風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させていただきました。


化物に非

「……はっは……う…ぐぅぅ……」

 

 八咫烏の引き金を引くと同時に、ヒノエの身体に衝撃が走った。

 

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、骨の軋む音が脳内に響く。右肩は動かない。脱臼しているようだ。

 

 これを使えばこうなる事は分かっていた。それでも、コトリを確実に仕留める為の一手として、これを使わざるをえなかった。

 

 だらんと垂れ下がる右肩に左手を添え、関節の位置を直すように強く押し込んだ。

 

「っ……はぁ……」

 

 激痛と共に肩が動くようになると、ヒノエは息を吐き出して呼吸を整えるのだった。

 

 そんなヒノエの視界の先に、コトリの身体が横たわる。その姿はまるでボロ雑巾のようだ。

 

 至近距離から八咫烏の銃弾をまともに喰らったのだ。当然の結果だろう。

 

 しかしまだ……まだ終わっていない。残心という言葉があるように、まだコトリからは目を離せない。

 

 そう思い、ヒノエは八咫烏を手放すと、最後の仕上げの為に用意していた銃火器を手に取った。

 

 コトリを倒すには申し分ない威力を誇る銃火器であり、そして彼女にとって馴染み深い代物だ。

 

『グロスフスMG42』

 

 空崎 ヒナが愛用している銃火器『終幕:デストロイヤー』と同型の銃火器である。

 

 悪くない。あぁ、本当に悪くない。

 

「はっ……はぁ……」

 

 呼吸が乱れる。身体が重い、気を抜けば倒れてしまいそうだ。だが、それでもだ……。

 

「…………はっは♪」

 

 高揚感があらゆる感覚を凌駕する。ヒノエは口元に笑みを浮かべ、グロスフスMG42のトリガーに指を添えた。

 

 銃口はゆっくりと立ち上がろうとしたコトリに向けられた。

 

 やはり立ち上がるか。それでこそ同類だ。不死川 コトリは、自分と同じ……。

 

「……なんと。はっは……これはまた、なんとまぁ……」

 

 ボロボロの制服からボトリと風紀委員会の腕章が床に落ちる。

 

 それを視界に捉えたコトリは、腕章に手を伸ばしたのだ。

 

「はっは……そうかそうか。お主は……はっは。あぁ……そうか」

 

 最後の最後に、ヒノエはコトリの在り方に感服した。ボロボロの姿になりながらも、彼女は己の在り方を貫くべく行動したのだ。

 

「本当に……お主は……なんとまぁ……ならばこそ、ならばこそじゃ」

 

 介錯せねばなるまい。

 

 ヒノエはそう呟き、グロスフスMG42のトリガーを引いたのだった。

 

 

 

 

 

「う……あ……」

 

 意識を失いかけたコトリは、ゆっくりと瞼を開いた。しかし焦点が定まらず視界がぼやけているようではっきりと見えない状態だった。

 

 何が起こった?

 

 何をされた?

 

 撃たれた事は覚えている。

 

 しかし、そこからの記憶が全く無い。

火縄銃の引き金を引かれた所までは覚えているが、それから先の記憶がまるで切り取られたかのように抜け落ちていた。

 

 私は何をしようとしていたのだろう。

 

 霞みがかった意識の中で、コトリは自問自答を繰り返していた。

 

 その時だった。突如として視界に『何か』が入り込んできた事で意識が覚醒した。

 

 種島 ヒノエ。

 

 ゲヘナ学園を襲撃し、風紀委員会本部に乗り込み、風紀委員会の生徒達を蹂躙した張本人。

 

 そして……そして……。

 

 ヒナ委員長を消すと、そう告げた人物。

 

「っ……!!」

 

 コトリは反射的に動こうとした。だがしかし身体に力が入らないのだ。鉛のように重く感じる身体を懸命に動かそうとするが上手くいかない。

 

 回復が、再生が追いつかない。身体のあちこちから出血し、制服もボロボロに破けてしまっている。

 

 それでも、立ち上がらなければならない。身体の感覚が殆ど無くとも、ヒノエへの怒りと憎しみだけははっきりと感じ取る事が出来た。

 

 動かない身体を必死に動かしながら立ち上がろうとする。口からは鉄の味がする。

 

「は……あ……」

 

 立ち上がろうと藻搔く度に激痛が走るが、それでもコトリは止まらない。止まるわけにはいかないのだ。

 

 必ずヒノエを……ヒノエを……。

 

 次の瞬間、コトリの視界に、風紀委員会の腕章が飛び込んできた。

 

 それはコトリが落とした腕章だった。風紀委員会に所属している事を示す証であり、同時に誇りでもあった。

 

 ヒナ委員長から貰った……大事な……。

 

「あ……ぁ……」

 

 その腕章を視界に収めた瞬間、コトリの脳裏にヒナ委員長との思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 

 彼女から教わった風紀委員としての在り方を。そして、化物だった自分を人として見てくれたヒナの事を。

 

(私は……いったい……)

 

 ヒノエへの憎しみと怒りが薄れ、代わりに押し寄せてくるのは自己嫌悪だ。コトリはゆっくりと視線を落としていく。視界に映るボロボロの制服……そして床に落ちた腕章を見て思うのだ。

 

(あぁ……そうか)

 

 私は……なんて……。

 

 刹那、銃弾の雨が自身の身体を穿ち、コトリの意識はそこで途絶えた。




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