今回の更新でコラボ先の生徒がちょっとだけ登場します。
ガッツリ登場するのは次のはなしです。
レンにとって、目的の人物を見つけ出す事は至難の業である。相手の名前も年齢も性別もわからない。そもそも、ゲヘナの自治区にいるのかすら分からない状況なのだ。
偶々飛ばされた場所がゲヘナであり、そこに目的の人物がいるかもと思ったが、それもレンの希望的観測に過ぎない。
もう少し分かりやすいヒントがあれば良いのだが……と、レンはそう考えながら、コトリに手を引かれ、風紀委員会の本部へ招かれる。
場所は応接室。お菓子やジュースも常備されており、コトリから何か飲みたい物はないかと問われた時は冷たくて美味しいジュースと答えていた。
その返答に、コトリはレンの瞳をじっと見つめた後にジュースとお菓子を漁る。そして、用意されたそれらはレンが欲しいと望んでいたものだった。
観察眼はこの世界線でも共通しているようだ。もしかすると、ある程度の情報というものは共有されており、ほんの僅かな選択肢の違いというのが複数に渡る並列世界を形成しているのかもしれない。
つまり、今のコトリというのは、将来的にそう成り得る可能性の一つの姿という訳だ。
「レンちゃん」
ジュースを一口飲み、お菓子に舌鼓を打っているとコトリが声をかけてきた。その声に反応し、レンは顔を上げる。
「いくつか質問しますが、答えたくなかったら正直に答えたくないと言って下さい。それで私は怒ったりしませんゆえ」
コトリの言葉にレンはコクリと頷く。それを見たコトリは小さく微笑むと質問を開始した。
「ではまず一つ目であります。レンちゃんは何処から来ましたか?」
何処……というのは、何処の自治区から来たのかという意味なのだろう。しかし、この世界線の自分自身が何処で生活しているのか把握していない以上、下手な事を言う事は出来ない。
「……答えたくない」
正確には答えられないというのが正しいのだろう。だが、その答えに対してコトリは怒るでもなく、ただ小さく頷いただけだった。
「では二つ目です。レンちゃんは何処の学園に通っているでありますか?」
「……それも……答えたくない」
本来の世界線でも、レンは学校に通っていない。その事に対して特に思う事はないが、やはりこの世界線の自分がどう言う状況なのか分からない以上、迂闊な事は言えない。
「ふむ……成程成程」
コトリは小さく呟くとレンの目をジッと見つめるように見つめてきた。その目の奥には何かを探るような意思を感じるが、それが何を意味するのか、レンには分からない。
「では三つ目です」
コトリはそう言うと再び質問を始めた。その内容は、好きな食べ物や趣味についてだ。何故そんな事を聞くのかと疑問に思ったが、特に隠すような事でもないので普通に答えた。
大まかな所は変わらないはず。そして何より、答えた所で特に問題ないと判断した上での返答なのだが、コトリは真剣な眼差しでレンの話を聞いている。
「……成程、これで大体分かりました」
そう言って微笑んだ後、コトリは静かに立ち上がった。そのまま扉の方へと向かって歩いていくとドアノブに手を掛けた所で振り返り、最後の質問とばかりに問い掛けた。
「レンちゃんは『誰を探している』のでありますかな?」
「っ……!?」
思わず息を呑んでしまった。予想外の質問に動揺してしまったからだ。どうしてその事をコトリが知っているのか?
一言もその事は言っていない。質問にしたって当たり障りのない解答しかしなかった筈なのに。
「その反応を見ると正解のようでありますな」
レンの反応を見たコトリは小さく笑う。コトリの質問自体は大した意味はない。しかし、質問の最中のレンの仕草や表情を読み取り、そこから答えを導き出しただけだ。
洞察力というよりも、観察眼に優れ過ぎたそれは、読心に近いものがある。
「探し人の名前や顔は分からない」
「恐らくこの辺りにいるだろうという目安はあるが、それすらもあやふやで曖昧」
「目的は……あぁ、成程。怪我をした友人の為ですか。それは中々に良き心掛けでありますね」
と、レンの心の内を明らかにしてゆく中、コトリの脳裏に一人の人物が浮かび上がる。
この世界線のコトリにとっての恩人であり、同じ風紀委員会に所属する人物。その人物が浮かんだ瞬間、レンに対する警戒度が僅かに上がるのであった。
「……さて、どうしたものでありましょうかな?」
コトリはそう呟くと、レンに近付きながらその目を見つめる。その瞳には一切の感情を感じさせない冷たさが宿っているように見えた。
「……っ……ぇ……ぁ」
「あぁ、別に取って食おうという訳ではないでありますよ? ただ……少し確認をしたい事があるだけであります」
そう言うと、コトリはレンの顎に手を添えるとクイッと持ち上げる。そしてそのまま顔を寄せられたレンは、何をされるのか分からず、目を瞑りながら身を硬くした。
次の瞬間、応接室の扉が開かれる。風紀委員の制服の上から黒のロングコートを着込んだ生徒。黒の鍔広トンガリ帽子を被り、前頭部に赤い小さな二つの角を持ち、腰まである長く真っ直ぐな髪。そして、髪の毛に隠れた赤い瞳が特徴的なその生徒は、コトリとレンを視認すると同時に、暫し思案した後、携帯を取り出した。
「あ、もしもしヴァルキューレですか? はい、残念な事に身内が幼女誘拐を……」
「え、あ……違うでありますよミサちゃん。これは誤解なんであります。あの、ヴァルキューレに通報は勘弁してください」