風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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レンの大冒険ー2年後の君にー

 淡い光に包まれると同時に、レンの視界が暗転する。一瞬の浮遊感の後、ゆっくりと目を開くと、そこはゲヘナ学園だった。

 

 ゲヘナ学園にいたレンがゲヘナ学園にいる。何もおかしな事はない当然の事だ。

 

 しかし、レンが振り返った先に映った光景に、彼女自身、驚きの声を上げた。

 

「え……ここって……」

 

 レンが見たもの。それは、ゲヘナ学園の風紀委員会本部の建物だった。それも、倒壊した風紀委員会本部ではなく、ヒノエとシオンによる襲撃を受ける前の風紀委員会本部……いや、よく見れば建物の彼方此方に以前まではなかった銃痕や爆発の余波による焦げ跡が見受けられる。二人の襲撃そのものがなく、少しだけ年月が過ぎたような光景だ。

 

 目の前の光景に呆気に取られ、暫し呆然とする。まるで選択肢を違えたような感覚だ。

 

 ヒノエとシオンの襲撃がなく、そのまま普段のゲヘナの日常を送ったような光景。それはまるで、違う世界線にいるような感覚である。

 

 いや、これはもしかすると、本当にそうなのかもしれない。レンはそう直感した。何故なら、今見ている光景による感覚は覚えがあるからだ。

 

 以前、コトリがアビドスに行った時の事を思い出す。あの時も、咄嗟に頭に浮かんだ光景が気になり、オアシスの跡地に行くよう提案した時と同じ感覚だ。

 

 コトリがオアシスの跡地に行けばオアシスが復活する。理由は分からないが、彼女の持つ神秘が影響したのかもしれない。

 

 現に、コトリがオアシスの跡地に行った事でオアシスが復活し、それによりアビドスの生徒であるホシノとユメの2人が救われたのだ。

 

 そして、今見ている光景はまさにそれだ。違う選択肢で分岐した別の世界線。物語が一つではなく複数存在し、その内の一つの可能性とされる世界線。

 

 それは、レンが望んだ条件を満たした世界線に他ならない事を、レン自身がそう認識したのだ。

 

 そう。この世界線には、コトリの怪我を治す技術、或いは薬を処方する事が出来る人物がいる筈だ。

 

 レンがそう願い、そして誰かがそれに応えた結果の世界線だ。その人物が誰かまでは分からない。しかし、レンの願いに応じてくれた人物は確かに存在する。レンはその人物に感謝しつつ、辺りを見渡しながら決意した。

 

 目的の人物が誰かまでは分からない。それでも、この世界線にはいる筈だ。

ならばこそ、その人物を探し出し、コトリを助けてもらうのだ。例えそれがどれだけ難しい事だとしても……いや、必ず見つけてみせるとそう決意し、レンは走り出した。

 

 コトリを助けたい。その一心の為に。

 

 体力が元々皆無に等しいレンの足は鈍重だ。それでも走る事をやめなかった。一歩、また一歩と足を動かす度に息が切れる。それでもレンは足を止めなかった。ただ前だけを見て走るのだ。

 

 そして、レンが風紀委員会本部の建物の角を曲がり、そのままゲヘナ学園の校舎まで駆けたその先で待っていたのは……。

 

「……っち、なんだよ。しけてんなぁ。財布の中、殆ど入ってねぇじゃねぇか」

 

「どうするよ? 折角カモがネギと鍋背負ってやって来たと思ったのによ。肝心の金目のもんがなんもねぇとか」

 

「仕方ねぇから身ぐるみ全部剥いで売り捌きゃ、なんとかなるべ?」

 

「ゔぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ

!!?! ゴドリ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!?! ごぇ゛ぇ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」

 

 ゲヘナでは珍しくもない不良生徒が、レンの片足を掴んで軽々と持ち上げ、金目のものになりそうな小物や財布がないか、ポケットをまさぐる。

 

「や゛め゛ろぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!! はなぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 レンの悲痛な叫びが木霊する中、不良生徒は構わずレンの身に付けている服が売れるか否かの相談をしている。

 

 その話の内容を聞く以外に何の手立てもないレンは、只々泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 

 あれよあれよと、レンの衣服が剥ぎ取られ、気が付けば、バスタオル1枚で簀巻きにされたレンは不良生徒達の目の前に転がされていた。

 

「う゛ぅ……ひぐっ……」

 

 レンは嗚咽を漏らしながら涙を流していた。そんなレンを見下ろし、不良生徒達はゲラゲラと笑い声を上げる。

 

「おめぇ、ほんっとうになっさけねぇなぁ」

 

「金目のもんはねぇし、服だってまともに売れそうなもんはねぇ」

 

「恥ずかしいと思わねぇのか?」

 

 不良生徒達はレンに罵声を浴びせながら、ゲラゲラと笑い続けていた。そして、ひとしきり笑った後、不良生徒の一人がレンの顎を掴むと強引に持ち上げた。

 

「まぁ……顔は悪くねぇからよ。いっその事、こいつ売っぱらった方がいいんじゃねぇか?」

 

「え、マジ? 流石にそれはヤバくね?」

 

「風紀委員会の目もあるしよ。そこまでしたら流石に……」

 

「んだよ。何ビビってんだ? 風紀委員会つっても、ヤベェのはヒナと……」

 

 そう言いかけた不良生徒の身体に衝撃が走った。頭上を見れば、SGの銃床が頭部にめり込んでいる。

 

「が……は……」

 

 不良生徒が白目を剥いて倒れ込むのと同時に、解放されたレンが簀巻きのまま地面を転がる。

 

 そして、何が起こったか確認しようと顔を上げた時には、残りの不良生徒達が地面に倒れ伏していた。

 

「え……あ……」

 

 レンは何が起こったのか分からず、呆然とするしかなかったが、そんなレンの前に一人の少女が現れると手を差し伸べた。

 

 見覚えのある。忘れるはずもない人物。しかし、その見た目はレンが知る彼女ではなく、自分が知る彼女の、恐らくは1〜2年後の姿の彼女。

 

 ゲヘナ学園に入学し、2年が経過した不死川 コトリの姿が、そこにあったのだ。




大事な報告
今年の夏コミにサークル側で参加する事になりましたが、無事に本とグッズを印刷所に納める事が出来ました。後は現地で現物を確かめるのみです。X(旧Twitter)にて、お品書きも完成しましたので、気になる方がいましたら、是非見に来ていただけると幸いです。


感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
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