穿ち、身体をくの字に曲げながら、コトリの身体は建物の壁へと叩き付けられ、そして崩れ落ちた。
コトリの口から大量の血が溢れ出る。
体内で炸裂した弾丸は彼女の肺を傷付け、呼吸困難に陥ってしまっているため酸欠状態となり意識を失いかけていた。
至近距離から放たれた事で制服は完全に千切れ飛んでおり、露わになった肌からは未だに出血が止まっていない。
キヴォトスの外にいる人間ならば致命傷……いや、即死級のダメージを受けたにも関わらず小鳥はまだ生きていた。
それは偏に彼女のタフネスさと異常なまでの生命力のお陰だろう。
だがそれでも限界が訪れるのは時間の問題であった。
最早立つこともままならない状態になっているにも拘らず彼女は立ち上がろうとする。
ボロボロの制服から風紀委員会に所属している証である腕章が零れ落ちる。
床にボトリと落ちたそれが視界に入り、コトリは薄れゆく意識の中で腕章に手を伸ばした。
しかし、次の瞬間、布を切り裂く音と共に、数百にも及ぶ銃弾の雨がコトリの身体を穿った。
全身をズタズタに引き裂かれ、彼女の身体は力無く地面に倒れ伏せるのであった。
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