小瓶の中の液体が喉を潤す。冷たい感覚と共に胃へと流れていくのを感じる。それが妙に心地良いと感じるも、薬独特の苦味を感じ、思わず顔を顰めそうになる。
「どおだぁ? 身体、痛くねぇか?」
心配そうに覗き込むレンに、コトリは首を横に振った。
「えぇ、なんだか薬を飲んだ瞬間、身体が楽になった気がします。レンちゃん、本当にありがとうございました」
感謝の言葉を口にするコトリに対し、レンは照れた様子で頬を掻きながら『大した事してねぇよ』とぶっきらぼうな態度。それでも彼女なりに精一杯の誠意を込めている事は伝わって来るため、不快に思う事はない。寧ろ微笑ましく感じてしまい自然と笑みが溢れるほどだ。
渡された薬の出所はわからない。市販品ではない事は確かだろう。しかし、レンが自分の為に用意した物とあれば、それがなんであれ、十分過ぎる程の価値を感じる。それだけレンが自分の事を想ってくれているのだと実感する事が出来るのだから尚更だ。
詳しい事は聞かないようにしている。聞けばレンを困らせると判断したからだ。レン自身、薬を渡した時に何処で入手したのかまでは言わなかった。彼女の性格上、きっと言えない事情があるのだろう。詮索するのは良くない事だと理解しているからこそ、敢えて聞くような事はしたくない。
話は専ら、退院してからの話題である。風紀委員としての仕事もあるが、今はレンとの時間を優先したい。希望があれば、レンの行きたい場所に連れて行きたい所だ。
何処が良いだろう。何処に行きたいだろう。レンの喜ぶ顔が見たい。
美味しい食事はどうだろうか。観光地を巡るのも楽しそうだ。それとも、目的もなく、目的地もなく、あてのない旅行に出かけるのも良いかもしれない。
そんな事を考えながら、レンとの時間を楽しむのであった。
そして、退院してから数日後。
コトリはレンを連れて、ゲヘナでも有名なスイーツショップを訪れていた。
トリニティでは問題が発生し、堪能する事が出来なかった甘味の数々。今回こそはと入念にチェックし、レンが好みそうなものを厳選して来たのだ。
店内に入ると、色とりどりのケーキやタルト、プリンなどが所狭しと並べられている光景に圧倒される。どれも美味しそうで目移りしてしまう程だ。
レンも目を輝かせながら、店内を見渡している。
「レンちゃんは何を食べますか?」
コトリが尋ねると、少し悩んだ末に一つを指差した。それは季節限定のフルーツタルトだそうだ。早速注文しようとショーケースに近寄ると、店員が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、このフルーツタルトを……」
と、そこまで言いかけたその時、隣の生徒が同じ物を指差す。間違って割り込んでしまったかと、慌てて指を引っ込め、謝罪しようと隣を見た瞬間。
「……なんで貴女が此処にいるのですか?」
「おやおや、甘味を求めて来たのですが、まさかゲヘナ臭が鼻につく貴女と出会うなんて、これもきっと神の思し召し。運命を感じますね」
「いや……此処は一応、ゲヘナの自治区なのですが」
「はい、いずれは我が自治区の領土ですね」
「その発言は外交問題になりそうなので控えていただきたいのですが」
なぜ彼女が此処にいる?
そう思わざるを得なかった。
トリニティの思想が強い狂信者。シスター神崎が、なぜゲヘナの自治区にいるのか。
しかも、よりにもよって退院祝いとお礼も兼ねてレンを連れてきたタイミングで。